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2017/04/12

僕の可愛いキャンディ

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「スタンド・バイ・ユア・マン」という曲は、僕の場合、間違いなくこれで初めて聴いた。

 

 

 

僕だけじゃなく、そんな人多いんじゃないかな。この『ブルース・ブラザース』は1980年のアメリカ映画で、ブルーズ、リズム&ブルーズ、ソウル・ミュージックへのトリビュート&オマージュ作品のようなものだった。実際、現実に大活躍中だった黒人音楽家が大挙出演し、なかにはレイ・チャールズ、ジェイムズ・ブラウン、アリーサ・フランクリンみたいな、当時なら超の付く大御所もいた。

 

 

キャブ・キャロウェイがこの『ブルース・ブラザーズ』出演をきっかけに、晩年に再ブレイクしたことも忘れられない。また、つい最近亡くなったキャリー・フィシャーも、僕は『スター・ウォーズ』におけるレイア姫で先に馴染んでいたので、清楚で気高い役柄のイメージだったのに、『ブルース・ブラザース』では機関銃をぶっ放すイカれた謎の女を演じていて、印象が180度変わってしまった。

 

 

とにかくアメリカ黒人音楽賛美映画だったので、そこにどうして上掲動画のようなシーンがあるのかは説明が面倒くさいので、ご存知ない方は調べるなり、あるいはご覧になっていない黒人音楽ファンの方には、是非とも DVD を買っていただけるよう、強く強くオススメしておく。黒人音楽と切り離せない各種ダンスの名称と実際の動きも分るし、なんたってあんな超大物黒人音楽家たちの動く姿は、日本に住んでいる僕たちが目にするのは難しいわけだよ。

 

 

映画『ブルース・ブラザース』の一場面を切り取った上掲 YouTube 動画でお分りのように、「スタンド・バイ・ユア・マン」というのはカントリー・ソングだ。しかし僕たちブラック・ミュージック愛好家は、間違いなくキャンディ・ステイトンの歌で知っている。上のようなカントリー・ソングを、キャンディが歌うとこうなる。

 

 

 

これはキャンディによる初演で、1970年録音の翌71年レコード発売。ビルボードの R&B チャート四位にまで上昇するというかなりのヒットになって、キャンディ最大の代表曲となった。だから当時からライヴ・ステージでは繰返し歌っていたはずだし、最近も歌っているのが YouTube に上がっている。例えばこれは2006年のアムステルダム公演。

 

 

 

このライヴ・ヴァージョンでは歌に入る前にキャンディが喋っていて、「スタンド・バイ・ユア・マン」がどんな意味の歌なのか分かりやすい。キャンディはこういった、特にソウル畑のものではない曲をソウル仕立てで歌っているものが僕の知る限りもう一つあって、1972年の「イン・ザ・ゲトー」。

 

 

 

もちろんみなさんご存知エルヴィス・プレスリーのレパートリーだ。この曲にかんしては、僕は実を言うとエルヴィス・ヴァージョンの方が好きなんだよね。1968年カム・バック後のエルヴィスでは、これとその他数曲をレコーディングしたメンフィス・セッションが、スタジオ録音ではいちばん好きな僕。「サスピシャス・マインド」も(大好きな)「ケンタッキー・レイン」もその時に録音した曲なんだよ。「イン・ザ・ゲトー」だけ貼っておこう。

 

 

 

これらキャンディ・ステイトンのカヴァーによる「スタンド・バイ・ユア・マン」も「イン・ザ・ゲトー」もフェイム録音。前々から書くようにフェイムという言葉には感じやすい体質の僕で、Fame という文字が見えるだけで、中身の想像が全く付かなくても買ってきている。原因は、これまた以前から書いているように、スペンサー・ウィギンズのフェイム盤シングル曲「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」を聴いて、あの歌い出しで背筋に電流が走ってしまったためだ。

 

 

キャンディもスペンサー・ウィギンズも、これらのフェイム録音は、ちょうどこのスタジオが転換期を経てからのもの。リック・ホールがアラバーマにフローレンス・アラバーマ・ミュージック・エンタープライズ(Fame とはこの略)を設立したのは1950年代末頃だったらしいが、正確なことは分っていないみたいだ。

 

 

フェイムが有名になるのは、1965年にパーシー・スレッジがこのスタジオで「男が女を愛する時」を録音したのが大ヒットになってから。そしてアトランティックのジェリー・ウェクスラーが同65年にウィルスン・ピケットをマスル・ショールズへ向かわせてフェイム・スタジオで「ダンス天国」を録音したのと、 67年にアリーサ・フランクリンをやはり同地へ赴かせ「貴方だけを愛して」を歌わせたのと 〜 この三つでフェイム・スタジオはソウル・ミュージック愛好家には忘れられない名前になった。

 

 

だがフェイムのスタジオ・ミュージシャンたちは、1969年にリック・ホールと袂を分かちマスル・ショールズ・サウンド・スタジオを立ち上げる。70年代にはロッド・スチュワートもここで録音したし、その他多くの歌手たちがここで歌ったので有名になったが、フェイムのリック・ホールは彼ら有能な白人セッション・メン(そう、ここまでは全員白人だったのだ)を失って、新たに黒白混交編成でミュージシャンを起用して再出発した。それが俗にいうフェイム・ギャング。

 

 

キャンディ・ステイトン(やスペンサー・ウィギンズ)は、こうしたフェイム・スタジオの新旧交代後にマスル・ショールズにやってきて録音した歌手で、だからアリーサたちなどとは少し経緯が異なっているんだよね。とはいえキャンディの場合、ゴスペルを歌っていた時期にアリーサの「ドゥー・ライト・ウーマン、ドゥー・ライト・マン」を聴いたのがきっかけで世俗のソウル歌手としても歌うようになったらしいけれども。

 

 

ともあれそんなことで、世代交代したフェイム・スタジオで録音した1969〜72年のキャンディ・ステイトンの歌は本当に素晴らしい。これまた英 KENT レーベルが2011年に CD二枚組の『エヴィデンス:ザ・コンプリート・フェイム・レコーディングズ・マスターズ』をリリースしてくれたので、この頃のキャンディの全貌が分るようになって嬉しい。

 

 

キャンディの場合、アリーサの歌を聴いたのがソウル歌手として出発するきっかけだったとか、(世代と中身が異なるが)アリーサがブレイクするきっかけになったのと同じフェイム・スタジオで録音しただとか言っても、ヴォーカルの魅力はアリーサとはかなり違うよね。アリーサのあのパワフルさ、大声量、崇高さすら感じる堂々たるヴォーカル態度やド迫力は、キャンディにはない。

 

 

キャンディにあるのは、それらに代わって、まるで変声期前の少年の歌を聴いているかのようなチャーミングさ、可愛らしさ、そして一種の危うさじゃないかなあ。力強さと歌唱力は圧倒的ながら、アリーサのような気高い崇高さは薄いというかほぼない。時に近寄りがたさすら感じさせるアリーサと違って、キャンディはフレンドリーで近づきやすいのだ。そこがこの女性サザン・ソウル歌手最大のチャーム・ポイントなんじゃないかと僕は思う。

 

 

例えば KENT 盤『エヴィデンス』の一枚目一曲目の「サムワン・ユー・ユーズ」(1969)や、三曲目「ユー・ドント・ラヴ・ミー・ノー・モア」(69)や、五曲目「スウィート・フィーリング」(69)や、そしてやっぱりなんたって14曲目の「スタンド・バイ・ユア・マン」(70)などで、そういった可愛らしいキャンディの歌の魅力が分りやすいと思う。

 

 

「サムワン・ユー・ユーズ」 https://www.youtube.com/watch?v=diyu25feYjA

 

「ユー・ドント・ラヴ・ミー・ノー・モア」https://www.youtube.com/watch?v=VHskeILyXpU

 

「スウィート・フィーリング」https://www.youtube.com/watch?v=U0X7JuXuuWw

 

 

やはりキャンディもまた歌っているサザン・ソウル・スタンダードの「ザッツ・ハウ・ストロング・マイ・ラヴ・イズ」。KENT 盤『エヴィデンス』では一枚目七曲目の1969年録音。しかし初演である O・ V・ライトのヴァージョンや、有名すぎるオーティス・レディング・ヴァージョンなどで聴けるような、ちょっと力入りすぎだろうとも思える声の張りとコブシはやや弱く、キャンディは優しく若干穏やかなフィーリングで歌っているんだよね。

 

 

 

これをお聴きになれば分るように、典型的なサザン・ソウル・バラードのスタイルで、キャンディも基本的には力を入れて歌っているけれども、しつこく粘っこすぎないようなフィーリングじゃないかな。アッサリ味とは言えないが、チャーミングで親しみやすい歌い方だ。僕はそう感じる。そこが僕にとってはキャンディの魅力なんだよね。

 

 

これまた三連のサザン・ソウル・バラードである KENT 盤『エヴィデンス』一枚目15曲目の「ハウ・キャン・アイ・プット・アウト・ザ・フレイム」なんかも、この曲題は正式にはこのあと括弧内に「ウェン・ユー・キープ・ザ・ファイア・バーニング」と続くので分るように、恋の炎を消せないわ、どうしたら忘れられるの?という歌で、がしかし未練がましく男にしつこく迫るような歌い廻しではなく、やっぱり可愛らしい感じだよなあ。

 

 

 

また KENT 盤『エヴィデンス』一枚目八曲目の「アイム・ジャスト・ア・プリズナー(オヴ・ユア・グッド・ラヴィン)」は、ミドル〜アップ・テンポのスウィンガーで、ファンキーさも出しながらキャンディは余裕綽々で歌いこなしているのも楽しい。ところでこの曲、冒頭でドラムスから入るパターンは、フィル・スペクターを意識したのだろうか?

 

 

 

KENT 盤一枚目20曲目「トゥ・ヒア・ユー・セイ・ユア・マイン」とか、続く21曲目「ワット・ウッド・ビカム・オヴ・ミー」とかは、いちおうバック・バンドの演奏はサザン・ソウル・バラードの典型的パターンだけど、キャンディの歌い方は、やはりしつこさが強すぎず、適度な粘り気があってチャーミングだから、聴いていて本当に楽しいし心地良くリラックスできるんだよね。

 

 

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