新作 DVD で再実感する岩佐美咲のたおやかさとものすごさ
今年5月17日にリリースされた岩佐美咲の新作『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』。僕は Blu-ray ディスクを再生できる機器を持っていないので、普通の DVD の方を買ったのだが、なんだこりゃ?!!22歳の岩佐美咲がものすんごくまばゆく輝いていて、もうここまで輝いていると、歌声の方は、まあもんのすごい歌手をいっぱい聴いているつもりの僕だけど、ステージ上の岩佐の姿の方は僕はもう直視できないかもしれない。そう思ってしまうほどのまぶしい光を放っているじゃないか。
そんなことを含めあとでたっぷりベタ褒めしまくりたいので、これはイマイチだったかもしれないと僕が感じた部分の方を最初に書いておく。お読みになるみなさんは、どうか勘違いなさらないでほしい。僕は岩佐美咲のアクースティク・ギター弾き語りが本当に心の底から大好きなのだ。岩佐の歌ではそういうやり方が一番いいんじゃないかとすら思っている人間なのだ。だからこそ、これからはっきり指摘する。
『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』収録のアクースティック・ギター弾き語り三曲は、僕にはイマイチ面白くなかった。と言うと正確にはちょっと違う。かなり面白くはあったのだが、出来がイマイチだったように思う。特にギターとヴォーカルとの兼ね合いが完璧には上手く行っていないように感じる。
岩佐美咲自身が『情熱大陸』かと思うなどとしゃべるギター訓練のドキュメンタリー・ヴィデオに続き、まず最初にやるのが山口百恵の「秋桜」。この曲での岩佐はピックを使わずフィンガー・ピッキングでのアルペジオで弾いているのだが、それ以前までピックを使っての全部ジャカジャカとコード弾きばかりだったのが、シングル・トーンでのアルペジオ、しかも右手の複数の指を使ってピッキングしているせいなのか、それに気を取られて(だと思うけれど)ヴォーカルの方がやや不安定。音程が決まらずふらついて揺れている。山口百恵(僕は百恵ちゃんのリアルタイム世代ど真ん中)の名唱があるだけに、余計気になってしまう。
ギター弾き語り二曲目の「チェリー」はギターもヴォーカルもよかったが、三曲目の尾崎豊「I LOVE YOU」ではヴォーカルは文句なしの素晴らしさだが、今度はギターの方がイマイチよくない。曲冒頭の弾き出しで、特に高音弦にしっかりピックが当たっていないように聴こえる(そこは映像では分りにくいのだが、音でそう判断している僕)。そのせいで和音の響きがややかすれていて、キレイな音で鳴っていない。これは岩佐美咲自身なんらかの意図があって故意にやったのだろうか?僕にはそこまでは判断できない。
そんな三曲のアクースティック・ギター弾き語りコーナーは、今回は(僕にとっては)イマイチだったのだが、しかしこれは岩佐美咲のギター&ヴォーカルを否定したいとか、やめてほしいなんていう意味では全然ない。その正反対だ。もっとどんどんやってほしい、チャレンジしてほしいのだ。そんな大きな期待を岩佐にかけているという意味での発言なのだ。だからこそなのだ。多くのわさみんファンのみなさんは、コイツなに言っているんだ?!あのギター弾き語り、充分チャーミングで素晴らしいじゃないかと思われるだろうけれども。
さあ(前向きなつもりの)提言は言いたいだけ言わせてもらったので、ここからは『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』で聴ける岩佐美咲の歌の素晴らしさを指摘して褒めまくることだけしたい。上記三曲のアクースティック・ギター弾き語りを含め、この DVD には全部で26曲が収録されている。オリジナル楽曲や、カヴァー曲でも既存のものは後回しにして、今回初めて聴けたものの話をまず先にしたい。
七曲目の八代亜紀「雨の慕情」。以前からなんども繰返し、また一度はこのブログでも熱烈な公開ラヴ・レターを八代さんに向けて書いてしまったという40年来の八代亜紀ファンの僕だから、この選曲は嬉しかった。そして岩佐美咲の歌い方は、これまた八代とは大きく違う。「雨の慕情」最大の聴かせどころは、サビの「雨、雨、降れ降れ、もっと降れ、私のいい人連れてこい」部分だと思うのだが、この部分での八代はやはり熱情をたっぷり込めて歌っている。
ところが岩佐美咲はこのサビ部分で、やはりいつも通りの自然体でソッと優しく置くように声を出して歌っているのだ。聴きようによっては明るく笑っているのかもしれないとすら受け取れるほどのにこやかさで「雨、雨、降れ降れ、もっと降れ」とサラッと軽く歌っている。雨とは涙の比喩だから、八代亜紀の場合、ボロ泣きしているようなフィーリングなのに対し、岩佐のはカラリと乾いた情感を感じるんだよね。
八代亜紀か岩佐美咲か、どっちがいいのかなんてことは僕には言えない。どっちも素晴らしい解釈での歌いかたで、どっちも胸に迫ってくる。歌手の持味が違っているだけのことだ。だけどこの『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』での「雨の慕情」はかなり新鮮だった。以前からもう間違いないと思うようになっているが、岩佐美咲は、こういったジットリ湿った情緒をアッサリと軽く伝えることのできる歌手なんだよね。類い稀な存在だ。古今東西、思い切りエモーションをぶつけるような歌手の方が圧倒的に多い。数も人気もね。岩佐の表現スタイルはその逆で、たおやかさがあるじゃないか。それがいい。
そんな岩佐美咲のサラリ・アッサリ・自然体の歌い方・持味がもっとよりよく分るのが「雨の慕情」の次、八曲目のテレサ・テン「別れの予感」。こ〜れ〜は!本当に岩佐のヴォーカル表現が絶品だ。ひょっとしたらもう岩佐はテレサを超えたかもしれない。いや、これはあまりにも言いすぎだ。でも相当いいところまで来ているのは間違いないと僕は思うなあ。テレサ・テン、というか鄧麗君は、全世界の全ての歌手のなかで最も素晴らしいなかの一人なんだけど、え〜、じゃあ岩佐はどこまで行っちゃうの〜?
続く九曲目「池上線」も素晴らしいのだが、僕にとっってはその前の「別れの予感」!これこそが至高の一品。「別れの予感」はいかにも三木たかしがテレサに書いたというそのまんまな雰囲気の曲だけど、テレサが歌ったあのサラリとしたナチュラルなフィーリングを、『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』での岩佐は完璧に再現できているじゃないか。いや、再現というだけじゃなく、あるいはひょっとしたらそれ以上…(もうこのへんでやめとこう)。
自宅に届いた『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』のパッケージ裏に書いてある曲目一覧を見たとき、僕がかなり大きな期待を抱いたのが14曲目の「年下の男の子」と17曲目の「わたしの彼は左きき」。前者はキャンディーズ、後者は麻丘めぐみがオリジナルで、これまた僕はリアルタイムで体験したど真ん中世代。思い入れのある二曲なのだ。だから、岩佐美咲がどう歌っているんだろう?って大きな期待があった。
『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』におけるそれら「年下の男の子」と「わたしの彼は左きき」は、例によって観客席を廻りながらの写真撮影タイムでのものだった。岩佐はチャーミングで可愛い洋装(本当に可愛い、どうしてこんなに可愛いの?)で写メに映りながら、しかしバンドの演奏に乗ってしっかり歌っている。しかも「年下の男の子」も「わたしの彼は左きき」もかなりいい歌い方だ。
二曲とも元からキュートな内容の歌で、内容が似通っている曲だ。別れ、片思い、怨念、追いかける、などばかりの演歌の世界もいいけれど、「年下の男の子」や「わたしの彼は左きき」みたいなシンプルでポップなラヴ・ソングを、そのまま可愛らしい姿と歌声でストレートに披露する岩佐美咲も最高にチャーミング。特に「わたしの彼は左きき」の方では、フレーズの末尾末尾で音程をちょっとだけクイっと持ち上げるように歌うのが、オジサンたまらないのですよ。今年一月のシングル曲「鯖街道」で既にそうなっていたけれど、「わたしの彼は左きき」みたいな内容の歌でそんなフレーズ末尾持上げをやられると、もうイチコロです。
冷静になって改めて強調しておきたいのだが、これは以前も同様のことを書いたが、ここまで書いた曲は全て同じ一人の女性歌手が歌っているのですよ。「秋桜」も「I LOVE YOU」も「雨の慕情」も「別れの予感」も「年下の男の子」も「わたしの彼は左きき」も、ぜ〜んぶ岩佐美咲という22歳の女性歌手が一人で全部。しかもですね、それら全部を同じ歌い方でこなしている。いろんな歌手がいろんな曲を一人で歌うけれど、全てを上手くこなしている例はほとんどない。岩佐はそれができる稀にしか出現しない才能。『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』の時点で、もう既に日本大衆歌謡史に名を残す大きな存在になっているよなと強く実感した。
そんな岩佐美咲の魅力が『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』で最も素晴らしく発揮されているのがコンサート終盤22曲目の「20歳のめぐり逢い」。これがいままで岩佐がやったカヴァー・ソングのなかで最もヤバいものだとは僕も前回指摘したが、岩佐がこれを歌う姿を DVD で観たら…、あ、イカン、こりゃまたダメだ、僕の涙腺が…。
だぁ〜ってね、『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』での岩佐美咲は、「20歳のめぐり逢い」を歌いはじめるときに、あのギター・イントロに乗って、ステージ上にある階段みたいなところまで歩いていって、そこに腰掛けて歌いはじめるんだよね。座って、そっと優しくプライヴェイトで僕に話かけてくれているかのようにね。その歌い姿と声が最高に魅力的!立ち上がって前に出てからはヴォーカルにより一層磨きがかかっている。スッと伸びる声に聴き惚れる。
『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』での、多くのみなさんにとってのクライマックスは、やはりアンコールの三曲「鞆の浦慕情」「石狩挽歌」「鯖街道」だろうなあ。そして実際素晴らしい。一曲目「鞆の浦慕情」は、オリジナル・シングル盤の歌や、『岩佐美咲ファーストコンサート〜無人駅から新たなる出発の刻』収録の昨年1月30日のライヴ・ヴァージョンと比較すれば、段違いに歌唱力が向上している、なんてもんじゃなく、なんなんだ?この歌の迫力は?!
背筋が凍るほどの歌の迫力という点では、アンコール二曲目の「石狩挽歌」も凄い。これは岩佐美咲による初リリースである今年一月リリースの「鯖街道」(通常盤)収録ヴァージョンから既に荘厳さを感じる出来だったのだが、これのリリース後にやったコンサートである『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』ヴァージョンの「石狩挽歌」では、声の張りも伸びももっとずっと素晴らしい。聴き手であるこっちの背筋が凍りすぎて、冷凍ニシンになっちゃうよ。
『岩佐美咲コンサート〜熱唱!時代を結ぶ 演歌への道〜』では、このあと今年七月の二日連続のコンサートを予告して(あぁ〜〜、僕も行きたい、だがチケットは取れないのだ)、次いでアンコール最後、すなわちコンサート大トリの「鯖街道」を歌って終幕。
みんな〜、音楽マニアのみんな〜、こんな歌手は滅多にいないんだぜ。そりゃあさ、僕だってアラブやギリシアやトルコやヴェトナムなどの熟女(でない人もいるが)歌手たちは大好きでたまらないけれどさ。僕もそういう歌手たちに夢中なんだけれどさ。でもね、日本にだって、まだ22歳だけど、こんなものすごい女性歌手がいるんだってことを、ちょっと頭の片隅に置いてくれないか?ホンモノだ。間違いない。お願い、岩佐美咲を聴いて!
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こんにちははじめまして
ある岩佐美咲さんのファンの方のブログからまいりました.
私も彼女の大ファンなので詳細はレビューうれしいです!
私は彼女のファーストコンサートは行ったのですが、当公演は行けなかったのでDVDを楽しみにしていた一人です。
ところが拝見して…
まあ歌唱のほうはしっかりしてて申し分ないです。
ただファーストコンサートではバックは生バンドだったのに、当公演は弾き語り以外はバックは全部録音(カラオケ)(><)
これにはまいりました(><)。ファーストよりセカンドの方が公演のクオリティが下がってるではないか...
これでは会場が大きくなっただけでやってることはインストアイベントと変わらないではないか...
(まあ彼女だけが目当ての客はバックが生バンドだろうが録音だろうが気にしないのかもしれませんが)
拙文失礼しました.
投稿: やんや | 2017/05/29 16:08
やんやさん、確かに生バンドの伴奏がいいっていうのは間違いないことです。がしかし大人数のバンド、というかオーケストラを起用するのは、いろんな意味でかなり大変なことなんですよね。特に人件費がたまりせん。
だから大物で予算に余裕があるとかじゃないと、なかなか難しいというのが現状かもしれないですね。わさみんにも一日も早くそんな余裕のある大物歌手になってもらいたい、それで全てのコンサートの伴奏を生バンドでやってもらいたい 〜 そんな日が一日でも早く来るためには、僕たちわさみんファンが声を大にして応援していって、少しでもファンが増えて、少しでもたくさんCDやDVDが売れて、わさみんや長良事務所や徳間ジャパンの懐が潤うように、さあこれからも頑張っていきましょう。
投稿: としま | 2017/05/29 19:12
ていねいなレスありがとうございます。
私はロック・ポップスのアーティストのライブは昔からよく行ってたので演奏は生が当たり前と思ってたんですが、演歌歌手のライブに行ったのは岩佐美咲さんがはじめてだったので、演歌歌手がバックを録音でやるのが一般的なのかどうか知りません。
ただ最近はフリーのインストアライブでも生バンドでやる人が多いんですよね、先日藤原さくらのインストアではキーボード奏者がいるにもかかわらずストリングスまで奏者を引き連れてやってました。
なのに大ホールでそれなりの入場料をとる公演がカラオケだと満足できないです。正直もう行く気がしません。
としまさんは耳が肥えてらっしゃるとお見受けしますが、一般的に演歌歌手のファンは「音楽」に関心のない人が多いのかもしれませんね(笑)
投稿: やんや | 2017/05/30 09:36
やんやさん、弘法筆を択ばず。生バンドでもカラオケでも、わさみんの歌の良さは変わりません。
投稿: としま | 2017/05/30 11:59