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2017/05/31

フェスの最後のお祭り騒ぎ

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プロフェッサー・ロングヘアの(LP でも CD でも)二枚組のライヴ・アルバム『ザ・ラスト・マルディ・グラ』。1978年2月3&4日の録音で、フェスは二年後の80年1月に亡くなってしまう。その後、同78年3月10日のライヴ録音が、2004年になって『ボール・ザ・ウォール・ライヴ・アット・ティピティーナズ 1978』となってリリースされていて、 どうやらこれがフェスの生涯ラスト録音のようなので、82年にアトランティックからリリースされた『ザ・ラスト・マルディ・グラ』はその一個前だなあ。

あ、いや、ライノがリリースした CD二枚組アンソロジー『’フェス:ザ・プロフェッサー・ロングヘア・アンソロジー』二枚目ラストにある「ブギ・ウギ」。これが1980年6月16日のシー・サン・スタジオ録音となっている。聴くとスタジオというよりもホーム・レコーディングみたいな雰囲気で、演奏前、演奏中、演奏後でよくフェスのしゃべり声が聴こえ、仲間がいるんだろう、和気あいあいとしたものだ。曲題通りブギ・ウギのインストルメンタル・ピアノ演奏。だがやはりラテン風味がある。

この<ブギ・ウギ+ラテン>というのが、フェスの音楽性の根幹だと思うのだ。僕だけじゃなくみなさん言っている常識。1980年6月16日スタジオ録音のインストルメンタル「ブギ・ウギ」は、ライヴ盤『ザ・ラスト・マルディ・グラ』でもやっているんだよね。そっちの方がブギ・ウギとラテンの合体具合が分りやすいものだが、しかしバンド含め演奏自体はどうってことないように思う。

『ザ・ラスト・マルディ・グラ』もニュー・オーリンズにフェス自身が構えた拠点クラブ、ティピティーナズでのライヴ録音で、しかも2月の3&4日録音ということは、当地でのマルディ・グラ(フェスティヴァル)の真っ最中だったはず。だからこのアルバム・タイトルがあるんだろうね。そしてなにを隠そう、僕がフェスの音楽ってなんて楽しんだろう!って心の底から実感した最初の(1982年に買った)レコードだったのだ。

以前も書いたが、僕が生まれて初めて買ったフェスのレコードは、これまたアトランティック盤の『ニュー・オーリンズ・ピアノ』だった。大学生の頃はどこがいいんだかサッパリ分らず。あんまり楽しくないような気がしていたという、まあなんともヘボ耳だったんだよね(えっ?いまでもそうじゃないかって?そりゃそうなんですが)。ちょっと地味な感じだったしなあ。全然好きになれず、フェスのレコードもその後買わなかった。

大学三年生の時に、当時の新作レコードとして店頭に並んだ『ザ・ラスト・マルディ・グラ』を買った最大の理由は、今思うに三つだっただろう。一つ、ジャケット・デザインがチャーミング。一つ、二枚組 LP(こればっかりじゃないか)、一つ、ライヴ盤だったこと。なんて分りやすい人間なんだ、僕って。言い換えればアホ。

そんなアホの僕でも買って帰ったフェスの『ザ・ラスト・マルディ・グラ』には一発で楽しい〜っ!って感じて、まず一枚目 A 面一曲目の「ビッグ・チーフ」での弾き出しのピアノの音が粒立ちが良くてキラキラしていて、『ニュー・オーリンズ・ピアノ』の鈍重な音とは大違い。以前書いたようにブルー・ノートやアトランティックのピアノ録音がイマイチ気に入らない僕だけど、でも『ザ・ラスト・マルディ・グラ』も同じアトランティック盤で、さらに(1978年だとはいえ)ライヴ録音なのに、ヘンなの。あ、レコーディング自体はアトランティックが手がけたんじゃないのかな?

『ザ・ラスト・マルディ・グラ』には興味深い曲がいくつもある。フェスの自作曲だと特に驚きもないし、1978年までに繰返し録音しているものばかりで、バンド編成がちょっと変わっているなと思う程度で(特にフェスはあまり使わないエレキ・ギタリストがいるのと、そのギターとサックスが長めのソロを取るのが大きなアクセント)、取り立てて強調しなくちゃいけないと思う部分は小さい。

『ザ・ラスト・マルディ・グラ』では、フェスの自作曲よりもカヴァー・ソングがかなり面白いのだ。一枚目二曲目の「ジャンバラヤ」、三曲目の「メス・アラウンド」、五曲目の「ラム&コカ・コーラ」、六曲目の「ガット・マイ・モージョー・ワーキング」。二枚目だと一曲目の「シェイク・ラトル&ロール」、四曲目の「スタッグ・オ・リー」など。

なにが面白いって、いま書いたそれらの曲は、「ラム&コカ・コーラ」を除き、元のオリジナルにラテン風味は、少なくとも僕は薄くしか聴きとれない。「スタッグ・オ・リー」は伝承民謡なのでオリジナルなんかないが、いろんな音楽家がやる既存ヴァージョンにラテン風味を聴きとるのはやや難しいだろう。…って、それらの曲全部、僕が知らないだけで、いろんなラテン・アレンジのものがあるんだよねえ?「ジャンバラヤ」はあるに違いないぞ。だって北米合衆国音楽にはラテン風味は抜きがたく…、って毎度毎度の繰返しなので省略。

分りやすいものから話をすると「ラム&コカ・コーラ」。これは元からカリプソ・ソングで、北米合衆国では1945年にアンドルー・シスターズがやったレコードが大ヒットになり、北米合衆国内のポピュラー・ミュージック、それも白人がやるメインストリームであれだけ鮮明にカリビアン〜ラテン風味を前面に打ち出したやや早めの一例となった。
面白いでしょ、これ。かなり売れたので、アンドルー・シスターズはその後もなんどかレコードにしているみたいだ。この曲をフェスは『ザ・ラスト・マルディ・グラ』で、無伴奏のピアノ独奏曲としてやっている。左手が鮮明にカリブ風に大きく跳ね、同じニュー・オーリンズの大先輩ピアニスト、ジェリー・ロール・モートンの例の Spanish tinge を思い起こさせる出来。でもこれは元からカリビアン・ソングなので、分りやすく面白みは薄いかも。
フェスの『ザ・ラスト・マルディ・グラ』で興味深いのは、まず一枚目二曲目の「ジャンバラヤ」。ご存知ハンク・ウィリアムズの自作自演のカントリー・ソング。ハンクのオリジナル・シングル・ヴァージョンを改めて聴きなおしたが、やはりそれにラテン・テイストは弱い。(ペダル・スティールを含む)ギターとフィドルをフィーチャーしたごく普通のカントリー・ソングだ。あ、いや、ペダル・スティールのサウンドがちょっと南洋風(ハワイアン)?

そのニュー・オーリンズのケイジャン料理を題材にした「ジャンバラヤ」 を『ザ・ラスト・マルディ・グラ』でのフェスは、まず左手でクラーベのパターンを弾きはじめて歌い、テナー・サックス二管が入れるリフもラテン風なアンサンブル。エレキ・ギターのソロ、テナー・サックスのソロが続き、どっちもカリブ風にジャンプするようなソロの取り方でかなり面白い。フェスのヴォーカルはむかし通りのちょっと滑稽な声の出し方でジャイヴィだから、跳ねるラテン・ジャイヴという意味ではルイ・ジョーダンみたいだ。
アーメット・アーティガンが書いたレイ・チャールズのブギ・ウギ・ピアノ楽曲「メス・アラウンド」。フェスの『ザ・ラスト・マルディ・グラ』では一枚目三曲目。全面的にピアノにフォーカスするのではなく、テナー・サックス二管のアンサンブルをメインにした組み立てで、その隙間隙間にフェスの弾くラテン風ブギ・ウギ・ピアノが挟まるという具合。リズム・セクションの演奏は、どう聴いてもラテンだ。
一枚目六曲目のマディ・ウォーターズ・ナンバー「ガット・マイ・モージョー・ワーキング」については、以前触れたので、以下のリンク先の末尾をご一読いただきたい。音源もご紹介してある。この一曲も、フェスの音楽はすなわちラテン・ブルーズだというのを証拠づけるものだ。完全にジャズ・サックス・ソロにしか聴こえないテナーは、二名クレジットされているうちのどっちなんだろう?
フェスの『ザ・ラスト・マルディ・グラ』。二枚目に入り一曲目の「シー・ウォークス・ライト・イン」。という曲名になっているが、間違いなくロックンロール・スタンダードの「シェイク・ラトル&ロール」で、フェスもはっきりそう歌っているし、CDジャケット裏でも曲名欄で併記されていて、チャールズ・カルフーンの名前をちゃんとクレジットしている(がこれはジェス・ストーンの変名)。フェス・ヴァージョンでのラテン風味は、他の曲に比べたら強くないかもしれないが、それでもビッグ・ジョー・ターナー、ビル・ヘイリー、エルヴィス・プレスリーらのやったものと比較すれば、かなり鮮明な違いが聴きとれるはず。
『ザ・ラスト・マルディ・グラ』二枚目四曲目の「スタッグ・オ・リー」も、このみんなやっている伝承民謡を、例えば同じニュー・オーリンズの後輩ドクター・ジョンの『ガンボ』ヴァージョンと聴き比べれば違いがある。ドクター・ジョンのものはピアノでブロック・コードの三連をダダダ・ダダダと叩くファッツ・ドミノ・スタイル。だからラテン・テイストはあるのだが、フェスのヴァージョンは、ピアノをシングル・トーンで跳ねるように弾き、それに合わせてリズム・セクションと二管ホーンが、かなり強いカリブ〜ラテンを演奏する。さながらラテン・アメリカン・フォーク・ソング。
『ザ・ラスト・マルディ・グラ』。オリジナル曲では二枚目五曲目の「ティピティーナ」が、まさにこの曲名からとった現地ニュー・オーリンズのクラブでのライヴだということもあってか、フェスの自作曲では、一枚目一曲目の「ビッグ・チーフ」、八曲目の「ドゥーイン・イット」と並ぶ出来の良さ。特にやはりテナー二管のリフの入り方が楽しい。でもライヴ版の「ティピティーナ」なら、『ロック・ン・ロール・ガンボ』収録ヴァージョンの方がもっといいかも。

『ザ・ラスト・マルディ・グラ』二枚目ラストは「カーニヴァル・イン・ニュー・オーリンズ」。上で書いたように現地でのマルディ・グラが開催されている真っ最中だったので演奏したんだろうね。ウキウキ楽しくて文句なし。こういうタイトルのアルバムを締めくくるのに、これ以上なくピッタリ来る。

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