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2017/05/20

失われたシャアビを求めて

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マルセル・プルーストにあやかってなのかどうなのか、なんだかここ一年ほどの日本では「失われた〜〜を求めて」というタイトルのリリース物が急増中。僕の気のせいかなあ?そんなあるのかないのか分らない流れに乗るわけじゃないのだが、今日の記事タイトルは要するにちょっと格好つけてみただけなのだ。

 

 

としか言わないと、最大のパクリ元を隠すことになってしまうので、参照したページを正直に書いておかないといけない。まあ僕のブログなんて、ボブ・ディランの歌詞並みにパクリだらけだけどさ(ジョニ・ミッチェルはそれを「偽物」と呼ぶけれど、それは違うだろう)。リンクも貼っておく。フランス在住のカストール爺さんのブログにある2012年2月5日付の記事のタイトルが「失われたシャービを求めて」なのだ。この記事は2011年のアイルランド映画『エル・グスト』(El Gusto)にかんする内容で、フランス公開が翌2012年1月10日だったそう。それで同年二月の記事になっているんだろう。

 

 

 

『エス・グスト』という映画は日本では公開されていない。フランス盤 DVD を日本で買うことができたようだが、いまや入手困難だし、フランスの DVD は PAL 形式なので、日本の普通の再生機では観られない。かつて東京時代の僕の自室には、全てのリージョンを観られる、そして NTSC だろうが PAL だろうが関係なく観ることのできる再生機を持っていて、いろいろと楽しんでいたのだが、愛媛に戻ってくる際に処分してしまった。

 

 

だから映画『エル・グスト』の内容も自分では確認できず、いくつかのネット記事を読んで想像するだけ(確か『ラティーナ』誌になにか載ったような載らなかったような)。そのなかで最も詳しく、最も分りやすく書いてあるのが、上掲リンク先のカストール爺さんのブログ記事なのだ。ありがとうございます。感謝します。Twitter でもフォローしています。

 

 

『エル・グスト』。先のカストール爺さんのブログ記事で一瞬で分ってしまうだろうが、シャアビ映画で、しかし映画本編はいまだに観られないなりに、サウンドトラック盤だけは渋谷エル・スールでわりと簡単に買えたので、同店のページでそれを発見し、シャアビなんだなと分った僕は速攻でそれを買った。カストール爺さんの存在も、このエル・スールの商品説明で初めて知ったのだった(「カストル」になってますけど)。

 

 

 

このサウンドトラック盤で中身の音楽だけは聴けて、僕も現在まで楽しんでいる『エル・グスト』。映画がどんな内容で、中身の音楽がどういう意味を帯びたもので、それを演奏する音楽家たちがどういう人たちでどうやって集められたのかなどは、もうこれら全て上掲リンク先のカストール爺さんのブログ記事で分るので、是非ともご一読いただきたい。そうすれば、今日の僕はこれ以上なにも説明することはない。

 

 

そうではあるのだが、まあいちおうちょっとだけ書いておくことにしよう。この(サントラ盤)『エル・グスト』で最も重要なのは、アラブ人とユダヤ人が一緒に協力して演唱しているからこそ、このシャアビというアルジェリアの音楽が真の価値を持つという部分。これは以前、マグレブ地域のアラブ・アンダルース音楽におけるユダヤ人について書いた際に、僕も浅学ながら強調しておいた。

 

 

 

 

『エル・グスト』CD 附属のブックレット末尾に参加演奏者名が一覧になっているのだが、改行なしでズルズル書いてあるし人数がかなり多いので、全部で何名で誰と誰と誰なのかなんてことを確認する気になれない。しかも担当楽器などは一切記載がない。ただ唯一、そのなかに El Hadi EL ANKA という文字が見える。これはあのシャアビの創設者、モハメド・エル・アンカと同名。だが本人であるはずがないので、たぶん息子さんで、現在カスバで活動するシャアビ・ピアニスト、エル・ハジ・ハロのことなんだろう。このエル・ハジ・ハロが、かなりの大人数であるエル・グスト楽団(L’Orchestre El Gusto)のリーダ格らしい。

 

 

そして彼のもと集まって演奏しているシャアビ音楽家のなかには、本当にいろんな人がいるみたいだ(が僕は CD ブックレット記載の人名一覧を見てもよく分らない)。カスバやその他アルジェリア在住の人たちとフランス在住の人たちが混じり、しかもおそらくユダヤ系の演奏家・歌手もいるんじゃないのかな。だって映画『エル・グスト』の監督サフィネーズ・ブースビア(アルジェリアとアイルランドの混血女性)が映画『エル・グスト』で目指したのは、アルジェリア独立戦争(1954-1962)で引き裂かれてしまったシャアビのアラブ人とユダヤ人を再結合させようするものだったからだ。離れ離れになってしまった往年の楽士たちがもう一度集まったら、50年の時を経てもう一度彼らが一緒に演奏できたら…、というのが監督サフィネーズ・ブースビアの目論見だったのだ。

 

 

『エル・グスト』CD ブックレット記載の人名一覧を見ただけでは、そこにユダヤ系がいるのかどうか僕には全然判断できないが、シャアビという音楽のそもそもの成り立ちや、どういう音楽として栄えたのかという歴史・足跡を辿り、いろんな人の証言を得て、ほうぼうに散ってしまった当時の音楽家たちを追跡し、最終的には再結集したエル・グスト楽団がパリの劇場でシャアビ・スタンダード「ヤ・ラーヤ」を演奏し聴衆も踊りまくるというシーンになる映画らしいから、そこに監督サフィネーズ・ブースビアが込めた思いを察するに、やはりユダヤ人が混じっていないとサマにならないだろう。

 

 

ここまでお読みになって、まるであの『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』そのままじゃないかとみなさん思われるはず。実際、映画『エル・グスト』は「アルジェリア版ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」というレッテルが付いたんだそうだ。キューバ音楽映画の方は観ているけれど、アルジェリア音楽映画の方を観ていない僕なのでなにも言うことはできないが、前者はライ・クーダーとヴィム・ヴェンダースが手がけたので世界的に大ヒットして、日本でも上映され、楽団プロジェクトもかなりの知名度になっているけれど、後者の方は日本で公開される気配すらない。エル・グスト楽団なんて日本人は誰も知らない。う〜ん、もったいないことだよなあ。ひょっとしたら『エル・グスト』の方が面白いかもしれないのに。

 

 

CD『エル・グスト』で聴ける音楽は、全13曲が全てトラディショナルなシャアビなので、僕が今日ことさらなにか書かなくてもいいはず。ラスト13曲目はオマケのエピローグで、ピアノ(は間違いなくデジタル・ピアノの音)一台の伴奏で歌われる静かなシャアビ。クライマックスはその前12曲目の「ヤ・ラーヤ」(「Yaraya」表記だが)だ。これが大編成のエル・グスト楽団による演奏で、ダフマーン・エル・ハラシのこの名曲シャアビを基本的に大合唱で歌う。合間合間に入れ替わり立ち替わりの独唱もはさまっているが、楽団全員での合体協力こそがクライマックス「ヤ・ラーヤ」の聴きどころだ。

 

 

 

さて、どこかの配給会社さん、日本で映画『エル・グスト』を公開していただけませんかね?一度公開されれば、愛媛県で上映されなくても(まあ絶対に来るわけない)日本盤 DVD になるんじゃないの?フランス盤 DVD は PAL 形式だから観られないが、観られたとしても、いまやフランス語聴解能力がゼロに近づいている僕には厳しい。日本語か、せめて英語字幕がほしいのだ。どなたか、お願い!アラブ/ユダヤという異文化の混在がつくっていたユートピアを50年後に再創造するという途方もない企てなんだから!

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