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2017/05/04

ロックウッドのブルーズ・ギターこそ美しい

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あの世代の日本のブルーズ・ファンのみなさんにとっては絶対に忘れられないものであるはずのロバート・Jr ・ロックウッドの『ブルース・ライヴ!』。そりゃなんたって日本での第一次?ブルーズ・ブームだった1974年の来日公演盤だもん。僕は完全なる後追い世代だけど、やはりレコードを買って持っていた。でも最初の頃は渋すぎて(?)全く面白く感じず。だから他のブルーズもたくさん聴いて、ロックウッドのこれもリイシュー CD で聴いてからだなあ、あのロックウッドの美しさが分るようになったのは。

 

 

ロバート・Jr ・ロックウッドの『ブルース・ライヴ!』。 CD でも最初二枚バラ売りだったはずだけど、いま僕が持っているのはヴィヴィドが2008年にリリースした三枚組完全版。解説文を中村とうようさんが書いているが、とうようさんはそもそもそのロックウッドが1974年11月に来日した第一回ブルース・フェスティバルの主催・プロデュース・司会だった。だから解説文では、当事者しか知りえない裏話やエピソードみたいなことだけ書いてある。

 

 

ロバート・Jr ・ロックウッドとエイシズのことや、収録曲のことなどにかんしては、2008年時点だと日本のブルーズ・リスナーのあいだでも周知のことだったのであえて書かなかったってことなんだろうね。実際、三枚組の三枚目ラストに収録されている、同時来日のスリーピー・ジョン・エスティスがやる二曲も含めアルバムの全32曲は、ほぼ全てよく知られているものばかりだ。それを(ロックウッドの場合)戦後シカゴのモダン電化バンド・スタイルでやっているわけだから、それについていまさら解説する必要なんて確かになかった。

 

 

ただ、ロバート・Jr ・ロックウッドの『ブルース・ライヴ!』にかんしても僕は完全なる後追い人間だし、しかもむかしから名盤との評価が高いから僕も早くに買って、このアルバムで聴いて初めて知ったような曲もたくさんあったりして、それにたぶんああいったブルーズ・スタンダードの数々をモダン・シカゴ・スタイルでやるライヴ演奏を聴いた最初だったんじゃないかなあ、僕の場合は(B・B・キングの『ライヴ・アット・ザ・リーガル』を除く)。

 

 

だからある時期までの僕にとっては、ロバート・Jr ・ロックウッドの『ブルース・ライヴ!』は<周知>のものではなく<発見>がたくさんあった。それと最初に買いたようにしばらくのあいだは、派手さもなく渋すぎて面白くないと感じていたライヴ盤だったので、CD で聴いて、それも2008年のヴィヴィド完全盤三枚組で聴いて、初めて分ってきたような部分もあるんだよね。そんなことを今日少し書いておこう。

 

 

でも一曲目の「スウィート・ホーム・シカゴ」なんかについては、やはりなにも言うことがない。あまりにも有名すぎる曲だし、モダン・シカゴ・スタイルでこの曲をやるなんてのは、え〜、またこれかよ…というようなウンザリ気分だというのがちょっぴり正直なところだったりする。それでも、いわば定番をやる古典落語の名人芸みたいなもんで、この種の音楽は永遠不滅であることを証明してはいるよなあ。また、1974年11月に生体験した方々にとってはウンザリの正反対な気分だったはずだしね。

 

 

この三枚組を聴き進んで一番素晴らしいと思うのが、上でも一瞬触れたがロバート・Jr・ロックウッドのギターだ。美しい。こういうブルーズ・ギターの弾き方にこそ、僕は「美しい」という言葉をたむけたい。決して派手ではない。すごく地味だ。しかし最高に上手く、イントロや自身が歌いながら弾く合間合間のオブリガートや間奏ソロなどで聴けるシングル・トーン弾き(たまにスライド)の絶妙さには脱帽するしかない。その背後でコードを弾いているのがルイス・マイヤーズかな。デイヴ・マイヤーズのエレベが小さくしか聴こえないのが残念だけど、フレッド・ビロウのドラミングがこりゃまた名人芸だ。

 

 

フレッド・ビロウが叩き出すリズムの面白さという点では、二枚目一曲目の「エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルーズ」も聴きもの。どこがかというと、それでビロウが叩いているのは6/8拍子、すなわちハチロクのリズムだ。アルバム『ブルース・ライヴ!』全部を聴いても、そんなリズムはこれ一曲だけだし、モダン・シカゴ・ブルーズ全体にとってもやや珍しいもののはず。ビロウは特にシンバルで細かいハチロクを刻んでいて、しかもスネアの入り方は4/4系でありつつ8ビート・シャッフルのフィーリングだから、ポリリズミックだなあ。

 

 

それ以外の演奏曲は普通の8ビートが多い。ロバート・Jr ・ロックウッドのギターのモダンさが一番よく分るのは、やはり最高に洗練されたモダン・ブルーズ・ナンバーである「ストーミー・マンデイ」(一枚目六曲目)だろうなあ。バックのルイス・マイヤーズの刻むコードもややジャジーで(いわゆる<ストマン進行>を弾いている)、その和音に乗ってロックウッドもオシャレな単音フレーズを弾く。僕はこういった T ・ボーン・ウォーカーがやったような都会のソフィスティケイッティッド・ブルーズが一番好きなんですよ。

 

 

アルバム一枚目九曲目の「ミーン・オールド・スパイダー」だけがロバート・Jr ・ロックウッド一人だけでの弾き語りで、他は全部エイシズを従えたバンド形式でやっている。ジャンプ・ブルーズの「ユー・アップセット・ミー・ベイビー」(いまにもテナー・サックス・ソロが出てきそう)や、続くやはりスタンダードの「スウィート・リトル・エンジェル」などなど、お馴染ばかりだ。一枚目ラスト14曲目は「ジューク」。もちろんあのリトル・ウォルターの有名曲だから、当然ここでもハーモニカをフィーチャーしたインストルメンタル演奏で、吹くのはルイス・マイヤーズ。

 

 

ルイス・マイヤーズはヴォーカルをとっている曲もあり、例えば二枚目二曲目の「アーリー・イン・ザ・モーニング」や八曲目の「リコンシダー・ベイビー」など。しかしそれらの曲でも脇役に廻っているロバート・Jr・ロックウッドの弾き方が美しい。やはりルイスが歌う二枚目六曲目の「マニー・マーブルズ・アンド・チョーク」で聴かせるスライド・プレイなんか、ロバート・ナイトホークみたいな斬れ味だもんなあ。

 

 

一曲だけドラマーのフレッド・ビロウが歌うものがあって、二枚目四曲目のポップ・スタンダード「ルート 66」。僕なんかにはナット・キング・コールなどジャズ系の歌手がやったもので親しみがある超有名曲だけど、ローリング・ストーンズその他ロッカーもやっているし、ブルーズ〜 R&B の人たちだってもちろんやっている人がたくさん。ビロウのヴォーカルは決して上手いものじゃないけれど、でも本場シカゴのナイト・クラブなど現場ではこんな場面がしばしばあっただろうと想像できるので、その意味ではちょっとだけリアルな仮想体験。

 

 

ロバート・Jr ・ロックウッドの『ブルース・ライヴ!』。三枚目に収録の(スリーピー・ジョン・エスティスの二曲を除く)三曲は、レパートリー自体も演奏内容も面白いものだが、長い間未発表だったのは、たぶん録音状態が悪いせいなんだろう。特に一曲目の「ワーク・ソング」の音がよくない。ナット・アダリーの書いたジャズ・ナンバーだし興味深いんだけどなあ。二曲目だってルイ・ジョーダンの「カルドニア」だし、三曲目なんてレイ・チャールズの「ワッド・アイ・セイ」だしなあ。さらに演奏そのものだって興味深いし、録音さえマトモだったらなあ。

 

 

だからロバート・Jr ・ロックウッドの『ブルース・ライヴ!』は、あくまで二枚目までが<本編>だというような感じなんだろう。二枚目終盤ではマディ・ウォーターズの有名曲「フーチー・クーチー・マン」、ジミー・ヒューズの「スティール・アウェイ」、そしてまたマディの「ガット・マイ・モージョー・ワーキング」をやって終り。マディがずっとそうだったように、「ガット・マイ・モージョー・ワーキング」で盛り上がって(現場では違ったかもしれないが)締めくくりのラスト・ナンバーにしているんだろう。

 

 

しかしその前の「スティール・アウェイ」がもっといいと僕は思うよ。ジミー・ヒューズはソウルっぽいリズム&ブルーズ歌手で、最大のヒット曲「スティール・アウェイ」(ゴスペル・ソングを土台にしている)も三連のソウル・バラードなんだけど、それをロバート・Jr ・ロックウッドは全く泥くさくない都会的感性で、ジャジーな、まるで AOR バラードみたいな仕上がりにしているんだよね。こういうの、大好きだ、僕。

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