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2017/05/21

ジャズ・ファンにオススメしたいビョーク

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アイスランド出身の女性歌手ビョークにジャズ作品がいくつかあるのはみなさんご存知の通り。有名なのは1993年のソロ・デビュー一作目『デビュー』五曲目の「ライク・サムワン・イン・ラヴ」だね。この曲はジミー・ヴァン・ヒューゼンとジョニー・バークが書いたスタンダード・ナンバーで、ジャズ歌手がよく歌う。ビョークはハープ一台だけの伴奏で歌っている。

 

 

 

この曲以外にもアルバム『デビュー』では、11曲目「ジ・アンカー・ソング」はジャズ作品だと呼んでもいいんじゃないかな。終始サックス・アンサンブルだけに乗ってビョークが歌っている。ジャズ・ヴォーカルとも言いにくいような歌い方かもしれないが、伴奏のサウンドは相当にジャジーだ。

 

 

 

ジャズではないかもしれないが、この「ジ・アンカー・ソング」にちょっとだけ似ているのが、やはり同じアルバム『デビュー』八曲目の「エアロプレイン」。これでも冒頭部やその後随所でサックス・アンサンブルが出てきて効果的に使われている。ビョークはサックスが好きなのだろうか?あるいはアレンジャーかプロデューサーの意向だったのか?「エアロプレイン」ではリズムの感じがまた少し面白く、1990年代のアシッドなラテン・ジャズ風のフィーリングだよなあ。

 

 

 

『デビュー』の次作、1995年の『ポスト』にも、四曲目に「イッツ・オー・ソー・クワイエット」がある。この PV はいま初めて観たけれど、ちょっと面白いかもしれない。監督がスパイク・ジョーンズなんだよね(リーじゃないのか)。3/4拍子で、ジャズ・ビッグ・バンドがやるスウィング・スタイルの演奏だ。ビョークのヴォーカルもややシアトリカルで面白い。しかしやっぱりリード楽器メインだなあ。

 

 

 

しかしビョークは、これら一連の作品の前、まだソロ・デビュー前の1990年に『Gling-Gló』(歌っている本人の発音を聴くと『グリング・グロ』に聴こえるが、アイスランド語は全く分らない僕)というアルバムがあって、これが一枚丸ごとジャズ作品なのだ。伴奏は(一曲を除き)モダン・ジャズのピアノ・トリオ。この90年あたり、ビョークはシュガーキューブズの一員として活動していた時期だろうと思うんだけど、このグループのことを名前しか知らない僕には実感がない。

 

 

がしかしとにかく Björk Gudmundsdóttir (どう読むの?本名らしいが?)名義で発売された『Gling-Gló』は、ごく普通の女性ジャズ・ヴォーカル・ファンにとっても面白い、というかそういう方々にこそ聴いてほしいオススメの一枚なんだよね。僕としてはソロ・デビュー作である『デビュー』以後のエレクトロ・ポップ路線の方が好きだけど、多くのジャズ・ファンはそんなの聴かないでしょ?だからビョークのことも関心がないと思うんだよね。ってことはジャズ・アルバムがあるっていう事実に気がついていないかもしれない。ちょっともったいないんだ。

 

 

『Gling-Gló』は全16曲。伴奏は書いたように(一曲を除き)ピアノ+ウッド・ベース+ドラムスのトリオ編成で、このトリオは Trió Gudmundar Ingólfssonar という名前になっているのだが、これもどう読むんだろう?三人の名前も記載があるのだが、僕にはやはり読めない。全員アイスランド人ジャズ・メン(いや、ウィミンかもだが)なのかなあ?演奏を聴くと、腕前はごく標準的なものだろうと思う。本場アメリカにならたくさんいそう。だけどたっぷりジャジーだし、そして中庸な雰囲気のムーディさがあってラウンジ風にくつろげて、悪くない。

 

 

『Gling-Gló』の収録曲にはオリジナル・ナンバーも複数あるみたいだが、確証はない。が聴いたことのないメロディが多いので、たぶんそうだと思う。メロディの動きは聴けば誰でも理解できる。歌詞の方は二曲のアメリカン・ソングを英語で歌うもの以外はさっぱり分らない。やっぱりアイスランド語?ネット情報ではそうだとなっているが、自分自身でそうだという確証は持てない。

 

 

じゃあその二曲の英語カヴァー・ソングの話からしようかな。みなさんにとってもとっつきやすいと思うからね。ただしそのうち一個はいわゆるジャズ・ナンバーではない。リズム&ブルーズ楽曲の「ルビー・ベイビー」だ。ご存知(だと思うんだけど、普通のジャズ・ファンでも)ジェリー・リーバー&マイク・ストーラーのソングライター・コンビが書いたもの。アメリカでの初演はドリフターズというヴォーカル・グループ。スタンダード化しているので、カヴァーしている人が多く、そのなかにはジャズ・ファンにも人気があるドナルド・フェイゲンがいる。

 

 

ジャズではないけれど、ちょっと聴いてほしいのでご紹介しておく。

 

 

「ルビー・ベイビー」

 

 

ドナルド・フェイゲン→ https://www.youtube.com/watch?v=G187v1HEjqs

 

 

これらに対し、『Gling-Gló』15曲目のビョーク・ヴァージョン「ルビー・ベイビー」はこれ。

 

 

 

お分りのように4/4拍子にアレンジされていて、ドラマー(Guðmundur Steingrímsson)はブラシを使う。これ、ストレート・アヘッドなジャズのスタイルじゃないかな。ビョークの歌い方は英語の発音にちょっとだけ引っかかりがあるような気がするけれど、そんでもってジャジーなフィーリングもそんなに強烈じゃないかもしれないが、かなり面白いと僕は思う。ジャズ・ヴォーカルに分類して差し支えない。伴奏のピアノ・トリオが完全なるジャズだというのは、ジャズ・ファンのみなさんも疑わないはず。中間部のピアノ・ソロ(Guðmundur Ingólfsson)はかなりいい感じだ。こんな「ルビー・ベイビー」を、少なくとも僕は聴いたことがない。

 

 

アルバム『Gling-Gló』では、この「ルビー・ベイビー」」に続くラスト16曲目が「アイ・キャント・ヘルプ・ラヴィング・ザット・マン」。 オスカー・ハマーシュタイン III とジェローム・カーンの書いた有名曲で、これはジャズ歌手がたくさんやっているので、ジャズ・ファンのみなさんもご存知。例えばビリー・ホリデイとかエラ・フィッツジェラルドとか(どっちも「 Can't Help Lovin' Dat Man 」表記)。前者は1937年のブランズウィック録音。後者は63年のヴァーヴ盤『ザ・ジェローム・カーン・ソングブック』。両方とも僕はかなり好き。インストルメンタル演奏ならば、クリフォード・ブラウンの『ウィズ・ストリングス』(1955)ヴァージョンもあるじゃないか。

 

 

アルバム『Gling-Gló』収録のビョーク・ヴァージョンはこれ。これにかんしては、書いたようにビリー・ホリデイやエラ・フィッツジェラルドらの名唱があるので、それらとビョークの歌を比較することはできない。がまあしかしビョークだって悪くないと僕は思うよ。やっぱりこの人のヴォーカルはちょっとシアトリカルな感じになるんだな。歌いながらところどころしゃべるようになったり、叫んだり、声を変えたりなど。伴奏のピアノ・トリオのことは言わなくても大丈夫だろう。

 

 

 

ストレートに分るのはこれら二曲だけ。だがアルバム『Gling-Gló』には、アメリカン・ソングを歌詞だけ(たぶん)アイスランド語に置き換えて歌っているものがかなりある。まず九曲目の「Það Sést Ekki Sætari Mey」。これはアーヴィング・バーリンの「ユー・キャント・ゲット・ア・マン・ウィズ・ア・ガン」 のアイスランド語?ヴァージョンだ。オリジナルはブロードウェイ・ミュージカルの『アニーよ銃をとれ』。録音作品ではこの1950年の映画化ヴァージョンが最も早い。

 

 

 

アルバム『Gling-Gló』収録のビョーク・ヴァージョンはこれ。歌っているメロディが完璧に同じなので「ユー・キャント・ゲット・ア・マン・ウィズ・ア・ガン」であるのは間違いないよなあ。これにはベーシスト(Þórður Högnason)とドラマーが参加せず、ピアノ一台だけでの伴奏で歌っている。やはりときおり強く声を張るビョーク。こういうヴォーカル・スタイルはメジャー・デビュー後のエレクトロ・ポップでも変わっていない。

 

 

 

またアルバム13曲目の「Í Dansi Með Þér」。これは英語園では「スウェイ」という曲題で知られているラテン・ナンバーで、元は1953年のメキシカン・ソング「キエン・セラ?」。最初インストルメンタル・ナンバーだったとの情報も読むが、僕は歌入りヴァージョンしか聴いたことがない。例えばこういうの。

 

 

 

この歌を有名にしたのは北米合衆国のディーン・マーティン。歌詞も(当然のように)英語になって、その際に曲題も「スウェイ」になった。北米合衆国のポピュラー・ミュージックに中南米要素が濃いのはいまさら繰返さなくてもいいはず。普段から僕はそれを「アメリカ音楽」と呼べと言っているわけだけど。

 

 

 

アルバム『Gling-Gló』収録のビョーク・ヴァージョンの「キエン・セラ?」(スウェイ)が「Í Dansi Með Þér」になったものはこれ。元がラテン・ナンバーだけあるというアレンジで、ドラマーも印象的なリム・ショットを交えながらラテン風なリズムを叩き、ピアニストも同じく。ピアノ・ソロ部分だけ4/4拍子になってしまうのが、これまたメインストリーム・ジャズに実に多いパターンそのまんま。

 

 

 

10曲目の「Bílavísur」。これも「ザ・ブラックスミス・ブルーズ」というアメリカン・ソングで、1952年にエラ・メイ・モーズが歌ったもの。その後いろんな(ジャズ系)歌手やジャズ演奏家がやっている。以下が初演ヴァージョン。

 

 

 

アルバム『Gling-Gló』収録の「Bílavísur」は、やはりアイスランド語?に歌詞を置き換えていて、こんな感じの完全なるメインストリーム・ジャズ・ソングに仕上がっている。やはり4/4拍子で、インストルメンタル・ソロ部分なんかもごくごく普通のモダン・ジャズだ。特筆すべき出来ではないだろうけれどね。

 

 

 

12曲目の「Ég Veit Ei Hvad Skal Segja」。これもジャジーなアメリカン・ポップ・ソングで、テレサ・ブルーワーが歌った「リコレット・ロマンス」。以下にご紹介する1953年のコーラル録音が初演。僕はあまり趣味じゃないドイツのプログレッシヴ・ロック・バンド、タンジェリン・ドリームに『リコレット』というアルバム(1975年)があったけれど、関係ないんだろう?

 

 

 

これを焼き直したアルバム『Gling-Gló』収録のビョークが歌う「Ég Veit Ei Hvad Skal Segja」はこれ。4/4拍子のストレートなメインストリーム・ジャズだ。ピアノ・イントロも印象的で、ドラマーはブラシ。このアルバムではブラシを使っているものの方が多いのが僕好みなのだ。

 

 

 

さて、ビョークのアルバム『Gling-Gló』にある既存のジャズ・ソングは、ここまで書いた10曲で全部のはずだ。えっ?「ルビー・ベイビー」はジャズ・ソングじゃないって?まあそんな固いこと言わないでよ。同じアメリカン・ポップ・ソングじゃないか。どうしてそんなに排外的なんだよ?少なくとも『Gling-Gló』収録のビョークがやる「ルビー・ベイビー」はジャズ・ヴァージョンに仕上がっているよ。

 

 

それら10曲以外、ってことはアルバム『Gling-Gló』では六曲か、それらはオリジナル・ナンバーのはず。僕は全く聴いたことがないメロディだ。しかしそれら六つもほぼ全てジャズ・ナンバーなんだよね。一曲目のアルバム・タイトル・ナンバー「Gling-Gló」では、まずピアノがベルが鳴るような弾き方をするので、この「Gling-Gló」というアイスランド語?は、ひょっとしたらそれの擬音かもしれない。すぐに4ビートのメインストリーム・ジャズ風になる。

 

 

 

三曲目の「Kata Rokkar」もラテン・ジャズっぽいオリジナル・ソング。上でも書いたが、この手のものはジャズでもなんでも北米合衆国のポピュラー・ソングにはかなり多いので、ラテン風だとかいまさら指摘する必要もない…、と僕たちは思っているのだが、一般的にはやはりブルーノ・ブルムみたいに強調しないといけないのかもなあ。

 

 

 

六曲目の「Ástartöfrar」なんか、どこからどう聴いてもアメリカのティン・パン・アリーのヒット・ソングを、モダン・ジャズのピアノ・トリオ伴奏で女性ジャズ歌手が歌っているものだとしか思えない。がしかしこれもアイスランド人が書いてやるアイスランディック・ジャズなんだよね。歌詞の言葉が違う以外の音楽的差異はゼロじゃないかな。

 

 

 

唯一14曲目の「Börnin Vid Tjörnina」でだけ、ビョークがハーモニカを吹きつつ歌い(多重録音には聴こえない)、ピアノは入らず、三人のバンド・メンは、ベーシスト以外、タンバリンとマラカス(?)に持ち替えている。これはジャズとは呼びにくいフィーリングのもので、アルバム『Gling-Gló』では唯一の例外。

 

 

 

なお最後に。ここまで「オリジナル」曲と書いてきたものは、ひょっとしたらあるいはアイスランドにもっと前から存在する民謡みたいなものに基づいている可能性があるかもしれない。がしかし僕はその世界にかんし知識ゼロなので分らない。だからオリジナルと書いただけ。

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