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2017/05/22

楽しい〜っ!サンタナのラテン・ロック

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「インシデント・アット・ネシャブール」(ネシャブールのできごと)については、明日たっぷり書くつもり。今日はその曲以外で、楽しくてたまらないラテン・ロックにかんしてだけ。

 

 

1971年リリースの三作目までで、いまの僕にとっては充分なサンタナ(バンド)。この次、72年の『キャラヴァンサライ』以後はもはや全く聴きかえさなくなった。こう言うと意外に思われるかもしれないよね。僕は大のジャズ〜フュージョン愛好家なのにって。でもこれがいまの正直な気持だ。唯一の例外は74年の三枚組ライヴ盤『ロータス』だけ。最大の理由は僕はサンタナではラテン・ロック路線こそが一番好きだから。

 

 

それで一作目1969年の『サンタナ』、二作目70年の『アブラクサス』、三作目71年の通称『サンタナ III』(正式にはこれもただの『サンタナ』)の三枚だけを繰返し聴いているのだが、まあホント楽しいったらないね。それでも一作目の『サンタナ』はまだどうもなにかが足りないような気がする。聴いていると、ちょっぴり不満があるのだ。僕だけかなあ?まだバンドとして成熟していないような。そしてなによりラテン風味全開のロックとまではまだなっていないような。

 

 

次の『アブラクシス』でいきなり大きな世界が開けたように、続けて聴いているとするので、僕だけかもしれないが、二作目の邦題『天の守護神』と三作目の『サンタナ III』こそが、僕にとっては最高なのだ。まず『アブラクサス』のあのジャケット・デザイン。あれはマイルズ・デイヴィスの『ビッチズ・ブルー』や『ライヴ・イーヴル』を手がけたマティ・クラーワインによるもの。同じコロンビアだし同時期だし、なにかあったのかなあ。

 

 

なにかあったというか、1971年頃にマイルズはカルロス・サンタナに、自分のバンドの正式ギタリストになってくれないかとオファーして断られるということはあった。サンタナが断ったのは、まだ自信がなかったからというのが本人の発言だけど、もったいなかったなあ。マイルズがちょうどジョン・マクラフリンを(正規メンバーではないが)使っていた時期で、あれがカルロス・サンタナだったらなあ…、と思ってしまう。カルロス・サンタナとマクラフリンは共演作を創ってしまうんだったよね。僕はあれあんまり好きじゃない。

 

 

1969〜71年頃のサンタナ(バンド)には、ジャズ〜フュージョンっぽい部分もかなりあるというか、はっきり言ってインストルメンタル・ナンバーの方が多く、ヴォーカル・ナンバーでも楽器のソロの時間が長い。その他リズムやサウンドなどマイルズとの共通性はかなりあった。だからホントもったいなかったと、いまとなっては夢想することしかできないが。

 

 

そんなことはともかくマイルズの『ビッチズ・ブルー』のジャケットと同系統のデザインであるサンタナの『アブラクサス』。これこそがサンタナのラテン・ロック全面展開第一号だ。そしてブルーズ〜ロック〜ジャズ〜ラテン(サルサ)などが渾然一体となっていて、聴いていてマジでこの上なく楽しい。こんなのや、もっと激しくなっている『サンタナ III』に比べたら、『魂の兄弟たち』なんて…。

 

 

『アブラクサス』で僕が特に好きなのは二曲目の「ブラック・マジック・ウーマン/ジプシー・クイーン」、三曲目の「オイェ・コモ・バ」、四曲目の「ネシャブールのできごと」、五曲目の「セ・ア・カボ」、そして非常に短いものだがアルバム・ラスト九曲目の「エル・ニコヤ」。なかでも「ブラック・マジック・ウーマン/ジプシー・クイーン」が、こりゃもう最高だ。

 

 

ご存知のように、前半の「ブラック・マジック・ウーマン」はピーター・グリーンが書いたフリートウッド・マックの、後半の「ジプシー・ウーマン」はガボール・ザボの曲。前者もオリジナルからして既にラテン・ブルーズで、オーティス・ラッシュの「オール・ユア・ラヴ」そっくり。というかピーター・グリーンはそのままやっただろ。

 

 

「オール・ユア・ラヴ」https://www.youtube.com/watch?v=O3hrVFvxTfk

 

「ブラック・マジック・ウーマン」https://www.youtube.com/watch?v=7eANGHVQS9Q

 

 

後半部でキーとリズムがパッとチェンジして、短調から長調になり、リズムもラテンからシャッフル8ビートになるあたり、間違いなくピーター・グリーンはオーティス・ラッシュの「オール・ユア・ラヴ」をそっくりそのまま真似している。しかしこれをカヴァーした『アブラクサス』のサンタナ・ヴァージョンは、そこから大きく飛翔しているじゃないか。

 

 

 

グレッグ・ローリーの弾くオルガン・リフ(&コンガはマイケル・カラベージョ?)に乗ってカルロス・サンタナがムーディーに弾きはじめた瞬間に僕はもう最高の気分(これはレス・ポールのサウンドじゃないかなあ?)。しばらく弾いて、一瞬ストップ・タイムを使ったあと、本格的にギュイ〜ンって鳴らしはじめたら、も〜〜タマラン!マイルズについて書く際の中山康樹用語を使うと、ク〜〜ッ、最高!!カルロス・サンタナのギター・ソロが終わった瞬間にブレイクが入って、そこでティンバレスが切れ味よくカンカラカンと鳴り(ホセ・アレアス?)、その刹那も超キモチイイ〜(って、サルサ・ファンのみなさんなら分っていただけるはず)。

 

 

そのティンバレス鳴らしカンカラカンをきっかけにグレッグ・ローリーが歌いはじめるが、この人のヴォーカルはまあはっきり言ってあんまり聴きどころがないよなあ。一作目の『サンタナ』から二作目『アブラクサス』、三作目の『サンタナ III』まではこの鍵盤奏者が歌うことが多いんだけど、う〜ん、でもないよりあった方がいいんだろうな。

 

 

ってのはサンタナの場合、インストルメンタルとヴォーカルのバランスが実にいい塩梅なのだ、僕にとっては。楽器演奏だけとかヴォーカル・フィーチャーだけというんじゃなく、それら両者がいい感じで配合・配置されている。ここでまたいつもの調子でおかしなことを言うけれど、サンタナのそういったインスト/ヴォーカルの配置具合は、ちょうど戦前録音の古典ジャズ録音集を聴いているときと、僕の気分がかなり似通っているのだ。

 

 

これ、妙なことを言っているよなとは分りつつ、しかしサンタナ・ファンであると同時に戦前の古典ジャズ録音集もよく聴く方であれば、ある程度は納得していただきやすいことなんじゃないかと思う。ジャズの世界では、ビ・バップ以後のモダン・ジャズで楽器演奏と歌が分離して、あたかも別の世界のできごとのようになっているのだが、1930年代末までの古典ジャズ録音を集めた LP でも CD でも聴いていると、両者が実にバランス良く出てくる。だからいいんだ。

 

 

ジャズの世界でこういったインストルメンタル/ヴォーカルのバランスのいい配置を復活させたのは、1970年代中頃からのフュージョンだったのだが、このあたりの部分についてもいまだにちゃんとした再評価がされていない。そもそもフュージョンを戦前古典ジャズと同列で並べて語る人物は、専門家のなかにも少ないもんなあ。

 

 

ジャズのことはいいとして、サンタナ。「ブラック・マジック・ウーマン/ジプシー・クイーン」でもそんな楽器演奏メインでありながら、そこに(あまり上手くはないが)歌が出てきて、また楽器ソロになって、後半部の「ジプシー・クイーン」は完全なるインストルメンタル・ナンバーだとか、いい時期のサンタナはだいたいいつもこんな感じなのだ。

 

 

『アブラクサス』では、これに続く三曲目がティト・プエンテの「オイェ・コモ・バ」。こりゃまた最高だ。も〜うこの世のラテン・ロック楽曲最高峰だと言ってしまいたい。それくらい好きだ。僕もやはりこのサンタナ・ヴァージョンで知った曲だったが、その後ティトのオリジナルを聴くようになると、インスト・ソロ部分以外のアレンジはほぼそのまま。楽器を別のものに置き換えているだけなんだよね。

 

 

 

 

 

フルートがエレキ・ギターになっているだけで、そのサンタナの弾くフレーズもオリジナルのティト・ヴァージョンでのフルートと同じものをなぞっている。が、このファズの効いたエレキ・ギターを派手目に使って、ドラム・セットもフルに入れて、ロック・ヴァージョンに仕立て上げたのがサンタナの素晴らしさだ。ティト・ヴァージョンそのままなのはオマージュなんだろう。しかしホント、カルロス・サンタナのラテン・ロック・ギターって素晴らしいなあ。この曲でのヴォーカルは(これまたティト通りに)合唱なので、下手さが目立たないのもいい。

 

 

サンタナがやるティト・ナンバーというと、次作『サンタナ III』のアルバム・ラスト九曲目にも「パラ・ロス・ルンベロス」がある。これも文句なしなんだ。リズム、というかパーカッション群乱れ打ちの賑やかさでは、「オイェ・コモ・バ」の数倍上。たったの三分もないなんてね。こんなに楽しいパーティーならもっと長く続いてほしかった。

 

 

 

お聴きの通り、この「パラ・ロス・ルンベロス」ではカルロス・サンタナが目立ったギター・ソロらしきものを弾かない。全編打楽器群と管楽器アンサンブルとヴォーカル・コーラスだけ。しかしこれもティトのオリジナルがそうなっているのをそのままやったんだよね。ティトのも(サンタナ・ヴァージョン同様)スピーディーな疾走感あふれる賑やかさ。

 

 

 

ラテン・ロックの全面展開という意味では『アブラクサス』よりも『サンタナ III』の方が上だ。一曲目「バトゥーカ」冒頭部のパーカッション・アンサンブルに乗って、カルロス・サンタナとニール・ショーンのツイン・ギターが左右で炸裂するところからして、もう既にたまらない快感。これも、そしてやはり大好きな四曲目「トゥーサン・ロベルトゥール」も、インストルメンタル・ラテン・ロック。いや、後者ではバック・コーラスが出る。

 

 

 

 

どっちも!ク〜〜ッ!たまら〜ん!『サンタナ III』にある文字通りの完全なるインストルメンタル・ナンバーは、一曲目の「バトゥーカ」のほかには、七曲目の「ジャングル・ストラット」だけ。これはジャズ・サックス奏者ジーン・アモンズがオリジナルの曲で、それはこんな感じのレア・グルーヴなノリ。

 

 

 

このサックスをサンタナはエレキ・ギターに置き換えて、リズムをより一層ラテン風味の濃い・強いものにして、多数のパーカッション群を賑やかに鳴らしている。

 

 

 

『サンタナ III』にあるヴォーカル入りのラテン・ロックといえば、ラストのティト・ナンバー「パラ・ロス・ルンベロス」以上に僕が好きなのが、六曲目の「グアヒーラ」。この曲だけリード・ヴォーカルがリコ・レイエス。この人には、グレッグ・ローリーと違ってかなりいい味がある。だから僕はこの曲も好きなのだ。サルサ風味が強い一曲で、さながらサルサ・ロックとでもいった趣。

 

 

 

こういったラテン(サルサ)・ロックが、サンタナ・バンドの一作目1969年の『サンタナ』ではまだ聴けないというか未成熟だと思うんだよね。最初の方で書いたのはこういう意味なのだ。いやぁ〜、本当にマジでサンタナのラテン・ロックって、楽しいぃ〜〜っ!!

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コメント

めちゃくちゃ楽しいですね。とくに『サンタナⅢ』。間違いなくサンタナのベストアルバムだと思います。1stの『サンタナ』(これがまたハイレベル)、2ndの『天の守護神』とホップ、ステップして、ジャーンプで一気に頂点へ上り詰めた感があります。

しかし、かくいう私、じつは初期3部作は横目で眺めながらず~っと持っていなくて購入したのはごく最近。『キャラヴァンサライ』からサンタナに入った人間であり、『ウェルカム』から『不死蝶』を愛聴。最高作はもしかしたら『不死蝶』ではと思うこの頃だっただけに、実に新鮮な感覚で3部作を楽しんでいます。ついでに「サンフランシスコイヤー1968-1969」のアンソロジー3枚組も買ってしまいましたが、これもなかなかいい。

『キャラヴァンサライ』もB面のようにアフロ/キューバンとブラジル(北東部)を交錯させるという離れ業をやってのけていますが、『サンタナⅢ』の弾けっぷりには適わないなぁと(悔しいですが)思います。アフロ/キューバン系でもグアヒーラ/チャチャのリズムは実はロックビートとフィットする。レイ・バレットは「グアヒーラはブルースだ」と言っていますが、まさにそう。

私的注目の1曲はタワー・オブ・パワーが参加したR&Bテイストの「新しい世界」。ティト・プエンテからアフロ/キューバンジャズの王位を継承したポンチョ・サンチェスも同じ事をやっていますが、それは2000年に入ってから。1971年でここまで来ていたとは恐れ入ります。ちなみにポンチョ・サンチェスもLA近郊で生まれたメキシコ系アメリカ人(チカーノ)ですね。

米国のラテン音楽シーンではプエルトリコ系が幅を利かしているような印象が強く、ラテンジャズも実体はアフロ/キューバンジャズ。しかし、カル・ジェイダーからポンチョ・サンチェスへと繋がるウェストコースト・ラテンジャズも侮りがたいし楽しい。縛りがきつくないウェスト・コーストだからこそサンタナが生まれたとは言えないだろうか。「歴史と伝統」のNYを中心としたイーストコーストへの「いっちょやったるで」的な対抗意識もあったんじゃないかとか思うのです。

『キャラヴァンサライ』から『不死蝶』までの限定的なサンタナファンでしたが、ビフォアーもしっかりレビューしようと思っています。

recio y romanticoさん、『サンタナ III』がベストとの私見に同意してくださったとは嬉しいかぎりです。北米合衆国内のラテン系音楽もいろいろあるみたいです。おっしゃるように確かにプエルト・リコ系の力は強いですが、案外メキシコ系もかなり強力なんです。

1作目の『サンタナ』がどこか物足りないというのも同感です。ひとつ思うのは方向性がまだ定まっていないこと。『サンタナⅢ』では目立たなくなるグレッグ・ローリーのオルガンの活躍にも、サンタナ・ブルース・バンドから抜けきれていない印象を受けます。

もちろん、ラテンテイストのブルースバンドとしてやっていくという選択肢もあったと思います。なので、『天の守護神』でラテンカラーを前面に出し、それが大きな成功を収めたことが『サンタナⅢ』へと繋がったのではないかと。そういった意味で「オジェ・コモ・バ」は外せません。

あと、チェピート・アレアスのティンバレスに典型的に現れていると思いますが、同じアフロ/キューバンのリズムをを使っていてもキューバやプエルトリコ系とは違ったドライなところが受け容れられやすかったのかも知れない。ちなみにチェピートはニカラグア出身ですね。王様ティト・プエンテとはまた違った魅力があります。

こんにちは。
相変わらずのマニアで熱い、内容の濃い記事ですね(^ω^)
僕、40年程前に中野サンプラザで無料映画観賞会でウッドストックの記録映画観ました。サンタナがエラくカッコ良くて、今だに胸熱くなります。
余りコレクション無いけれど、初期の二、三枚とキャラバンサライ、あと大好きなのが「ムーンフラワー」(^ω^)。
昔、バンドで飯食ってた頃に良く演りました。客がオネイサンとルンバ踊る時のマストでした^_^
もしサンタナがマイルスのバンドに加入してたら、て素晴らしい夢の有る話ですね。でも、ザビヌルやショーターに苛められる気がしますが(*_*)

スイートソウルさん、ウッドストック・フェスティヴァルは1969年ですから、あの時点でのサンタナ・バンドはまだイマイチじゃないですか?カルロス・サンタナがマイルズ・デイヴィスに誘われたのは1971年らしいですから、もうザヴィヌルもショーターもいません。またザヴィヌルはそもそもマイルズ・バンドのレギュラー・メンバーだったことも一度もありません。

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