ロッドのアクースティック・パーティ
むかしからのロッド・スチュワート・ファンならきっとお好きにちがいない1993年のライヴ・アルバム『アンプラグド...アンド・シーティッド』。もちろん例の MTV アンプラグド企画でのものだけど、きっとみんな好き。だってお馴染みの古い曲が多く、というかほぼそんなのばかりやっていて、しかも全編アクースティック・サウンド(+管弦楽)。この企画に気合が入った主役だって立派に歌えているし、オールド・ファンなら好きにならないわけがない。
僕はしかしそんなむかしからはロッドのことを知らない。完全なる後追い人間だからオールド・ファンではないが、やはりこのアルバム『アンプラグド…アンド・シーティッド』は大好きだ。僕がロッドを知ったきっかけだった「ピープル・ゲット・レディ」もあるからだ。ロッドがむかし初演した曲の数々に特に思い入れはない、というかそもそもロッド本人に対し特別な気持がない僕だけど、いいアルバムだよなあ。
『アンプラグド...アンド・シーティッド』のなかでは、一番新しい曲でも一曲目の「ホット・レッグズ」の1977年。またロッドがとりあげて歌ったのはかなり最近の1992年だけど、曲自体は76年のトム・ウェイツ・ナンバー「トム・トラバーツ・ブルーズ」。これらが最も<新しい>曲で、他はほぼ全部ロッド自身は70年代前半頃に歌ったものばかり。
オープニングの「ホット・レッグズ」では、ドラマーのスティックを鳴らす音に続き、ギター型のアクースティック・ベースの音がブンブン聴こえはじめ、その部分は1977年のオリジナル中間部でフィル・チェンが弾いたパターンにそっくり。それをそのままイントロに持ってきているんだなあ。その部分だけで僕はニンマリ。
この YouTube 音源はアルバム一枚丸ごと全部アップロードしたものだから、未聴の方は是非どうぞ。しかしこのロッドのライヴも DVD があるはずだ。探してはいないが間違いない。MTV のアンプラグド・ライヴは全部 DVD があるのは、そもそもそういう番組なんだから。僕は音源だけあれば充分だという人間だけど、普通はみなさん映像があった方がいいんでしょ?それなら DVD の方をどうぞ。
『アンプラグド...アンド・シーティッド』はオープニング「ホット・レッグズ」一曲を聴いただけで、こりゃ傑作ライヴ・アルバムに違いないと確信できる出来で、実際その後も充実した内容が続く。それらが書いたようにほぼ全てロッドのオールド・ファンなら思わず頰が緩みそうな選曲で、1969年の『アン・オールド・レインコート・ウォント・エヴァー・レット・ユー・ダウン』 、70年の『ガソリン・アリー』、71年の『エヴリ・ピクチャ・テルズ・ア・ストーリー』などからや、フェイシズ時代の代表曲71年の「ステイ・ウィズ・ミー」などなど。
こんなのばかり続くわけだから、しかもそれらをアクースティック・サウンドで、場合によってはマンドリンやバンジョーやアコーディオンやヴァイオリンまで入るという編成とアレンジでやっている。マンドリンやヴァイオリン(とクレジットされているが、フィドルと言いたい弾き方)が聴こえるものでは、いかにも UK ロックのトラッド趣味を感じさせる。
ロック(風)のバンドにくわえ、管弦楽のフル・オーケストラが参加しているけれど、例えば CD アルバム三曲目の「ハンドバッグズ・アンド・グラッドラグズ」からそれが効果的に使われている。1969年のオリジナルでもオーボエの音から入って、中盤以後オーケストラ・サウンドがあったので、それをそのまま『アンプラグド…アンド・シーティッド』でも再現しているわけだけどさ。でも『アンプラグド...アンド・シーティッド』ヴァージョンの方がストリングスが鮮明に聴こえる。これは単に時代が下って録音技術が発展しただけかも。
DVD からとったに違いないこの映像を見ると、ロッドも含め全員椅子に腰掛けてやっているよなあ。 それでアルバム・タイトルの「シーティッド」の言葉があるんだろう。その三曲目「ハンドバッグズ・アンド・グラッドラグズ」を歌い終えると、ロッドが「ここでロン・ウッド!」と叫び、その通り盟友ギタリストが登場し、『ガソリン・アリー』からの「カット・アクロス・ショーティー」がはじまる。スウィングするヴァイオリン、いやフィドルもいい。
ここからが僕もロッドの『アンプラグド...アンド・シーティッド』で一番好きな部分だ。みなさんもそうだろう。しかし収録が行われた1993年2月5日の現場では曲順がかなり違っていたようだ。実際(DVD からとったであろう)上掲「カット・アクロス・ショーティー」冒頭部での喋りもCD ヴァージョンとは違う。映像付きの方では「ロニー」・ウッドと紹介しているが、CD では「ロン」・ウッドになっている。声の大きさもかなり違うので、CD の方はライヴ収録後にかぶせたんだろうなあ。
曲順にかんして言えば、当日の現場では「カット・アクロス・ショーティー」が三曲目で、確かにここからロン・ウッド参加だが、そのまま六曲やって、「ハンドバッグズ・アンド・グラッドラグズ」はその次だったようだ。つまり CD では入れ替わっているんだなあ。「ハンドバッグズ・アンド・グラッドラグズ」からはロン・ウッドはいったん退場し七曲やって、その後再びロンが登場。最終盤の「ステイ・ウィズ・ミー」での共演がクライマックスになるんだろう。
ロンがいないあいだの七曲では、CD だと順番が入れ替わっているのであれだけど、CD アルバム全体の10曲目「トム・トラバーツ・ブルーズ」が最大の聴き物に違いない。このトム・ウェイツ・ナンバーをロッドが歌ったことについては、以前一度やや詳しめに書いたので、以下のリンク先をご一読いただきたい。
ここに書いてある通りなのだが、やはりロッド自身この曲はかなりのお気に入りになっていたんだろう。『アンプラグド....アンド・シーティッド』ヴァージョンもスタジオ録音ヴァージョンとほぼ完全に同一のアレンジと歌い方。それにしてもこういったストリングスの使い方、ジャズの人たちと違って、ロック・ファンやロックの専門家は全くなにも悪く言いませんよね。言わない方が当たり前だ。美しいもん。41:40 から。
ロン・ウッド一回目の登場時でのクライマックスは、僕にとってはロッドの曲ではなくカーティス・メイフィールドの書いたインプレッションズ・ナンバー「ピーピル・ゲット・レディ」になる。CD だと八曲目。ロッドによる初演はジェフ・ベックとやった1985年だが、『アンプラグド....アンド・シーティッド』ではロン・ウッドが、当然アクースティック・ギターで、エレキを弾いたジェフ・ベックの代わり…、ではなく立派に自身のプレイを披露している。ここでもストリングスのサウンドがいいなあ。
僕の個人的な感慨では、この「ピープル・ゲット・レディ」こそがアルバム『アンプラグド....アンド・シーティッド』収録曲で最も思い入れの強い曲。ソロ時代と違ってあまり人気のない(アメリカの黒人音楽家)カーティス・メイフィールドの(コーラス・グループである)インプレッションズだけど、これだけは非常によく知られている曲だ。でもインプレッションズには、他にもいい曲がいっぱいあるんだよ。
でも普通はみなさん、ロッドが初演した1970年代初期の曲の数々を、ジェフ・ベック・グループ時代以来の盟友ロン・ウッドを迎えて、アクースティック・サウンドで再演するものの方がお好きなはず。だから、やはり CD でも最後から二つ目に収録され、当日の現場でもそうだったらしい「ステイ・ウィズ・ミー」こそが一番グッと来るものなんだろう。
この映像で見ると、やはりロッドもロンもかなり盛り上がっているなあ。当然だろうと思う。当日の現場の客も CD や DVD で楽しむファンも同じであるはず。僕はといえば、正直に言うとこの最も有名なフェイシズ・ナンバーはどうもその〜…(以下略)。同じバンドの曲ならもっと他に…(以下略)。
当日の現場でも CD でも、この「ステイ・ウィズ・ミー」をクライマックスとして、最後にもう一曲、余韻を楽しむかのようにやるのが、ロッドが最も敬愛し最も強く影響を受けたアメリカ黒人ソウル歌手サム・クックの「ハヴィング・ア・パーティ」。ロッドにとっては初演であるこの『アンプラグド...アンド・シーティッド』ヴァージョンで聴いても分るように、いかにもサムらしいメロディの曲だよね。
ロッドの敬愛するサム・クックのオリジナルも聴いてほしいので、その1962年オリジナル・ヴァージョンもご紹介しておく。こういうのを聴いても、ロッドがサムの歌い廻しから影響を受けているのが分っていただけるはずだ。そしてこのサムの曲は、ロッドのアンプラグドな一夜を締めくくるのにもってこいの曲調と歌詞だよね。
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