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2017/05/29

僕の好きなビョークはこういうの

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自分が好きな音楽の話しかしたくない。本当にそういう気分なので、ビョークについて書こうと思い、持っている CD を全部聴きなおし調べたりもしていろいろと準備をしていたけれど、それは全部放棄して、ビョークについて僕が本当に好きであるものの話だけを、それも普段の僕からしたらやや短めの文章で記しておこう。あんまりいいビョーク聽きではないんだなあ、僕は。

 

 

ビョークについて好きなものだけというと、僕の場合本格ソロ・デビュー後の最初の二枚『デビュー』(1993)とその次作『ポスト』(95)だけということになってしまう。この意見、じゃなくて好みを他人に押し付けることなど到底考えていない。普通ビョークが音楽家として自立し、世界で最も売れ、最も大きな影響を持ち、傑作との評価が確立しているのは、上記二枚以後の『ホモジェニック』(97)と『ヴェスパタイン』(2001)だよなあ。

 

 

『ホモジェニック』『ヴェスパタイン』が僕にとってどうしてイマイチなのかは、ハッキリしているような気がする。明快なダンス・ビートじゃないからだ。それでも『ホモジェニック』の方はまだ動的な音楽がかなりあるけれど、それだって『デビュー』『ポスト』で聴けるような分りやすいクラブ系のものじゃない。『ヴェスパタイン』になると、一枚まるごと静的な音楽だもんなあ。

 

 

こうなっている理由もハッキリしているように思う。最初の二枚『デビュー』『ポスト』のメイン・プロデューサーはネリー・フーパーなのだ。マッシヴ・アタック〜ソウル II ソウルで大活躍したネリー・フーパーが手がけているからこそ、裏返せば当時のビョークにはまだ自分一人で音楽を完成させられる能力に自信がなかったからこそ、この二枚は(僕にとっては)分りやすく踊りやすくノリやすい。聴いていて楽しいんだよね。

 

 

一枚目『デビュー』一曲目の「ヒューマン・ビヘイヴィア」。リリース時に聴いてこりゃいいなあと僕は思って、その後現在までビョークの全楽曲のなかで僕が一番好きなものだ。いいよね、このティンパニー(?)の出す大きくゆったりと跳ねるビートと、対比的に細かく入るスネア(?)の刻み。どっちもデジタル音なのか?エレキ・ギターのサウンドがまだ少しだけ聴こえる。転調する部分も大好きだ。バック・コーラスはビョーク一人の多重録音に違いない。

 

 

 

ビョーク自身、その後のライヴ・ステージでは欠かさず必ず歌う曲だから、でもそれは最初のビッグ・ヒット・チューンだったからだろうけれど、音楽的な意味合いも込められているのかもしれないよ。MTV アンプラグド・ヴァージョンの「ヒューマン・ビヘイヴィア」とか、どの DVD だったか忘れたけれど、カナダのイヌイット合唱&マトモス(アメリカの電子音楽デュオ)の創り出すデジタル・ビートだけに乗って歌う「ヒューマン・ビヘイヴィア」とか、面白いのがいっぱいあった。そのうち僕の持つビョークの全ライヴ CD と DVD をもう一回確認してちゃんと書いてみよう。

 

 

『デビュー』には、これはいかにもネリー・フーパーの仕事、それもソウル II ソウルのグラウンド・ビートによく似ているというものがある。九曲目の「カム・トゥ・ミー」がそれ。このビートの創り方はまさにネリー・フーパー。大きくうねるように乗る感じのグルーヴが僕は大好きだ。それを表現するボトムスの低音はシンセサイザーかコンピューターのものだろう。やはり対位的に細かくシンバル音が入っている。ストリングスも美しい。しかも終盤部ではタブラが入っているじゃないか。いやあ、いいなあ、これホント。

 

 

 

また『デビュー』のアルバム・ラスト12曲目に「プレイ・デッド」(はリイシュー盤だけの付加トラックらしい)があって、これまたソウル II ソウルとか、あるいはビートの感じだけなら、例のヒップホップ・ジャズ・ユニット Us3にそっくりだなあと思う。これも僕は大好き。しかしクレジットをよく見ると、この「プレイ・デッド」だけはネリー・フーパーのプロデュースじゃないんだよね。デイヴィッド・アーノルド、ダニー・キャノン、ティム・シムノンという名前が書いてある。それでもここまでグラウンド・ビートに似たものが仕上がるっていうのは、まあ流行っていたってことだろう。

 

 

 

『デビュー』二曲目の「クライング」は、これは間違いなくネリー・フーパーの仕事だと分る。特にデジタル・ビートに乗せてアクースティック・ピアノを効果的に使うあたりは、いかにも1990年代の UK クラブ・サウンドだ。僕の音楽感覚は90年代で止まったままかもしれないが、いまでも好きなんだから、好きなものは好きだとハッキリ言いたい。

 

 

 

しかしここまでご紹介してきたような大きくゆったりとうねる、というか跳ねるようなビートの創り方は、『デビュー』の次作1995年の『ポスト』ではやや弱くなっている。やはり多くの曲をネリー・フーパーがプロデュースしているのだが。『ポスト』の制作にあたっては、ビョークがネリー・フーパーに依頼しようとコンタクトした当初、彼は断ろうとしたらしい。自分はもう必要ない、あなた一人でできるはずだと激励したんだそうだ。結果的にネリーは引き受けたが、そんな経緯もあって、ネリーよりもビョークの方に音創りの主導権が移っているのかもしれない。それでサウンド傾向がやや変化しているんじゃないかなあ。

 

 

一般の音楽リスナー、ビョーク・ファン、専門家のみなさんにとっては、自立しつつある(そして実際この次の『ホモジェニック』からは助けを借りないようになる)ビョークのありようこそを好ましく思い、高く評価しているはずだ。僕もそのように受け止めないといけないんだよなとは分りつつ、しかしできあがった作品を聴くだけで判断すると、僕は『ポスト』以後、徐々にビョークから距離を置いていくことになった。

 

 

それでも『ポスト』にはまだまだ興味深く楽しいものがいくつもある。一曲目の「アーミー・オヴ・マイン」はクラブ風にダンサブルだけどアグレッシヴすぎるので僕の趣味じゃない。これは外して二曲目の「ハイパーバラッド」。ややダブ風なサウンド処理(特にドラムス・サウンド)が面白い。デジタルな細かいサウンドがビートを創り、途中までは全体的には静謐な雰囲気だけど、内的躍動感がある。中盤からボトムスが入りはじめビートも効いて、ダンス・チューンに変貌する。

 

 

 

『ポスト』五曲目の「エンジョイ」。一曲目の「アーミー・オヴ・マイン」同様攻撃的だから、そこはあまり好きじゃないのだが、「エンジョイ」の方のダンス・ビートにはまだ余裕が感じられるので好きだ。これでもタブラのような打楽器音が聴こえるよなあ。というかタブラそのものかのか?と思ってクレジットを見たけれど、これは明記がない。でもタブラだろう。はっきりタブラと明記してある上記「カム・トゥー・ミー」(『デビュー』)と、パーカッショニストの名前が同じ(タルヴィン・シン)だ。

 

 

 

七曲目の「イゾベル」。クラシカルなオーケストラ・サウンドではじまるけれど、すぐにどこの国のなんの楽器だか分らないような打楽器音(ちょっと竹のガムランっぽいような?)がビートを創りダンサブルになってビョークが歌いはじめる。彼女にしては軽くソフトに歌っている部類に入るだろう。ビートもそんなに強力な感じじゃなく、またクラブ風とも言いにくいもので、ちょっとアンビエント風のサウンド。デジタル音中心だけど、それがアクースティックなオーケストラ・サウンドと上手く融合している。静的なのか動的なのか分らないこれも、まあまあ好きだ。そして前作『デビュー』では聴けなかったような一曲だよね。

 

 

 

アルバム『ポスト』で僕がこれこそ最高と思っているのが九曲目の「アイ・ミス・ユー」。デジタル・ビートのその感じとパーカッション・サウンドが大のお気に入りなのだ。基本的にエレクトロニックなドラムス・サウンド中心だけど、生の打楽器、例えばボンゴなども聴こえ、それらが一体となって産み出すグルーヴは本当に素晴らしい。ジャジーな管楽器も参加。うん、本当にいいよ、これは。スクリームするようなトランペット・ソロで終る。

 

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