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2017/06/09

ソニー/レガシーさん、マイルズの「ビッグ・ファン」「ハリ・ウード」を一枚物 CD で出してくれ!

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1973年11月2日に45回転のシングル盤で発売されたマイルズ・デイヴィスのA面「ビッグ・ファン」とB面「ハリ・ウード」(Holly-wuud)。45回転シングルだからどっちも約三分程度(「ビッグ・ファン」が 2:33、「ハリ・ウード」が 2:55)しかないものだけど、僕の見るところマイルズの70年代ファンク最高傑作だ。

 

 

しかしこの二曲、長年アナログ・シングルしかなくて、いいぞいいぞと噂だけ聴いていた僕は悔しくて、最初にその話をなにかで読んだときはまだアナログ・レコード・プレイヤーを持っていたので、東京のいろんなレコード・ショップで探したんだけど見つけられなかったんだよなあ。臍を噬むほど悔しいとはまさにあの頃の僕の気分だ。

 

 

僕が最初にこのシングル盤収録の二曲を聴けたのは、渋谷マザーズで買ったブートレグ CD『アナザー・”アイル・オヴ・ワイト”&リアル・ベルリン・’73+B ・B ・キング』というものでのこと。何年頃だっけなあ、20世紀末か21世紀頭か、そのあたりだ。このブート盤の目玉は、間違いなくラストに収録されている1973年11月13日に B ・B ・キングのバルセロナ公演にマイルズが飛び入り共演した一曲だろうが、僕はそんなもの眼中になく。五曲目「ハリ・ウード」、六曲目「ビッグ・ファン」ばかり繰返し聴いていた。

 

 

今日の本題に関係があるように思うので、ブート盤だけどちょっと書いておくと、この『アナザー・”アイル・オヴ・ワイト”&リアル・ベルリン・’73+B ・B ・キング』には他にも四曲、1970年代に45回転のいわゆるドーナツ盤でリリースされたマイルズ音源が収録されている。四曲+二曲どころじゃなくもっとたくさんあるのだが、ソニー/レガシーが公式 CD 化しているのは、いまだ「ビッグ・ファン」「ハリ・ウード」だけだよなあ。どうして全部 CD で出さないのか?

 

 

どうして?という理由は、しかし僕にはちょっと分るような気がするのも確か。「ビッグ・ファン」「ハリ・ウード」二曲は本当に1973年リリースのシングル盤しか存在せず、その後どんな公式 LP、CD にも収録されないまま21世紀になっていたものだから、2007年の『ザ・コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』に入れたんだろう。その際に、この二曲のソースになった約七分間の元テイクも同時収録された。だがしかしこの二曲以外のマイルズのシングル盤は、全て発売済みのレコードに収録され CD にもなっている長めの曲を、45回転シングル用に短めに編集しただけのもの。完全に未知のものというわけじゃないのだ。

 

 

僕が推測するにたぶんそんな理由で、いまだに「ビッグ・ファン」「ハリ・ウード」二曲以外のマイルズ・シングル音源が公式未 CD 化なんじゃないかと思うんだけどね。でも1970年あたりからは音楽家本人の意向も汲んでなのか、あるいはコロンビアの単なる商略だったのか、たくさんの数の45回転シングル盤でマイルズが出ていて、LP を買う経済力の弱い若者向けとか、あるいはジューク・ボックスに入れてもらえるようにとか、そんな目的もあってか(ジューク・ボックスには実際入っていたらしい)、何枚もあったんだよね。当時のアメリカでマイルズのそれらシングル盤がどう受け止められていたのか、アメリカ人のほとんどどなたもまだ文章にしてくださらないので分らないが、ちょっと面白そうな事実じゃないだろうか?

 

 

ふつう1950年代あたりからのジャズ(畑の)音楽家って、LP レコードこそがメインの商品だからね。LP でこそ自らの音楽をフルに表現できるのだ、ライヴ・コンサートに来てもらう以外の録音・再生メディアでは LP 以外考えられないとジャズ音楽家は思っていたんじゃないかなあ。そしてそれは CD メディア、次いでネット配信メディアが主流になった現在でも、ジャズ音楽家はみんなアルバムしかリリースしないから、やはり変わっていない。シングルをリリースするのって、ポップ・ミュージックの世界、日本なら歌謡曲とか演歌の世界とかだけだよね。

 

 

ジャズだって本当はポップ・ミュージックだっていう、この類の話は突っ込んで考えるとちょっと難しそうそうなので、別の機会に改めたい。今日話題にしたいのは、マイルズ1973年のシングル曲「ビッグ・ファン」「ハリ・ウード」と、そのソースになった約七分間の「ビッグ・ファン/ハリ・ウード {テイク3]」 のことだけだ。上述の通りこれら3トラックは、いまでは公式盤『ザ・コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』で問題なく聴ける。

 

 

前々から繰返すように1970年代のマイルズは、発売時にどうなるかなどは全く考えもせず、気の向くままスタジオ・セッションを行っては録音していたので、レコード発売するとなったときにそれを調整するのは、かなり大きな部分がプロデューサー、テオ・マセロの役目だった。マイルズが当時のレギュラー・バンドで「ビッグ・ファン/ハリ・ウード」(という曲名は、シングル盤についたタイトルから遡及しただけのものだが)を録音したのは1973年7月26日。『ザ・コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』ではテイク2とテイク3の二つが収録されている。ってことはテイク1もある(あった)ってことだよなあ?う〜ん、聴きたいぞ。

 

 

「ビッグ・ファン/ハリ・ウード」テイク2の方は、主にデイヴ・リーブマンのソプラノ・サックス・ソロをフィーチャーする内容で、終盤部でちょっとだけマイルズのソロも出るが短くてすぐに間に終わってしまう。あまり面白くないんだよね。でも曲のキーもテンポもリズム・フィールも、既にテイク3(からシングル盤二曲が編集された)と同じものになっているのは分る。特にドラマー、アル・フォスターの叩き方などは完璧に同じだ。

 

 

 

しかしこれがテイク3になると一変して、最初からボスの電気トランペット・ソロが出て三分間以上続き、次いでデイヴ・リーブマンのソプラノ・サックス・ソロ、ピート・コージーのギター・ソロ(がマイルズのスタジオ録音で聴けるのはこれだけのはず)と続く。書いたようにリズム・セクションの演奏はテイク2とほぼ同じ。レジー・ルーカスのギター・カッティングとアル・フォスターのハーフ・オープン・ハイハットがキモチエエ〜!

 

 

 

さて、これから編集されたシングル盤二曲も、まず最初にご紹介だけしておこう。

 

 

A面「ビッグ・ファン」https://www.youtube.com/watch?v=li_wtDFRRP0

 

 

 

ソースになった元音源「ビッグ・ファン/ハリ・ウード {テイク3]」のどこをどう切り取って二つのシングル曲にしてあるのかは、聴いていただければ僕がなにも説明する必要はない。ただ唯一いまでも個人的に判然としないことがある。それはエムトゥーメのコンガの音だ。シングル二曲ではあれだけ鮮明に聴こえるエムトゥーメのコンガが、ソースの「ビッグ・ファン/ハリ・ウード {テイク3]」ではほとんど(全く?)聴こえない。ミキシングの際に手を入れたってだけだろうが、それでここまで違うものなのか。ないものが出てきている。シングル二曲ではあのコンガぽんぽんがかなり気持いいから、元音源でも聴けたら文句なしだったんだけど、『ザ・コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』収録の際には誰がミキシング担当だったんだろう?プロデューサーがボブ・ベルデンとマイケル・カスクーナであることしか記載がないが。

 

 

まあいい。出来上がりで判断すると、どう聴いてもシングル二曲「ビッグ・ファン」「ハリ・ウード」の方がカッコイイじゃんねえ。三分未満というコンパクト・サイズにまとまっているせいで、もっぱらマイルズのトランペット・フィーチャーになっているのもいい。レジー・ルーカスのギター・カッティングから部分的にコピー&ペーストしてイントロ部に持ってきているのも気持いい最高のアイデア。さすがは70年代当時のテオ・マセロだ。書いたようにエムトゥーメのコンガの音を目立つようにミックスしたのも成功している。

 

 

僕が強調したいのは、ソースである「ビッグ・ファン/ハリ・ウード {テイク3]」では、やっぱりちょっとヘヴィで引きずるようなモッタリしたグルーヴ感だったのが、シングル曲になった二つを聴くとそれが消えて、かなり軽やか・爽やかなファンク・ミュージックに仕上がっているように僕の耳には聴こえるんだけど、みなさんどうですか?同じ演奏なのに、ミキシングと編集でこんなにも違っちゃうんだねえ。

 

 

シングル二曲「ビッグ・ファン」「ハリ・ウード」は、言ってみればファンク・ミュージックに宿命的につきまとう汗臭さ、体臭、暑苦しさみたいなものを抹消したような爽やかな清涼ファンク。探してもこんなのはなかなかないんだよね。もちろんファンクは臭い・暑苦しいからこそ楽しいのであって…、と思われるだろう。マイルズ・ファンクは、そこいくとファンクじゃない、失格だと、そうなっちゃうよね。でも僕はメチャメチャ好きなんだ、この二曲のシングル・チューンが。直接は聴かないだろうけれど、45回転のドーナツ盤現物も手に入れたいところだが、ちょっと難しそうに思える。

 

 

最後にソニー/レガシーさんに宛てて強いお願いを書いておく(どうせどなたも読むわけない)。この二曲「ビッグ・ファン」「ハリ・ウード」は、現在のところ『ザ・コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』六枚組にしか収録されていません。この二曲に興味を持った音楽リスナーにとって、六枚組ボックスを買えというのはあんまりな仕打ちじゃないでしょうか?たった二曲だけのために、いくらそれが最高だとはいえ、それだけのために六枚組ボックスを買ってくれとは言えないんですよ。試聴できたらこ〜りゃカッコイイぞ!となるのは請け合いの二曲なのに、六枚組でしか聴けないなんて。ですから、この二曲と、それから他のもの、例えば1970年代に何枚もリリースしたマイルズのシングル・ナンバーの数々をあわせて、一枚物の CD でリリースしてもらえないでしょうか?あるいは「ビッグ・ファン」「ハリ・ウード」二曲だけの CD シングルで十分オッケーだと思います。是非!是非!前向きにご検討ください!

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