アンゴラのセンバってこんなに凄いのか!〜 パウロ・フローレス篇
僕の場合、今年一月付の Astral さんのブログ(http://astral-clave.blog.so-net.ne.jp/2017-01-13)で知ったアンゴラの音楽家パウロ・フローレスの2013年作。なんだか世界中のありとあらゆるアフロ・ルーツ・ミュージックの最高峰だと激賞してあって、じゃあ聴きたいなと思うものの CD 現物が入手できず。Astral さんは Spotifyでお聴きになったと書いているけれど、今年一月だと僕は Spotify に登録しようかどうしようかと迷っていた時期だ(いまは Spotify のストリーミングでいろんな音楽を楽しんでいる)。
パウロ・フローレスの2013年作『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』CD はエル・スールに入荷しては即売り切れを繰返していて、僕が買えたのは四月中旬頃のこと。いまエル・スールのサイトを見たらまた再入荷待ち状態にになっているのは、それくらい人気だってことと、そもそもアンゴラ産 CD は数がキープできにくいんだそうで。でも僕も聴いたら一発で KO されちゃって、こりゃ Astral さんのおっしゃる言葉が大袈裟ではないのを実感した。大傑作じゃないか。だからヒバ・タワジの新作のときにも書いたことだけど、興味を持った方はフィジカル現物にこだわらない方がいいかも(と言えるのはヒバもパウロ・フローレスも僕は CD 現物で持っているからかもしれないが)。Spotify や iTunes Store ではあっけないほど簡単に入手できるので。
さて、マジ大傑作で、どうしてこんなに凄いのか理解すらできないほど凄いパウロ・フローレスの『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』。これはアンゴラ音楽であるセンバというものだそうだ。なんだか最近アンゴラが凄いことになっているぞ、センバの新作がいろいろと充実しているぞとは読むものの、その「センバ」がなんのことだか分らなかった僕。同じポルトガル語圏だし、ブラジルのサンバの親戚なのかなあ?程度の想像しかできていなかった。それにアンゴラのセンバ新作 CD はなかなか入手が容易じゃないしなあ。日本でエル・スール以外に簡単に買えるお店ってあるの?
それでも(なんでも1970年代からアンゴラにあるらしい)センバがなんのことやら知識ゼロ状態だった僕にとっても、パウロ・フローレスの『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』を一回聴いただけで、な〜んだこりゃ!スゲエ!と感嘆の声を(無音で)自室で上げてしまったくらい口あんぐりだったので、やっぱり音楽知識とか関係ないんだよね。音楽を聴いて感動できる部分や心に触れる部分は、知識とはなんの関係もない。センバってこんなに凄いのかっ!と大感動だった僕は、その後エル・スールで僕に入手可能な範囲でアンゴラのセンバを買っているので、そのうちそんな話もするだろう。なかでもエディ・トゥッサの『カセンベレ』 は特に素晴らしかったので、これだけは絶対に書く。
パウロ・フローレスの『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』。約70分間のアルバム全編を通し、打ち込みなどのコンピューター・サウンドが聴こえないので、全部人力演奏なのか?と思ってブックレットを見ると、全部で15曲の一曲ごとにパーソネルが記載されている。確かに全部の曲の全員が(電気は使っているものの)人力演奏の楽器を担当している。どうやらセンバはここがポイントらしいんだけど、いまの僕にはそのへんの詳しいことはまだ分っていない。
しかしなかにはまあまあ大編成の管弦楽が聴こえたりするからなあ。それら全部を生楽器演奏でまかなうとは、アンゴラは、あるいはパウロ・フローレスは、景気いいのか?景気よくなくてもなんらかのこだわりなんだろうね、音楽的な。『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』では、一曲目の「メモリア・ジ・カフェ」からいきなり管弦楽全開で、しかもこのファンクなグルーヴ感がものすごい!ティンバレスも気持いい〜。 YouTube にないが Spotify で「Paulo Flores」で検索すれば一瞬で見つかる。是非ちょっと聴いてみて!
しかもこの「メモリア・ジ・カフェ」。なんだか哀愁を帯びたような曲調と旋律で、やっぱりちょっとブラジル音楽のサウダージに通じるものを感じるのは僕だけ?ブラジル音楽のサウダージ的なものを感じる曲は、パウロ・フローレスの『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』には他にも何曲もある。五曲目の「カルダ・ダ・マドナ」とか、六曲目の「モルディーダ・ジ・コブラ」とか、八曲目の「ア・カルタ」とか、12曲目の「ルンバ・パパ」とか。
それらのなかで僕が特に気に入っているのが、ともにアコーディオンの入る八曲目の「ア・カルタ」と12曲目の「ルンバ・パパ」。後者では正確にはアコーディオンではなく teclas とクレジットされているのがそれなんだろうか?知らない楽器だが、調べてみたら鍵盤型の楽器みたい。サウンドだけ聴くとちょっとアコーディオンに近いメロディカみたいな感じの音だ。ってことはリードを鳴らしているのかなあ?う〜ん、分らない。どなたか教えてください。
八曲目の「ア・カルタ」でははっきり acordeão とクレジットされているが、同時に teclas 奏者もいることになっているので、そのへんはやはり僕には判然としない。がしかし「ア・カルタ」がブラジル音楽でいうサウダージ、なんてもんじゃなく、なんだか哀しみと切なさに満ち満ちているかのようなサウンドに聴こえるのだが、なにかあるんだろうなあ。なお teclas はアルバム中ほかでもたくさん入っているみたいだ(があまり目立たないような?)。
アルバム五曲目の「カルダ・ダ・マドナ」も切なくて、ポルトガル語の歌詞にではなく旋律の動きに心動かされて泣きそうになってしまう。パウロ・フローレスよ、どうしてこんなに切なく哀しいんだ?この曲では途中なんどか英語で「パパ、ドント・プリーチ」と歌われるけれど、これなんだっけ?むかし聴いたアメリカ人歌手の誰かのなにかの曲にあったような気がするけれども忘れてしまった。最終盤のピアノ・ソロもいい。
サウダージ的な切なさ・哀しみと重量級ファンク・グルーヴが合体しているのが六曲目「モルディーダ・ジ・コブラ」。打楽器群のアンサンブルは、ドラマーもいいがパーカショニストが特にいい(っていうのはアルバム『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』では他でも多くの曲でそうだが)。一人のパーカショニストしかいないというクレジットになっているが、いくえにも折り重なって聴こえる。が、多重録音ではないかもしれない。
九曲目「トレム・ダ・シダージ」も素晴らしいグルーヴ感。 ホーン群のアンサンブル・リフの入り方が超カッコイイ、こんなにカッコいいホーン・リフの使い方って、1960年代のジェイムズ・ブラウンとスライ&ファミリー・ストーンとか、70年代のサルサ・ミュージック(そのものみたいな曲が『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』には数曲あるよ)とかでしか僕は聴いたことないなあ。パウロ・フローレスの『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』ではそんなカッコいいホーン・リフが随所で聴けて、しかもストリングス・リフも似たような使い方をしてある。スタッカート気味で入る。最高だ。
あ、11曲目「マーナ・ベッサ・ンガーナ」もいいなあ、切なげで。この曲にもアコーディオン奏者が参加していて、しかもそのシーロ・ベルティーニ(Ciro Bertini って誰だろう?)の弾くアコーディオンが最高だ。個人的にはパウロ・フローレスのアルバム『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』全体のなかでいちばん好きなのが、この11曲目「マーナ・ベッサ・ンガーナ」最終盤のアコーディオン・ソロだ。そのまま弾きながらフェイド・アウトする。ん〜、もっと聴かせて。この11曲目はアンゴラの伝承曲と記載がある。それ以外は全部パウロ(とその他)の自作みたい。
13曲目「バツカーダ・ド・デサツラード」では、曲題通り打楽器(は一名しか記載がないが、この曲では間違いなくオーヴァー・ダビングでかなりたくさん重ねてある)オンリー+エレベだけの伴奏でパウロが歌う。かなり賑やかなフェスティヴァル風の一曲で、やっぱりこれもパレードの際に演奏されるブラジルのサンバ・ミュージック風だ。しかしこのジョアン・フェレイラ(Joãn Ferreira)というパーカショニストはタダモノじゃないね。上手い。
一つ飛ばしてアルバム・ラスト15曲目の「ボーダ」。一番長い八分以上あるし、それだけでなくいろんな意味でパウロ・フローレス『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』の総決算的締めくくりに間違いないはず。こんな感じのリズムやサウンドや、その他諸々一緒くたにしてのグルーヴを「センバ」と呼ぶのか?(旧宗主国ポルトガルから受け継いだのかどうか分らないが)独特の哀感+(こっちはアフリカ音楽独自に違いない)ポリリズミックなサウンド。ひゃ〜、もうタマラ〜ン!
ただしこのアルバム・ラストの「ボーダ」では、そんな感じの激しい哀感ヘヴィ・グルーヴは 4:55 で終り、その後しばらく無音の空白がある。僕は最初 CD『オ・パイス・キ・ナスシウ・ミウ・パイ』をかけていて、あ、もう終ったんだねと思っていると、アクースティック・ピアノが鳴りはじめ、それ一台の伴奏でパウロが歌うパートが来る。それは「ボーダ」本編とは関係なさそうだから、(トラックは切れていないが)隠しトラックみたいなもんなんだろう。お祭り騒ぎのあとに寂しく一人で振り返っているようなシットリしたもので、約70分間のフェスティヴァルのいい感じのコーダになっている。
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