コラ+ラテン・ダンス・サウンド 〜 バオバブの新作
唯一の難点は、収録時間がたったの43分しかないってことだけじゃないだろうか?オーケストラ・バオバブの今2017年の新作『ンジュガ・ジェンに捧ぐ』。それくらい中身は充実しているよね。このアルバム、ライスからリリースされている日本盤の方には荻原和也さんがお書きの解説文が附属するので、それをお買いになれば、僕みたいなド素人が言うことはなにもない。僕はエル・スールさんに、まだ日本盤が出るかどうか分らない時点でオーダーしておいたら、特別なにも言っていないにもかかわらず、勝手にというか自動的に(笑)、原田さんが日本盤の方にしておいてくれていたっていう、嬉しいような、値段は輸入盤よりちょっとだけお高めなので、その点だけがちょっとねえ。
僕みたいにオーケストラ・バオバブをさほど熱心に聴いていない人間には、ちょっとくらい値段が高めでも、荻原和也さんの解説文を読めた方がありがたいのは言うまでもない。このセネガルのバンドについては、アフリカの音楽家なのになんだかラテン・バンドみたいだなあとか以前から思っていて、しかも復帰後の第二作である、『ンジュガ・ジェンに捧ぐ』の前作にあたる2007年の『メイド・イン・ダカール』は、あくまで僕だけにとってはイマイチな感じに聴こえたので、う〜ん、このバンドはもうちょっとどうなんだろう?とか漠然と思っていたのだった。
しかしバオバブが「ラテン」、しかも「ダンス」・バンドだっていうのは、そこそこ外していないんじゃないかなあ。いやあ、ホントさほどご執心の音楽家じゃないので怪しいもんなんだが、なんとなくそんな気がする。それが2017年の新作『ンジュガ・ジェンに捧ぐ』ではかなり様変わりしているように僕には聴こえる。最大の要因はコラの導入だろう。バオバブの作品でコラが聴けるものっていままであったっけ?ないはずだ。コラがどんな楽器なのか、説明しておく必要などない。ジャズ・ファンの方でご存知ない向きもネット検索すれば一発で分る(はず)。
コラをラテン・ダンス・ミュージックに使うという、この発想がどのへん&だれから出てきたものなのかは僕には分らない。だがバオバブの『ンジュガ・ジェンに捧ぐ』ではこれが大成功。ラテンなダンス・ビートはそのままに、西アフリカの伝統弦楽器であるコラがシットリ落ち着いたフィーリングを加味していて、しかもそれは前からあったかのようにバオバブ・サウンドに馴染んでいて、バンドのサウンド全体がまろやかでメロウになっている。こ〜りゃいいね。
『ンジュガ・ジェンに捧ぐ』ではコラはほぼ全面的に使われれていて、一曲目「フーロ」(Foulo)から聴こえる。リズムとサックス二管の円熟味はいまさら言うまでもないものだから、それにコラで西アフリカ伝統色がくわわって、しかもダンサブルでもあって、この一曲目を聴いただけで、このバオバブの新作は傑作だぞと誰でも確信できるだろう。活躍中のアフリカの音楽家で、ここまで伝統色と現代色を合体させ、しかもポップでダンサブルで楽しくて、さらにメロウな円熟味と、さらに新作だけはあるという新鮮さも感じられるものって、なかなか見当たらないよなあ。凄い人がほかにもたくさんいるけれど、ちょっと音楽の色が違う。バオバブを見捨てようとした僕って、バカバカ!
二曲目の「ファインクンコ」(Fayinkounko)以後もどんどんコラが入っていて、しかもそのサウンドが目立つので、これはバオバブのこの新作『ンジュガ・ジェンに捧ぐ』における最大のアピール・ポイントなんだろう。多くの曲で有機的に使われているけれど、でもバンド・サウンドのなかに渾然一体となって溶け込んでいるので(「前からあったかのようにバオバブ・サウンドに馴染んでいて」)、コラをあえてフィーチャーしているようなものは、二曲を除き、『ンジュガ・ジェンに捧ぐ』にはない。
その例外二つがアルバム五曲目の「新しい花嫁」(Mariama)とラスト十曲目の「アレクマ」(Alekouma)。 これらはコラを全面的にフィーチャーしていて、歌の伴奏がコラのオーヴァー・ダブ(「ダヴ」じゃありません、それは鳩です)・サウンドとアクースティック・ギターだけ。ギターだって聴こえるのか聴こえないのか微妙な感じの音だから、これら二曲は(多重録音による)コラ・オンリーの伴奏だと言ってしまいたいくらいだ。この二曲は、僕は知らないものだったので萩原さんの解説の引き写しだが、西アフリカの伝承ソングなんだそうだ。
萩原さんによれば五曲目「新しい花嫁」はマンデの有名なラヴ・ソング、十曲目「アレクマ』はガンビアのグリオの歌だそうだ。バオバブのアルバムでそんな伝承ナンバーが聴ける、それもほぼコラのみの伴奏と言ってもいいもので聴けるとは、たぶん誰も想像していなかったはずだ。だって萩原さんですらそうお書きなんだから、僕みたいな素人にはかなりの驚きだ。これら二曲にラテンなダンス・フィーリングは、僕は聴きとれない。西アフリカのコラ弾き語り音楽家の作品で聴けるような種類のものに仕上がっている。う〜ん、やっぱりビックリじゃんねえ。バオバブだよ。
これらビックリの二曲以外は、やはりコラが使われているものの、リズム・セクション(といってもドラムスはなし、コンガとティンバレスとベースとギター)や二管サックス+トロンボーンが入って、やはりバオバブらしいアフロ/ラテン・ダンス・チューンになっている。がしかし、上でも書いたがコクというかまろやかさというか、サウンドに円熟味を増し、2017年にリリースするだけあるという同時代性もあるんだよね。
『ンジュガ・ジェンに捧ぐ』、バオバブ復帰後の最高作だと僕も疑わない。
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