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2017/07/13

ツェッペリンのCIAロック

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ジミー・ ペイジ自身が<CIA コネクション>と呼んだ、レッド・ツェッペリンの音楽に聴ける C(ケルト)、I(インド)、A(アラブ)について、やはり少し書いておこう。ふつうはブルーズ・ベースのハード・ロック・バンドだとみなされているツェッペリンだが、僕が最も好きなのはそういう部分もさることながら、やはり CIA 要素なんだよね。それらがハード・ロック方向と合体していればなおよし。だから最初にまず先走って言っておくが、僕にとってのツェッペリン最高傑作は、アラビアン・ハード・ロックな「カシミール」(『フィジカル・グラフィティ』)だ。

 

 

「カシミール」に辿り着くまでには少し時間が必要だ。ツェッペリン、というか最初の頃はジミー・ペイジだが、このバンドがまず最初に CIA をやったのは1969年ファースト・アルバムの「ブラック・マウンテン・サイド」。その前のヤードバーズ時代から、同じくペイジのギター独奏曲として同趣向の「ワイト・サマー」があって、ツェッペリンに移行してからは、これら二つをメドレー形式でライヴで披露することもあった。メドレーというかまあ同じモチーフだから。

 

 

バンド形式でこれをやりはじめるのが、1970年の三作目『レッド・ツェッペリン III』から。しかしそれにある CIA はインド風の「フレンズ」だけなんだけどね。この曲でのジョン・ボーナムはドラム・セットを叩いていない。コンガ(?)かスネアの打面かなにかの打楽器を素手で叩いている音がする。ロバート・プラントが歌う背後でジミー・ペイジがアレンジしたストリング・アンサンブルも入る。しかもこのアクースティック・ギターのコードの響きが、というかチューニングがちょっと妙だ。聴いたことのないものだなあと思って探ってみたら、どうやら六弦から順に C-G-C-G-C-E となっているみたい。なんだこりゃ、オープン C チューニングの変形か?

 

 

 

ツェッペリンの CIA にあるケルト方向が鮮明に顔を出し音楽的果実となるのが、1971年の四枚目(このアルバムにタイトルはありません)。A 面三曲目の「限りなき戦い」(The Battle Of Evermore)と、続くA 面ラストの「天国への階段」(Stairway to Heaven)。さらにインド〜アラブ方向もあって、B 面二曲目の「フォー・スティックス」。

 

 

 

 

 

この1971年前後から、ツェッペリンにおけるケルト要素を主に担っていたのはロバート・プラントだったらしい。といってもそれはプラントが書く歌詞内容だけなんだけど、ケルト的なものへの盲信、無条件降伏状態にあった。それは上の「限りなき戦い」でも聴きとれる。この歌詞と曲名はスコットランド戦争に題材をとったもので、直接的には J・R・R・トールキンの『ロード・オヴ・ザ・リング』、と書くといまは映画の方かな?、邦題『指輪物語』から引っ張ってきている。トールキンの『指輪物語』にケルト神話の色彩が強いのはご存知の通り。

 

 

トールキンの『指輪物語』にロバート・プラントが触発されてケルト的な要素を歌詞に反映させたツッェペリン・ナンバーは、上の「限りなき戦い」「天国への階段」だけじゃない。ほかにもいくつかあるのだが、しかしそれらはほぼ歌詞だけでサウンド面でのケルト〜トラッド・フォーク要素がないので、今日は省略。すなわち僕が言いたいことは、「限りなき戦い」「天国への階段」二曲では歌詞内容もさることながら、ジミー・ペイジ主導のアンサンブルがケルト的なトラッド・フォークみたいだということ。

 

 

ヤードバーズからツッェペリンに移行する際に、ジミー・ペイジはまず最初、インクレディブル・ストリング・バンドやフェアポート・コンヴェンションみたいなバンドにしようかという考えもあったそうだから、ロバート・プラントがケルト神話に大きく惹かれるずっと前から、ペイジにはそんな志向があったのは間違いない。ヤードバーズ〜ツェッペリン初期には、それがサイケデリック・テイストと合体もしていた。

 

 

だからツッェペリンの四作目にある「限りなき戦い」でサンディ・デニーをゲスト・シンガーとして迎えているのも当然の成り行きだったんだよね。高校生のころの僕は、この曲でサンディ・デニーという女性歌手がいるんだということを知り、歌声もいいなあと思いはしたものの、フェアポート・コンヴェンションその他を買って聴くようになったのは CD リイシュー後のことだった。

 

 

同じ四作目にある「フォー・スティックス」は、曲題通りジョン・ボーナムが二本の手に四本のスティックを握って叩いているかのようなドラミング・フィーチャー曲だ。鮮明なインド〜アラブ色は聴きとりにくいものの、間違いなくある。といってもこんな僕だって、それに気付いたのは1994年のジミー・ペイジ&ロバート・プラント名義のライヴ・アルバム『ノー・クォーター』にある再演ヴァージョンでのことだった。それの「フォー・スティックス」にはアラブ〜北アフリカ音楽色が濃い。楽器だって複数台のベンディールとダルブッカ、さらにエジプシャン・アンサンブルのストリングスが参加している。

 

 

 

 

 

もっと面白い「フォー・スティックス」がある。それは昨2016年2月20日付の記事で僕もはっきり書いた。ご一読いただきたい。1972年にインドのボンベイ(ムンバイ)で、現地インド人ミュージシャンを起用して録音されたもので、同様に録音した「フレンズ」と一緒に、『コーダ』の三枚組デラックス・エディションに収録されている。下記リンク先では、それら二つの音源もご紹介してあるのでぜひ。

 

 

 

さてさて、このようなツェッペリンの、というかジミー・ペイジ&ロバート・プラントの CIA コネクションが最大限にまで発揮され、しかもサウンド的にはファズの効いたエレキ・ギターと派手なドラム・セットが入るハード・ロック・ナンバーでありかつ CIA 楽曲であるというのが、1975年の「カシミール」(『フィジカル・グラフィティ』)だと言えるはず。

 

 

 

サビに入る際の転調と、同時にストリングスがグワッと入ってくる瞬間は、なんど聴いてもいまでも背筋がゾクゾクする超快感だ。僕にはね。この曲、こんなタイトルであるにもかかわらず、あまりインド〜パキスタン方向は感じないものだ。最も鮮明には、やはり北アフリカのアラブ音楽趣味だよなあ。ロバート・プラントも「カシミールを旅しながら…」云々と歌っているものの、サウンドを聴くと音楽的に旅しているのはモロッコ〜サハラ砂漠あたりだ。

 

 

この「カシミール」も、1994年のジミー・ペイジ&ロバート・プラント名義のライヴ・アルバム『ノー・クォーター』で再演されている。それは現場でもそうだったし、CD でも DVD でもそうなのだが、この日のライヴの締めくくり大団円・クライマックスとしてのパフォーマンスだったのだ。以下をご覧になれば「すべて」が分る。ツェッペリンの「カシミール」という楽曲の(CIA 的)本質も、それを際立たせるために参加しているエジプシャン・アンサンブルの活かし方も、そしてプラントのヴォーカルがやっぱり下手くそだということも。

 

 

 

1975年の『フィジカル・グラフィティ』には、ほかにも二枚目に「イン・ザ・ライト」があるし、また実質的なラスト・アルバムになった79年の『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』B 面トップにも「ケラウズランブラ」がある。前者はオリジナルがどうやら YouTube に存在できないみたいなので、2015年の『コーダ』三枚組収録のラフ・ヴァージョンを貼っておく。後者はオリジナルだ。

 

 

 

 

「イン・ザ・ライト」(の完成品含め)も「ケラウズランブラ」も、中近東風な部分を主に表現しているのはジョン・ポール・ジョーンズの鍵盤楽器だ。前者では、これはオルガンとクラヴィネットかなあ?メロトロンも?後者ではシンセサイザーだ。しかもテクノ風だよね。『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』LP がリリースされたとき僕は高校三年生で、買って聴きまくり、ロック好きの女子クラスメイトに「聴いた?」って言ったら「買ってない」と言うのでレコードを貸した。返ってきた際には「B 面一曲目が良かったわよ」と言われてしまったのだ。すなわち「ケラウズランブラ」だ。その女子クラスメイト、EL&P(エマースン、レイク&パーマー)のファンだったんだよね。

 

 

僕はといえば、その高三のときから既に、『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』なら例えば A 面一曲目の「イン・ジ・イヴニング」とか B 面ラストの「アイム・ゴナ・クロウル」みたいなブルーズ〜リズム&ブルーズ(調)こそが好きで、「ケラウズランブラ」なんか、なんじゃこりゃ?シンセがビュンビュン飛びやがってとか、そんな風にしか感じてなかったんだよなあ。人間変わるもんだ。

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