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2017/07/20

グナーワ大学で学ぶアフリカネス

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七曲目で非常によ〜く知っているものが聴こえるなあと思ったら、ありゃ、これウェザー・リポートの「ブラック・マーケット」じゃないかぁ!(と最初に聴いた時にも思ったはずだけど、忘れていた^^;;)。だからさぁ、以前も一度書いたけれど、ジャズ・フュージョンとオルケストル・ナシオナル・ドゥ・バルベス(ONB)って関係あるんだよな。といってもジョー・ザヴィヌルが書いた「ブラック・マーケット」が七曲目にあるのは ONB のアルバムではない。結成当初のこのバンドの中核メンバーで、僕が以前フュージョン色が濃いと書いた(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/onb-6742.html)ONB の1998年デビュー・ライヴ盤『アン・コンセール』でも活躍している、ゲンブリ奏者のアジズ・サハマウイ2011年作『グナーワ大学』のことだ。

アジズ・サハマウイは ONB の二作目まで参加して離れ、その後ジョー・ザヴィヌルに誘われて彼のバンド、ザヴィヌル・シンジケートでやっていた時期がある。そのころのアルバムもあって、2005年のライヴ盤『ヴィエナ・ナイツ』。でもこれじたいはあんまり面白くなかったような気がする。もうだいたいあのころのザヴィヌルの音楽は、もはやなんというかまあその〜…。

でもアジズ・サハマウイは、ザヴィヌルが2007年に亡くなるまで音楽活動をともにしていたので、衰えていたとはいえこのマイスターからいろんなことを吸収したんだろうと思う。2011年の『グナーワ大学』で「ブラック・マーケット」をやったりしているのも、ある意味、恩返しなのかなあ。グナーワ法で料理した師のフュージョン・ナンバーの出来栄えを聴いてほしいみたいな気持があったかもしれないよなあ。

素材をとりあげただけではない。アジズの『グナーワ大学』のレギュラー・バンド編成は、ザヴィヌル・シンジケートのそれに近い。アジズはゲンブリ奏者なのにあまり弾かず、アルバムの多くの曲で弦の低音はエレベ奏者に任せているが、そのエレベ奏者アリウン・ワデ(セネガル)とアジズは、ザヴィヌル・シンジケートで知り合った仲なのだ。そのほかエレキ・ギター、ドラム・セットを使って、米英のポップ・ミュージックふうのメンツなんだよね。

ヴォーカル・コーラスもたくさんフィーチャーされているが、これは米英産大衆音楽やザヴィヌルも(ウェザー・リポート後期から)たくさん使うものであるとはいえ、グナーワ・ミュージックでもむかしからコール&リスポンス的に多用される。だからアジズもそれら両方のやり方のいいところを取って『グナーワ大学』で活かしているんだろう。

『グナーワ大学』でのリーダーのアジズは、メイン・ヴォーカル以外に楽器は、ゲンブリはあまり弾いてないならなにをやっているかというと、メインはンゴニ。たぶんアルバム・ジャケットで抱えているのがゲンブリに似てはいるが、たぶんンゴニだ。かたちや大きさが似ているから、あれだけだとちょっと断定できないが、アルバムのなかではゲンブリをあまり使っていないんだから、それをジャケット撮影のためだけに抱えたというのはありえないようにも思える。

あ、待てよ、いま流れてきたアルバム『グナーワ大学』11曲目の「ミムナ」。これのブンブン鳴る弦の低音はゲンブリっぽい響きだなあ。しかもなにかもう一本聴こえる。う〜ん…、と思って一曲ごとにパーソネルが記載されている附属ブックレットをめくったら、「ミムナ」ではやはりゲンブリをアジズが弾いているとなっている。11曲目の「ミムナ」では、ゲンブリと、もう一つの弦音が絡んでいるように聴こえ、それは記載を見たらアジズのンゴニだから多重録音だ。楽器伴奏はそれらゲンブリとンゴニだけ。その上でアジズが歌っている。グナーワ・(ポップ・)ミュージックでは実に頻繁に出現するので、なんのことかいまだにサッパリ分からないなりに、なんだかお馴染の言葉になってしまった「ミムナ」を。

ところで「ミムナ」は上記 ONB の1998年デビュー・ライヴ・アルバムでもやっている。しかもオープニング・メドレーの一曲目。そしてその三曲メドレーの二つ目が「サウウェ」なんだけど、これもアジズの『グナーワ大学』にある。九曲目。こっちもかなりシンプルな伴奏編成で、弦の低音(もどうやらゲンブリらしい)+カルカベみたいな金属打音+ヴォーカル・コーラス。これだけに乗ってのアジズがリード・ヴォーカル。

これら「ミムナ」「サウウェ」二曲を、ONB の『アン・コンセール』ヴァージョンと、それにも参加していたアジズの『グナーワ大学』ヴァージョンで聴き比べると面白い。二曲ともトラディショナル・ナンバーで、ONB ヴァージョンでのアレンジャーは「ミムナ」がアジズとの記載、「サウウェ」がユセフ・ブーケラとなっている。ONB のそれら二つは、かなりポップなんだよね。これはマグレブ音楽をまったく聴いたことのない音楽ファンだってポップだ、聴きやすい、親しみやすいと感じるはず。これには自信がある。なぜなら1998年当時の僕がまったく同じだった。

ところがその ONB ヴァージョンにアレンジと演唱で参加しているアジズの、『グナーワ大学』ヴァージョンの「ミムナ」「サウウェ」二曲にはポップさがかなり薄く、というかほぼなくて、モロッコのグナーワ儀式現場での生のグナーワ音楽の姿にちょっと近いような仕上がりだ。だからこっちはグナーワの伝統的なところを少しだけでも聴いていないととっつきにくいかもしれない。アジズは ONB ではあんな感じだったけれど、『グナーワ大学』でのこんな姿が本来のありようなのかなあ?

そういえば一番上で書いたウェザー・リポートのカヴァー「ブラック・マーケット」。『グナーワ大学』ヴァージョンでは、オリジナルにあった冒頭部での市場での雑踏音もそのまま再現し、またもとの曲がポップでファンキー(なんですよ、あのころからのザヴィヌルの曲は、だから次作にある「バードランド」は当然)だから、そんなフィーリングがやはり少し残ってはいるものの、全体的にはかなり渋いグナーワ・アレンジでの演奏だ。アジズが歌っているアラビア語の歌詞は自分で書いたものなんだろう。ザヴィヌルが鍵盤で弾いたお馴染の例のポップなリフを、アジズはンゴニ(?ゲンブリ?)で奏で、歌いはじめてからもグナーワ流儀でのヴォーカルのコール&リスポンス。しかも一瞬ジャマイカのダブふうな音処理がある。そのあと後半部ではいかにもグナーワというヒプノティックな反復になって、テンポもだんだん速くなっていき高揚して、これ、たぶんグナーワ儀式現場とかなら興奮のあまり失神したりする人もいるようなもんなんだろう?

アジズの『グナーワ大学』。ここまで僕が前からよく知っている三曲の話しかしていないが、実はこれら三つ以外の曲で僕が最も強く感じるのはアメリカ産黒人ブルーズだ。濃厚なノリのディープさが実によく似ている。グナーワのノリって、やっぱりブルーズとかリズム&ブルーズのそれに近いのかなあなんて思っちゃうんだよね。アジズの『グナーワ大学』ではどの曲もグナーワか、グナーワにアレンジしたものだけど、アメリカ産黒人ブルーズを強く感じる僕は、米黒人ブルーズ・ミュージックの聴きすぎなのか?

でもさあ、例えばアルバム四曲目「カヒナ」のミドル・スロー・テンポでゆったりと大きく乗りグルーヴするあたりとか、六曲目「アルフ・ヒラート」の細かく刻みながら全体的にはやはり余裕のあるうねりを感じるあたりとか、十曲目「ロフラン」でも似たようなブルージーなノリだしなあ。アメリカ産の、例えば1940〜50年代のジャンプ・ブルーズ〜リズム&ブルーズに同じようなもの、いっぱいあるよ。

僕が考えるに、こういうことはグナーワのブラック・アフリカン・ルーツをアジズが掘り下げてくれたってことじゃないかと思うんだよね。つまりグナーワのアフリカネス。黒さ。上でセネガル人エレベ奏者が参加していると書いたけれど、基本的には六人編成であるグナーワ大学バンドは、そのうち三人までがセネガル人なんだよね。さらに、アジズ自身、ゲンブリよりもンゴニを多用しているという点でも、またコラだって入っている曲があるし、やはりサハラ以南アフリカを感じるものだ。間違いなくアジズはこれを意識したよね。

その他いくつか理由があって、アジズの『グナーワ大学』は、基本、どこまでもモロッコのグナーワに則りながら、マグレブ音楽ではあまり聴いたことのない(ブラック・)アフリカネスに包まれている。University とタイトルを付けた(のはプロデューサーのマルタン・メソニエかもしれないが)のは、大学って学問的に掘り下げてルーツも学ぶところだろう?グナーワのルーツがサハラ以南のアフリカにあるのは周知の事実なんだから、アジズはそんなグナーワ・ミュージックに本来あるそんなアフリカネスを掘り下げて、その探求成果を実際の音で表現してくれたってことじゃないかなあ。

もちろんアメリカ産ブルーズのルーツが(西)アフリカにあるとは言えないだろう。あのスケール(音列)はアフリカ音楽には見いだせないと思う。アフリカから強制移住させられた黒人たちが産み出したものではあるけれど、あくまでアメリカ合衆国という場所でしか誕生しえなかった音の使い方だ。だけれども、アジズの『グナーワ大学』を聴いて、(僕だけかもしれないが)アメリカ産ブルーズのノリと同質のものを感じるのは、きっとなにかあるよね?そしてアジズのこういった探求のきっかけをつくったのは、やっぱりジョー・ザヴィヌルだったんじゃないの?

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