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2017/07/19

これが盛り上がらずにおられよか 〜 マルチニークのトニー・シャスール

Tonylive2017








今2017年、いままでリリースされたジャズ系のアルバムで、レユニオンのメディ・ジェルヴィルの『トロピカル・レイン』の次に気に入っているのが、マルチニークのトニー・シャスールの30周年記念ライヴ盤 CD 二枚+DVD一枚の『ライヴ・ラク・ランム:30・アノス・ドゥ・カリエール・ア・ラ・シガール』。マジでこの二つを超えるジャズ作品は今年は出ないだろ?二つともそう思っちゃうくらい素晴らしいが、それにしてもレユニオンとかマルチニークとか、フランス系が来ているのか、今年のジャズ界隈は?そのへん、まったく鼻が利かない僕だけど。

 

 

メディ・ジェルヴィルの『トロピカル・レイン』については以前の記事(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/post-4cf2.html)をお読みいただくとして、今日はマルチニークのトニー・シャスールのライヴ・アルバムの話。これは上で書いたフル・タイトルでお分りのように、トニー・シャスールの芸歴30周年記念でフランスのパリにあるラ・シガールで行われた2016年10月31日のパフォーマンスを収録したもの。DVD の方は観ていない僕だけど、それは二枚の CD に収録されているものと音源だけなら同一内容だと判断しているからだ。同一だよね?

 

 

このあたり、僕は映像はいらない、音源だけでいい人間だというのは前から繰返しているので。というわけでトニー・シャスール率いるミジコペイのいまのところの最新作は DVD しかないので、なかなか買う気にならず、やはりいまでもどうしようかあと思っているままなのだ。ダメだよねえ、こんな音楽愛好家は。音楽家の動く演唱シーンをテレビの歌番組以外で体験できることなんて、生コンサートに出かけていくしかほぼありえない時代に、しかもその生コンサートもなかなか体験できない地方都市に住んでいながら完全な音楽キチガイになってしまったことに由来するであろうこの習性は、どうやら一生抜けそうにない(岩佐美咲など、一部例外を除く)。

 

 

トニー・シャスール。今日話題の『ライヴ・ラク・ランム』も DVD が附属していると知り、もうそれだけで買おうかどうしようかちょっとだけ迷ったほどなんだもんなあ。それでも二枚の CD がちゃんとあるというので買ったのだった。もし DVD だけだったら、いまごろどうだったか…。 最初は DVD が CD 二枚と同内容(だと観もせずに勝手に判断しているだけだが?)だとは分らなかったから、エル・スールで買って、届いたら CD だけ聴こうかなと思っていて、実際いままではそうなっている。しか〜し!この二枚のライヴ CD は本当に素晴らしいグルーヴが満載。

 

 

トニー・シャスールはマルチニークのジャズ・ヴォーカリスト。だから『ライヴ・ラク・ランム』でも歌を歌っていて楽器はやっていない。二枚の CD はタイトルが異なっていて、それは音楽的テーマみたいなものを表現しているみたいだ。CD1は「Lakou Wouvè Live」。CD2は「Lakou Bo Kay Live」。これだけじゃなんのことか分らない僕だけど、いろんなことが書かれてある附属リーフレットに、一枚目は「クレオール・ジャズ」、二枚目は「ズーク・エ・シャンソン・クレオール」とあり、内容を聴いてもこれは納得できる。

 

 

そのリーフレットに書かれてあるバック・バンドは、CD1が(アクースティック・)ピアノ、エレベ、ドラムス、パーカッション。これに曲によってエレキ・ギターやゲスト・ヴォーカリストが参加する。CD2は種々鍵盤、エレベ、ドラムス、パーカッション、エレキ・ギター+コーラス隊+ホーン隊+ストリングス隊。こっちも少しのゲスト参加がある。基本的には二枚ともコアになっている部分は同じような編成だ。創り出すグルーヴもよく似ていて、ことさら(クレオール・)ジャズだ、シャンソン(ポップ)だと区別することはないんじゃないかなあ。

 

 

ところで CD1の方でエレベを弾いているのはミシェル・アリボーだ。メディ・ジェルヴィルの『トロピカル・レイン』でもレギュラー参加で弾いている。録音はメディのアルバムの方が早かったみたいだけど(なんでも二、三年前に完成していたという話だ)、聴衆の面前でお披露目し、CD&DVD になって発売され、日本でも買えるようになり、みなさんが話題にしはじめたのはトニー・シャスールの『ライヴ・ラク・ランム』の方がずっと先だった。みなさんがいいぞいいぞと言っているのを読むものの、上で書いたように DVD が附属するというだけで躊躇していたアホな僕。メディ・ジェルヴィルの方を先に買って先に聴いていた。

 

 

聴いてみたら、トニー・シャスールの『ライヴ・ラク・ランム』も、メディ・ジェルヴィルの『トロピカル・レイン』に負けず劣らず素晴らしい。というかふつうラテン〜カリブなジャズ(系のもの)がお好きな一般のみなさんは、トニーのライヴ・アルバムの方がとっつきやすく聴きやすく、また評価も高いじゃないかと僕は推測する。実際、トニーのこの三枚組の話題はよく見るけれど、メディの方の高評価はほぼ見かけないもんね。荻原和也さんと Astral さんと僕、この三人だけじゃないかなあ、まだ。

 

 

まあメディ・ジェルヴィルの『トロピカル・レイン』の方は、やや分りにくいような部分があるのは確かだ。全曲変拍子だし、スリリングな緊張感に満ち満ちていて、ふだんリラックスして聴くのには向かないアルバムだ。僕はそういう音楽もいまだにやっぱり好きなんだけど、トニー・シャスールの『ライヴ・ラク・ランム』の方が世間的(といってもほんの一部だろうけれど)にウケる、人気があるのは納得だ。そんでもって僕はトニーの方も大好きだ。

 

 

マルチニークの歌手にしてプロデューサー、サウンド・クリエイターであるトニー・シャスールがやっているだけあって(リーフレットにしっかり "Direction musicale"と記載もある)、やっぱりこれはジャズ系のカリビアン・クレオール・ミュージック?と思うと、あんがいそんなことは意識しない。僕はね。ほぼまったくと言っていいほどそんな歯ごたえはない(いい意味で)。どうしてかって、1970年代後半以後のウェザー・リポートのジョー・ザヴィヌルが同系の音楽をいくつかやっていたから、すっかり聴き慣れている…、もののようにトニーの『ライヴ・ラク・ランム』は聴こえたけれど、僕の勘違い?じゃないと思うけどなあ。トニーのこのライヴ盤を褒めるみなさん、ウェザー・リポートをちゃんと聴いてないでしょ?

 

 

クレオール・ジャズをやるマルチニークのトニー・シャスールみたいに、歌詞のある部分とスキャット部分をないまぜにしながらスポンティニアスに歌うヴォーカルだって、ある時期以後のジョー・ザヴィヌルはどんどん起用してウェザー・リポートの果実にしていた。だいたい1980年代の同バンドのレギュラー・パーカッショニスト&ヴォーカリストのミノ・シネルの父はマルチニーク人だ。同バンドでのミノも、英語とフレンチ・クレオールとのピジンで歌ったものだってある。その背後でアクースティク・ピアノ含め鍵盤楽器+リズム・セクションが支えるとか、もうソックリじゃないか。だから、僕には、ある意味<保守的音楽>にすら聴こえるトニー・シャスールの『ライヴ・ラク・ランム』なんだけどね。

 

 

このあたりの1970半ば〜80年代前半あたりの(ジャズ・)フュージョンが、21世紀のいまのジャズ系の音楽にどうつながっているのかは、どなたかちゃんとしっかり考えて文章にしてほしい。できそうな方のお名前が何名かすぐにパッと思い浮かぶんだけど、いまだにまとまったものがないよなあ。トニー・シャスールなんて相手にしてくれていないのか?いま在庫切れ状態だけど、日本のアマゾンでだって普通に売ってるぞ、『ライヴ・ラク・ランム』は。

 

 

さてさて、さほど大きな音楽的違いはないと書いたトニー・シャスールの『ライヴ・ラク・ランム』CD1と CD2だけど、それでも一枚目はやっぱりかなりストレートにジャジーだ。トニーのヴォーカルも都会風にソフィスティケイティッドされていて、バック・バンドもときおり4/4拍子で伴奏したりして、その上でサラリと流れるスキャットを聴かせてくれたりもする。CD2では大編成のホーン、ストリングス、ヴォーカル・コーラスが入っているので、聴感上の印象だけならやはり相当違っている。「違わない」と僕が書いたのは根幹のグルーヴの種類が、という意味。

 

 

僕はジャズ・ファンなんだから、ポップなフィーリングの CD2「ズーク・エ・シャンソン・クレオール」よりも CD1「クレオール・ジャズ」の方が気に入っているんじゃないかと思われる可能性があるかもしれないが、完全に逆なんだよね。むかしならいざ知らずいまの僕は、ポップ・ミュージックを賑やかに聴かせてくれる方がいいんだぞ。CD2の方では(聴いていないがミジコペイのライヴ DVD もそうだったらしい)カリビアン・ビッグ・バンド・ジャズを展開していて、トニーのヴォーカルも CD2の方により一層の伸びやかさを僕は感じる。CD2の方が出来は上だよね。特にジャズ好きではない一般の音楽愛好家のみなさんにも CD2の方が受け入れてもらいやすいはず。

 

 

CD2の方には長尺のメドレーが3トラックある。三つとも13〜15分程度もあるのだが、トニー・シャスールのアルバム『ライヴ・ラク・ランム』ぜんぶでの最大の聴きどころが、間違いなくその三つのメドレー、特にアルバムを締めくくるラストのメドレー二つだろう。その直前に「カリベアン」というそのまんまな曲題の、リズム・フィールもいかにもカリブ風に強く跳ねるものがあったりもするが、それもクライマックスへのプレリュードだ。

 

 

アルバム・ラストの二つ連続のメドレーでは、リズムはやはりカリビアンな跳ねる感じ。エレキ・ギターも気持よく刻みながら、エレベがうねり、ドラマーもパーカッショニストも軽快でたおやかで、本当にリズム・セクション全員がキレキレで素晴らしい。あ、ストリングス・セクションに聴こえるものは鍵盤奏者のシンセサイザーなのか?いや、リーフレットをよく見たらやっぱり生楽器奏者が(管楽器同様)いるなあ。でもシンセサイザーでも似た音を出して重ねてあるの?

 

 

女性バック・シンガーたちもいい。あくまでトニー・シャスールの影となって支えているだけだが、これがあるとないとでは大違い。ライヴ・パフォーマンスらしく、トニー自身も頻繁に(バンド連中にも客席にも)しゃべりかけながら軽やかでしなやかに歌い、ヴォイス・パーカッションも披露。鍵盤奏者がときおりエフェクト的に奏でるシンセサイザーでのキラリンという音も効果満点。

 

 

特に CD 二枚のラスト・トラックである最後の15分12秒間続くメドレーなんか、これがアルバム全体の大団円なんだろうけれど、 もうねえ、これが盛り上がらずにおられよかといった場面の連続で、すごくキモチエエ〜。超快感で、聴き終えるのが本当に惜しい。

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