
先週、いつかそんなプレイリストも書いてみましょうと言った『”アナザー”・イン・ア・サイレント・ウェイ』『”アナザー”・ビッチズ・ブルー』『”アナザー”・ジャック・ジョンスン』『”アナザー”・オン・ザ・コーナー』『”アナザー”・ゲット・アップ・ウィズ・イット』。ああ書いたら矢も盾もたまらずということになってしまうこらえ性のない性急人間ですがゆえ、僕は(苦笑)。
だから直後に iTunes でそんなプレイリストを作ってしまった。それじたいは僕にとってはわりと簡単なことで、上記五つが完成するのに、ぜんぶで20分もかからなかった。選曲し並び順を考えてプレイリストを作成するのが最大事なので、それさえできたら、それについて書くのはさほどの難事じゃない。今日は『”アナザー”・イン・ア・サイレント・ウェイ』だけ。今日から五週連続で1969〜75年マイルズの「アナザー」・シリーズです。
『”アナザー”・イン・ア・サイレント・ウェイ』のプレイリストから、まず記しておこう。
1. Directions I 6:51
2. Dual Mr. Anthony Tillmon Williams Process 13:23
3. In A Silent Way (Rehearsal) 5:27
4. The Ghetto Walk 26:50
以下、録音データ
1. Recorded November 27, 1968. NYC.
Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - soprano sax
Herbie Hancock - electric piano
Chick Corea - electric piano
Joe Zawinul - electric piano
Dave Holland - bass
Jack DeJohnette - drums
2. Recorded November 11, 1968. NYC.
Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - soprano sax
Herbie Hancock - electric piano
Chick Corea - electric piano
Dave Holland - bass
Tony Wiilams - drums
3. Recorded February 18, 1969. NYC.
Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - soprano sax
John McLaughlin - guitar
Herbie Hancock - electric piano
Chick Corea - electric piano
Joe Zawinul - electric piano
Dave Holland - bass
Tony Williams - drums
4. Recorded February 20, 1969. NYC.
Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - soprano sax
John McLaughlin - guitar
Herbie Hancock - electric piano
Chick Corea - electric piano
Joe Zawinul - electric piano
Dave Holland - bass
Joe Chambers - drums
以下、音源。
これで計53分。収録曲はすべて2001年リリースの『ザ・コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ』CD 三枚組から取ったもの。 一曲の長さからして、一枚の LP の A面B面に分割するのは不可能だけど、CD なら一枚で収まる。ソニーさん、どうですか?発売しませんか?まあダメですよね、こんなもの。
この時期のマイルズ・スタジオ録音作品の特徴を一言で表現すると <マイルズ+ジョー・ザヴィヌル・バンド> に尽きる。だから一曲目はザヴィヌルがマイルズのために書き一緒に録音したもののなかでは最重要曲であるお馴染「ディレクションズ」で幕開け。これは同じ1968年11月27日に2ヴァージョン目も録音されているが、よりシンプルでよりグルーヴィなヴァージョン1のほうをチョイス。
二曲目の「デュアル・ミスター・アンソニー・ティルマン・ウィリアムズ・プロセス」だけがまだザヴィヌル加入前なのでルール違反だが、大目に見てほしい。先週『ウォーター・ベイビーズ』の記事で書いたように、この1968年11月11日時点で、すでにその後のマイルズ・ファンクへつながる足がかりがハッキリできているし、なによりこんなにカッコいいグルーヴ・ナンバーを放ったらかしにせよというほうがご無体だ。これはもうすでに八割がた「イッツ・アバウト・ザット・タイム」じゃないか。
三曲目「イン・ア・サイレント・ウェイ(リハーサル)」は、もちろんザヴィヌルの書いた超有名曲。1969年発表のアルバム『イン・ア・サイレント・ウェイ』に使われているものは、諸情報を突き合わせると、おそらく3テイク目だ。それが最終テイクで完成品。しかし『ザ・コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ』には二つしか収録されていない。その完成品と、今日僕が選んだリハーサル・テイクの二つだけ。その公開されているリハーサルは2テイク目らしく、この前に一回録音しているんだよね。それはいまだに未発表のままだ。
「イン・ア・サイレント・ウェイ(リハーサル)」が1969年発表の完成品と一番大きく違っているのは、トニー・ウィリアムズのドラミングとテンポだ。完成品のほうではトニーは完全におやすみ。しかも約四分間まったくテンポ・ルパートで、定常ビートがない。フワフワ〜ッと漂うかのようなユートピア・サウンドだよね。
でも「イン・ア・サイレント・ウェイ(リハーサル)」を聴くと、そんなフワフワ漂う郷愁サウンドが、必ずしもこの曲の楽想ではなかったのだと分る。いや、アトランティック盤『ザヴィヌル』ヴァージョンの「「イン・ア・サイレント・ウェイ」や、ウェザー・リポート・ヴァージョンや、その他ザヴィヌルのいろんな曲から判断して、もとから浮遊感のある郷愁を誘うアンビエント・ナンバーではあった。それが「イン・ア・サイレント・ウェイ」の曲想には違いない。
だがボスのマイルズはちょっとだけ資質が違うんだよね。「イン・ア・サイレント・ウェイ(リハーサル)」を聴くと、トニーが軽い定常ビートを刻んでいて、しかもその特にリム・ショットの使い方には、ボサ・ノーヴァ・テイストが感じられる。ベースのデイヴ・ホランドだってピチカート奏法で若干跳ねていて、ギターのジョン・マクラフリンだって楽しそう。マイルズとウェイン・ショーターはやはり用意されたメロディを反復するだけだが、背後のリズムが面白いんだよね。シェイカーみたいな音も聴こえるが、なんだろう?パーカッショニストはいないはずなんだが。
ボサ・ノーヴァ・タッチで軽快でリズミカルな「イン・ア・サイレント・ウェイ(リハーサル)」。約五分間だが、これこそ今日の僕のこの『”アナザー”・イン・ア・サイレント・ウェイ』プレイリストの肝に据えたかったものなんだよね。どうだろうか?
プレイリスト最後の「ザ・ゲットー・ウォーク」。このグルーヴ・ナンバーは1969年2月20日録音で、アルバム『イン・ア・サイレント・ウェイ』を録音したわずか二日後。パーソネルは同じだが、ドラマーだけがジョー・チェンバーズに交代している。この時期、すでにトニーはマイルズ・バンドを脱退していて、そもそも『イン・ア・サイレント・ウェイ』だって、すでにジャック・ディジョネットが正式ドラマーだったころのセッションなのに、あのときだけなぜだかトニーが呼び戻されたのだった。だから二日後のセッションでトニーじゃないのは当たり前だ。しかしディジョネットでもないのはどうしてだろう?
そこは分らないが、「ザ・ゲットー・ウォーク」がかなりファンキーでカッコいいグルーヴ・ナンバーだってことは間違いない。『ザ・コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ』ブックレット記載の作曲者はマイルズにクレジットされているが、これはやはりどうも怪しい。聴いた感じ、やはりここでも演奏に参加しているザヴィヌルの曲なんじゃないかと思う。
しかも「ザ・ゲットー・ウォーク」はワン・パートじゃないみたいだ。動と静をなんどか往復する。「静」部分では主にボスのトランペット吹奏だが、「動」部分ではリズム・セクションの演奏が中心。その上に乗るソロはジョン・マクラフリンのギターが中心で、トランペットやサックスのソロはかなり短い。そもそもソロよりもリズムのグルーヴを聴かせるような内容だよね。
約26分間以上もある「ザ・ゲットー・ウォーク」だけど、「動」部分ではファンキーだし、「静」部分ではやや牧歌的だし、やはりザヴィヌルの書いたものに違いないと僕は踏む。そしてアルバム『イン・ア・サイレント・ウェイ』では テオ・マセロのテープ編集で <一曲> になっていた静と動が、「ザ・ゲットー・ウォーク」では文字どおり一曲のなかで双方繰広げられる。こんなのが2001年まで完全未発表のままだったなんてねえ。
最近のコメント