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2017/08/26

スライド・ギター好き必聴!〜 謎の変態ビルマ・ギター

Utin

 

Burmeseguitar









まず、ちょっとこれを見ながら聴いてほしい。これはいったいなんなんだ?

 

 

 

このギター独奏はビルマのウー・ティンという人のもの。ボディは木製に見えるけれど、金属製のコーン(反響板)があるので、リゾネイター・ギターの一種だろうなあ。それを寝かせて水平に置き、その上からスライド・バーで押弦し、サム・ピックみたいなものを親指と人差し指にはめて弦をピッキングしているよね。そして同時に歌っているのもウー・ティン本人なんだろう。

 

 

ここまではこの動画を観れば分ることだが、問題はこの旋律(音階)の摩訶不思議さだよなあ。それを奏でるギター弦六本のチューニングだって、どうなっているのやら、聴いても僕には分らない。こんなたとえを出すのは不適切だろうが、アメリカ産のブルーズやロックにおけるギターの使い方に慣れていると、なにがなんやらサッパリわけ分ら〜ん。スライド・バーだってあまり滑らせず、ただポン、ポンと置くように押弦しているよねえ。そのポジションを見ると、やはりどうしてこの弦のこの位置でこんな音程が出るのか、分ら〜ん。

 

 

しかしこんなのはビルマ・ギターをぜんぜん理解していない僕だからゆえ抱く感想であって、所詮アメリカ産音楽におけるギター使用法で推しはかろうなんていう心根がもとから間違っているよなあ。がしかし、ちょっとした関係がまったくゼロだというわけではないのかも。アメリカにおけるスライド・ギターはハワイ由来だというのが定説(異論もある)なんだけど、ビルマのスライド・ギターも、一説によればハワイ由来なんだそうだ。ってことはルーツは一緒か?

 

 

ビルマ・ギターもラップ・スティールみたいに(膝の上かどうかは見てもよく分らないが)寝かせて置いて上から押弦するっていうスタイル。謎の音階とチューニングは、たぶんビルマの古典歌謡や大衆歌謡をギター独奏で表現せんとして編み出されたものなんだろうと推測する。そう考えるとギター・スタイルとしてはまったく聴いたことのない摩訶不思議なものに聴こえるウー・ティンや、またもっと若いアウン・ナイン・ソーも、この二名によるそれぞれ一枚ずつ、計二枚しかビルマ・ギター独奏 CD アルバムはないはずだが、彼らのギター・ミュージックも、実はそんなに耳慣れないものじゃないはず。

 

 

ビルマ音楽完全無知の僕だって、竪琴演奏や、またソーサーダトンなどほんのちょっとだけの歌手や、その伴奏や、またサイン・ワイン独奏や、サイン・ワイン楽団の演奏など、少し CD アルバムを持っていて愛聴している。それらで聴ける音楽、旋律などから推しはかれば、ウー・ティンもアウン・ナイン・ソーも、わりと「耳馴染みのあるメロディがふんだんに出てきて、相好を崩すことウケアイ」なんだよね。僕も実はそう。

 

 

日本では、というか世界中でも、ビルマ本国でもってことか、上記二枚、ウー・ティンとアウン・ナイン・ソーのそれぞれ一枚ずつ(アルバム名はどっちも『Music of Burma : Burmese Guitar』)は、日本人、井口寛さんが現地ヤンゴンに赴いて録音したもので、かなり簡素な紙パッケージに入っているだけ。ジャケット表に二名それぞれのギターを抱えた写真と曲目が書かれてあるだけ。

 

 

しかし二枚とも録音状態は極上で、謎につつまれていたビルマの変態スライド・ギターがどんなものか、実によくクッキリと聴ける(分るとは僕には言えない)。それもそのはず、井口寛さんはあの『Beauty of Tradition 〜ミャンマーの伝統音楽、その深淵への旅』のプロデューサーだもんね。その二枚はまだビルマ音楽をまったく聴いたことがなく、どんなものかちょっと覗いてみたいなと思った方には、まずぜひこれを!と言える絶対の推薦盤。だって概観的アンソロジーがなかったビルマ伝統音楽をそのような入門盤で、しかもそれに詳しい井上さゆりさんの丁寧な解説文とともに味わえる、しかも極上の現地録音でっていう、まったくこれ以上のものはないアルバムなんだもん。

 

 

そんな井口寛さんが、やはり現地ヤンゴンで録音してきてくださって CD アルバムになったウー・ティンとアウン・ナイン・ソーのギター独奏ミュージック。どっちか一枚だけとおっしゃるならば、ぜひウー・ティンのほうを!と僕は強く強く推薦しておきたい。なぜならばウー・ティンはベテランのビルマ・ギター・ヴァーチュオーゾであって、現存する最高のギタリストだからだ。ウー・ティンに比べたら、最初はこっちのほうが先にリリースされたので僕も先に聴いていたアウン・ナイン・ソーが、そのときは凄い凄いと思っていたのが、そののち出たウー・ティンを聴いてしまったら、なんだかニュアンスに乏しいように思えてくるほどだもんね。

 

 

もちろんアウン・ナイン・ソーだって面白い。ウー・ティンがあまりに素晴らしすぎるので、同じ種類の音楽で比較したならば…、という意味。すなわちひるがえってウー・ティンのビルマ・スライド・ギター独奏アルバムは、それほどものすごいものなのだ。ちょっと聴いた感じ、のんびりのどか穏やかで、ぜんぜん「すごい」という印象を持たないだろうが、みなさんよくご存知のアメリカ人ロック・ギタリスト界でたとえると、あのライ・クーダーのあの持味にも似ている。ライも華麗に弾きまくったりなど決してしないが、すごく上手く、ものすごく素晴らしい。ライはウー・ティンを聴いているのかなあ?ライのことだから聴いてそうな気がするけれど(ライは YouTube でいろんなものをどんどん聴いているし、以前は河内音頭も聴いていた)、もし万が一聴いてなかったら、ぜひライ本人のところにエル・スールで買ったウー・ティンの CD を持っていきたい気分だ。

 

 

いちばん最初にご紹介した YouTube 音源ではイマイチ分りにくいかもしれないが、CD で聴くウー・ティンのアクースティック・ギターのサウンドは、かなりアタック音が強くしっかりしている。強すぎるとすら思うくらいなんだけど、そんな弦さばきにギター・ヴァーチュオーゾのヴァーチュオーゾたるゆえんがあるんだよね。どんな楽器でも同じじゃないかな。いつものようにこの人のことを書くと嫌われそうだけど、あのマイルズ・デイヴィスのトランペット・サウンドも、女性的でソフトだという見方が支配的だけど、アタック音はかなり強いんだ。ウィントン・マルサリスくん、見習ってください。

 

 

ウー・ティンの CD では全編にわたり、そんな強すぎると思うほどのアタック音で、粒立ちも良すぎるほどの見事なギター・サウンドで、1〜6曲目までが金属製ボディのもの、7〜11曲目までが木製ボディのものを使い、単弦弾きや分散和音弾きでビルマ古典歌謡や大衆歌謡(をやっているという話だが、そのへん、僕はまだよく知らない世界だから)をギターに置き換えて表現し、またそれにもとづくインプロヴィゼイションも披露している(と CD パッケージに書いてあるが、どこからが即興なのやら僕には判断できない)。また一曲丸ごとがギター即興というものもあるみたいだ。

 

 

ビルマ音楽ファンや、また僕みたいにそれに興味を持っているがまだ10枚も聴いていないという初心者ファンでも、耳馴染のある歌手の歌い廻しのフレイジング、特にフレーズの歌いはじめや歌いおわり部分での微妙なフレイジングの持ち上げ、伴奏楽団の旋律の創り方などが、リゾネイター・ギター・スライドでのフレイジングの端々に垣間見えて(つまりスライド・バーを用いてのヴィブラートや微分音移動)楽しいし、またライ・クーダーやそのファンみたいに、世界のあらゆるギター・ミュージックに興味がある、特にスライド・プレイに惹かれているというファンにもオススメ。僕はこの二つ両方なのでメチャメチャ面白いウー・ティンとアウン・ナイン・ソーの CDアルバムなのだった。

 

 

ひょっとしてまだご存知ないプロ・ギタリストのみなさんも、ぜひ!

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コメント

まだ正式発表はしていませんが、フライングでお知らせしちゃいましょう。
まもなく井口プロデューサー制作のウー・ティン第2作がリリースされます(たぶん9月中には)。
今度はソロ・ギターではなく、竹琴(パッタラー)と女性歌手が加わっています。
そして、ミャンマー・ギターの謎を解き明かす解説も、今回は付いています。
解説は私メが書きました。

おお〜〜っ!そ〜れは超楽しみです!!

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