これがベイシー楽団リズム・セクションの実力だ
カウント・ベイシー楽団のリズム・セクションがいくら素晴らしいと言われても、最も高名な1930年代後半のオール・アメリカン・リズム・セクションは録音状態がイマイチだから、やっぱり古い音を聴きなれないみなさんにはピンとこないのかもしれないよね。その証拠に(専門家を除く)一般のふつうのジャズ・ファンのあいだには、あのフレディ・グリーン(ギター)+ウォルター・ペイジ(ベース)+ジョー・ジョーンズ三人の腕前を褒め称える文章を書く人がほぼいない。すごく上手いと思うんだけどね。
だから戦後録音で、しかもかなり状態のいい音質で、特にウッド・ベースのブンブン鳴る音とか、またこの人だけは死ぬまで一貫してベイシー楽団を離れなかったフレディ・グリーンの、あのピック・アップのついていないアクースティック・ギターでの地味で小さい音(に思えるでしょう、ふつうは)でのカッティングとかも鮮明に聴こえ、ベイシー楽団のリズム隊がいかに絶妙な上手さで演奏しているのか、非常に分りやすい一枚を、今日はご紹介しておく。
それは1962年録音のインパルス盤『カウント・ベイシー・アンド・ザ・カンザス・シティ 7』だ。このアルバム・タイトルでお分りのようにコンボ編成録音。ベイシー関連でこの「カンザス・シティ・セヴン」名というと、レスター・ヤングらによる1939年録音がファンには有名なはず(だが?)。もちろん1962年時点でのベイシー当人も、プロデューサーのボブ・シールもそれを意識して名付けたアルバム・タイトルで、あのころのあれと同じようなものを創ろうよというアイデアだったんだだろうと思う。
1930年代後半と同じメンツはボスのベイシーとギターのフレディ・グリーンだけ。あとはリズム隊も、フロントでソロを吹く管楽器隊も当然全員違うメンツだが、中身は1962年インパルス盤『カウント・ベイシー・アンド・ザ・カンザス・シティ 7』だってかなりいいぞ。少人数編成(ホーンは三管)であるがゆえ、リズム・セクションの動きが非常に分りやすい。というか、僕の聴いている範囲では、例えば特にフレディ・グリーンのリズム・ギターの上手さがいちばん分りやすい作品なんじゃないかと思う。
一番いいのが一曲目の「オー、レイディ・ビー・グッド」。まずベイシーのピアノ・ソロではじまる。なんて上手いんだ、ベイシー。すんごく簡潔きわまりない弾き方だけど、ツボだけを確実に押さえていくような名人芸だ。すぐに三人のリズム・セクションが入ってくる。フレディ・グリーンのカッティングもこれ以上ないほど鮮明に聴こえるね。
ところでこれを、またアルバム・フルででも、お聴きになれば、収録曲の演奏はかなりしっかりアレンジされているぞとお気づきのはず。この部分だけは戦前録音のベイシー楽団関連(コンボ編成含む)とは大きく異なっている。アレンジャーはトランペットで演奏に参加しているサド・ジョーンズに間違いないはず。それがどこにも書かれていないのは、誰だって分る至極当然のことだからだろう。サドはアレンジャーとしてもベイシー楽団に、その後もサド・ジョーンズ〜メル・ルイス・オーケストラに、多大な貢献をしたのはみなさんご存知のとおり。
面白いのは三曲目の「アイ・ウォント・ア・リトル・ガール」だよなあ。これは上述した1939年のレスター・ヤングらがコンボ編成でやっているものだ。そこではレスターはクラリネットを吹いた。今日話題にしている62年インパルス盤では、サド・ジョーンズの、モダン・トランぺッターにしては珍しいワー・ワー・ミュート・プレイと、ベイシーのオルガンをフィーチャーしている。この曲をとりあげようという着想自体が、あのレスターらのコンボ・セッション録音を意識したという証拠だ。出来上がりのフィーリングはかなり違っているのだけれど。いちおうフランク・フォスターがクラリネットを吹いている(がレスターとは比較できない)。
またそれに続く四曲目(A 面ラストだった)「シュー・シャイン・ボーイ」も、オールド・ベイシー楽団ファンには楽しいナンバー。 ベイシー楽団関連での初演は1936年11月9日のヴォキャリオン(コロンビア系)録音で、それもレスター・ヤング中心のコンボ編成。ベイシー楽団のコロンビア系録音集四枚組にも入っているし、レスター・ヤング名義のエピック盤『レスター・リープス・イン』にも収録がある名演。
1962年インパルス盤『カウント・ベイシー・アンド・ザ・カンザス・シティ 7』ヴァージョンの「シュー・シャイン・ボーイ」だってかなりスウィンギーでいいじゃないか。36年ヴァージョンで聴ける個々のソロ内容と比較するのは無粋というものだけど、リズム・セクションの躍動感は決して引けを取らない。しかも録音状態がいいせいで、特にギターとベースの二名がどこでなにをしているのかクッキリ分るよね。そこがいいんだ。また後半部のホーン・アンサンブルとソニー・ペインのドラムス・ソロ(バス・ドラの踏み方に注目)との掛け合いなんかも楽しいよ。
アルバム B 面は四曲すべて1962年録音当時のオリジナル・ナンバー。ベイシー楽団も戦前からやっているガーシュウィンの有名曲や、その他二曲のクラシックスがある A 面に比べ、かなり地味で目立たない内容であるのは間違いない。今日ここで告白するが、アナログ・レコードでは僕は B 面を聴いたような記憶がない^^;;。まあ A 面があんな素晴らしさですがゆえ〜。
こういうところ、そのままにしておけばダラダラ続けてB 面分再生も来る CD メディアのメリットを感じないわけではない。というか、間違いなく一つの長所ではあるなあ。盤面をひっくり返さないといけないから聴いていなかった B 面(や C 面や D 面など)がそのまま流れてくるので、なんとなく流し聴きしていたら、おっ、なかなかいいじゃん!って気づくっていう。 いいところだってあるぞ、LP 盤の CD リイシュー。
1962年インパルス盤『カウント・ベイシー・アンド・ザ・カンザス・シティ 7』B 面には12小節定型ブルーズが二曲ある。(CD だと)五曲目の「カウンツ・プレイス」とラスト八曲目の「ワッ’チャ・トーキン?」。この二曲ではサド・ジョーンズがあまりアレンジの手をくわえていない。わりとストレートにそのままやっているジャズ・ブルーズ演奏で、手の込んだ A 面との違いが面白い。後者「ワッ’チャ・トーキン?」でのフランク・ウェスは、フルート・ソロの途中でボビー・ティモンズ(アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ)の「モーニン」を引用しているよね。
B 面三曲目(全体の七曲目)の「タリ・ホー、ミスター・ベイシー」の前半部は、A 面の「オー、レイディ・ビー・グッド」前半部と並び、ベイシーのピアノ並びにリズム・セクション三人のあまりの上手さが際立っている演奏。こっちではまずドラムス・ソロではじまって、ベース、ギター、ピアノの順に入ってくる。出だしでソニー・ペインが叩くリズム・パターンもかなり面白い。
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