« 「鷹匠」渡辺貞夫 | トップページ | レコードや CD を処分しないで »

2017/08/07

スティーリー・ダンの復活ライヴ、なかなかいいよ

1280x1280








(いま耳が聴こえにくいので音楽の細かいことが分らないシリーズ 16)

 

 

昨日、エレベ奏者トム・バーニーに言及し、彼はスティーリー・ダンの復活ライヴ・アルバム1995年の『アライヴ・イン・アメリカ』で弾いていると書いたら俄然これを聴きなおしたくなり、いま聴いているけれども、まあやっぱり耳の聴こえはまだまだダメだなあ。よく知っている大好きな既知音源だから、こんな聴こえ方じゃないはずだと分る。まあいい。いまの聴こえ方で感じることだけ書いておこう。それにヘッドフォンで聴くと、スピーカーで聴くよりまだマシなんだよね。これはどうして?スピーカー(やその他空中の音)はダメでヘッドフォンなら OK(に少しだけ近い)というのは、どういう科学的根拠があるの?どなたか教えてください。

 

 

ともあれスティーリー・ダンの1995年リリース作『アライヴ・イン・アメリカ』。これは1980年にファイナル・スタジオ作『ガウチョ』をリリースし、このバンドが活動を停止して以後、初の復帰アルバムだった。もっともこれの二年前、93年にドナルド・フェイゲンのソロ作『カマキリアド』があるにはあった。これもフェイゲンのソロ名義作としては『ザ・ナイトフライ』以来11年ぶりだったもの。そして『カマキリアド』では盟友ウォルター・ベッカーがベースとギターを弾きプロデュースもやっているので、この93年あたりで、最後のほうはこの二名だけのプロジェクトになっていたスティーリー・ダン本格復帰への地ならしができていたんだろう。

 

 

渋谷東急プラザ内の新星堂(ここでかなり買ったのだ、職場へ行く前とか帰りとか、京王井の頭線の乗り降り場所からいちばん近かったので)で スティーリー・ダン『アライヴ・イン・アメリカ』CD 現物のパッケージを見たときは、ちょっと目を疑った。こんなタイトルだからライヴ盤なんだろう?裏ジャケットにははっきりと大規模屋外ライヴ会場みたいなのが写っているし、フランケンシュタインが(死んだ?)美女を抱えている表ジャケットだって、アルバム・タイトルとあいまって、死からの再生のメタファーみたいなものなんだろう(だから復活第一弾盤)?アメリカ・ツアー収録盤か?と分るものの、裏ジャケに書かれてある曲目一覧には、『エイジャ』や『ガウチョ』の収録曲もかなり並んでいたからだ。

 

 

ファンのみなさんには釈迦に説法だけど、スティーリー・ダンのライヴ・パフォーマンスは1974年のものが最後になっていた。スタジオ・アルバムで言えば三作目の『プレッツェル・ロジック』のあたりまで。あのへんまでは、このバンドもまだ「バンド」だったよなあ。あ、そうだ、band という英単語が音楽集団を意味するようになったいきさつについては、しぎょういつみさんの名著『よりみち英単語』p.14で説明されているので、ぜひご一読を。Kindle 版なら Loc. 2502の145。ホント面白いんですよ、この本。

61bt2vnu7zl_sy498_bo1204203200_




 

 






そんな感じで band ではなくなって、ある時期以後ライヴ活動を完全にやめて、オーヴァー・ダビングの繰返し、あまりにも多い回数の録りなおし、気狂いじみた編集作業など、スタジオ密室作業で音楽を創るようになっていたスティーリー・ダンの、そんな方向性における傑作が、上でも書いた1977年の『エイジャ』、80年の『ガウチョ』。がしかしそれゆえに、これら二作で聴ける曲はライヴ演奏など間違いなく不可能だと、周囲やファンはもちろんそう思っていたし、ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカー本人たちだって似たような考えだったんじゃないかなあ。

 

 

それが1995年に店頭に並んだライヴ盤『アライヴ・イン・アメリカ』には、『エイジャ』『ガウチョ』のレパートリーがたくさんあったのだ。しかもスタジオ作、ライヴ作の別を問わず、そもそもスティーリー・ダンの復活第一作だったし、そりゃもう躊躇なく東急プラザ内新星堂のレジに、いつものようにほかの二・三枚と一緒に持っていった僕。

 

 

帰宅して CD プレイヤーでかけた『アライヴ・イン・アメリカ』。一曲目があの「バビロン・シスターズ」なんだけど、客席のかなり小さい音量での喧騒音に続きバンドの演奏がはじまった瞬間に、こりゃ傑作だ!と確信した僕。うんまあ、そりゃスタジオ・オリジナルと比較したならばね、もちろんイマイチなんだけど、これ、一回性・一発録りのライヴ演奏ですから。

 

 

しかも聴いた感じ、録音後にスタジオで手を加えた形跡もない。どの曲もすべてそうだ。全11曲、綿密なリハーサルを繰返したに違いない出来だけど、最終的にはライヴ会場での一発録りをそのまま収録したんじゃないかなあ。ドナルド・フェイゲン/ウォルター・ベッカー・コンビの、というかフェイゲンの、スタジオ密室作業でのあのこだわり方を知っていると、ライヴ・アルバムではかえって逆に修正しない(で済むように準備はしているわけだけど)ままなんじゃないか、そういう性格の音楽家なんじゃないかと僕は思ったりもする。曲間のつながりをスムースにする編集ならかなり綿密にやっているけれど、曲の演奏じたいには手を入れていないかも?

 

 

『アライヴ・イン・アメリカ』。一曲目に「バビロン・シスターズ」を置いた(ライヴ現場でどうだったかは知らない)のは大正解だ。これは見事なツカミだからね。しかし僕がもっと好きなのは二曲目「グリーン・イアリングズ」三曲目「バディサトゥバ」のメドレー。前者が1993年のアーヴァイン(カリフォルニア)公演、後者が94年のデトロイト公演からのピックアップだから、スッと自然につながって聴こえるその部分だけはもちろん繊細な編集作業のたまもの。

 

 

だがこれら二曲での演奏そのものがいいんだよね。僕が一番好きなのは「グリーン・イアリングズ」で叩くピーター・アースキンのドラミングだ。アルバム『アライヴ・イン・アメリカ』では、1993年ツアーでも94年ツアーでも、バンド(ブックレットでは「オーケストラ」との記載)・メンバー編成は、基本、同じだが、ドラムスだけが93年はアースキン、94年はデニス・チェンバーズで、ここだけ入れ替わっている。

 

 

化け物デニス・チェンバーズは本当に awesome(フェイゲンのコメント)だと納得だけど、好みだけで言うと、僕はピーター・アースキンに軍配を上げてしまう。たんにジャコ・パストリアスと一緒だったウェザー・リポート全盛期のドラマーだったからとかいうんじゃない。だいたいあの1970年代末〜80年代初頭ごろのアースキンは、まだまったくたいしたことないじゃないか。

 

 

と〜ころが、『アライヴ・イン・アメリカ』二曲目「グリーン・イアリングズ」でのピーター・アースキンはめちゃくちゃ上手いよ。最高のグルーヴを叩き出している。全般的に素晴らしいが、特にスネアの使い方が気持イイ。アースキンの十八番である例のハタハタ・スタイル。一番カッコイイのがドナルド・フェイゲンがツー・コーラス歌い終えて 1:50 で ウォルター・ベッカーのギター・ソロになるのだが、弾きはじめて以後、途中 2:08 で転調するまでのあいだのスネア・ハタハタがチョ〜キモチエエ〜〜!!

 

 

 

『アライヴ・イン・アメリカ』にある、ピーター・アースキンが叩く1993年ツアー分は、この「グリーン・イアリングズ」と、六曲目の「ブック・オヴ・ライアーズ」(アルバム中、この曲だけウォルター・ベッカーが歌う)、八曲目の「サード・ワールド・マン」と、たった三つだけ。これらのうち、「ブック・オヴ・ライアーズ」は、曲じたいがなんでもないものだと思うのであれだけど、「サード・ワールド・マン」でのアースキン・ドラミングがこりゃまた最高なのだ。ドナルド・フェイゲンも "Erskine perfect" とコメントを寄せている。以下はアルバム収録ヴァージョンそのままではなく、それの現場でのオーディエンス録音。

 

 

 

なんだかピーター・アースキンのドラムスの話しかしていないが、まあねえ、あれなんだ、耳の聴えが悪い現状況下、ドラムスの音なら、バスドラを除き、なぜだかけっこうしっかり聴えてくるんだよね。特に金属音、つまりシンバルやハイ・ハットが目立つが、スネアも聴こえる。ほかの楽器やヴォーカルのサウンドはイマイチだったりダメだったりがまだ続いている。そんなもんで、ドラマーの演奏だけにフォーカスして聴きたい音源なら、いまちょうどピッタリなんだよね。ドラムスだけが、まるでミックスを変えたみたいに浮き上がって聴こえるもん。特にシンバルとハイ・ ハット。

 

 

同じドラマーでも、『アライヴ・イン・アメリカ』ではこっちのほうがたくさん叩いているデニス・チェンバーズのことをほとんど書いていないじゃないかと言われそうだけど、デニスのことはみんな褒めているじゃないか。だから僕が改めて言う必要はないはず。あまり言われないが、ドナルド・フェイゲンが1994年ツアー収録分に混ぜて93年録音分も、それもまるでメドレーみたいにして並べて違和感なしと判断しただけあるという出来だよ、このアルバムでのピーター・アースキンはね。

« 「鷹匠」渡辺貞夫 | トップページ | レコードや CD を処分しないで »

ロック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: スティーリー・ダンの復活ライヴ、なかなかいいよ:

« 「鷹匠」渡辺貞夫 | トップページ | レコードや CD を処分しないで »

フォト
2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ