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2017/08/12

岩佐美咲のダンス演歌

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(いま耳が聴こえにくいので音楽の細かいことが分らないシリーズ 21)

岩佐美咲(ブラジル滞在中)の歌は「本当に日常的に」聴いている僕。もはや無条件降伏状態なのだ。だから毎日(「のように」ではなく文字どおり毎日)聴いていて、それでいろんな考え、というかまあ音楽的妄想が、言い方を換えれば頭の体操、冒険が浮かぶ。今日の文章もまたそんな一つなので、岩佐美咲に興味がない、え〜っと AKB なんちゃらの女子タレでしょ〜、そんなもの…、などというお考えの方々は、どうぞ無視してください。

さて、ふつう、演歌は「聴く」ものだ。それに合わせて「踊る」人は、確かにいるだろうが少数派かもしれない。しかしもともと演歌には日本におけるラテン歌謡、タンゴ調歌謡の一形式みたいな部分もあったので、ダンス・ミュージック的な要素だってあるにはあったと言えるはず。

春日八郎「別れの一本杉」(曲は船村徹)みたいな演歌(調歌謡曲だが)に多いあんなリズムの感じ、ちょうどイタリアの「オ・ソレ・ミオ」によく似ているあの感じは、どっちもルーツを辿るとやっぱりセバスティアン・イラディエールの「ラ・パローマ」に行き着くんだろうなあ。もっとも演歌に多いあんなリズム・フィールは、直接的にはアバネーラの影響というよりも、アルゼンチン・タンゴのリズムが流入したと見るべきだと中村とうようさんは指摘している。

しかしながらいまちょっとネットで調べてみたら、「別れの一本杉」を書いた船村徹は、ジョルジュ・ビゼーの例の高名なオペラ『カルメン』にあるアバネーラを聴いてヒントにしたのだという記述が出てくる。う〜ん、確かに考えてみたら、日本人大衆歌謡作曲家だって、ヨーロッパのクラシック音楽作曲家のものをどんどん聴いて参考にしていたのは間違いないんだろう。どんな分野であれ作曲でメシ食っている世界の人間が、西洋のクラシカル・コンポジションを聴いていないなんてありえない。じゃああれか、日本の演歌(調)で聴けるあんな跳ねる感じのリズム・フィールは、「直接的には」ビゼー『カルメン』からの流入か。

といってもアルゼンチン・タンゴにしろビゼーの『カルメン』にしろ、ルーツは同じもの。もとはキューバのアバネーラ。さらにそれを耳にして自分の作品に使ったスペイン人コンポーザー、セバスティアン・イラディエールの「ラ・パローマ」だ。イラディエールのこの曲のいちばん最初の楽譜がマドリードで出版されたのが1859年だから(この曲にかんしては、これ以外の正確な年号が判明しない)、ってことはこれより前に「ラ・パローマ」はできあがっていたはず。

フランス人ビゼーがフランス語で書いた『カルメン』の場合も、何年作曲との正確な年が分らないのだが、少なくともパリでの初演は1875年。ということはイラディエールの「ラ・パローマ」を知らなかったとは思えない。「ラ・パローマ」はヨーロッパ各地で親しまれ、さらにアメリカにも渡って人気があった。実際、ビゼーは「ラ・パローマ」ではないが、同じイラディエールが1864年に発表した同じリズム・パターンの「エル・アレグリート」から直接借用し、それがかの有名な「カルメンのハバネラ」となった。

アルゼンチン・タンゴのあんなリズムの感じだって、こっちはスペイン人経由ではなく、直接キューバからアバネーラのパターンが流入し、ああなった。こっちはほとんど書いておく必要がないだろう。

つまり日本の演歌(調歌謡)に多い、あんなような跳ねるリズム・フィールも、直接的には(中村とうよう説に反し)タンゴの流入ではなく、ビゼーの『カルメン』のアバネーラを下敷きにしている、というか間違いなく『カルメン』のレコードを船村徹にしろ誰にしろみんな聴いていたはずだから、それを借用というか取り入れて、日本の(演歌調)歌謡曲なりに活かしたということになる。それでも、なんもかんもぜんぶひっくるめてそもそもの《起源》はキューバのアバネーラにあるんだよね。

ってことはいつごろのことかはっきりしないが18世紀末か19世紀あたりかにキューバであんなリズム・パターンが誕生していなかったら(それをキューバ滞在中のスペイン人イラディエールが耳にしなかったら、という部分もあるが)、日本の演歌調歌謡曲だって、ある時期以後いままで続いているような、あんな感じのものは生まれなかったことになるぜ。カリビアン・ミュージック様さまじゃないのさ。

岩佐美咲から少し離れてしまった。岩佐がいままで歌って CD などのパッケージ商品にしている曲のなかにも、ラテン調のダンス・ナンバーはいくつもある。まず、オリジナル楽曲が、最新の「鯖街道」まで六つあるが、そのうち三つがかなりダンサブルだ。「無人駅」「初酒」「鯖街道」の三つ。これら以外の「もしも私が空に住んでいたら」「鞆の浦慕情」(ハード・ロック!)「ごめんね東京」にも軽いダンス・フィールはあるように僕には聴こえる。

でもまあ最も顕著にダンサブルなのは「初酒」と「鯖街道」だな。「初酒」はズンドコズンドコっていう、むかしから演歌調にはよくあるリズム・パターンで、いかにも日本の農民ダンスに似合いそうな調子のもの。日本農耕民族感覚のダンス・チューンだというのは、演歌調のものが日本全土でどういうものとして想定(デザイン)され、どういう受け入れられ方をしているかを考えるときに、まあまあ重要なことなんじゃないかと思うんだよね。詳しいことは難しそうだからやめとくよ。

「鯖街道」のほうは、曲題とおりマーチ調…、とはちょっと違うのか、でもそれにちょっぴり似たような、街道を行進していくようなズンズン進む感じのダンス・リズムだ。しかも「初酒」でも「鯖街道」でも(いま僕が聴いているのはオリジナル・シングル・ヴァージョン)、岩佐美咲の歌い方にはモッサリしてリズム感の悪いようなところがぜんぜんない。モッサリしてリズムのノリが悪い歌手が、日本の(演歌調)歌謡歌手のなかには少しいるよね。岩佐はぜんぜんそうじゃない。確かに発声はキュートで可愛いアイドル・ヴォイスだが(なにが悪い?)、歌い廻しは大人のサッパリした歯切れのよい感じで、スパスパ軽快にリズムに乗っているのがイイネ。

岩佐美咲のカヴァー曲のなかにもダンス演歌がある。いちばんはっきりしているのは(いま僕は CD だけ聴きかえしているので、DVD でたくさん聴けるカヴァー・ソングのことは考えていない)「石狩挽歌」だ。これが超ダンサブルな歌だっていうのは、北原ミレイのオリジナル・ヴァージョンからそうだったので、改めて言う必要もないだろう。こっちは農耕感覚じゃなく漁業感覚のダンス・チューンか。どっちにしても日本第一次産業的ダンス・フィールだ。岩佐のヴァージョンでもドラマーの、特にスネアとタムの叩き方が素晴らしく跳ねているが、歌手本人の歌い方だって、まあ北原ミレイには及ばないと言わざるをえないが、各種あるカヴァー・ヴァージョンのなかでは、僕の聴くところ、いちばん優れている。北原ミレイのオリジナルをじっくり聴いて勉強したに違いない歌い方と出来栄えだ。無表情を装ったアッサリ感がソックリだから、疑いえない。

岩佐美咲が歌う「いわゆる」演歌調じゃないカヴァー・ソングになら、ダンス・チューンはもっとたくさんある。「リンゴの唄」「東京のバスガール」などもそうだが、特にすごくいいなと思うのがテレサ・テンの「つぐない」とシグナルの「20歳のめぐり逢い」だ。どっちも強くダンサブルで、前者はラテン調、というよりも鮮明にアバネーラの跳ねるパターンを使い、後者は、例えばビートルズの「アイ・アム・ザ・ウォルラス」みたいな、いわゆるシェイクってやつ。

どっちも岩佐美咲ヴァージョンをご紹介できないので、初演歌手のものを貼っておこう。まず三木たかしが書いたテレサ・テンのアバネーラ歌謡「つぐない」。
岩佐美咲ヴァージョンでのアレンジもほぼこれに忠実にやっているのだが、どうです、このリズムの跳ねるフィールは?完璧にアバネーラじゃないだろうか?特にベーシストの弾き方なんかにもはっきりしているし、ドラマーの叩き方だってモロそのまんまだ。三木たかしがアバネーラを(直接)意識したかどうかは、さほど重要な問題ではないと思う。重要なのは、こんなふうなカリブ〜ラテンなダンス感覚が、日本の(演歌調)歌謡のなかにもうすっかり染み込んでいて、作家自身、歌手自身が意識しなくとも自然に表出されるほどまでになっているという事実だ。

シグナルの「20歳のめぐり逢い」はこれ。う〜ん…、いかにも一時期の日本のいわゆるフォーク・ソングだ(このオリジナル・ヴァージョンだけだと、僕はちょっと苦手かも?)。
岩佐美咲ヴァージョンの「20歳のめぐり逢い」も、アレンジの基本はこれに沿っているのだが、こんな暗く哀しい(曲ではありますが、確かに)フィーリングがやや弱くなっていて、まあそれは歌う人間の性別や資質がぜんぜん違うからというのが一番大きいだろうが、伴奏アレンジだって、途中、ドラムス(は打ち込みっぽい音だ)が奏でるリズムが、まるでグルグル廻りながら一箇所で跳ねているような眩惑的なグルーヴ。シェイクっぽいよ。岩佐の「20歳のめぐり逢い」をご紹介できないので、ビートルズの「アイ・アム・ザ・ウォルラス」 を貼っておこうっと。

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