コルトレーンなジャズ・ファンク 〜 1970年ライトハウスのリー・モーガン
1970年7月10〜12日にカリフォルニアで行われたリー・モーガン・クインテットのライヴ・パフォーマンスを少し収録した CD 三枚組『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』。少しというのは、このアルバム附属のブックレット末尾に三日間のセット・リストがぜんぶ掲載されているのだが、三枚の CD には全パフォーマンスの約半分しか入っていない。
それでも1971年に LP 二枚組でリリースされたときは、片面一曲ずつの計四曲しか収録がなかったわけだし、また、セット・リストを眺めていると、一日三回ステージの三日間計12セットでは同じ曲がなんども演奏されていて、同じメンツによる一続きの三日間であることを踏まえると、同じ曲の演奏内容にはあまり差がないんだろうと判断できる。1996年にリイシュー CD をプロデュースするためブルー・ノートのテープ倉庫に入り、おそらくは全部聴いたであろうボブ・ベルデンもそう考えたはず。
それでリー・モーガンの『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』は CD 三枚で計12曲の収録となっているのだが、まず第一印象としては、LP で聴いていたみなさんも同じだと思うのだが、一曲の演奏時間が長い!長すぎるんじゃないかとすら感じる場合もある。がしかしこれはちょっと興味深い考察テーマになりうるかもしれない。なぜならば、これ、1970年のライヴでしょ。同時期の(一部の)ロック音楽家のライヴ・アルバムのことを思い出してみて。
英クリーム、ブラインド・フェイス(は1970年にはもうないが)、米グレイトフル・デッド、オールマン・ブラザーズ・バンドなどなどその他たくさん、その後90年代のジャム・バンドの先駆け的存在だったロック・バンドは、スタジオ録音作品ではそうでもないが、ライヴ演奏は長尺になることがかなりあったじゃないか。そんなアルバムがたくさんある。今日話題にしているリー・モーガンのライヴは1970年7月で、しかも西海岸で行われたものなんだよね。ねっ、ちょっと面白そうでしょ。
1960年代末ごろからロック・バンドのライヴ演奏が長尺化していたのは、私見ではブルーズをサイケデリック化してジャムっていたから、ってことに煎じ詰めるとそうなるんだけど、一面、60年代フリー・ジャズのライヴ・パフォーマンスにも影響された面があったかもしれないよね。ジョン・コルトレーンだって、ライヴでは一曲を延々20分とか30分以上もやっていた。フリー・ジャズ・メソッドのロックへの流入?
リー・モーガンの『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』は、あくまで直接的にはコルトレーン的1960年代モーダル(&ちょっとだけフリー・)ジャズ・ライヴの延長線上にある。なんたって(ほとんどの曲で)テナー・サックスのソロを吹くベニー・モウピンのスタイルなんか、コルトレーンのそれをソックリそのまま引き写したものだし、ピアノのハロルド・メイバーンだってドラムスのミッキー・ローカーだって、マッコイ・タイナーとエルヴィン・ジョーンズみたい。ベースのジミー・メリットとリーは、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ時代からの旧知の仲。
ただし、コルトレーンの1960年代モーダル・ジャズ、フリー・ジャズ風が基本になっていて、CD 三枚の収録曲の多くがそんな演奏であるリー・モーガンの『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』だけど、最大の違いは、このリー・モーガンのアルバムではかなり重要なことだから強調しておきたい。それはリー・モーガンのほうはファンキーで、しかもジャズ・ロック風だということ。ジャズ・ファンク一歩手前みたいな演奏や、ラテン・ジャズ・ロック(or ファンク)みたいなものだってある。
しかしながらじっくり考えてみたら、そんなファンキーなロック、ファンク、ラテンへのジャズ・メン側からの接近だって、実は1967年に死んだコルトレーンの遺産だという面もあるんだよね。かつてのボスだったマイルズ・デイヴィスがそれを70年代に本格継承して発展させ開花させたんだ、マイルズのあんなのは、要はかつての弟子コルトレーンからこうむった逆影響だったんだと、僕は以前から繰返している。そんな影響はリー・モーガンにだってあっただろうし、なんたって完璧コルトレーン・スタイルで吹くテナー・サックスのベニー・モウピンが、もう…。ベニー・モウピンにかんしてはこんな路線の発展系が、『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』の少しあとからハービー・ハンコックのファンク・バンドでの活動につながったと考えれば、いろんなことがだいたい分るでしょ〜。
そんなわけだから、まだずいぶんと1960年代モーダル&フリー・ジャズそのまんまみたいな部分を(特にベニー・モウピンが)残しているとはいえ、リー・モーガンの『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』で聴けるジャズ・ファンクへの予兆みたいな部分だって、コルトレーンの蒔いた種が花開き収穫したものなんじゃないかなあ。ベニー・モウピンが8/16系ビートのファンキー・リズムに乗ってフリーキーにブロウしまくるのを聴いていると、あと三年だけでもコルトレーンが生きていてくれたら間違いなくこうなったはずだと確信できる。ジャズ・ロック、ジャズ・ファンクなどと言うと、一部のコルトレーン信奉者は顔を真っ赤にして怒り出すかもしれないが、分っていないのはアンタがたのほうだ。
リー・モーガンの場合は、七年前の1963年に『ザ・サイドワインダー』みたいな作品を発表してはいるので、62年に「ウォーターメロン・マン」(『テイキン・オフ』)をリリースしていたハービー・ハンコックみたいな資質は間違いなくあった。そんなロック/ファンクな8/16ビート・グルーヴを発展させて、その後のコルトレーン(的モーダル、フリー)・ミュージックを滋養とし、さらに結果的には同じところに辿り着いた同時代のロック・バンドみたいな長尺ライヴ演奏を展開した 〜〜 これが1970年録音の『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』の本質なんだと僕は信じている。
曲「ザ・サイドワインダー」だって、オリジナルよりもグッとファンキーさを増して再演しているのが、三枚目ラストに収録されている。この曲はいわばアンセムみたいなもんなのだ。リー・モーガンもベニー・モウピンも激しくブロウするのがイイし、その背後でミッキー・ローカーがファンク・ドラミング(特にスネアの叩き方)を聴かせてくれるのもウレシイが、最大の歓喜はハロルド・メイバーンのピアノ・ソロ後半だ。
ピアノ・ソロの真ん中でトランペット+テナー・サックスの二管アンサンブルによる伴奏リフが入るのだが、それが終った瞬間(10:01)にハロルド・メイバーンは、いきなりウィルスン・ピケット1962年の大ヒット・チューン「ダンス天国」(Land of 1000 Dances) のかの有名なリフレイン部分を弾くんだよね。なんてカッコよくてなんて楽しいんだろう!録音状態にやや難ありと判断されたのか、1971年のレコード・リリース時にお蔵入りし、三枚組 CD でもラストにオマケみたいにひっついているのだが、とんでもない。付録どころか、「ダンス天国」なこの「ザ・サイドワインダー」こそが最大の目玉なんだよなあ。
最後に、リー・モーガンの『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』で聴けるラテンとブラジリアンについてちょっとだけ。スパイス的に使われているラテン・テイストなら随所にあるが、いちばんはっきりそのまんまなのは二枚目三曲目「サムシング・ライク・ディス」。ミッキー・ローカーのドラミングがなかなか凄い。
続く二枚目ラストの「アイ・リメンバー・ブリット」。これは明快なボサ・ノーヴァ・ジャズ。ミッキー・ローカーがリム・ショットをそれふうに多用し、またベニー・モウピンはフルートを軽やかに吹く。この一曲だけは1960年代コルトレーンからの影響を僕は感じない。作者はハロルド・メイバーンだけど、アントニオ・カルロス・ジョビンの「ウェイヴ」にそっくりだよね。
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