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2017/09/14

Hats Off to Patti Page Singing the Duke

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田中勝則さん編纂のディスコロヒア盤2014年の『ニッポン人が愛したパティ・ペイジ』。これをエル・スール(http://elsurrecords.com)で買うときにだけ附属してくる無料 CD-R『パティ・シングズ・スタンダード』が、も〜うホ〜ントすんばらしいのなんのって。なんなんだこの素晴らしさは!パティ・ペイジのことを、そのへんのただの甘ったるいポップ・シンガーで人気はあったがシリアスに耳を傾けるにはちょっとね…、なんて考えているジャズ・ファンの方々は、速攻、エル・スール(http://elsurrecords.com) で『ニッポン人が愛したパティ・ペイジ』を買い、附属する『パティ・シングズ・スタンダード』を入手し聴いてほしい。

 

 

 

ジャズ聴きである僕の耳には、ワルツ・ナンバーがどんどん来る『ニッポン人が愛したパティ・ペイジ』は、まあ最近どんどんいい感じに聴こえるようになってはいるものの、それでもいまのところはまだ『パティ・シングズ・スタンダード』のほうがずっとイイ。本来附属品であるはずのもののほうが本体みたいになっていて、愛聴することこの上ない大好物になっているんだよね。

 

 

『ニッポン人が愛したパティ・ペイジ』解説文の田中勝則さんによれば、パティはマーキュリー・レーベル時代の1954年にスタンダード・ナンバーの録音を開始。7インチ EP シングルでなんまいか発売され、その後10インチ、12インチの LP レコードでいくつか出て、コロンビア移籍後の1963年までアルバムがあるそうだ。しか〜も!なんと!どれもこれもまだ CD リイシューすらされていない(というのは2014年時点での情報だが)そうだ。こんなに嘆かわしい事態があるだろうか?ポップ・ファン、ジャズ・ファンの双方にとってアメリカ音楽史上最大の痛恨事じゃないだろうか?

 

 

僕がこう言えるのも、たった12曲、たった37分間とはいえ、『パティ・シングズ・スタンダード』で一部が聴けているからだ。あるいはひょっとしてこの CD-R 収録曲以上の、あるいは同じくらいの出来のものは、ほかにないのかもしれない。そんな厳選した12曲なのかもしれないが、これほどまでに素晴らしいんだから、これらよりちょっとくらい劣っていたって、僕ならぜんぶ聴きたいね。

 

 

ちゃんとそれらパティのスタンダード曲歌唱をどこか CD 化してくれ!それまで待つことなど不可能だから、と思えるほど『パティ・シングズ・スタンダード』で聴ける歌が素晴らしく輝いているから、辛抱たまらず今日書いているんだよね。

なんたっていちばんすごいのがトップに四曲並んでいるデューク・エリントン・ナンバーだ。その四曲こそ、パティの持つ真の意味での技巧が非常によくわ分るものだ。どうしてかって、それら四つとも元は歌じゃない器楽演奏曲だからだ。ところがそれらをパティは軽々と余裕綽々で、あたかも最初からヴォーカル・ナンバーとして作曲されたものであるかのように、実にスムースかつナチュラルに歌いこなしている。

 

 

『パティ・シングズ・スタンダード』トップの四曲は、どうやらマーキュリー1954年の7インチ EP『パティ・ペイジ・シングズ・ザ・デューク』(EP-1-3089)に収録されているものを、そのまま持ってきているようだ。曲は「アイ・ガット・イット・バッド」「ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニイ・モア」「ドゥー・ナシン・ティル・ユー・ヒア・フロム・ミー」 「アイ・レット・ア・ソング・ゴー・アウト・オヴ・マイ・ハート」。エリントン愛好家じゃなくたってジャズ・ファンなら間違いなく全員知っている。

 

 

しかもですね、その『パティ・ペイジ・シングズ・ザ・デューク』のジャケットには御大エリントンが写っていて、しかも歌うパティの背後でのアンサンブル・サウンドを聴いて判断するに、これはデューク・エリントン楽団自身が伴奏をつけているんじゃないだろうか?楽団はそうじゃないかもだけど、アレンジだけは間違いなくエリントン本人のペンだ。紙に情報があるわけないのでネット検索したが、いくら調べてもこの伴奏がエリントン楽団だ、アレンジャーがエリントンだということを書いてあるものはなかった。エリントンの各種ディスコグラフィをどれほど見ても分らないんだよね。

 

 

だからまたしても僕の耳判断という、この世で最も信頼ならないものをアテにするしかないのだが、『パティ・シングズ・スタンダード』のトップ四曲エリントン・ナンバーは、すなわち7インチ EP『パティ・ペイジ・シングズ・ザ・デューク』は、エリントン楽団が伴奏か、あるいはほかの演奏家たちかが、エリントンの書いたスコアをやっていると言い切ってしまう。最も顕著なのがリード楽器(サックス&クラリネット)セクションの、あの独特のハーモニー・カラーだ。それにブラス群が絡むときの、ちょっぴりジャングル・サウンドっぽくグロウルしているあたりとか、ブラスのなかでもトロンボーン・セクションのブワッ、ブワッっていうあの茫洋とした響きとか、エリントンっぽいよなあ。

 

 

この御大デューク・エリントンがアンサンブル譜面を書き、自楽団か別楽団で伴奏をつけて、スタンダード化している自身の有名代表曲をパティ・ペイジが歌ったのだという、この僕の推測が当たっているのだとすれば、パティは、ジャズ界最高の、いや、アメリカ音楽史上最高のアンサンブル集団(かあるいはそれを率いる人物の書いた譜面)を向こうに廻し堂々と微塵も臆するところもなく、もともとは楽器で演奏するために書かれたメカニカルな旋律である上記四曲を、まったくメカニカルに聴こえないほどスムースな歌として、しかしそれでも元旋律には忠実正確に歌いこなしているっていう 〜 なんだこりゃ?!神業じゃないか!!ひょっとしてパティ・ペイジって、アメリカ音楽史上最高峰の歌手だったんじゃないだろうか?

 

 

『パティ・シングズ・スタンダード』ではトップ四曲のエリントン・ナンバー以下、五曲目以下の八曲も大変に素晴らしいが、いやあ、参りました。完全に脱帽だよね、こんな歌の数々。どうして本家がちゃんとした CD リイシューをしないのか、それだけが不可解千万。リイシュー CD がないのは大失態だ。全人類にとって大損失だとしか思えない。

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コメント

 これを読んで早速エル・スールにて購入。
 雑音まじりのラジオで必死に聞いた「テネシー・ワルツ」「泪のワルツ」「君待つワルツ」の入った本編より、おまけのスタンダード集の方が確かにすんなり聞けます。
 私の耳にはエリントン・ナンバーに続く、5曲目のドゥーワップナンバー「I Only Have Eyes For You」がやたらと印象的でした。曲調が変わるからでしょうか。
 それにしてもこんな大事なことを教えていただき、ありがとうございます。
 

ものすごく嬉しいです。

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