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2017/09/18

レスター躍動す

Unknown








以前、猫ジャケというくくりでご紹介したエピック・イン・ジャズのシリーズ。

 

 

 

このときには書かなかったが、このシリーズ、猫ジャケであるデザインも中身の音楽も、すべて大学生当時から知ってはいたが、自分でレコードを買ったことがない。ほしくてたまらなかったのだが、僕が存在を知ったころにはすでに入手がかなり困難だった。買えなかったんだよね。ぜんぶジャズ喫茶で聴きジャケットも眺めていただけだ。あ、ご存知のようにジャズ喫茶では、いまかけているレコードとしてジャケットが見えるようにしてくれる。いまでもそうなの?煙草をやめてからは、ヤニ臭くなってしまう場所には足が向かなくなった。このジャズ喫茶観も時代錯誤?

 

 

そんなエピック・イン・ジャズ・シリーズのなかから、今日は『レスター・リープス・イン』のことを書いてみよう。タイトルどおりテナー・サックス奏者レスター・ヤングにスポットライトを当てた一枚だ。上記のような事情で自分ではレコード持っていなかったから、これを含め、エピック・イン・ジャズのシリーズは、すべて、リイシュー CD で揃えたのが自分で買って持った最初。でも A 面 B 面の切れ目がどこだったかは記憶がある。『レスター・リープス・イン』の場合は、CD 七曲目「レスター・リープス・イン」が B 面トップだったはず。

 

 

さてエピック盤ということは、レスターに限らずこのシリーズはすべてコロンビア系の音源なわけだけど、『レスター・リープス・イン』のばあい、収録の全12曲は1936、39、40年の録音だ(日本語解説文の岩浪洋三は、これを一ヶ所”わざと”間違えて、36年録音の三曲を39年と書いている)。しかし、レスター・ヤング名義のレコードは一つもない。当然ながらすべて当時のボス、カウント・ベイシー名義のビッグ・バンドかコンボ編成録音だ。

 

 

1936年と書くと、エッ?と思われるファンの方もいらっしゃるかも。36年のベイシー楽団はデッカと契約していたので、コロンビア系レーベル(『レスター・リープス・イン』収録曲のばあいぜんぶヴォキャリオン)に堂々と名前を出せるわけがない。だから36年録音はジョーンズ - スミス Inc というコンボ名でレコード発売されたのだが、メンツは全員ベイシー楽団からのピック・アップ・メンバー五人(どうしてだかギターのフレディ・グリーンが異例の不参加)で、だから完璧なるベイシー・コンボ。いまではベイシー名義のコロンビア録音集ボックスにだって収録されている。岩浪洋三が39年録音だと誤記したのが故意だと僕が判断するのは、36年と書いたらそれはデッカ時代だから、ファンがエッ?となるはずだと岩浪も想定したんだろうということ。

 

 

『レスター・リープス・イン』には、ベイシーのヴォキャリオン初録音である1936年11月9日の四曲から「イヴニング」を除く三つが、それもアルバム・ラストに収録されている。「シュー・シャイン・ボーイ」「オー、レイディ、ビー・グッド」「ブギ・ウギ(アイ・メイ・ビー・ロング)」。「ブギ・ウギ」(と未収録の「イヴニング」)では、ブルーズ歌手ジミー・ラッシングが歌っている。デッカにも録音があるし、ラッシングも戦後ヴァンガード盤で再演しているしで、お馴染のはず。

 

 

アルバム『レスター・リープス・イン』は、やはりいちおうはレスター・ヤングをフィーチャーしようとしたコンピレイションなので、そこに話を絞りたいが、1936年11月9日の三曲では、以前も触れた「シュー・シャイン・ボーイ」でのソロが圧倒的に素晴らしく leap in している。このセッション・デイトでの管楽器はカール・スミスのトランペットとレスターのテナーだけなので、ソロも長めで分りやすい。「オー、レイディ、ビー・グッド」でのテナー・ソロも文句なし。

 

 

 

 

アルバム・ラストに収録の「ブギ・ウギ」はジミー・ラッシング・ナンバーだが、これは8ビートのブルーズ・シャッフルなんだよね。8ビート・シャッフルは、むかしからデューク・エリントンその他みんなやるのだが、むかしのジャズのビートは2拍子か4拍子だってのはウソなんだよね。8ビート・シャッフルをやるのは、要は踊りやすいから。ベイシーの場合カンザス・シティ出身なわけだから、より一層そうなる。KC ジャズはダンス・ミュージックなんだもんね。

 

 

 

録音順に並び替えると次に来るのが、アルバム『レスター・リープス・イン』 CD だと六・七曲目と連続する「ディッキーズ・ドリーム」「レスター・リープス・イン」の二曲。カウント・ベイシーズ・カンザス・シティ・セヴン名義の六人編成による1939年9月5日ヴォキャリオン録音。39年でようやくボスの名前を出すことができた。しかしやはりフレディ・グリーンが不参加なんだなあ。ディッキーとは、このセッションにも参加のトロンボーン奏者ディッキー・ウェルズのこと。

 

 

この二曲では、やはり「レスター・リープス・イン」における主役のテナー・ソロがあまりにも素晴らしい。自在に躍動するブロウとはまさにこのことだ。この曲はジャム・セッションの素材になりやすいので、チャーリー・パーカーらもとりあげた。あっ、パーカーもカンザスの人間じゃないか。以前も書いたが、カンザスはサックス・タウンでもあるんだ。

 

 

 

録音順で次になるのが、アルバム『レスター・リープス・イン』ではトップに並ぶ五曲で、それらはカウント・ベイシー・オーケストラでの演奏。1939年3月19日(「ロック・ア・バイ・ベイシー」「タクシー・ワー・ダンス」)、39年4月4日(「ジャンプ・フォー・ミー」)、39年4月5日(「トゥウェルフス・ストリート・ラグ」)、39年8月4日(「クラップ・ハンズ!ヒア・カムズ・チャーリー」)。

 

 

それらはビッグ・バンド録音であるがゆえ、ソロも入れ替わり立ち替わりいろんな人が取って、テナー・サックスだけでもレスターだけじゃなくバディ・テイトも吹くし、アルトのアール・ウォーレンも吹くしで、レスターの名人芸にだけ集中しにくい面がある。しかも「ロック・ア・バイ・ベイシー」と「ジャンプ・フォー・ミー」ではレスターのソロはなし。

 

 

それでもソロ時間が短めだとはいえ、出てくると一聴でレスターだと分る独自スタイルがあるのはさすがだ。特に「タクシー・ワー・ダンス」「トゥウェルフス・ストリート・ラグ」ではメロディアスによく歌い、それでいながらよく跳ねる見事なソロを吹いている。「クラップ・ハンズ!ヒア・カムズ・チャーリー」では、最初アール・ウォーレンが短いアルト・サックス・ソロを吹くが、その後はずっとレスター一人が華麗に吹く。

 

 

 

 

 

残す二曲、CD だと八、九曲目の「ソング・オヴ・ジ・アイランズ」(1939年8月4日録音)「モーテン・スウィング」(40年8月28日録音)もカウント・ベイシー・ビッグ・バンドでの演奏。前者のアイランズとはハワイ諸島のことで、曲も元はハワイアン・ナンバーだが、それをスウィング・ジャズ化している(冒頭のバック・クレイトンのトランペットに、かすかなハワイアンの痕跡があるよね)。後者は KC ジャズ・アンセムなんだけど、残念ながらレスターのソロはなし。後半部のフル・バンド・スウィング怒涛の迫力を楽しんでほしい。

 

 

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