ブラック・ウッドストックの興奮
この感動をどう表現したらいいのだろう?通常の意味での言葉では不可能だと思える。いっそ踊りまくるか、あるいはなにか、とにかく身体で激しく動いて表現する以外にこの強い興奮を鎮め、大きな感動を伝えることなど不可能かもしれない。それほどまでと思う『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』。こりゃとんでもないブツだ。今年の発掘・リイシューもの第一位は、もはやこれ以外ありえない。
『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』CD 二枚組は、ブラック・ウッドストックとも呼ばれる1974年9月22〜24日にザイール(現コンゴ民主共和国)のキンシャサにある5月20日スタジアムで開催された音楽祭の(一部の)記録。つまりライヴ・アルバムだ。1974年のキンシャサの5月20日スタジアムで、というと多くのみなさんがあれを思い出すだろう。そう、ジョージ・フォアマン対モハメド・アリの世紀の一戦。その前夜祭という位置づけで同じスタジアムで音楽コンサートが開催されたのだった。
「キンシャサの奇跡」関連の詳しいことは書いておく必要がないだろう。音楽コンサートのほうは前夜祭になるはずだったのが、フォアマン対アリの世紀の一戦は延期されてしまったので、前夜祭としての意味を失い、したがってヘヴィー級タイトル・マッチ目当てでの集客も見込めず、興行的には散々な結果に終わってしまった。それもあってか音楽祭<ザイール 74>の音源はお蔵入り。43年間も眠ったままだった。
『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』に収録されているのは、タイトルどおりアフリカ側からこの音楽フェスティヴァルに出演した音楽家だけ(しかもコンプリートではないようだ)。アメリカ側から参加した黒人音楽家の音源は、以前から少しリリースされていたみたい?だが、僕はそれもよく知らない。個人的にジェイムズ・ブラウンやファニア・オール・スターズあたりには強い興味があるのだが、今日はアメリカ側はおいておく。アフリカ人音楽家の話だけしたい。実際『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』にはそれのみ収録されている。
『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』は、しかも超高音質。だって16チャンネルのマルチ・トラック・テープ・レコーダーで録音したものだからね。1974年のアフリカン・ポップスをこんないい音で聴いたのは、個人的に生涯初。こんなの絶対ウソだ、奇跡だとしか思えない。だいたい全盛期のフランコの、あのまろやかな味わいがこれ以上によく分るものって、ないのでは?つまり最高級の音源。それだけでも十分買う価値のある二枚組ボックスだ。興奮しているのは僕だけじゃない。なんたって解説文をお書きのアフリカ音楽玄人である荻原和也さんだって、文中で胸の高鳴りを抑えられていないもんね。すれっからしの萩原さんですらそうなんだから、僕みたいな人間なんか、いままさに最大級の興奮が爆発せんとしている。
だからなにからどう書いたらいのか分らないくらいなのだが、ちょっと気持を落ち着けてみよう。『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』に収録されている計七組の音楽家のなかで、僕にとって一番グッと来るのは四組。一枚目収録のタブー・レイ・ロシュロー&アフリザ、アブンバ・マシキニ、二枚目収録のフランコ&TPKOジャズ、オルケストル・ストゥーカスだ。これら四組には共通する特徴がある。それは複数台エレキ・ギターの絡みが超カッコイイってこと。
『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』一枚目一曲目。MC に続きタブー・レイ・ロシュロー&アフリザの演奏がはじまった瞬間に、左右両チャンネルで刻む二本のエレキ・ギター・リフがあまりにもカッコよく、しかもファンキーで超絶グルヴィでイカされてしまう。ドラマーもベース・ドラム、ハイ・ハット、スネアの三つで組み立てる躍動感のある叩き方。ホーン・リフも素晴らしい。二曲目からヴォーカルが出るが、やはりギターがカッコよすぎる。なんなんだこれ?
急速調にアレンジされた「サロンゴ」は、この CD だと三曲目、四曲目とトラックが切れているが、パート2のほうではグッとテンポを落としミディアム・グルーヴィな感じになる。やはりこれでも名手マヴァティクのエレキ・ギターと、もう一本のギターとの激しい絡み合いが素晴らしく感動的で、しかもスーパー・ダンサブル。な〜んだこりゃ!いやあ、すごい楽しい。音楽の快楽ってこういうもんだよね。
『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』一枚目に二曲だけ収録されているアブンバ・マシキニはかなりの僕好みギタリストだ。これは女性歌手アベティ登場の露払いとして、弟アブンバ・マシキニが演奏したもの。個人的にはアベティもさることながら、弟のギターのほうに強く惹かれてしまう。僕は初めて聴いたギタリストなんだけど、ジミ・ヘンドリクス、そして誰よりもカルロス・サンタナによく似ている。ヴォーカルのほうはたいしたことないような。
特に CD1六曲目「マガリ・ヤ・キンシャサ」でのアブンバ・マシキニは、ギターにファズ(かなり深い)とワウをかませ、サステインのよく効いたサウンドで弾いてキモチエエ〜。アフリカ音楽に特に強い興味のない米英ロック・ミュージック・リスナーに『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』を聴かせたら、間違いなくこのアブンバ・マシキ(と CD2のミリアム・マケーバ)に惹きつけられるはずだ。サンタナ風ラテン・ロック・テイストで、そんなソロを、それもジミヘンばりに弾くわけだからさ。七曲目「リンビサ・ンガ」もサンタナだ。はっきり言って「トライ・ジャー・ラヴ」にそっくりだが、この「リンビサ・ンガ」のほうがパフォーマンスは先だ。
『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』二枚目は、いきなりフランコ&TPKOジャズからはじまり、計11トラック。上でも書いたが、この11トラックこそ夢の、奇跡の、音源。1974年というフランコの全盛期に、しかも正真正銘のライヴ録音で、しかも地元ザイールのキンシャサで行われたコンサート音源で、これほどまでクリアな極上録音で、それが聴けるという、あぁ〜、もう興奮するなあ。つまり<最高の>フランコがこれなのだ。嗚呼、どうしよう?!!
音楽フェスティヴァル<ザイール 74>は、まさにフランコが音楽生涯の頂点に達していた時期に、しかも地元キンシャサで開催されたものなわけだから、つまりすべてがピッタリ合致している。それが録音されていて、しかもこんなにもいい音で録音されていたなんて。それがいまここに聴けているなんて。こりゃ絶対ウソだ。夢だ。奇跡だ。全盛期のフランコのバンドの、そのまろやかな味わいは特にエレキ・ギターのサウンドに集約されている。ギター・アンサンブルと分厚いホーン群のリフも、ここまで鮮明に分離した音で味わえるなんてなあ。
フランコの11トラックについては、いまだ聴くたびごとに興奮しすぎるので、冷静に言葉を綴ることなど僕にはできない。とにかく素晴らしく楽しい。快感だ。フランコのライヴでは定番だったインストルメンタルなダンス・パートも味わえる極上の11トラック。実際、フランコのパートでは、いやまあ『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』はだいたいぜんぶそうだけど、聴きながら僕は部屋のなかで踊っている。そうせざるをえないグルーヴ感じゃないか。あなたもぜひ『ザイール 74:ジ・アフリカン・アーティスツ』を買って聴いて踊っていただきたい。
フランコについては冷静に書くことができないのでこのあたりまでにしておいて、CD2のほうで僕のかなりのお気に入りであるオルケストル・ストゥーカスの四曲についてちょっとだけ書いておこう。このバンドも間違いなくこの1974年当時のザイールのルンバ・サウンドを演奏していて、しかも世代的にフランコあたりよりも若いせいか、新感覚のスピードとスリルあふれるロック的なルンバでイイネ。
個人的な趣味嗜好だけを言わせていただくと、告白すると僕は11トラック収録のフランコよりも、4曲収録のオルケストル・ストゥーカスのサウンドのほうがイイ。だぁ〜ってね、最高にカッコイイもんねえ。エレキ・ギター複数台の絡みで進むあたりはお馴染のルンバ・マナー。それもいいが、ドラマーとコンガ奏者の叩き方が疾走感・躍動感満点で、スピーディで超カッコエエ〜!このスピード感はストリート感覚っていうことでもあるんだろうね。
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