生聞電飾公園
ローウェル・ジョージ時代のことにまだまったく触れてもいないのに、いきなりポスト・ローウェル時代のリトル・フィートについて書くのもどうかとは思うんだけど、なかなかいいライヴ・アルバムだと思う1996年リリースの CD 二枚組『ライヴ・フロム・ニオン・パーク』。ポートランド(オレゴン)とサン・フランシスコとロス・アンジェルス三ヶ所での1995年のライヴ収録から抜粋して編集されたもの。ホ〜ント、かな〜りいいんだぞ。たぶんローウェル亡きあとのフィートのアルバムではいちばんいい。
まあローウェルのスライド・ギターとあの声がないのはやっぱり寂しいわけではあるけれど、1995年のライヴ収録盤二枚組で、フィートの代表曲がだいたいぜんぶ聴けるし、それも演奏内容だってかなりいいし、だからまだフィートをまったく聴いたことがないんだけど、手っ取り早く有名代表曲をまとめてぜんぶ聴けるものってないですか?と問われたら、僕ならこの『ライヴ・フロム・ニオン・パーク』を推す。ローウェルのいないフィートを推薦するなんてケシカランと怒られそうだよなあ。
この1995年当時のフィート最大の特色は女性ヴォーカリスト、ショーン・マーフィーがいることだ。フィートで女が歌を歌うなんて許さん!なんてカタイこと言わないで。そんな狭量な偏見を捨てて『ライヴ・フロム・ニオン・パーク』を聴いてほしい。相当にいい女性ヴォーカリストだと実感できるはずだし、このライヴ・アルバムではほかの、全員男性でヴォーカルも担当する人たちに混じって、ほとんどの曲におきマイク・リレーでいい味付けになっている。それに専業歌手はショーン一人だしなあ。男性歌手陣は、当然、楽器演奏のあいまに歌っている。
『ライヴ・フロム・ニオン・パーク』。「イントロダクション」に続き本編一曲目の「トゥー・トレインズ」がはじまる。エレキ・ギターのシングル・トーン弾きでリフがはじまって、ハモンド B3 オルガンも入り雰囲気が出てきたなと思う刹那に、リッチー・ヘイワードがド〜ン!と叩きはじめるのだが、あの瞬間の背筋ゾクゾクはホンモノの音楽的スリルだね。あれを感じない人はいないはず。いくらローウェルがいなくても、あのリッチーのドラミングにヤラレないフィート・ファンなんているのかな?
「トゥー・トレインズ」のメイン・ヴォーカルは男性だけど(誰の声だろう?)、それに女性ショーン・マーフィーが絡む。マイク・リレーで受け持ちパートを交代するだけでなく、男性ヴォーカリストとハモったりしてゴージャスな感じでかなりいいぞ。エレキ・ギターのスライド・プレイによる間奏ソロもある。この一曲目「トゥー・トレインズ」だけで、それもリッチーの叩き出すグルーヴだけで、この『ライヴ・フロム・ニオン・パーク』のクオリティの高さは保証されたようなもんなんだよね。
二枚組で全部で22トラック、計1時間22分あるので、かいつまんで話をするしかないが、一枚目四曲目の「ロック・アンド・ロール・エヴリナイト」は当時の新曲か。この曲ではショーン・マーフィーのヴォーカルが大きくフィーチャーされていて、リズムとサウンドは曲題とおり典型的ロックンロール・シャッフル。ショーンは迫力のあるうなり声でなかなかいい。中間部でストップ・タイムを使ってあるところでの凄み方なんか大変なもんだよなあ。やはりスライド・ギター・ソロと、それからこの曲ではホンキー・トンク・スタイルのピアノも聴こえる。
六曲目の「ウィリン」。知らぬ人はいないローウェル・ナンバーだが、ここではアクースティック・ギターをまずスライドで、次いで指での押弦でポール・バレーアが弾き、お馴染のローウェル・スタイルのトーキング・ヴォーカルを聴かせる。なかなかいい味だ。はい、そこのあなた、ローウェルのあのボソボソしゃべりと比較しちゃいけません。この曲でもコーラスでショーンが参加(女に「ウィリン」を歌わせるなって言わないで)。エレピ・ソロもある。マンドリンが入るので、それはフレッド・タケットだが、その部分でカリブ風南洋ムードが漂っている。アメリカ西海岸にはだいたいヒスパニックが多いんだしね。
八曲目の「キャント・ビー・サティスファイド/ゼア・レッド・ホット(ホット・タマルズ)」のことは以前触れた。マディ・ウォーターズ&ロバート・ジョンスンのメドレーを、前半はアクースティック・ギター・スライドでデルタ・ブルーズふうにやり、後半部はディキシー・ランド・ジャズでやる。だからホーン・アンサンブルとクラリネットのソロも出る。
このロバート・ジョンスンのオリジナルからしてラグタイム・ナンバーである「ゼア・レッド・ホット(ホット・タマルズ)」部は、『ライヴ・フロム・ニオン・パーク』二枚目六曲目の、17分以上もあって大上段に構え劇的に大展開するクライマックス「ディキシー・チキン」への布石になっているんだよね。まあでも「ディキシー・チキン」のほうはちょっとやりすぎなんじゃないかと思わないでもないので、このあとも触れないでおこう。
9曲目の「キャディラック・ホテル」もショーン・マーフィー一人の上手いヴォーカルをフィーチャーしたものだけど割愛して、もっと素晴らしいのが11曲目のアイザック・ヘイズ・ナンバー「ユア・テイキング・アップ・アナザー・マンズ・プレイス」だ。この切ないソウル・バラードをショーンが実に胸に迫る歌い方でやるのだが、これが実にいい。おそらく『ライヴ・フロム・ニオン・パーク』二枚組全曲の全員のぜんぶのヴォーカル・パフォーマンスを通しても、この曲でのショーンの歌がいちばんいい。ソウル・バラードだけど、ちょぴりイーグルズみたいなフィーリングもある。ポール・バレーアのギター・ソロも感動的。それはテナー・サックス・ソロと絡んでのもの。いやあ、ショーン・マーフィーってすごくいい歌手じゃないか。
『ライヴ・フロム・ニオン・パーク』二枚目は、やはり当時の新曲?「テキサス・トゥウィスター」で幕開けだけど、続く二曲目がローウェルでお馴染「ファット・マン・イン・ザ・バスタブ」。リッチー・ヘイワードがやはりセカンド・ライン・ドラミングを聴かせてくれて、ビル・ペインのシンセサイザーも大活躍。四曲目がやはりお馴染「ロング・ディスタンス・ラヴ」だけど、これもショーン・マーフィーのヴォーカルをメインに据えているんだよね。それがいい味なんだ。遠距離恋愛の切々たる感情をこれだけ哀感をともなって歌えるんだから、素晴らしいじゃないか。
一曲はさんで六曲目が問題の?「ディキシー・チキン」。これを18分近くも延々とやったあとに続く4トラックは、『ライヴ・フロム・ニオン・パーク』のなかではあくまでオマケ的位置づけでしかないから、やはりこの「ディキシー・チキン」こそがこの二枚組ライヴ・アルバムのクライマックスなんだよなあ。音楽スタイルや曲調やキーやリズムやテンポが、どんどんなんどもチェンジして、かなり壮大でドラマティックに激しく展開するが、う〜ん、ちょっとこれはどうなんだ?楽器ソロ部分なんか、まあなんというかその〜、ダラダラしていませんか…?
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