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2017/09/10

ブラウニーのストックホルム・セッション四曲

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そういえば最近ないなと気がついたので、なんでもないふつうのモダン・ジャズのことも書いておこうっと。どなたかお待ちになっている読者さんが…、ということはぜんぜん分らないのでそういうことじゃなく、僕自身がやっぱりたまには書きたいだよね、ハード・バップみたいな音楽のことをね。心の底からさ。

 

 

それでクリフォード・ブラウンの、スウェーデン録音を含む『メモリアル』をチョイスしたのだが、ちょっとややこしく混同しそうなので注意が必要なのは、ブラウニーの場合、『メモリアル・アルバム』というタイトルのものもあって、タイトルだけからしたら混同必至だけど、なんの関係もない別のアルバムなのだ。同じ1953年録音だけど、『メモリアル』は6月のニュー・ヨーク録音と11月のストックホルム録音でプレスティジ盤。『メモリアル・アルバム』のほうは6月と8月のブルー・ノート録音。

 

 

う〜ん、でも似ていることは似ているなあ。同じ年だしパーソネルもジジ・グライスが重なっている。これは当然なんだよね。この1953年というとブラウニーはライオネル・ハンプトン楽団の一員だった時期で、同楽団で冬に渡欧した際、パリで楽団員の一部と深夜に繰り広げたセッションの録音集が、例の九月録音の三枚『パリ・セッションズ』(その他種々のタイトルで出ている)なんだよね。そしてこの『パリ・セッションズ』一枚目はビッグ・バンド編成だが、そのアレンジを書いたのが(クインシー・ジョーンズではなく)やはり同楽団員だったジジ・グライスにほかならない。

 

 

クインシーだってこの当時のライオネル・ハンプトン楽団に在籍していたのに、あの譜面を書いたのがジジ・グライスだという(のは間違いない)のは、どうしてだったんだろうなあ?あの一連のパリ・セッションは、同楽団メンバーがボスには秘密にしたまま、深夜にホテルを抜け出して実施したものだと言われているのだが(本当だろうか?)、クインシーはホテル脱出に参加しなかったってことかなあ?

 

 

あっ、ふつうのモダン・ジャズの話をするといいながら、またしてもいつもの方向へ話が逸れていきそうなので、退却退却、話を戻して『クリフォード・ブラウン・メモリアル』。同じ1953年録音だけど、僕にとってはストックホルム録音の四曲こそが沁みるので、もう片面のニュー・ヨーク録音5曲6テイクは、実はさほどでもない。11月ストックホルム録音の、例えば「ストックホルム・スウィートニン」とか「恋に恋して」(Falling In Love With Love)とか「恋人よ我に帰れ」(Lover Come Back To Me)とか、いいじゃんねえ。

 

 

告白するけれども、大学生のころの僕が『クリフォード・ブラウン・メモリアル』をレコード・ショップ店頭で見て買おうと思った最大の理由が、「恋人よ我に帰れ」があるからだった。大好きなんだよね、この曲のメロディの動きが。特にサビ部分が。そういえばこれも大学生のころだったかもっとずっとあとだったか、ジュリー(沢田研二)が、なにかのテレビ・ドラマ(?)のなかで、この曲を歌っていたよなあ。どんな感じだったのかも忘れてしまったが、とにかく僕は好きな一曲。女性ジャズ歌手のものなら、ビリー・ホリデイのとかじゃなく、ミルドレッド・ベイリーのがいちばんいいと思うよ。

 

 

ありゃ、またよりみちをしそうに…。ほんみちに戻して戻して『クリフォード・ブラウン・メモリアル』。じゃあその「恋人よ我に帰れ」の話からしようっと。ピアノ・イントロに続きいきなり朗々と吹きはじめるのがブラウニーだ。このストックホルム・セッションには、当時のライオネル・ハンプトン楽団の同僚だったアート・ファーマーも参加していて、彼もかなり上手いのだが、出だしのトランペットがブラウニーであることは誰も疑わないだろう。この二名以外はスウェーデン人ジャズ・メンが演奏している。

 

 

 

いやあ、「恋人よ我に帰れ」って歌詞がどうこうっていうんじゃなくって、(なかでも特にサビ部の)メロディの動きが本当に素晴らしいよ。それをブラウニーみたいな輝かしいトランペット・サウンドで演奏されるからタマラン快感だ…、と思いきや吹かず、いきなりアド・リブ・ラインをやる。でもコード進行はイイネ。これを録音した1953年というと、一般的な見方としては、ブラウニーはまだ完成しきってはいないということになりそうだけど、そんなことないぜ〜。レコード・デビューである1952年のクリス・パウエル楽団での録音からして、すでにブラウニーは立派で完璧だ。

 

 

 

ストックホルム録音の「恋人よ我に帰れ」。一番手のブラウニーに続き、名前の読みが分らないスウェーデン人ピアニスト(Bengt Hallberg)のソロはちょっぴりエディ・コスタっぽい弾き方(でもぜんぜん知らん)。続きアルト・サックスのソロ(Arne Domnérus)はアメリカ西海岸の白人サックス奏者に似た柔らかく軽いサウンド。内容はどうってことないような。次いでバリトン・サックス・ソロ(Lars Gullin)。この人はジェリー・マリガンに似ているから、マリガン好きな僕にとってこのバリサクは、『クリフォード・ブラウン・メモリアル』のストックホルム録音四曲で、ブラウニー&区別がつきにくいアート・ファーマー(はどこでソロ吹いてんの?)の次に楽しめるものだ。

 

 

ところでそれらストックホルム録音四曲は、2トランペット+アルト&バリトンの2サックス+トロンボーンで、計五管。しかもそれら五本&リズム・セクションが、つまり全体が、かなりしっかりとアレンジされているのは、聴けば誰だって分ることだ。緻密に入り組んだ部分だってあるし、ソロ廻しの順序だって考え抜かれている。アレンジャーのクレジットはないものの、クインシー・ジョーンズの仕事だったとみんな知っている。根拠は三つ。一つ、上でも書いたようにこの当時のライオネル・ハンプトン楽団で同僚だったクインシーだが、このストックホルム録音には監修役として立ち会っている。一つ、二曲がクインシーのコンポジションだ。一つ、後年の、クインシーがアレンジャーとして明記されている録音で聴けるもの、例えば『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』などで聴ける内容と酷似している。

 

 

『クリフォード・ブラウン・メモリアル』のストックホルム録音ではいちばん最初に来るクインシー作曲の二つ。二曲目はふつうの12小節定型ブルーズで、といってもクインシーのペンになるものだから、エンディング部を除きそんなストレートにブルージーではない。それにしては、当時からレイ・チャールズその他リズム&ブルーズ系の仕事とか、自己名義作品でもず〜っとあとになってからのクインシーは、真っ黒けなブラック・コンテンポラリー(死語)をやっていますけれども。あっ、よりみちよりみち…。戻します。

 

 

その二曲目のブルーズ「スキューズ・ザ・ブルーズ」では、トランペット二本での掛け合いが聴けるので、どっちかがブラウニーでどっちかがアート・ファーマーなんだよなあ。この当時のこの二人、どこでどうやって区別したらいいんだ〜^^;;??誰か、区別の仕方を教えてちょ。ソロの応酬部分では、二人ともがカップ・ミュートをつけちゃっているし、オープンだろうがミュートつけようが、スタイルの似ている二人なんだから、どっちかオープンで吹いてくれてたら分りやすかったのに、これまたクインシーの策略なんだなあ。

 

 

 

『クリフォード・ブラウン・メモリアル』のストックホルム録音一曲目の「ストックホルム・スウィートニン」は、僕みたいに特別「恋人よ我に帰れ」に思い入れがあるのではないふつうのジャズ・ファンだったら、四曲のうちいちばんグッと来るものなんだろうと思う。クインシーが書いた出だしのアンサンブルの音色なんか、まさしく暖かい。一番手で出るブラウニーのソロには文句のつけようがないね。

 

 

 

『クリフォード・ブラウン・メモリアル』のストックホルム録音三曲目「恋に恋して」では、出だしの八秒間だけラテン・リズムが使ってあって、その後ストレートな4/4拍子になる。僕もむかしは最初からふつうにやってくんないかな?とか思ってたんだけど、いまはこの気分が完全に逆転していて、どうして最後までずっとラテンなままでやってくんないのかな?とかって思ってるんだよね。トップ・バッターのバリトン・サックス・ソロに続き出るトランペット・ソロは、たぶんブラウニーじゃなくてアート・ファーマーだと思う。その後のアルト・サックス・ソロに続く四番バッターのトランペットがブラウニーだね、きっと。

 

 

 

もう片面のニュー・ヨーク録音5トラックもわりと好きなんだけれど、その話はまた今度。

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