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2017/10/28

イトゥリ森にて(アフリカン・ポリフォニー 1)

413ticegil







僕が知ったのは遅かったのだが、アフリカ音楽のなかで、ひょっとしたらこれが世界でいちばん古くから知られている最も有名なものかもしれないピグミーの合唱。現在の日本では2010年のライス盤『旧ベルギー領コンゴ地方の伝統音楽』で親しまれているはずで、僕も愛聴しているが、ずっと前からアナログ・レコードがあったみたいだ。日本では1977年に中村とうようさんがキング盤で紹介し、その前にコロンビア盤もあったらしく、それが最初だったかもしれないが、アメリカではその前からコモドア盤 LP があって、それも元々は SP レコード六枚だった。録音が1935年と36年で、おそらく非アフリカ人がアフリカ中央部でフィールド・レコーディングした最も早い時期の一例で、しかも中身だって素晴らしい。

今年晩夏に出版された村井康司さんの新著『あなたの聴き方を変えるジャズ史』で最もカッコイイのは、巻末のディスク・ガイド・コーナーじゃないかと僕は思っているんだけど、420枚が掲載されているなかに、ライス盤の『旧ベルギー領コンゴ地方の伝統音楽』も載っているんだよね。それだけじゃないんだ。この村井新ディスク・ガイドはマジで凄いんだぞ。詳しくご紹介していたらまったくキリがないのでやめておくが、ちょっと本屋で巻末をパラパラッとめくってみてほしい。そしていったんめくったら最後、絶対にレジに持っていってしまうこと必定。とにかくジャズの専門家という位置付けになっている人物が書いたディスク・ガイドとは思えない。『あなたの聴き方を変えるジャズ史』巻末の村井康司ディスク・ガイドは、全世界の人類史上最高峰に違いない。

村井康司さんの紹介文では「本当のアフリカ音楽」が初めて西欧で知られるようになったとあり、またコール・アンド・リスポンスとミニマル・ミュージック的な手法のことも指摘されている(p. 347)。村井さんのこの文章は、例えばジャズ・ビッグ・バンド、いや、スモール・コンボでも、主導する楽器が演奏するメイン・テーマに対し、アンサンブルで応唱が入って、その繰返しで演奏が進むことが非常によくあって、っていうかこれはもう当たり前すぎるやりかただから、こんなもの、「手法」だなんて意識すらないかもしれないようなものだよね。

またミニマル・ミュージック的な部分は、特に1960年代末〜70年代にアフリカ音楽や、またそこにルーツがあるだろうアメリカのファンク・ミュージックの催眠的反復手法を、ジャズ・フィールドにいる音楽家たちもどんどんとりいれるようになって、結果いろんな面白い作品が誕生した。マイルズ・デイヴィスの『オン・ザ・コーナー』や、オーネット・コールマンの何作か、っていうか二つか?、そんな傑作の具体例をあげることもできる。

『あなたの聴き方を変えるジャズ史』の村井康司ディスク・ガイドでは、『旧ベルギー領コンゴ地方の伝統音楽』が掲載されている同じページのその上にひっつけるように、オーネット・コールマンの『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』が載せられている。オーネットのこれはジャズ・ファンならみんな聴いていると思うけれど(だよね?)、そんなジャズ・ファンのなかで、直下に掲載のライス盤『旧ベルギー領コンゴ地方の伝統音楽』を、はたしてどれだけの人が聴いているだろう?でも村井ガイドのおかげで、日本のジャズ・ファンのあいだでも知られるようになっていくはずだ。

前置きはここまでにして、『旧ベルギー領コンゴ地方の伝統音楽』。メインはもちろんピグミーのポリフォニー。2012年だったか13年だったかにタンザニアのムチョヤ&ニャティ・ウタマドゥニの CD を聴いてビックリして猛烈感動だった僕だけど、あのときすぐに思い浮かべたのが『旧ベルギー領コンゴ地方の伝統音楽』で聴けるピグミーの合唱だったもんね。この二枚は同じ種類の音楽だよ。

しかしながら正直にまず書いておくと、『旧ベルギー領コンゴ地方の伝統音楽』で僕のいちばんのお気に入りは、4トラック目の「ルペーロでの木琴の演奏」なんだよね。僕はこういう楽器とその演奏が大好きでたまらない。こんなに好きっていうのは、いったいなんなんだ?と自分でも分らないが、インドネシアのガムランとか、ビルマのパッタラーとかサイン・ワインとか、この種の同類楽器のことが、そしてそれを使ってミニマル・ミュージック的な演奏をやるものが、本当に大好き。

これはどうやら、どれかがどこかへ流れていって影響云々という話(もあるのかもしれないが)じゃなくて、人類共通の音楽特性ってやつじゃないかと僕は思う。こういうかたちと構造と演奏法の楽器を全世界の人間はつくりたがる。そしてつくったら同じようにミニマルな演奏をやる。それには影響関係とかがあるのではなく、全人類、だれに教わらなくてもそうなるっていう、そういうもんじゃないかなあ。通底するものがあるんじゃないかと思うんだ。その音楽的普遍性が僕は好きなんだと思う。

6/8拍子で演奏される「ルペーロでの木琴の演奏」のことはここまで。あるいは3トラック目「バペレ族の踊りとカルミ首長の踊り」や、7〜9トラック目の「ワトゥシ族王家のタイコ演奏」三つも面白いが、これらのインストルメンタル・トラックも省略するしかない。やはり『旧ベルギー領コンゴ地方の伝統音楽』で聴ける人声ポリフォニーの話をしておかなくちゃ。このアルバム、木琴と太鼓演奏の4トラックを除くと、ぜんぶがヴォーカルのみのやりとりか、それに複数のパーカッションが加わってのもの。アフリカ中央部のコンゴ北部地域の、主にイトゥリ森で採取されたものだ。

それらは、むかしから彼らアフリカ人たちが歌っては演奏し踊っていたか、あるいは割礼式などの儀礼の際の伴奏音楽として演唱されていたかで、それがずっと変わらずそのまま続いていたものを西洋人が現地録音したものだってことなんだろう。プリミティヴというのは簡単だけど、音楽的には複雑で高度だ。原初的というのと正反対かもしれないが、洗練もされて完成度が高い。

ヴォーカルは、やはり主にリード・シンガーがいて、それが一人で主唱して(コール)、というかハラーみたいなものを歌って、その旋律に反応して返すようにコーラスが応唱する(リスポンス)。1トラック目「マンベトゥ族の合唱」、2トラック目「バビラ族の合唱」あたりでは特にこのコール&リスポンスが顕著に聴ける。リード・シンガーとコーラス隊のコール&リスポンスは西アフリカ音楽でもふつうだし、世界中にある。イトゥリ森のポリフォニーはそれらのルーツというんじゃなく、これまた人類普遍共通の歌いかたで、だれでもふつうにやればこれに至るってことなんだろう。

『旧ベルギー領コンゴ地方の伝統音楽』で聴けるヴォーカル・コーラスは、西洋音楽のハーモニーの考えかたでは説明できないかもしれない。西洋音楽的には不協和の極みで、しかしイトゥリ森ではそもそも調和、協和させるとかなんとかいう発想がないんじゃないかなあ。だからハーモニーでもユニゾンでもない…、う〜んと、まあやっぱりユニゾンみたいなものとして一斉に声を出して一緒に同列で歌っているんだろう。鳥のささやきのよいなハミング・ウィスパーからドスの効いた地を這うような低音まで、彼らは自在に声を操って、緩急をつけながら、高度なポリフォニーを進めていき、それに合わせて踊っている。

喉を震わせるような発声や、ゴロゴロ転がす声、迫力満点のうなり声など、変幻自在。だいたいみんな『旧ベルギー領コンゴ地方の伝統音楽』で聴ける複声や打楽器演奏のことをプリミティヴと形容するけれど、複雑高度に発達洗練された西洋音楽と比べりゃ、そりゃシンプルかもしれないが、録音されたできあがりのピュアな美しさ、もたらす感動の大きさで比較したら、どっちがより魅力的でまぶしいかなんて言えないね。イトゥリ森のポリフォニーは、すべての音楽ファンが聴くべきものだ。

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