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2017/10/16

ザッパの74年バンドは凄すぎる 〜 ヘルシンキ・ライヴ






ところでフランク・ザッパの音楽って楽器演奏部分がかなり長いよね。ヴォーカル三割にインストルメンタル七割くらいの比率かなあ?そういうものって、ふつうのロック・リスナー、ポップ・リスナーって敬遠しちゃうような部分があるんじゃないだろうか?ジャズ・ファンやクラシック・ファン向け、あるいはロック・ファンでも、一時期ライヴで長尺だったものとかプログレとかが好きなお方とかじゃないと、ちょっとしんどいかもしれない。

そして、これらジャズ、クラシック、プログレ(など)の三つは密接な関係がある。がしかしなぜだか僕のばあい、プログレだけがどうもちょっと苦手で、どういう音楽なのかを考えたら間違いなく好みであるはずなのに、どうしてだかアルバム一枚を退屈せずに楽しめるというものが少ないっていう、これ、自分で自分のことがサッパリ分らないのだが、感覚的にはそうなんだよなあ。大好きなレッド・ツェッペリンだってプログレっぽい部分はかなりあるが、ゼップのばあい、それ以上にブルーズ比率が圧倒的に高い。

ザッパの音楽は、それら全部がごた混ぜで溶け込んでいるというのがすごいというか、この人の音楽家としての幅の広さ、多様性、スケールの大きさは、いちおうはロック界から出現しそこに位置付けられるミュージシャンとしては異常だとも思えるほど。そんなザッパにたくさんあるライヴ・アルバムで、ひょっとしたらこれが最高傑作なんじゃないかと思うのが『ユー・キャント・ドゥー・ザット・オン・ステージ・エニイモア、Vol. 2』だ。アルバム題が長すぎるので、これ以下は副題になっていて、ファンもみんなそう呼ぶ『ザ・ヘルシンキ・コンサート』と書く。

『ザ・ヘルシンキ・コンサート』は1974年9月22日、文字どおりフィンランドはヘルシンキで行われたザッパ・バンドのライヴ・コンサートを収録した CD 二枚組。発売は1988年だった。この一連の『あんなこと二度とステージでできまい』シリーズは第六巻まであるが、間違いなく第二巻である『ザ・ヘルシンキ・コンサート』がいちばん内容がいいと僕は思う。

『ザ・ヘルシンキ・コンサート』がいちばんいいと思う最大の理由は、この CD 二枚組は1974/9/22のヘルシンキ・ライヴをそのままそっくり収録したもので、一切のオーヴァー・ダビングもなく、一部編集作業は行われている模様だが、当夜のザッパ・バンドの演奏をそのままパッケージングしたと言って差し支えない内容だからだ。この日のヘルシンキ・ライヴがオープニングからエンディングまで(ほぼ)ぜんぶ聴けて、バンドの当日の演奏そのまま(!)で、ほかのライヴ音源は一切入っていない。

ザッパは完璧主義者も完璧主義者、こだわりようがひどすぎると思うほどの音楽家(じゃない人も少ないだろうが)だったから、ライヴ収録後のスタジオでの音追加や加工もせず、ワン・ステージをそのまま発売するなんて相当珍しいことだ。っていうかそういうものはこの『ザ・ヘルシンキ・コンサート』しかないんじゃないの?ザッパ自身、スタジオのコンソール・ルームで、あるいは完成品の CD を自宅などで聴きながら楽しんでいたと想像する。ひょっとして自分で聴きたかっただけ?

しかしですね、聴いているみなさんには100%説明不要だが『ザ・ヘルシンキ・コンサート』、そんなありようの音楽だっていう事実はにわかに信じがたいようなレヴェルの高さなんだよね。ザッパのほか、ナポレオン・マーフィー・ブロック(サックスほか)、ジョージ・デューク(鍵盤)、ルース・アンダーウッド(マリンバ、その他打楽器)、トム・ファウラー(ベース)、チェスター・トンプスン(ドラムス)という、たったの六人編成バンドでの演奏なんだけど、とてもそうとは思えないほどサウンドの厚み、広がり、濃密さなど、ハイ・レヴェルすぎる。そんでもってこのセクステットの演奏技巧がこれまたハイ・レヴェルなんてもんじゃない。

演奏技巧が凄すぎるといっても、『ザ・ヘルシンキ・コンサート』でもそうだがザッパ・ミュージックのばあい、即興部分よりも記譜部分の比率がかなり高い。ザッパがメッチャ難しい譜面を書いて演奏するようメンバーに強要し(間違いなく)ハードな反復練習を積んで、それでもしかし最高の演奏テクニックを持つバンド・メンでも100%完璧には実現不能なものを徹底的に突き詰めた上でライヴ・コンサートで披露し、スタジオ録音などもやっている。そんな話を読んだことはないのだが、できあがった音楽を聴けばだれだってそうだと分るはず。

しかも『ザ・ヘルシンキ・コンサート』は一回性のステージ・パフォーマンスに手を加えていないものなんだからなあ。ブックレットに書いてあるその旨の記述を読んだ上で聴くと、こんな難しい演奏、よくできるもんだなあって、素人の僕はそのあまりのものすごさに呆れかえって口あんぐり。信じられないよ。しかも御大がそのまま発売したほど完成度が高いんだ。繰返すが、これ、一回性のライヴ演奏ですからね。この1974年ザッパ・バンドって、とんでもないバケモノ集団じゃないか。

『ザ・ヘルシンキ・コンサート』は、ロック・コンサートでは珍しくワン・ステージがずるずるつながって、あたかも全体で一つの大きな<一曲>であるかのようになっている。これは編集でそうなっているのだとは僕は考えない。ヘルシンキでの当夜、こんな組曲みたいな連続演奏を繰り広げたに違いないと僕は判断する。1974年だと、ブラック・ミュージック界などではそういうライヴ・ステージ構成はふつうだったのだが。『ザ・ヘルシンキ・コンサート』そのものの音を聴くと、連続演奏だとしか思えないつながりかたで、まあちょっとだけハサミを入れているのかもしれないが。

そんなつながっているこのアルバムにある全20曲のうち、ファンのみなさんが最重視するのは間違いなく三曲目の「インカ・ローズ」。僕も大好き。完成品の『ワン・サイズ・フィッツ・オール』ヴァージョンよりも好きなくらいだ。いや、言い直そう、「インカ・ローズ」は『ザ・ヘルシンキ・コンサート』時点ですでに楽曲として完成している。がしかし以前予告したように、僕が大好きすぎるこの曲のことは、それだけとりあげた別個の単独記事にしたいので、今日もやはり省略。

すると、四曲目の「RDNZL」とか(中間部のザッパのギター・ソロは、いつもながらあまりにも華麗)、六曲目「エキドナズ・アーフ(・オヴ・ユー)」の、マリンバやエレベがあの細かい音符のリピートを完璧に演奏し、しかも合奏でそれをピッタリ合わせていたりする部分にため息が出たりする。

それに続く七曲目「ドント・ユー・エヴァー・ワッシュ・ザット・シング」が、やはり同様の難曲で、細かい音符の反復合奏を、しかも同様に細かいストップ・タイムとブレイクが入りながら、メンバーがそれを楽々とこなしているあたりとか(特にルースが凄いよなあ)も、当たり前みたいにやってはいるが、これ、とんでもないことなんだよ。

八曲目「ピグミー・トワイライト」(Twylyte)でのザッパのギター、特に曲後半部でのソロはブルージーな旨味があっていいし、しかもこの曲はザッパのお得意パターンの一つ、っていうかだいたいザッパはどれもそうだけどオフザケ・ソングで滑稽味満点で楽しい。そのおかしさ、楽しさは、御大を含むバンド・メンバーの超絶技巧が支えているわけだけど。しかもモーツァルトのピアノ・ソナタ第16番(ハ長調 K.545)が引用してあったりするじゃないか。

『ザ・ヘルシンキ・コンサート』二枚目に行って、一曲目「アプロキシメイト」、二曲目「ドゥプリーズ・パラダイス」と、御大とバンド・メンバーとのしゃべりのやりとりが長い。ファンにとってはそんな部分は飛ばして聴く人もいるんだそうだ。しかし「アプロキシメイト」後半部の演奏内容はやはり楽しく素晴らしい。ザッパのギターがやはり光っているが、ドラムスのチェスター・トンプスンも化け物だ。特にベース・ドラムのペダルの踏み方がアホみたいに凄い。

「ドゥプリーズ・パラダイス」の約24分間はやはり長すぎると感じるファンも多いみたいで、しかもこれ、歌はほぼまったくなしのインストルメンタル・ナンバーだ。プログレ的と呼ぶ人がいるかもしれないが、僕はジャズ・ロック・フュージョンの長尺ナンバーとしていつも聴いている。途中でスティーリー・ダンを歌う(「リキ、ドント・ルーズ・ザット・ナンバ〜〜 ♫」)のはザッパかなあ?

「ドゥプリーズ・パラダイス」ではしゃべりのやりとり部分もかなりあるので、人によってはふつうやっぱり退屈でスキップしちゃうかもしれない。フュージョン界の存在でもあった鍵盤奏者のジョージ・デュークが大活躍しているし、やはりルースのマリンバとトム・ファウラーのエレベが異様に上手いし、合奏部分のキメがやはり難しいことを楽々とこなすしで、聴きどころはかなりあるんだけどね。後半はチェスター・トンプスン&ルース・アンダーウッド二名の打楽器奏者の独壇場となる。

そこから切れ目なく三曲目でタンゴがはじまる(ここはテープ編集の痕跡をはっきりと感じる)のでオォ!と思っていると、曲題「サトューマ」(Satumaa はフィンランド語らしい)の副題で「フィンランドのタンゴ」とあるじゃないか。タンゴの伴奏とは思えないチェスター・トンプスンのベース・ドラムの踏み方!こいつ、アタマおかしいぞ(褒め言葉)。それにしてもカーラ・ブレイがやるときもそうだけど、タンゴ好きの僕は、こういったふだん関係なさそうな音楽家からタンゴ(やアバネーラ)が聴こえてくると、嬉しくていい気分なんだよね。

『ザ・ヘルシンキ・コンサート』二枚目では、その後、お馴染の『アンクル・ミート』からのメドレーなども経て、例の「モンタナ」が終幕というに近いクライマックス。というかこれはアンコールなのか?冒頭部でオーディエンスとザッパとのやりとりがあって、ザッパが客のリクエストを聞いているかのようなやりとりがある。

そこで客は「”ウィピング・ポスト”を!」と叫ぶのだが、ザッパは「オーケー、”ウィピング・ポスト”だな、オーケーちょっと待って、でもそれは知らないなあ、どんな感じかちょっと歌って教えてくれないか?」。そこで客がちょろっと歌うのだが、ザッパは「あ〜、分ったぞ、それはジョン・ケージの曲に違いないよね?オーケー、じゃあやるよ、”モンタナ”だ!ワン、トゥー、スリー、フォー!」で、『オーヴァー・ナイト・センセイション』ではティナ・ターナーとアイケッツも使ったポップ・ソング「モンタナ」の演奏がはじまってしまうんだ。わっはっは。ザッパのギター・ソロが鬼凄いのはいつものことだから省略。

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