フランクとそのギターとともに
なんといっても僕はフランク・ザッパのことを、まずは一人の卓越したギタリストとして知ったのだったから。だからそれについて少しだけ書いておきたい。ザッパのギター・ヴァーチュオーゾぶりは、特にそれに特化したわけではないふつうのアルバムでもよく分るものの、やはりあのギター・プレイばかりを集めてどんどん聴きたいというファンは多いはず。そんなみんなの声に応えてということか、あるいは自認もしていたんだろう、本人の生前からギター・アルバムが何枚か出ている。
が、それらザッパの生前に本人監修のもとリリースされていたギター・アルバムはサイズが少し大きめなのだ。しかもここが最大の問題点だが、この人のコンポージング能力とギター・プレイ能力という二大超越要素があいまった最高傑作群を、それらの生前からあるギター・フィーチャー・アルバムがフィーチャーしているというわけではない。
僕の見るところ、そんなザッパのギター・ピース最高傑作が三曲あって、「ブラック・ナプキンズ」「ズート・アルーアーズ」「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」。三曲ともぜんぶギター・インストルメンタル・ナンバー。そして、この三つをぜんぶまとめて聴けるなんていう、まるで夢のような正規商品があるんだよね。1996年に息子のドゥウィージルのプロデュースで発売された『フランク・ザッパ・プレイズ・ザ・ミュージック・オヴ・フランク・ザッパ』。こ〜りゃもうタマラン一枚だ。
附属ブックレットにドゥウィージルの文章が載っているのだが、それによれば父フランクの死の直前に「なにか特別これが自分にとってすぐれた曲、独自で特別だと感じている曲がある?」と聞いたドゥウィージルは、上記三曲「ブラック・ナプキンズ」「ズート・アルーアーズ」「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」の名を聞かされたそうだ。フランクはこれら三曲が自分にとってのシグネチャー・ピースだと考えていたとのこと。
それで1993年の父フランクの死のあと三年経って、副題「ア・メモリアル・トリビュート」と冠し息子ドゥウィージルがそれら三曲のオリジナル・アルバム・リリース・ヴァージョンと、三曲すべての、それに先行する未発表のライヴ・ヴァージョンを並べて(「ブラック・ナプキンズ」だけはオリジナルもライヴ、しかも日本での)、さらにオマケみたいな感じで中間部にはさまっているがオマケなんかじゃなく、ザッパ・ミュージックの重要な本質を表したピュア・ブルーズを一個と、それらぜんぶで計七曲を収録したのが『フランク・ザッパ・プレイズ・ザ・ミュージック・オヴ・フランク・ザッパ』なんだよね。
ザッパのギター演奏の特色を分りやすく端的に表現するのは、僕にはやや難しい。書いたように本質的にはブルーズに土台を置きながら(”also firmly rooted in the blues” by Dweezil)、ギター・トーンの創りかた、フレイジングの組み立てかた、流れかたも安易ではない。特別に異様で奇異で風変わり。だからまあ端的に言えないこともない 〜 「ユニーク・ブルーズ」。あるいは英語で enigmatic and idiosyncratically phrased blues 〜 これがザッパのギターだ。
あ〜、もうこれで今日言いたいことはぜんぶ言っちゃったなあ。まあでもあとちょっとだけ。アルバム『フランク・ザッパ・プレイズ・ザ・ミュージック・オヴ・フランク・ザッパ』四曲目の「ミアリー・エイ・ブルーズ・イン・A」。ザッパには珍しい12小節定型のストレート・ブルーズで、これは1974年9月27日のパリ・ライヴからの収録。
公式アルバム収録などはほとんどないように思うものの、ライヴ・ステージなどではザッパもふだんわりとよくこういったストレート・ブルーズをやっていたらしい。上でご紹介した「たんなる A キーのブルーズ」同様、それらはすべてその場の即興演奏だったはずだ。アメリカのブラック・ミュージック界に存在する(と思うよ、僕は、ザッパも)音楽家であれば、間違いなく全員こういったブルーズは、ちょっとカジュアルにやってみるだけのことができるものだ。フィーリングを出すのは簡単じゃないだろうけれど。
「ミアリー・エイ・ブルーズ・イン・A」はだから、いつも異様に歪んでいて、おかしく、しばしばキメラ様のものであるザッパの音楽のなかにあっては、あまりにも分りやすすぎると思うほどシンプルで、ギター・フレーズの組み立てもわりと常套的で、聴きやすい。フランク・ザッパって要は「変人」なんでしょ?難解なんでしょ?と尻込みする人が多いように僕には見えているから、『フランク・ザッパ・プレイズ・ザ・ミュージック・オヴ・フランク・ザッパ』は格好の入門盤になると思うなあ。
このアルバムは、なんたってザッパ・ミュージック、なかでもギター演奏の基本が黒人ブルーズにあるんだということがよく分るのがイイ(”When in doubt, play the blues.”)。だからいままでザッパの音楽に馴染がない方が、もしこれを読んで『フランク・ザッパ・プレイズ・ザ・ミュージック・オヴ・フランク・ザッパ』をお買いにでもなってくださったとするならば、まず四曲目「ミアリー・エイ・ブルーズ・イン・A」から聴いてみるのもいいかもしれない。
すると、このアルバムに収録されている、御大ザッパ自身が自分のスペシャルな代表作、マスターピースだと発言した三曲「ブラック・ナプキンズ」「ズート・アルーアーズ」「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」が、どんなふうに創りあげられているのか、少し分ってくるように思うんだよね。僕みたいな素人でもなんとなくそういう気がしてくる。
それら三曲のシグネチャー・ピースを解説することは僕には不可能だから、とにかく聴いてもらうしかない。ただ、『フランク・ザッパ・プレイズ・ザ・ミュージック・オヴ・フランク・ザッパ』に収録されている「ブラック・ナプキンズ」も「ズート・アルーアーズ」も「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」も、それぞれの先行する別ヴァージョンと聴き比べると、オリジナル・アルバム・ヴァージョンのほうが一層完成されているものだと分る。以下三つ、オリジナルだけ。
「ブラック・ナプキンズ」https://www.youtube.com/watch?v=cNkl1avYXRM
「ズート・アルーアーズ」https://www.youtube.com/watch?v=fdQmhhi5cLI
「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」https://www.youtube.com/watch?v=nUja5B8ei2U
ギター・トーンの創りかた(ギター本体のチョイス、エフェクト類などの使いかた、演奏法など)や、フレイジング構成の細かい流れが、先行ヴァージョンとはやはり違っているんだよね。特にトーンが異なっている。三曲ともアルバム・ヴァージョンに先行するライヴ・ヴァージョンでの音色のほうが、基本的に、よりダーティーだ。ダーティーな音色のほうが好きな僕には、したがって完成度がやや低めのそれら先行ライヴ・ヴァージョンだって楽しい。
いや、なんたってあのザッパが自ら言及する代表曲三つなんだから、どんなヴァージョンだって楽しいに違いないし、ドゥウィージルもたくさんあるテープのなかから発表に値するものだと判断したものを、それもアルバム・ヴァージョンと並べても OK だと判断したものをチョイスしたはずだから、そ〜りゃ間違いなく面白いよねえ。
「ブラック・ナプキンズ」「ズート・アルーアーズ」「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」。三つともいいが、やっぱりアルバム『フランク・ザッパ・プレイズ・ザ・ミュージック・オヴ・フランク・ザッパ』でもラストに二つのヴァージョンが連続収録されている「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」こそが至高のザッパ・ミュージックじゃないかなあ。
ありとあらゆるザッパの曲のなかでのベスト・マスターピースが「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」だと僕は思うんだけど、いちばんの好みだと言わない(それは「ピーチズ・エン・レガリア」と「インカ・ローズ」になるから)のは、あまりにも美しすぎてちょっとおそろしいんだよね。
このギター・インストルメンタル「ウォーターメロン・イン・イースター・ヘイ」は、それじたいが美しく輝いている。どんなありようの曲としてアルバム『ジョーのガレージ』で存在しているかは関係ないように思う。これ一個だけで自律しての美を放っているんだよね。文脈なしでこれだけ聴いて泣けてしまう。破壊的に美しい。アルバム・ヴァージョンは、この世に存在するありとあらゆるギター作品のなかで最も素晴らしい。オール・タイム・グレイテストだ。
なお、今日のこの記事でもそうだけど、このアルバム『フランク・ザッパ・プレイズ・ザ・ミュージック・オヴ・フランク・ザッパ』のジャケットは、写真じゃ分りにくいと思う。例のザッパ髭が、立体的に、ジャケット表面に貼りついている。
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