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2017/10/17

テキサス(実はルイジアナ州シュリーヴポート)のナイフ・スライド・ブルーズ

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1990年代は戦前ブルーズ復刻ブームみたいなものがあって、きっかけは1989年のロバート・ジョンスンの CD 二枚組完全集が売れまくったこと。それでその後続々と文字どおりたくさんリリースされた。アメリカでもヨーロッパでも、そして日本でも。僕も買いまくったが、90年代というと、ちょうどファット・ポッサム・レーベルの新作ブルーズ・アルバムが人気があったころだ。

当時の僕はこれら二つの関係がぜんぜん分ってなくて、戦前ブルーズの復刻ものはそれ、ファット・ポッサムの新作はそれとして分けて聴いていたのだが、まあホント全然ダメだったよねえ。いま考えたらこの二つは1990年代という同じ時代の空気を吸ってシンクロしていたんだった。ブルーズ・ミュージックとしての関連性なんか言うに及ばず。

ファット・ポッサムの話はおいておいて、戦前ブルーズの CD 復刻ブームは1990年代にはマジで賑やかだった。だからよくこんなものが発売できたもんだなというマイナーなブルーズ・マンの復刻ものだってある。その一つが1996年のP ヴァイン盤『テキサス・ナイフ・スライド・ギター・ブルーズ』だ。こんなもん、21世紀なら絶対に出せるわけないもんね。僕はあの時代にピッタリ間に合わせるように CD プレイヤーを買って、ほんとラッキーだった。

P ヴァイン盤『テキサス・ナイフ・スライド・ギター・ブルーズ』に収録されているのは二名。ランブリン・トーマスとオスカー・バディ・ウッズ。二名ともアルバム題どおりテキサスで活動して、ギターでのナイフ・スライドを得意技としたのかというと、厳密には少しだけ違うんだよね。

ランブリン・トーマスもオスカー・ウッズも、実はテキサスではなくルイジアナ州シュリーヴポートのブルーズ・マン。ランブリン・トーマスは、弟のジェシー・トーマス(こっちのほうが少し有名?)と一緒に、生まれ故郷の同州コンガスポートを出てシュリーヴポートに向かい、同地で音楽活動を開始。その後テキサス、それも主にダラスにも通うようになり、かのダラス・ブルーズ・マスター、ブラインド・レモン・ジェファスンとも出会い大きな影響を受けたようだ。P ヴァイン盤『テキサス・ナイフ・スライド・ギター・ブルーズ』のトーマス分のメインは1928年録音。

オスカー・ウッズのほうは終生一貫してルイジアナ州シュリーヴポートを拠点にして活動していた。だいたいウッズが「発見」されたのは、シュリーヴポートを訪れたジョン・ローマックス(アランの父)の手によってであって、そのまま議会図書館用の録音を行ったのがウッズの初録音に違いない。商業用には1930年が初録音だが、P ヴァイン盤『テキサス・ナイフ・スライド・ギター・ブルーズ』は32年以後のものを収録してある。

ギター・ナイフ・スライドということにかんしても、確かに一般的にはテキサス・ブルーズ・メンの得意とするところという面があって、だから地理的にもテキサスと隣接するルイジアナ州シュリーヴポートの存在で、実際、テキサスにもよく通い影響も受け、さらにテキサス・スタイルと言える(?)ナイフ・スライドを両名とも得意とするということで、ランブリン・トーマスとオスカー・ウッズがテキサス・ブルーズ・メンとしてくくられて、『テキサス・ナイフ・スライド・ギター・ブルーズ』に同時収録されているんだろう。でもこの二名に、それら以外の接点はゼロだけどね。

さらにかのレッドベリー。この人もナイフ・スライドが得意技の一つ(彼の場合はたくさんあるもののほんの一つというだけだが)だが、このレッドベリーもルイジアナ州シュリーヴポートで活動した。ってことは、ブルーズ・ギター・スタイルにおけるナイフ・スライドは、テキサスではなくシュリーヴポートで発展を遂げていたと言える面もあるんじゃないかなあ。

そう考えると P ヴァイン盤『テキサス・ナイフ・スライド・ギター・ブルーズ』というこのアルバム題に根源的な疑問が湧いてくるのだが、今日のところはここまでにしておこう。こういうアルバム題で、ジャケット・デザインにはナイフの絵があしらわれているものの、収録されている二名の全26曲のなかには、ふつうに指で押弦しているものだってたくさんある。音がぜんぜん違うので、古い録音だけどすぐに分るはず。

前半に16曲収録されているランブリン・トーマスのブルーズ・スタイルはかなり素朴。はっきり言うと大した腕前じゃないよね。ギター(の主に中低音弦)でリズムを刻むパターンと、高音弦で(主にスライドで)メロディ・ラインを弾くラインと、ヴォーカルと、この三つを組み合わせるという、多くの人がやるスタイルはぜんぜん聴かれない。基本的にトーマスのギター弾き語りはヴォーカルとギターとのコール&リスポンスで、一節歌っては、その末尾でちょろと弾き、また歌うっていうスタイル。

ナイフではなく指で押弦しているもの(3〜6、9、10、13曲目)では、ギターもヴォーカルもやはりブラインド・レモン・ジェファスンの影響がかなり強く出ているが、しかし実力差がありすぎるように聴こえるので、う〜ん、こりゃちょっとどうもなあ。それでも例えば四曲目の「ソーミル・モーン」や、六曲目の「ランブリン・マインド・ブルーズ」なんかはいいよね。テキサスの香りがプンプン漂っているし、ブルーズ・メンってそもそも放浪するものなのかとかって。
ナイフ・スライドをやっている曲だと、これらよりもっとずっといい。例えば七曲目の「ノー・ジョブ・ブルーズ」(歌詞は深刻)とか八曲目の「バック・ノーイング・ブルーズ」とかが典型的なランブリング・トーマス節のブルーズなんだろう。ギターでイントロを弾き歌い出し、しかしヴォーカルのあいだはほとんどギターは弾かずだったりして、やはりワン・フレーズ歌い終わってからちょろっと弾くようなものだけど。ナイフは高音弦ではなく低音弦の上を滑っているばあいもある。「バック・ノーイング・ブルーズ」がかなりいい。
P ヴァイン盤『テキサス・ナイフ・スライド・ギター・ブルーズ』だと11曲目以後のランブリン・トーマスは、ナイフで高音弦スライドをやって、それが震えるような感じの繊細で情感豊かに聴こえるものもあるのだが、収録されているもう一人、オスカー・バディ・ウッズのことを書いておかなくちゃ。ウッズの収録は10曲で、録音は1932、36、37、38年。しかもウッズ一人でのギター弾き語りはあまりなく、ばあいによってはジャズ・バンドふうなものだってある。そういうものは(ブルーズとかジャズとかっていうより)ラグライムの色が濃かったりして、戦前のブラック・ミュージックのありようがとてもよく分るものだ。そのまま戦後のロック・ミュージックにだってつながっているよねえ。

ヴォーカルのジミー・デイヴィスのレコードである17曲目「レッド・ナイトガウン・ブルーズ」、18曲目「デイヴィス・ソルティ・ドッグ」の二つでは、もう一名のギタリストの伴奏に乗ってウッズがナイフ・スライドで疾走するスピード感がすごい。(アルバム前半のトーマスのもっさり感と違い)かなり上手いんだ。後者が YouTube で見つからないのは残念だ。その曲調はあの「ユー、ラスカル・ユー」にも似て聴こえるが、実はパパ・チャーリー・ジャクスンのヒット・チューン「ソルティ・ドッグ・ブルーズ」の改作。
CD『テキサス・ナイフ・スライド・ギター・ブルーズ』では、その後19〜21曲目だけがオスカー・ウッズ一人でのギター弾き語りブルーズで、実にいい味を出している。スウィートなフィーリングのなかに独特の憂いとやるせなさがあって深みのあるヴォーカルといい、繊細極まりないギター(は三曲ともナイフ・スライドを使い高音弦で微妙にすすり泣く)の弾きかたといい、絶品だ。20曲目の「ローン・ウルフ・ブルーズ」がいちばん素晴らしいと僕は思う。
個人的にいちばん興味深いのがアルバムの22〜26曲目で、これらはすべてバンド編成でラグタイム(・ブルーズ)をやっている。しかもかなりジャジーで、というかばあいによっては完璧なジャズ演奏に聴こえたり、インストルメンタルもあったりで、1920〜30年代のブルーズとジャズがいかに近接していたか、ここでもまた思い知る。例えば22曲目の「バトン・ルージュ・ラグ」。これはテキサス州サン・アントニオでの録音。
23〜26曲目ではジャズ・トランペッターも参加し、こりゃジャズと区別不能だよなあ。ヴォーカルもオスカー・ウッズだが、ギターも都会的な洗練を思わせ、そうでなくともウッズのギターはもとからそんなカントリーふうに泥臭くもないのだが、ちょっぴりロニー・ジョンスンふう。それにしても24曲目「ロー・ライフ・ブルーズ」でのトランペット・フレーズがいいなあ、だれだろう?と思って見ると “unknown” って、そんな殺生な…。
26曲目「カム・オン・オーヴァー・トゥ・マイ・ハウス、ベイビー」なんかシティもシティ、シティ・ブルーズの極致というか、完璧なるジャズ・ナンバーだ。しかもウッズのヴォーカルもギターもかなり上手い。これもなぜだか YouTube で見つけられないが、素晴らしい演唱なんだよね。こんな人がどうしてここまで知名度がないのか…、ってそれはたぶんルイジアナ州シュリーヴポートから出なかったせいだ。

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