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2017/10/08

とろけるような美声、装飾技巧、豊麗なる表現 〜 ジョニー・ホッジズ

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今日もまた<エピック・イン・ジャズ>シリーズのなかから一枚とりあげて話をしよう。ジョニー・ホッジズ名義の『ホッジ・ポッジ』。このアルバム・ジャケット表にも堂々とジョニー・ホッジズ・アンド・ヒズ・オーケストラと書かれてあるし、実際、収録曲の SP レコード発売時の名義もそうだったのだが、これは実質、デューク・エリントンのコンボなんだよね。

 

 

そういった実質エリントンがボスだけど、レコード名義だけいろんなエリントニアンのサイド・マン名で発売されたものって、けっこうたくさんあるんだよね。どれもこれもピアノで御大デュークが参加しているし、演奏のリーダーシップもとっているに違いないし、クレジットはないがアレンジだってどう聴いてもエリントンの筆になるものだとしか思えないってことは、サウンドを聴けば、まず間違いなく全員分る。

 

 

エピック盤『ホッジ・ポッジ』は、言うまでもなくすべてコロンビア系レーベル(このばあいすべてヴォキャリオン原盤)の音源で、録音が1938年3月28日から39年10月14日までの計10回のセッションでのもの。アルバムには16曲しか収録されていないが、(エリントンが実質的ボスの)ジョニー・ホッジズ・アンド・ヒズ・オーケストラ名義の録音はこんなもんじゃないんだよね。37年5月20日から40年11月2日までのものがあって、ぜんぶで何曲になるんだろう?ちょっとさらってみたら軽く50曲以上はあるなあ。しかも別テイクがあるものだって多いから、それも含めたらかなりの数になる。ぜんぶコロンビア系なんだよね…。

 

 

だから『ホッジ・ポッジ』は、そんなたくさんあるホッジズ楽団名義 ー といっても編成は少人数コンボだけど、それでオーケストラと名乗ることはむかしはよくあった ー の録音のなかからたった16曲だけっていう、これは LP フォーマットの収録時間の限界を考慮して厳選したものなんだろう。ぜんぶで約45分間だからそういうことだよね。未収録のなかにも面白いものがあるが、そんな話は今日はできない。

 

 

『ホッジ・ポッジ』はエリントニアンであるジョニー・ホッジズのアルト・サックスに焦点を当ててフィーチャーしたものに違いないので、やはり彼のあのアルトの艶っぽい表現に絞って書いていきたい。といっても、もうすでにこのブログでもいままでそれを散々繰り返してきてはいるのだが。ホッジズのエロ・アルトだとか、あのグリッサンド(というかポルタメント)をセックスを連想せずに聴けるか!なんて書きかたをしたこともある。

 

 

もはやそんな過去記事で十分だとは思うのだが、アルバム『ホッジ・ポッジ』で特に目立つものだけ、やはり同じことをもう一度繰返しておこう。なお、このアルバムの日本語解説文をお書きの大和明さんは、この曲ではソプラノ・サックスだと指摘してあるものが複数あるのだが、大和さん、どうなさったのでしょうか?ホッジズは確かにソプラノを吹くこともあった人ですが、このアルバムではアルトしか吹いていませんよ。う〜ん、魔が差したとしか思えない。

 

 

アルバム『ホッジ・ポッジ』では、一曲目の「ジープズ・ブルーズ」から、すでにアンサンブルのなかですらホッジズのアルトの音色がクッキリ聴きとれる。コンボ編成で、ホッジズ以外のホーン奏者はトランペットのクーティ・ウィリアムズ、トロンボーンのローレンス・ブラウン、バリトン・サックスのハリー・カーニーだけだから、判別が容易だというのはもちろんあるが、それにしても目立つセクシーなアルト・サウンドじゃないか。ポルタメントで音程をグイッと舐め上げるあたりなんか、もうタマらん。 “ジープ” とは、当時の人気漫画にあやかってエリントンがホッジズにつけたニック・ネーム。

 

 

 

エロいという意味で、アルバム『ホッジ・ポッジ』収録曲のなかで最高なのが、五曲目「アイム・イン・アナザー・ワールド」(くどいようですが、この曲もアルトですから、大和さん)。この比類なき美しさ。悠揚たる雰囲気でありながら、なおかつ激しく情熱的で、華麗流麗な表現力。一流最高の女性歌手の極上にセクシーなヴォーカルを聴いているのと同じ気分になるよなあ。

 

 

 

8曲目「ワンダーラスト」、9曲目「ドゥージ・ウージ」、12曲目「グッド・ギャル・ブルーズ」、13曲目「フィネス」、15曲目「ドリーム・ブルーズ」あたりはほぼ同趣向。ゆったりしたテンポで、ホッジズがアルトの、その蕩けるような美声で装飾的に豊麗な表現を聴かせるといったものだ。どうしてだか「グッド・ギャル・ブルーズ」だけ YouTube で見つからない。

 

 

 

 

 

 

なかでも特にジャンゴ・ラインハルトも(渡仏時のレックス・スチュワート&バーニー・ビガード二名のエリントニアンズと一緒に)やった「フィネス」。これはコンポーザー・クレジットももエリントンとホッジズの共作名義になっているし、演奏もベーシストが入ってはいるが、ほぼピアノとアルトのデュオと言って差し支えない内容で、この曲以外はすべてほかの管楽器奏者とドラマーが参加しているのに、これだけトリオ編成でやっている。エリントンとホッジズのあいだでやりとりされる細やかな感情交流がサウンドとなって表れていて、ハート・ウォーミングだ。この「フィネス」でだけはホッジズもさほどの強い色気を強調せず、どっちかというと端正さをストレートに出しているのもいいよね。

 

 

さてさて、ビートの効いたテンポのいい曲の話も少しはしておかなくちゃ。まずアルバム題にもなっている六曲目の「ホッジ・ポッジ」。また典型的エリントン・カラーとも言うべきジャングル・サウンドの四曲目「クラム・エルボウ・ブルーズ」。七曲目の「ダンシング・オン・ザ・スターズ」、十曲目の「サヴォイ・ストラット」などで聴ける、ホッジズのアルトをジャンプさせる躍動的な表現力にも注目してほしい。

 

 

 

 

 

 

お聴きになって分るように、ソロをとるのはホッジズだけではない。これらすべて、実質的にはエリントン・コンボなんだから、部下たちが入れ替わり立ち替わり吹いている。なかでもお気づきのようにトランペットのクーティ・ウィリアムズが、ホッジズとならびかなり目立っているよね。

 

 

エリントン楽団では、まず最初、ババー・マイリーのトランペットが表現するグロウル・スタイルがジャングル・サウンドを代表していたが、1929年にマイリーと交代して入団したクーティも、完璧にこの路線を継承。マイリーこそオリジネイターではあるものの、ある意味、マイリー以上によくプランジャー・ミュートを使いこなし、エリントンの意図するサウンドを素晴らしく表現したのがクーティ・ウィリアムズだった。

 

 

そんなクーティのミュート・プレイも目立つアルバム『ホッジ・ポッジ』は、主役のアルトの美声や技巧のセクシーさを聴くのと同時に、トランペッターの表現も味わえるもので、だからエリントニアンズのコンボ・セッションものとしては、同じ<エピック・イン・ジャズ>シリーズの一枚『ザ・デュークス・メン』とほぼ同じ。どっちもオススメ品なんだよね。

 

 

それはそうと、ところでコロンビア/レガシーさんは、いったいぜんたいいつになったらこういったエリントン関係のコンボ・セッション音源を、ちゃんとしたコンプリート集 CD ボックスにしてくれるのだろうか?いつまで待てばいいのでしょう?僕の寿命が先に尽きてしまいますよ。

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