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2017/10/04

クラプトンのブルーズ・アルバムならこれ

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ジャケットを眺めながらアルバム・タイトルを見るだけなら、どう考えてもポルノだとしか思えない(ブラインド・フェイスのジャケとかもちょっと危ない)エリック・クラプトンの1975年リリースのライヴ・アルバム『E.C. ワズ・ヒア』。しかし中身はかなりいいよ。なにを隠そう、僕がふだん最もよく聴くクラプトンがこれで、一番好きだ。EC のブルーズ作品としてはこれがいちばん優れているように思う。特に A 面の三曲は本当に素晴らしい。

 

 

『E.C. ワズ・ヒア』の中身は、1974年7月19、20日に米カリフォルニアのロング・ビーチ・アリーナでやったライヴと、同12月4日に英ロンドンのハマースミス・オディオンでのライヴ、さらに1975年6月25日に米ロード・アイランドのプロヴィデンス・シヴィック・センターでやったライヴを収録して、抜粋・編集したもの。

 

 

『E.C. ワズ・ヒア』LP は全六曲だった。過去形で言うのはなぜかというと、現行 CD でもやはり6トラックだが、そのなかには複数曲のメドレーになっているものが一つある。さらに『E.C. ワズ・ヒア』の元音源になったライヴではメドレーだった1トラックを部分的にカット・編集し、現行 CD でもあたかも一曲しか演奏しなかったかのように仕立てているものが一つある。

 

 

複数曲のメドレーとは LP では A 面ラストだった「ドリフティン・ブルーズ」。LP では確かにこれしか入っていなかったが、ジョージ・テリーのギター・ソロになったかと思うとあっという間にスッとフェイド・アウトして終ってしまうので、こりゃちょっとオカシイぞ、ライヴ演奏だろ〜、って大学生のころから思っていたんだよね。みなさん同じだったはず。

 

 

現行 CD でもやはり「ドリフティン・ブルーズ」しか曲目記載がないものの、これはクラプトンの十八番「ランブリング・オン・マイ・マインド」がそのあとに続くんだよね。「ドリフティン・ブルーズ」だって、LP ヴァージョンではクラプトンのアクースティック・ギター・ソロに続きジョージ・テリーがエレキで1コーラス弾き、2コーラス目に入ったところでいきなりフェイド・アウトしていたが、もっと長くソロを弾いているのが分る。さらにそのあとエレキに持ち替えたクラプトンがスライド・プレイでソロを弾き、そのあとで「ランブリング・オン・マイ・マインド」になるんだよね。

 

 

この「ドリフティン・ブルーズ」〜「ランブリング・オン・マイ・マインド」だけなら、『E.C. ワズ・ヒア』の現行 CD でもフルで聴ける。聴けないものがあるんだよね。LP では B 面二曲目だった、これまた「ランブリング・オン・マイ・マインド」。現場では、これまたクラプトンの十八番「ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン」が中間部にはさまっていた。『E.C. ワズ・ヒア』一曲目がこれまた「ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン」なので、これは現行 CD でもカットしてある。

 

 

じゃあなにで聴いて僕はこれを知っているかというと、この『E.C. ワズ・ヒア』をリリースしているポリドールが1996年に発売した CD 四枚組ボックス『クロスローズ 2:ライヴ・イン・ザ・セヴンティーズ』に、演奏時の元の姿のまま収録されているんだよね。『クロスローズ 2』で聴くと曲順もかなり違っているし、同日演奏なのに『E.C. ワズ・ヒア』には未収録のかなり面白いものだってあるので、このボックスのことは、改めて<1970年代のクラプトン・ライヴを聴く>という話として、別個にまとめたい。

 

 

『E.C. ワズ・ヒア』一曲目が「ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン」だと書いたのだが、私見では(ってか、 陶守正寛さんも同意見だが)これこそがクラプトンの全生涯で(ってまだ生きてますけれども)いちばん素晴らしいブルーズ・パフォーマンスだと信じて疑っていない。1974年7月19日のロング・ビーチ・アリーナ。も〜う、ほとばしる激情があふれ出てとまらないといったふうで、エモーショナルという形容詞はこの演奏にこそふさわしい。

 

 

 

中間部でジョージ・テリーのソロが出る前までのクラプトンの演唱を聴いてほしい。もちろん歌いながら弾くのだが、いや、歌のフレーズを食ってギターで弾いてしまう。歌のフレーズをちゃんと歌い終わらず、っていうか一言だけ歌ったかと思ったらやめて、その刹那に食って入ってギターを弾きまくる。ヴォーカルとギターの表現が一体化しているからなんだよね。つまり歌で演奏しギターで歌っている。いやあ、この激情的な激情(こうとしか言えない)の表現には恐れ入る。こんなにエモーショナルにブルーズをやるクラプトンは、僕はほかに知らない。

 

 

ジョージ・テリーのソロにクラプトンが絡んだり、背後のエレベ(カール・レイドル)、ハモンド B-3 オルガン(ディック・シムズ)らも好演で支えていて、この1974年バンドは本当に素晴らしい。クラプトンが率いたレギュラー・バンドではいちばんよかったんじゃないかなあ。まあデレク&ザ・ドミノスがもっと長続きしていれば…、という部分はあったかもしれないけれども。

 

 

『E.C. ワズ・ヒア』三曲目の「ドリフティン・ブルーズ」。ジョニー・ムーアの曲だが、このアルバムのクラプトン・ヴァージョンは、現行 CD みたいに「ランブリング・オン・マイ・マインド」とのメドレーをフル収録しないほうが、短かったむかしの LP ヴァージョンそのままのほうがよかったように思う。なぜならば二人のギター・ソロが長くて単調だからダレてしまうんだよね。「ドリフティング・ブルーズ」部分のジョージ・テリーのソロ後半からもうすでにダメじゃないかな。

 

 

証拠音源を聴き比べてみてほしい。

 

 

「ドリフティン・ブルーズ」(クラプトン『E.C. ワズ・ヒア』)

 

 

 

 

どうです?どう聴いても LP ヴァージョンのほうがいいでしょ?僕はそう思うんだけどね。それでも当時の現場でのライヴそのままのありようを知るという意義が CD ヴァージョンのほうにはあるようには思う。がしかし、そのありようとは、すなわち「つまらなかった」となってしまうような気がして、かえってクラプトンに気の毒だよ。アクースティック・ギター部分は本当にブルージーだし素晴らしいんだからさぁ。

 

 

『E.C. ワズ・ヒア』にあるブルーズというと、ほかは B 面に行って二曲目のこれまた「ランブリング・オン・マイ・マインド」と三曲目のボビー・ブルー・ブランド・ナンバー「ファーザー・オン・アップ・ザ・ロード」。ってことはアルバム『E.C. ワズ・ヒア』は全六曲のうち四曲が12小節の定型ブルーズなんだよね。しかも B 面のそれら二曲だって悪くないしなあ。そりゃあ A 面二曲のブルーズ・パフォーマンスの素晴らしい出来栄えと比較したら分が悪いけれどさ。

 

 

『E.C. ワズ・ヒア』にあるブルーズ形式じゃないもの二つは、どっちもブラインド・フェイス時代の「プレゼンス・オヴ・ザ・ロード」と「キャント・ファインド・マイ・ウェイ・ホーム」。後者はブラインド・フェイスでのオリジナルのほうが面白いと思う。(クレジットはないが)マンドリンなんかも入って、ちょっぴり英トラッド風味もあったから。それがライヴの『E.C. ワズ・ヒア』ヴァージョンでは消えていて、ふつうのスロー・アクースティック・ナンバーになっている。でもイヴォンヌ・エリマンの声が入ると新鮮には聴こえるね。好きなんだよね、僕は、イヴォンヌのヴォーカルが。セクシーだし。

 

 

 

そんなセクシー・ヴォイスで歌うイヴォンヌの魅力がフルに発揮されていて、さらに大胆にアレンジを変更し再解釈した A 面二曲目の「プレゼンス・オヴ・ザ・ロード」。これはさすがにだれがどう聴いてもブラインド・フェイスのオリジナル・ヴァージョンのはるか上空を飛翔していると思うはずだ。特にイヴォンヌの歌とともに、リズム・アレンジが抜群。ブラインド・フェイスのオリジナルでは淡々と進んでいたのが、かなりドラマティックなものに変化している。

 

 

 

僕の言うドラマティックなリズム・アレンジとは、歌の部分とクラプトンが弾きまくる中間のギター・ソロ部分との静/動のことだけではない。前後の歌の部分でもかなり大胆にストップ・タイムなども使い、リズム・セクション全体が動いたり止まったりを繰返しながら、ヴォーカルもクラプトンとイヴォンヌで分け合ってやっている背後でドラマを展開しているように思うんだよね。イヴォンヌの声の艶も一層際立って聴こえて、文句なしだなあ。クラプトン一人で歌ったのでは、この曲のばあい面白味半減だったはず。

 

 

しかしそれでも、中間部の弾きまくりギター・ソロのあとのヴォーカル・パート後半では、前半でイヴォンヌが歌った箇所をクラプトンが歌ったりもする。”I know that I don't have much to give / But I can open any door” 部分がいい。特に I がね。 そこに、なんというかすがすがしさ、いさぎよさ、きっぱりとしたフィーリングを僕は感じて、決して上手くはないけれど、かなりいい感じに聴こえるんだよね。僕はこれからはこうやって生きていくんだという、歌詞の意味をとてもよく表現できている歌い方、声の張り方だ。大学生のころからそう感じていた。

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