« とろけるような美声、装飾技巧、豊麗なる表現 〜 ジョニー・ホッジズ | トップページ | 木綿のハンカチーフ三枚 »

2017/10/09

ドゥー・ワップでクラシックをサンドイッチ 〜 ザッパ

Mi0003409023








フランク・ザッパの『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』は、トップとラストにドゥー・ワップ・ナンバーがあるからというのが僕にとっては最大の楽しみで、意味も強いものなんだけど、ふつうはそうじゃないらしい。ってことはわりと最近知った事実。だいたいみなさん、その最初と最後のニ曲を外し、そのあいだにある器楽曲、特に長尺の「ザ・リトル・ハウス・アイ・ユースト・トゥ・リヴ・イン」 のことを熱心に書いているもんね。

確かにアルバム八曲目の「僕がかつて住んでいた小さな家」は素晴らしい。あっ、そうだ、ところで八曲目と書いたけれど、『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』は CD で聴くほうが分りやすいよね、全体の構成とか流れとかが。LP だと「僕がかつて住んでいた小さな家」は B 面一曲目だったらしいが、僕がもし LP 時代からザッパを聴いていたら、『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』はなかなか分りにくかったかもしれない。

ザッパのアルバムは、御大自身が CD 用の公認マスターを作成する際にいろいろと考えて、音源に手を加えたりもして、CD メディアならではの特性を活かした創りに部分的に変更してあったりするらしいのだが(でも僕はほとんど知らない)、なんでも洩れ聞く話では『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』のばあい、LP と内容はほぼ変わらないそうじゃないか。そのまま CD にしたってこと?もしそれが本当なら、1970年2月のリリース時から完成度が高かった、両面続けての、すなわち CD で聴くのに向いているような、一連の流れと構成があったってことだよなあ。70年に未来のメディアを予見?

しかもですよ、『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』は、これも自分で確かめたわけじゃなく伝え聞いた話だが、マザーズ・オヴ・インヴェンション音源の未発表集なんだそうじゃないか。1970年2月というとマザーズは解散していた時期だし、前作がソロ名義の『ホット・ラッツ』だし、続く4月にも(すでに解散していた)マザーズの名前で『いたち野郎』(Weasels Ripped My Flesh)をリリースしているが、それもマザーズの未発表音源集みたいだ。

『いたち野郎』のことは別の機会にして(いや、書かない可能性が高い)『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』は、1967〜69年のマザーズによる、主にスタジオ録音の未発表集で、だから寄せ集めなのかというとぜんぜんそんな趣がなく、かなり完成度が高く緊密な構成を持つ傑作だよね。そしてその中心軸を「僕がかつて住んでいた小さな家」に据えるというのが、ふつう一般のザッパ・リスナーの考えかたになるはずだ。最初に書いたように、僕のばあいは少しだけ違うのだが。

じゃあ中身をサンドイッチしている最初と最後のドゥー・ワップ・ソングのことは後廻しにして、その「僕がかつて住んでいた小さな家」のことから先に書いておこうかな。この18分以上ある大曲は七部構成。七つはそれぞれ別個に録音された音源なんだと思う。思うというか、僕にはそう聴こえるという、いつもながらのいい加減耳判断でしかないが、たぶんそうだよね。それを信用すると構成は以下のとおり。

パート1(0:00〜)イアン・アンダーウッドのピアノ・ソロ
パート2(1:43〜)バンド演奏
パート3(4:18〜)ギター(FZ)&ドラムスのデュオ
パート4(5:13〜)シュガー・ケイン・ハリスのヴァイオリンが活躍するカルテット
パート5(13:35〜)バンド演奏
パート6(14:55〜)ドラムス・ソロに続きトリオでのバンド演奏、「アイベ海」を含む、ザッパのオルガン・ソロ
パート7(17:12〜)1969/6/6のロンドン・ライヴで収録した FZ のしゃべりとオーディエンス

これら七つのパートの切れ目はまあまあ分りやすい。サウンドが瞬時かつ劇的に変化するので、次のパートにつないだなというテープ編集の痕跡がはっきり聴きとれるからだ。しかも、この「僕がかつて住んでいた小さな家」のことだけじゃなくアルバム全体がそうなのだが、かなりクラシカルだ。「僕がかつて住んでいた小さな家」のばあい、シュガー・ケイン・ハリスが活躍するパート4でだけリズム&ブルーズふうな演奏になっているが、それ以外は西洋白人クラシック音楽だよねえ。

いやまあクラシック音楽にドラム・セットは入らないけれどさぁ。あんなふうなザッパのギターもない。リズム・フィールも違う。だから言い直さないといけない。一見、表面的には西洋のクラシック音楽に聴こえるが、アメリカのブラック・ミュージック要素と合体して区別できないまでに溶け合っていて、っていうかロック・バンド形式でやるクラシック音楽というか、ザッパ・ミュージックって、まあでもだいたいどれもそうだから、またいつもの繰返しになっちゃうけれどね。

それでも『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』は、管弦楽作品、すなわちザッパの言うシリアス・ミュージックには分類されないもののなかでは最も西洋クラシック音楽的なもので、しかもそれもロック・バンド形式で実現しているもののなかではかなり素晴らしい部類に入るんじゃないかと僕は思う。ってことで、音源をまだご紹介していなかったので、「僕がかつて住んでいた小さな家」をどうぞ。
どうですこれ?イントロ部でイアンが弾くピアノ・ソロなんか完璧なクラシカル・ピースじゃないか。即興演奏ではなく、ザッパの書いた譜面どおりに弾いているはずだ。その後のバンド演奏なんかも基本的には譜面どおりなんじゃないかなあ。楽器ソロにおけるインプロヴィゼイションは、パート3でザッパ自身の弾くギター・ソロと、パート4のシュガー・ケイン・ハリスのヴァイオリン・ソロと、その二つだけのような気がする。

ところでそれはそうと、この「僕がかつて住んでいた小さな家」パート4でも聴けるシュガー・ケイン・ハリスのソロはかなりいい内容だ。ザッパはこのヴァイオリン奏者を相当気に入っていたらしく、いろんなアルバムでフィーチャーしている。僕もいままで『ザ・ロスト・エピソーズ』と『ホット・ラッツ』と、二つの記事でシュガー・ケインに言及した。個人的にはやはり『ザ・ロスト・エピソーズ』ヴァージョンの「シャーリーナ」の人ということになるんだが。

しかも「僕がかつて住んでいた小さな家」では、上述のとおりシュガー・ケイン・ハリスがソロを弾くパート4でだけ、リズムがブラック・ミュージックふうに躍動的になって、かなりグルーヴィなのもいい。その部分ではザッパ本人は演奏じたいに参加していないが、このヴァイオリニストは西海岸 R&B シーンのドンだったジョニー・オーティス人脈であるのを活用して、いや、そうでなくたってザッパの音楽にはもとからそんな要素が強いので、こんなグルーヴになっているんだよね。

あ、イカンイカン、一曲のことだけでここまで来てしまった。トップとラストのドゥー・ワップ・ソングのことを書かなくちゃ。それ以外のクラシカル・ピースのこと、例えば二つある「イゴールのブギ」(イゴールとはストラヴィンスキーのこと)や、序奏と本演奏の二つがある「ベルリンの休日」や、ザッパのギター演奏がかなり凄い「バーント・ウィーニー・サンドイッチからのテーマ」(という曲題であるってことは、もともと映画用の音楽だったのだろうか?)とかについては、もはやぜんぶ省略するしかない。みんな〜、ゴメ〜ン。『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』もまた、アルバム・フルで YouTube に上がっているので、まだお聴きでなくて気になる方はぜひちょっと聴いてみて。
さあ、本題を書こう。僕にとってはこれらがあるからこそアルバム『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』が楽しくてたまらないという、トップとラストのドゥー・ワップ・ソング「WPLJ」と「ヴァラリー」。どっちも言うまでもなくカヴァー・ソング。「WPLJ」はフォー・デューシズの、「ヴァラリー」のほうはジャッキー・アンド・ザ・スターライツの曲で、このアルバムのザッパ・ヴァージョンも、も〜う!楽しいなったら楽しいな!!
「WPLJ」で歌っているのはザッパ、ロイ・エストラーダ、ジャネット・ファーガスン、ローウェル・ジョージみたいだが、この四人だけのコーラス・サウンドにも聴こえないので、多重録音してあるんだろう。後半部のスペイン語ラップはだれ?ロイ?とにかくリズムが楽しいし、歌詞内容はただ White Port & Lemon Juice が美味しいというだけのものだけど、いいのは歌いかただよなあ。楽器伴奏はアート・トリップのドラムスの音が目立っているが、ベース(ロイではなくジョン・バルキン)も聴こえる。鍵盤楽器とホーン・アンサンブルのリフなんかは音量が小さい。あくまでヴォーカル・ミュージックだ。ドゥー・ワップですから〜。

あれだけのドゥー・ワップ狂だったザッパで、自身のアルバムでもたくさんドゥー・ワップをやっているし、『クルージング・ウィズ・ルーベン&ザ・ジェッツ』なんか一枚丸ごとそうだし、編集盤だけど二枚のドゥー・ワップ集『チープ・スリルズ』もあったりするザッパだが、そんななかで僕の最愛好ザッパ・ドゥー・ワップが、『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』トップの「WPLJ」なんだよね。だぁ〜ってね、こんなにも楽しい音楽、なかなかないよ。

いちおうラストの「ヴァラリー」のことにも触れておこう。ウキウキ愉快な「WPLJ」と違って、こっちは失恋の歌。リズムの感じも曲調も哀しげに泣いているような(「ヴァラリー、もう僕のことはどうでもいいのか?僕はもう必要ないのか?」)ものだけど、やっぱりヴォーカル・コーラスがいい。しかも「ヴァラリー」のばあいはザッパとローウェル・ジョージとロイ・エストラーダの三名だけが歌っているらしい。でもそれ、本当かなあ?この切々たるフィーリングでトーチを歌うリード・ヴォーカルはだれだろう?ザッパかなあ?素晴らしいじゃないか。

こういったドゥー・ワップ・ソング二つで西洋クラシック音楽(ふうなもの)をサンドイッチしてあるからこそ、アルバム『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』はいいんですよ。僕みたいな人間にとってはね。

蛇足。ドゥー・ワップはある種のシンギング・スタイル名であって、音楽ジャンル名などではさらさらない。ゴスペルからジャズ、リズム&ブルーズ、ソウル、ロックなどのアメリカ音楽はもちろん、日本のムード歌謡界でもその合唱様式は聴ける。詳しいことはドゥー・ワップ関連の文章でまとよう(でも大変そうだ…)。

« とろけるような美声、装飾技巧、豊麗なる表現 〜 ジョニー・ホッジズ | トップページ | 木綿のハンカチーフ三枚 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ドゥー・ワップでクラシックをサンドイッチ 〜 ザッパ:

« とろけるような美声、装飾技巧、豊麗なる表現 〜 ジョニー・ホッジズ | トップページ | 木綿のハンカチーフ三枚 »

フォト
2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ