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2017/11/15

泡のようにはかなく消えやすい恋 〜 原田知世と伊藤ゴローの世界(3)

 

 

 

 

 

今2017年の夏ごろ(だっけか?)リリースされた原田知世の最新作『音楽と私』。全11曲が、知世自身の過去曲の再録で、新たな解釈で伊藤ゴローがプロデュースとアレンジもやりなおし、演奏しなおして、歌手が歌いなおしているものだ。一曲目の「時をかける少女」みたいな知世最大の代表曲もある。素晴らしかったので、ぜんぶオリジナルも聴いて比較してみようと思って、この歌手の過去の作品も買って聴いている。

 

 

がしかし『音楽と私』収録の全11曲の、その再演とオリジナルを一度にぜんぶとりあげるのは僕には無理なので、なかでも特に印象に残った「うたかたの恋」についてだけ今日は書く。いい曲なんだよね。曲題だけで、もうヤバいでしょう?見ただけで泣きそうだ。

ところで、この「うたかたの恋」というタイトルの曲は宝塚にもあるし、藤あや子(だっけな?)にもあるが、ぜんぶ違う曲。うたかたの恋というのはよくある常套句なので、いろんな人が使っているふつうの表現なんだよね。原田知世のは彼女のオリジナルで、歌詞は知世自身が、曲は伊藤ゴローが書いている。

 

 

その知世の「うたかたの恋」オリジナルは2014年の『noon moon』収録で、このアルバムも伊藤ゴローがてがけた作品。ってことで、上掲(1)で書いてあるように、『恋愛小説』シリーズ二枚でこの伊藤&知世コンビにぞっこん惚れてしまった僕は、『音楽と私』のリリース前に、この二名コンビ作はぜんぶ買って聴いていた。だから『noon moon』だって聴いていたのだった。忘れていたような部分もあったけれども…(^_^;)。この14年作でいちばん好きになったのが二曲目にある「うたかたの恋」。

 

 

まあやっぱり曲題と歌詞内容がちょっとこりゃ…、ヤバいんだ、ここ数ヶ月来の僕にはね。特に最初と最後の一行 〜 「離れるほどつのる想いは」と「夢なら覚めずにこのままあなたと」だよなあ、ヤバすぎるのは。みんなが持つありきたりの恋情を知世も書いただけの歌詞(と曲題)だろうけれど、う〜ん、これはイケマセン。泣いてしまいます。

 

 

こんな内容の歌詞に、あとから伊藤ゴローが曲を付けたのか、あるいはその逆だか分らないのだが、その歌詞と旋律の一体感が素晴らしい。いまちょうどだれかに恋していて、その恋はうたかた(泡沫)のように簡単にはじけて消えそうなはかないもので、しかしできうれば消えずに、ほんのちょっとのあいだだけでも、夢のようなものでもいいから、少しのあいだは味わわせてほしいっていうそんな気分を、伊藤ゴローの書いたメロディとアレンジが際立たせていて、この二名の作詞作曲したもののなかでは、これが最高傑作だと思う。少なくとも僕はいちばん好きだ。

 

 

「うたかたの恋」。アレンジとプロデュース・ワークは『noon moon』ヴァージョンと『音楽と私』ヴァージョンで、もちろんかなり違っている。『noon moon』収録の「うたかたの恋」では、鍵盤楽器中心のサウンド。まずアクースティック・ピアノが出てドラムスがちょっとフィル・インしたかと思うと、その後はフェンダー・ローズが伴奏のメインになっている。アクースティック&エレキ・ギター(はもちろん伊藤ゴロー)はやや控えめ。ドラマーがやや跳ね気味に刻んでいるのも印象に残る。ドラムス&フェンダー・ローズが刻むのは、ちょっぴりレゲエっぽいフィーリングのあるビートだと言えるかも。シンセサイザーがサウンド・エフェクト的に入っている。

 

 

そんな「うたかたの恋」は、最終盤で突然放り出すように終わってしまう。中断してしまったかのようで、まるで本当に泡とかシャボン玉とかがパチンと割れて消えてなくなってしまったかのようなんだよね。その突然のエンディングは、まるで異性に突然別れを告げられたかのごとき終わりかたで、なんだか計算し尽くされているよなあ。まさにうたかたの恋だ。まだご存知ない方は、最初のほうでリンクを貼った自作 Spotify プレイリストで聴いてほしい。

 

 

これまたその自作プレイリストで聴いてほしいのだが、『音楽と私』収録の最新ヴァージョンの「うたかたの恋」でも、そのプツッと突然別れを告げられたように中断するようなエンディングは同じだ。この曲はこういうものなんだろう。うたかた(泡沫)だもんね。でも曲全体のアレンジとプロデュースは、『noon moon』のものとはかなり違っている。

 

 

アクスーティック・ピアノのイントロではじまるのは同じだが、『音楽と私』の「うたかたの恋」では、その部分で二本の管楽器が泡のごとく浮遊するサウンド・エフェクトみたいにからんでいる。トランペットとソプラノ・サックス。この二管は知世が歌いはじめてからも曲終盤までずっと入っていて、なかには二管アンサンブルで演奏するパートもあるが、たいていは離れて少しずつズレながら音をくわえる。しかしアンサンブル・パート以外でもそれら二管はアド・リブでは吹いていないと思う。伊藤ゴローの事前指示どおりに演奏しているんじゃないかな。

 

 

このトランペット&ソプラノ・サックスの二本が点描的にくわえる漂うサウンドが、この「うたかたの恋」をジャジーな感じの曲に仕立て上げ、またそれがなくとも、アクースティック・ピアノや、伊藤ゴローの弾くクラシック・ギターのサウンドもあって、しかも後半部ではフェンダー・ローズの優しく柔らかい音色も入り、そこにやっぱり二管がからんだりして、う〜ん、なんだかアンビエント・ジャズみたいだ。

 

 

「うたかたの恋」というこの曲の持つ本来の持味とか特性を考えたら、そんな『音楽と私』ヴァージョンのほうが出来がいいんだっていう考えに、僕も至るようになっている。このはかない恋情をよりよく表現しているよね。『noon moon』ヴァージョンだと、まだ少し泡沫でもないみたいな心情、というかメンタル面での強靭さがサウンドに出ているようだった。特にドラミングとビート感と、ヴォーカル録音の質に。

 

 

それが『音楽と私』ヴァージョンの「うたかたの恋」では、本当に泡沫みたいな浮遊するサウンドになっていて、知世の声の質(は録音のせいかもしれないが、それだけじゃないかもしれない)もそれに近い表現をしているように聴こえる。例えば『noon moon』ヴァージョンでは部分的に知世自身の多重録音ヴォーカル・コーラス部があったが、『音楽と私』ヴァージョンにはそれがない。細くデリケートな感じのヴォーカル・サウンドになっていて、細いとは、このばあい、悪い意味ではない。いまにも消えそうな、夢なら覚めないでというはかない恋の想いを、よりよく具現化できているように感じる。

 

 

しかしながら、2017年作『音楽と私』ヴァージョンの最新「うたかたの恋」でも、ドラミングだけはそこそこ強靭なビートを刻んでいる。スネア、特にリム・ショットの使い方と、ベース・ドラムの踏み方がやや込み入ってもいて、そんな部分に強めのビート感を聴くこともできる。

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コメント

原田知世には珍しい悲しい歌。
原田知世の場合、別れの歌でも前向きな歌詞なのにこの曲は聴き手を突き放すように終わる。
「夢から覚めなさいよ」と言うように。
涙が似合わない歌になってるのが原田知世らしい、と思った。
もっと知られて欲しい曲だけど「泣ける曲」を好むのが日本人なんだから難しいだろうなあ。

少し語ってしまったのは僕にもこの曲の思い出があるから。
35周年だかのコンサートで僕の横の席に座ってた若い女性の方がさ、曲を聴いてるんだか聴いてないんだか漠然とした感じで微動だにせず座ってたんだよね。
うん。そして「うたかたの恋」が流れてきた。僕的には、この曲をセットリストに入れる意味ってよく解らなかったのね。
でも微動だにしなかった隣の女性がいきなり手拍子しつつ「うたかたの恋」を口ずさんでたの。
隣の女性はなにか安心したのか、その後の曲はノリノリで聴いてました。

この体験で、この曲の本当の良さを知らされた感じがしました。
隣の女性のように、この曲には「夢から目覚めさせる」ような力がある、と個人的には思ってます。

ポジティヴな受け取りかたもできる歌だとぼくは思っています。

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