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2017/11/30

河内グルーヴ

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錦糸町でやるようになったのは何年からだっけ?河内音頭。盆踊りの伴奏音楽だけど、お祭りとかお神輿とか、以前も書いたが獅子舞とか、子供時分はあまり好きじゃなかった僕。こわいような気がしていたし、それにちょっと暴力的な感じがしていて、実際、全国のいろんなお祭りやお神輿のぶつかり合いなどでは怪我人や、ばあいによっては死人が出たりもするもんなあ。音楽が面白いなあと感じていたかもしれないが、あまり積極的には行かなかった。

 

 

だからどんなお囃子とか音頭とかでも、音楽だけを取り出してレコードや CD でどんどん聴くようになったのは音楽狂になった17歳以後のことで、その後は現場体験もおそろしい感じが薄くなってきた。いやまだ少し残っているけれども。そもそもお酒が付き物だし(下戸で華奢なヤサ男でスンマセン)、やっぱりアルコール類はダメだけど、暴力的な要素はダンス・ミュージックには必然的についてくるものだと理解できるようになった。それでもやっぱり部屋のなかで聴いているばあいが多い僕。

 

 

河内音頭をレコードや CD で聴く体験はホンモノじゃないと言われそうだけど、僕は必ずしもそうは思わない部分もある。ダンス・ミュージックは世界にいっぱいあるが、現場体験できるものなんてかなり限られているじゃないか。アメリカの黒人ファンク・ミュージックだって、ふつうの多くの日本人音楽愛好者は録音物で知っているにすぎないはずだ。それでダメだと否定されるべきってことはないだろうと思う。むろん現場体験できればそれに越したことはない。

 

 

そんなわけで何枚か持っている河内音頭の CD から、今日は2012年のテイチク盤『続、続々カワチモンド』をチョイスした。書いたように盆踊りの際の伴奏音楽だから、現場では延々とやっているものだけど、この二枚組 CD に収録されているものはすべて45回転のアナログ・シングル盤音源。それも一度は発売されたものの、シングル・レコードという企画ものであるがゆえイロ物、ゲテ物扱いされて、店頭から消えたが最後、二度と日の目を見ることがなかったものがほとんどらしい。ってことはつまり、日本のレア・グルーヴ?

 

 

実際、『続、続々カワチモンド』には、クラブ向けみたいなものだってあるみたいだ。例えば二枚目一曲目の「千両幟 VooDoo Ciranda」。音頭取りは桜川百合子だが、これは原曲を久保田麻琴がリミックスしたものだ。これ以外にもありそう、っていうかそもそも伝統形式そのままであっても河内音頭はダンス・ミュージックなんだから、クラブ向けみたいな?グルーヴはしっかりある。

 

 

伝統形式と書いたものの、河内音頭は一度衰退したらしい。詳しいことは知らないんだけど、これだけは僕でも知っている有名な1961年の鉄砲光三郎のレコード「鉄砲節河内音頭」シリーズが、(公称で)累計100万枚を売ったらしく、これ以後、世間に河内音頭が広く拡散するようになったんだそうだ。そのシリーズもテイチク盤なんだよね。鉄砲光三郎は CD『続、続々カワチモンド』にも二曲収録されている。どっちも曲題は「鉄砲節河内音頭」となっているが、一枚目一曲目のものはご存知のよく知られている河内音頭の通常スタイル。六曲目のものはハワイアン・スティール・ギターが入っている。

 

 

YouTube で探すと、ハワイアン・スタイルの「鉄砲節河内音頭」のほうはそのままあった。スティール・ギターはバッキー白片。

 

 

 

伝統スタイル?の、というかみなさんよくご存知のやりかたでやる河内音頭というべき一曲目の「鉄砲節河内音頭」は、そのままのものが YouTube にないが、同じ鉄砲光三郎の河内音頭はどれも同じなので、ちょっとこれをご紹介しておこう。CD アルバム『続、続々カワチモンド』一曲目収録の「鉄砲節河内音頭」は、こういった感じのものを45回転ドーナツ盤用の約三分間に短縮して歌っているだけみたいなもんで、それが1961年に発売された。

 

 

 

その他 YouTube で探せば、現在までも連綿と受け継がれているこの「鉄砲節」の実際の演唱風景も合わせ、去年のだとか今年のだとか(鉄砲光三郎は2002年没)がたくさん上がっているので、ご興味のあるかたはご覧あれ。でもどれ聴いても同じですけれどもね。つまり鉄砲光三郎の功績がそれだけ大きかったということと、毎年恒例の盆踊りの伴奏音楽なんて、現場でのありように変化なしってことなんだろうね。世界のどんな伝統的ダンス・ミュージックもそうだ。

 

 

CD アルバム『続、続々カワチモンド』に収録されているものは、いずれも45回転のドーナツ盤商品として売ろうとして企画され録音され発売されたものなので、なかにはダンス向けというだけじゃないようなものだってある。いや、ダンサブルではあるものの、盆踊り現場では使いにくそうだ。あくまでシングル盤レコードですから〜、聴かせるための歌謡音楽化しているばあいもあるんだよね。それなもんで、上述のとおり異端視されて売れなかったのかなあ?

 

 

一枚目八曲目「ソウル河内音頭」(椿秀春)や、二枚目六曲目「ディスコ河内音頭」(これも椿秀春)、十一曲目の「商売繁盛じゃ笹持ってレゲエ〜レゲエ河内・鉄砲節〜」(James Bon = 若井ぼん)なんかは、そのままじゃ盆踊り伴奏としては使いにくそう。でもダンス・ホール、クラブなどでなら難なく踊れるものだから、むしろある時期以後の DJ あたりの注目は集めそうだ。だからまあやっぱりイロ物、ゲテ物かもしれないが、河内音頭の生命力を物語るものじゃないか。CD 附属ブックレットで複数氏が言う<雑食性>とまで言うのはちょっとどうかと思うのだが。だって、(世界の)民族伝統と現代ポップスの合体はよくあることだから。

 

 

それよりも僕にとっては、『続、続々カワチモンド』一枚目で桜川唯丸がやる、三曲目「江州音頭唯丸節 浪花遊侠伝」と十二曲目「民謡ヤンレー節 鈴木主水」がかなり強烈に脳裏に焼き付いたままだ。2012年に買って最初に聴いたときからそうで、いまでもこの印象が変わらない。どっちも1975年のレコードだけど、これらはアフリカ音楽だもんね。

 

 

 

 

どっちもアフリカのサハラ地域でトゥアレグ族のやるエレキ・ギターを中心とする音楽、いわゆる砂漠のブルーズにあまりにも似ているよね。しかも桜川唯丸のこれら二曲は1975年のレコードだもんなあ。砂漠のブルーズはまだない。桜川唯丸が使ったギタリストは、近隣のそこいらへんのスナックで弾き語る流しをスカウトしたものらしい。う〜ん、マジか…。おそろしいことだ。これら二曲ともエレキ・ギタリストが繰返すリフ・パターンは、どう聴いても砂漠のブルーズのものじゃないか。太鼓が入っているのかどうかの違いしかない。ヴォーカルのコール&リスポンスも同じだ。

 

 

これら桜川唯丸の二曲はエレキ・ギターの弾きかたがあまりにも砂漠のブルーズだけど、音頭取りやら三味線やら太鼓やらもあわせた曲の演奏のグルーヴじたいは、『続、続々カワチモンド』収録のほかの多くの曲でも近いものがあるんだよね。そもそもの中興の祖だった鉄砲光三郎の河内音頭が収録されている二つだってそうだった。

 

 

大阪は河内に、っていうよりも日本人のなかに、しかも古くから伝承的に、こんなリズム感覚、グルーヴが存在していて、しかもそれは毎夏日常的に発揮されているってことだよね。しかも演奏されるそんなのにあわせ、僕たちのようなどこにでもいるごくふつうの一般人が踊っているってことだ。

 

 

アフリカン・グルーヴは中南米のアフロ・クレオール音楽の土台にもなっているんだから、ってことはブーガルー・ブルーズみたいなハービー・ハンコックの「ウォーターメロン・マン」の、特に別テイクのほうのノリが、まるで河内音頭のそれみたいじゃないかという昨日の僕の印象も、まったくゆえなきものじゃない?

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