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2017/11/01

ギル・エヴァンズなアフロビート&ジャズ・ハイブリッド 〜 トニー・アレン

Tonyallen_thesource








と言ってもこのアルバムはアフロビート作品でもジャズ作品でもないようなものだ。アート・ブレイキーに『ジ・アフリカン・ビート』という1962年のアルバムがあったけれど、どうやら遠くはそのあたりからやってきて、トニー・アレンは2017年にジャズとアフロビートのハイブリッドを実現したんだよね。

露払い的な役目だったのか、トニー・アレンはアルバム『ザ・ソース』に先行して、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのトリビュート EP をリリースしていたのだが、目論見じたいはいいぞと思ったものの(だってトニー・アレンはブレイキーやマックス・ローチといったオールド・スクールなモダン・ジャズ・ドラマーの系統にあるもんね)、できあがりはあまり面白くなかったのだ。でもフル・アルバム『ザ・ソース』は段違いの素晴らしさで、こりゃ傑作。

トニー・アレンの『ザ・ソース』。ジャケット裏に書かれてある総勢11人のパーソネルを見ても、リーダーでドラマーのトニー・アレン以外はほとんど知らないなあ。ヤン・ジョンキエレヴィックスだけがちょっと知っているかと思うだけで、ヤンはアレンのパートナーとしてやってきているサックス奏者。アルバム『ザ・ソース』でもかなり重要な役割を果たしていて、全12曲すべてで作編曲をトニー・アレンと共同でやり、(ソプラノではないと思うんだけど)サックスも吹いている。

ヤンを除くほかの10名は全員名前も演奏も初体験の人たちばかりだ。でもかなりいい。かなりいいっていうか、このトニー・アレンの2017年新作『ザ・ソース』は、今年を代表するジャズ・アルバムに違いない素晴らしい出来栄え。今年のジャズ・アルバムは、レユニオンのメディ・ジェルヴェル『トロピカル・レイン』で決まりだと思ってアグラをかいてふんぞりかえっていたら、ここに来てとんでもないのを聴いちゃったよ。明日書くものはもっとすごいかもだけどね。

トニー・アレンとヤン・ジョンキエレヴィックス以外、僕はぜんぶ知らない総勢11名のミュージシャンは、ギタリストのアンディ・ディボンゲだけがカメルーン人で、ほかは全員パリで活動するフランス人ジャズ・メンみたいだ。主役のドラムス、ウッド・ベース(はほぼ完璧にジャズ・マナー)、エレキ・ギター(はジャズっぽい部分がなくアフリカ音楽ふう)、ピアノやオルガンと、ほかは全員管楽器奏者だ。管はサックス3、トランペット1、トロンボーン or チューバ1の五管編成で、かなり分厚いサウンド。こ〜りゃ完璧に僕好み。

ふつうのジャズ・ピアノ・トリオなんかじゃ物足りない僕にとって、アルバム『ザ・ソース』一曲目「ムーディ・ボーイ」の出だしでいきななりチューバが聴こえて、それにほかの管楽器アンサンブルがうめくように絡んでいくあたりに、相当な快感がある。しかもこのチューバのリフ反復にホーン・アンサンブルを乗せる手法は、ギル・エヴァンズのものだ。リズムが入ってきて、エレキ・ギターがアフロビートふうに刻みはじめ、テーマをサックス三管で演奏し、そこにトロンボーンがからむ。こ〜りゃも〜う最高じゃないか。管楽器ソロのあいだ背後で入るホーン・リフのアレンジもギル・エバンズのペンみたいな感じ。

またアルバム三曲目「クルージング」のホーン・アンサンブルもギル・エヴァンズ・マナーだ。トランペットにハーマン・ミュートを付けて吹かせ、ほかの管楽器をからめたり、テーマを演奏するあいだ背後で入るホーン・リフや、アクースティック・ピアノを転がしながらやはりそこにホーン陣アンサンブルの短いリフが入ったりなど、共同作編曲のトニー・アレンとヤン・ジョンキエレヴィックスは、随所で分るけれど、相当ギル・エヴァンズ(とデューク・エリントン)を研究しているよね。

じゃあジャズっぽいのか?というとそんな印象もないのが不思議だ。『ザ・ソース』をありきたりなジャズ作品であることから遠ざけている最大の要因は、うん、もちろんトニー・アレンのドラミングではあるけれど、それにくわえてエレキ・ギターのカッティング・マナーだよね。上述のとおり、カメルーンのアンディ・ディボンゲ。しかしこの人もやはりパリで活動しているみたい。演奏を聴いたのは僕は初めてだったが、相当いいアフロビートを刻み、トニー・アレンとのタッグで素晴らしいグルーヴを創りだしている。

ヴァンサント・トーレルか?ジャン・フィリップ・デイリーか?分らないオルガンがかなりクールに鳴っている、アルバム8曲目「クール・キャッツ」なんかは完璧に僕のためのワン・トラックじゃないかと思うほどカッコイイ。オルガンといえば7曲目「ウルフ・イーツ・ウルフ」でも超カッコイイ。しかもこれら二曲とも、クールというかチリングで、オルガンを頻用するジャズ・ファンクみたいでありながら、あんがいそうでもない感触がリズム・フィールにある。これらのオルガン、本当にどっちが弾いているんでしょう?ジャケ裏のクレジットではピアノとなっているゲスト参加のデイモン・アルバーンが弾いているような気が強くするんですけれども? どなたか教えてください。

たしかにマイルズ・デイヴィスがアフロビートをやっているみたいに聴こえる、アルバム10曲目の「エワジョ」も面白い。リズムがよれて突っかかるみたいな感じで、特にトランペット・ソロをフィーチャーしてはいないが、中軸の五管アンサンブルが、これまたギル・エヴァンズのペンになるものみたいで、しかも主役ドラマーはトニー・ウィリアムズみたいに叩く。まるで1960年代末ごろのマイルズか、ひょっとして72年の『オン・ザ・コーナー』を、ギルがアレンジしたホーン・アンサンブルを使ってアフロビートっぽくして展開したみたいなワン・トラックだ。

そんなアフロビート・マイルズみたいな10曲目「エワジョ」でもそうなのだが、トニー・アレンの『ザ・ソース』は作編曲の勝利だ。ここまで書いてきたもの以外なら、4曲目「オン・ファイア」でも6曲目「トニーズ・ブルーズ」でも9曲目「プッシュ・アンド・プル」でも、ちょっとヘンな短めのリフをグルグル反復し、それをこれまた緻密にアレンジされたリズム・フィギュアの上に巧妙に乗せて、ちょっとジャズでもアフロビートでもないような、ハイブリッド・グルーヴを出している。

だから僕のばあい、このトニー・アレンの『ザ・ソース』だと、その生々しい肉声は管楽器ソロにだけ聴きとっているわけじゃない。というかそんな部分はあまり重視していない。あくまでホーン・アンサンブルの響きとリズム・グルーヴに肉体性を感じとっているんだよね。どっちもかなりな部分まで綿密に用意されアレンジされているのが分るから、これはドラムス好き向けアルバムじゃない。トニー・アレンとヤン・ジョンキエレヴィックスのタッグによるソングライティングを聴くべき作品なのだ。

いやあ、しかしこれホントすごいアルバムだよなあ。それがどうして三曲しか Spotify で見つからないんだろう?みなさんに教えてシェアしたいのに…。僕は自分で CD 買う人間だから問題ないんだけど、音楽好きでもいろんな理由でなかなか気がまわらない人だっているはずだと思うんだよね。なんとかしてくれ、ブルー・ノート!!

しょうがないから、Spotify にある三曲だけでプレイリストをつくっておいた。CD 買ってないみんな〜、ちょっと聴いて。
YouTube のほうには、アルバム『ザ・ソース』のティーザーと
それからアルバムからオープニングの(ギル・エヴァンズな)「ムーディ・ボーイ」と
「エワジョ」「クルージング」もあった。

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コメント

ダモン・アルバルン?
デーモン・アルバーンのことですか? イギリス人なのに、なぜゆえフランス語読み?

ありがとうございます、直しておきました。
それで、そのデイモン・アルバーンがあのオルガンを弾いているような気がしませんか?bunboniさん?

どうでしょう?
デーモンのプレイを聴き分ける耳がないので、わかりませんが。
それよりぼくが気になるのは曲のタイトルの方。クール・キャッツは、ヴィクター・オライヤにオマージュを捧げたのかな。

曲題のことは僕には分りません。ジャケ裏には "damon albarn PIANO GUEST" と記載があるんですが、その右にかなり薄〜っい字で「8」って数字が見えます。8曲目は「クール・キャッツ」。ピアノらしき音も聴こえないし、う〜ん、バンド・レギュラーのフィリ・デイリーなのかどっちなのか?しかし、ほかの曲でのオルガンの弾きかたと少しスタイルが違う気がして、それらがフィリ・デイリーなら、「クール・キャッツ」はアルバーン??

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