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2017/11/14

太田裕美「木綿のハンカチーフ」〜 アルバム・ヴァージョンとシングル・ヴァージョン

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太田裕美の三枚目のアルバム『心が風邪をひいた日』。CBS ソニー盤で、1975年12月の発売だった。このころ僕は13歳。以前も書いたように、中学時代の最親友クリタセイジが熱烈な太田裕美ファンだったおかげでこのアルバムも…、かというと、その記憶はまったくない。ハッキリと憶えているのは、45回転のアナログ・シングル盤「木綿のハンカチーフ」ばかりなんどもなんどもクリタんちで聴いたということだ。アルバムだって聴いたかもしれないが。

しかし太田裕美の「木綿のハンカチーフ」は、オリジナルであるアルバム・ヴァージョンと、その後発売されたシングル・ヴァージョンで内容が違うんだよね。長年僕は、その違いなんて微々たるものだろうと思い込んでいた。ところがジックリと聴きなおすと、かなり大きく違うじゃないか。う〜ん、気がついていなかった。というか僕はずっとシングル・ヴァージョンしか意識していなかったかもしれない。ある時期にアルバム『心が風邪をひいた日』 LP レコードも自分で買ったはずなのだが、まあちゃんと耳を傾けていなかったんだなあ。

今年八月末に太田裕美の『心が風邪をひいた日』の SACD が発売されたのだ。僕は今月になってそれを買った。それまでの通常の CD だって同じものを持っているのだが、買わずにおられないというくらい好きになっているから〜。裕美さんのことが〜、じゃなくて、いや、それもあるが、なによりもあのアルバムで聴ける音楽、裕美の歌声が、そりゃもう大好きなんだよね。SACD だろうとなんだろうと買わずにおれらますかって〜の。だいたいそれまで聴いていた CD だって、買い増した Blue-spec 盤で、その前に、たしか1990年ごろに発売されたふつうの CD だって持っている。

ふつうのアルバムとしても Spotify にはない太田裕美の『心が風邪をひいた日』。その SACD は、都会の大手路面店ならふつうに置いてあるんじゃないかと思うけれど、アマゾンなど通常のネット通販では買えない。Stereo Sound Online でしか買えないんだよね。これは謎だ。こんな素晴らしい歌手の最高傑作(ではないという声もあるが)アルバムの SACD 盤をふつうに買えるようにしないなんて…。どうしてだろう?…、と思ってパッケージをよく見たら、これはソニー盤じゃないのか?Stereo Sound 盤ってこと?それであっても、ふつうに買えたらもっといいのに…。
まあいい。地方人にも買えないわけじゃない。問題は高音質盤だとかいうことじゃない。たんに好きだからっていう、だから何枚も持っておきたいっていう、ただそれだけの理由で太田裕美の『心が風邪をひいた日』SACD を買ったのだ。だいたいそれまでのリイシュー CD と違って SACD 盤は紙ジャケットだし、それもいい。ところが、僕んちに届いたそれを聴いて、だいたい Stereo Sound の購入サイトでも商品もよく見ないで、ただ届いたものをかけたのだ。するとかなり大きなことがあった。

それは SACD のアルバム末尾に、「木綿のハンカチーフ」のシングル盤ヴァージョンが収録されているのだってこと。オリジナル・アルバムのラスト12曲目「わかれ道」を聴き終わり、いつもどおり素晴らしかったなあとため息をついていると、次の瞬間に流れてきたんだよね、「木綿のハンカチーフ」のシングル・ヴァージョンが。あっ!と思って、そのとき、はじめてダブル・ジャケットを開くと、たしかにボーナス・トラックとして記載がある。ジャケット・デザインはミニチュア LP 的なオリジナル仕様再現だから記載なし。したがって歌詞が書いてある附属の紙にも記載はなし。

つまり『心が風邪をひいた日』SACD を買えば、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」のアルバム・ヴァージョンとシングル・ヴァージョンの両方とも聴けるってことだ。こりゃいい!素晴らしい!僕はもう今度この SACD 盤しか聴かないぞ。ってことで、たぶん生まれてはじめて僕は、この名曲の両ヴァージョンを一枚のアルバムのなかにあるものとして、かなりじっくりと聴き比べたのだった。

「木綿のハンカチーフ」が一曲目に収録されたアルバム『心が風邪をひいた日』は1975年12月5日に発売されているが、45回転シングルの「木綿のハンカチーフ」は同21日発売だった。再録音されたものだということだから、そのあいだにもう一回やったということだよね。伴奏も太田裕美のヴォーカル表現も、もちろん録音やミックスも、ぜんぶかなり違うんだ(ってことに、SACD ではじめて気がついたわけですが(^_^;)。

歌詞もちょっぴり違っているというネット情報を得て聴き比べたが、これはかなり分りにくい。たった一箇所だけなんだ。三番の歌詞「恋人よ、君は素顔で、口紅もつけないままか」。これがアルバム・ヴァージョンだが、シングルでは「恋人よ、いまも素顔で 〜〜」となっている。ここだけ。これは違いというより誤差みたいなものだけど、これも作詞の松本隆が書きなおしての指示だったんだろうか?あるいは録音時に太田裕美がアド・リブ的にそう歌っただけなのか?ひょっとして瞬時に間違えた…、なんてことはありえないよなあ。

でもこれはどうでもいいことだ。もっと大きなことは、伴奏のアレンジや、したがってサウンドやリズムがかなり大きく違っているということだ。太田裕美のヴォーカル表現もかなり違っている。「木綿のハンカチーフ」の音源をまずご紹介しておこう。

アルバム・ヴァージョン https://www.youtube.com/watch?v=6PTO2XQ17u4
シングル・ヴァージョン https://www.youtube.com/watch?v=4kavnmW3EqA

アレンジが相当違うよね。まず耳をひくのは、シングル・ヴァージョン冒頭で、渦を巻いて迫ってくるかのようなストリング・アンサンブルだ。対してアルバム・ヴァージョンではエレキ・ギターではじまっている。好みの問題でしかないように思うけれど、長年シングルのほうしか頭になかった僕でも、いまではアルバム・ヴァージョンのイントロのほうが好きなんだよね。

曲全体でもアルバム・ヴァージョンでのストリングスは控えめで、あくまでエレキ・ギター&ベース+ドラムスのリズム・セクション中心の伴奏で、弦楽器は軽く控えめだ。アルバム・ヴァージョンではエレキ・ギターがかなり目立つように活躍し、イントロやオブリガートや間奏などなど、たくさん弾いている(どなたなんでしょう?ずいぶん前にお名前をうかがったように思うのですが、忘れました)。

シングル・ヴァージョンのほうでは、ストリングスと木管アンサンブルがやや大きめに入っている。太田裕美が歌っているあいだの伴奏は、やはりあくまでエレキ・ギターを中心とするリズム・セクションが伴奏しているが、シングル・ヴァージョンには存在しない木管アンサンブル(たぶん複数本のフルート)やシンセサイザーも、またかなり小さくうしろのほうで女声バック・コーラスも、入っている。ストリングスのフレーズも違えば、ミックスによる(ものだと思うのだが)ストリングスの音の大きさも、アルバム・ヴァージョンとはぜんぜん違う、と言ってしまいたいほど違っているじゃないか。

さらにリズム・アレンジの違い。基本的なフィーリング 〜 A メロ部分でラテン音楽ふうに跳ねて、サビ部分でフラットに進むビート感になる 〜 は同じであるものの、特に A メロ部分でのリズムのラテンふうなシンコペイションが、アルバム・ヴァージョンよりもシングル・ヴァージョンのほうが、特にベースとドラムスによって、より鮮明で強く表現されている。ここだけはいまの僕もシングル・ヴァージョンのほうが好きだ。

太田裕美の歌いかたは、逆にアルバム・ヴァージョンのほうがスタッカート気味のフレイジングを多用している。シングル・ヴァージョンでは、たとえば歌詞の一番から四番のすべての出だしになっている「こいびとよ」部分でスタッカートせず、言葉は悪いかもしれないが、のっぺりと平坦な感じ。「こっ、いっ、びと、よっ」がアルバム・ヴァージョンでの歌いかただけど、「こいびとよー」がシングル。そのほか同じような歌唱法の違いが随所に聴けるのだが、ここも作曲の筒美京平が書きなおし指示したことなんだろうか?

ヴォーカルの音量の大きさは、これもシングル用のミックスということなんだろう、そっちのほうがポンと前に出ていて大きく聴こえるので、ふつうならングル・ヴァージョンのほうが聴きやすい。あくまで太田裕美の歌を聴かせたいという意図で、シングルのほうのミックスはやったんだろう。ストリングスや木管やシンセサイザーなどや、また伴奏アレンジの違いも、裕美の歌を際立たせたいという意図で、萩田光雄(と筒美京平の共同アレンジらしい、シングルのほうは。アルバムのほうは萩田光雄単独のアレンジ)がやりなおしたってことだろうね。

「木綿のハンカチーフ」のシングル盤発売に際して再録音するとなって、作詞作曲編曲のトリオと主役女性歌手が仕事をやりなおした結果、シングル盤の「木綿のハンカチーフ」は、たしかにアルバム・ヴァージョンのものよりも出来がいい。とふつうのリスナーのみなさんには受け止められるはず。僕もそういう出来栄えに違いないと考えてはいる。

個人的な好みだけでいえば、ちょっと違うんだけどね。

あれれ〜っ?しかしアルバム『心が風邪をひいた日』には、ほかにもいい曲がたくさんあって、ボサ・ノーヴァだってあるんで、それらぜんぶ書こうというつもりだったのだが、今日はもうその余裕がないなあ。「木綿のハンカチーフ」についてだって、まだまだ書きたいことがある。歌の出だし「恋人よ、僕は旅立つ」の「旅立つ」の「つぅ〜」でスッとファルセットに移行する部分のナチュラルな美しさがとてもキラキラ輝いていて…、ってキリがないなあ。

しょうがない。また今度にしよう。と言うときは、世間一般のみなさんと違って、いままで僕はは必ずその「今度」を実行してきているのだが、しかし太田裕美のアルバム『心が風邪をひいた日』では、「木綿のハンカチーフ」があまりにも突出して素晴らしすぎるように思うので…。

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