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2017/11/03

こんなブーガルー・ブルーズが

 

 

僕が今日こだわりたいことは、マイルズ・デイヴィス1965〜68年のセカンド・クインテットの諸作のなかに、12小節定型のブルーズ楽曲が二つあるということだ。以前、「フットプリンツ」(『マイルズ・スマイルズ』)だけだというようなことを書いたけれど、間違っていた。もう一つは「エイティ・ワン」(『E.S.P.』)。しかしこっちは24小節。まあこれは12小節パターンの範囲内だ。

 

 

 

 

24小節ブルーズというと、僕はすぐにレッド・ツェッペリンの「ロックンロール」を思い浮かべる人間なのだが、あれは定型12小節の1小節ごとが倍になっていて(ギター・ソロ部だけ12小節)、それで結果的に24小節ワン・コーラスになっている。いっぽう、ロン・カーターが当時のボス、マイルズのために書いたブルーズ「エイティ・ワン」のばあい、三人のソロは12小節パターンで展開しているが、テーマ演奏部だけ、12小節のセグメントを二回やっているんだよね。それもメロディを変えて。

 

 

 

問題は24小節ブルーズとかいうことじゃない。これがカリブ〜ラテン・ブルーズをやっている新主流ジャズだということだ。記事題に「ブーガルー」という言葉を入れたけれど、「エイティ・ワン」の録音は1965年1月21日だから、アメリカ合衆国内でブーガルーが流行っていたちょうどそのあたりかなあ。以前もこの曲について、マイルズのやるカリブ〜ラテン・ジャズ関連の記事で、重要なものだとして触れたことがある。

 

 

 

実を言うとこの記事をもっとちゃんとしたものとして書きなおそうと思い、 今回、マイルズのカリビアン〜ラテン〜アフリカン・ジャズ関連を掘り下げてみようと、それが顕著になってくる1965年以後をじっくり聴きかえしていた。それでそういうものだけを集めたプレイリストを作ってみたのだ。Spotify ではなく iTunes で(最終的には、今日一番上で貼ったリンクのマイ・プレイリストを拡大するかたちで、それらをぜんぶ並べて Spotify で公開する予定)。

 

 

その iTunes プレイリストが長くなっちゃって、こりゃ到底一つの文章でまとめるのは僕には不可能と諦めて三つに分割したんだよね。アクースティック時代、エレクトリック導入後〜1975年の一時隠遁まで、81年復帰後の三つ。それでそれら三つを聴きかえしていて、そのトップに置いた「エイティ・ワン」が、あっ、これ、ブルーズじゃないか!って、いまごろようやく気づいたっていう、こんなに明快なのに…。ダメ耳な僕…。

 

 

 

すると、以前から言っているウェイン・ショーターのコンポジションである12小節ブルーズの「フットプリンツ」と、それら二つあわせ、それらはブルーズでありかつリズムは中南米ふうで、アフリカ大陸をも俯瞰するかのようなかたちをしているように僕には聴こえ、するってぇ〜と、1960年代中期のジャズ界におけるこういったラテン・ブルーズはほかにもあって、上でブーガルーと言ったように、ルー・ドナルドスンの1967年「アリゲイター・ブーガルー」も定型ブルーズだし、また、マイルズが自分のバンドに雇う前のハービー・ハンコックのデビュー作62年『テイキン・オフ』の「ウォーターメロン・マン」だって同じく定型12小節のラテン・ブルーズじゃないか。

 

 

 

 

それらぜんぶがラテンなブルーズで、まあハービーとルーのと比較すれば、マイルズのやる「エイティ・ワン」「フットプリンツ」はちょっと複雑で明快なノリやすさ、言い換えればダンサブルなフィーリングが少し、いや、かなり足りないかもしれないけれど(特に「フットプリンツ」)、ほかにもたくさんあった1960年代のこういったラテン・ブルーズって、いったいなにかの連動を見せていたんだろうか?という気になったんだよね。

 

 

それで今度は上記三つの iTunes プレイリストから「エイティ・ワン」「フットプリンツ」だけ独立させて、それにハービーの「ウォーターメロン・マン」とルーの「アリゲイター・ブーガルー」を足してみた。これで、僕の iTunes にはマイルズのカリビアン〜ラテン〜アフリカン関係のプレイリストが四つできあがった。今日はその第一回目なんだよね。だから予定どおりなら、来週から三回連続シリーズでそれを展開してみようと思っている。

 

 

さて、「エイティ・ワン」のほうもブーガルー流行真っ只中というか、中米音楽ふうなリズムではじまって、テーマの24小節をそんなフィーリングで演奏し、一番手のマイルズのソロ(から12小節でやっている)になっても同じだ。4コーラス(あっ、ってことは24小節テーマの2コーラスってことなのか?)はそのままラテン・ブルーズでやって、5、6コーラス目は4/4拍子のストレートなジャズ・リズム(ってことは、やっぱり24小節ワン・コーラスでソロを吹いてんだなこりゃ)。最終盤でラテン・タッチに戻って二番手のウェインに受け渡す。

 

 

二番手ウェインのテナー・サックス・ソロも同様に後半部だけ4ビートなブルーズ演奏で、これまた同様に終わりかける瞬間にラテン・リズムに戻って三番手ハービーのピアノ・ソロ。24小節1コーラスだけソロを弾くハービーのところでは、リズムは4ビートに落ちずラテンなまま。その後ラテンなままテーマを演奏して「エイティ・ワン」は終わる。

 

 

ハービー・ハンコックはこれを録音する三年前にすでに「ウォーターメロン・マン」を発表済みだったし、だからこんなようなラテン・タッチのブルーズは苦もなくこなしたはずだ。そもそもジャズ・フィールドにおけるラテン(・ブルーズ)なんてむかしから多いんだから、とりたてて騒ぐことはないかもしれない。だがマイルズがやったのはこれが初なのだ。

 

 

しかもマイルズの1962年「エイティ・ワン」や66年「フットプリンツ」が重要だなと思う最大の理由は、こんなラテン・タッチで、中南米から、それを経由してアフリカ大陸を見据えたようなブルーズが、御大自身の手になる60年代末〜70年代に大展開したアフロ・ジャズ・ファンクを予告していたものだったように思うからなんだよね。最近、僕のこの考えは間違っていないという思いがどんどん強くなっている。

 

 

1969〜75年のマイルズ・ファンクは、マイルズの音楽というだけにとどまらず、しかもジャズ・プロパーな世界だけの出来事でもなく、広くアメリカの大衆音楽界で大きな役割を果たし、いまでも影響力を持っていて、ここを追求している音楽家は、現在の世界にも多い。当たり前の話ではあるのだが、それはマイルズが電化して完成品として提示する数年前から、マイルズ自身のなかにでもすでにちゃんとあったのだ。

 

 

しかも、アクースティック・ジャズ時代のマイルズのそんな路線だって、例えばかなりたくさんのラテン・ジャズ作品を第二次世界大戦前から発表しているデューク・エリントンや、戦前戦後にかけてのルイ・ジョーダンや、その他名前をあげていたらキリがないのだが、とりあえず Spanish tinge という言いかたをしたニュー・オーリンズのジェリー・ロール・モートンあたりまでなら、僕だって容易にさかのぼることができる。ニュー・オーリンズはアフロ・クリオールな音楽文化の首都じゃないか。

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コメント

> それはマイルズが電化して完成品として提示する数年前から、マイルズ自身のなかにでもすでにちゃんとあったのだ。

ぼくは、このとんちんの話が好きだよ。ほんとだ。

ありがとう!もっと言ってくれ!ヾ(*ΦωΦ)ノ

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