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2017/11/07

ザッパの「インカ・ローズ」

 

 




ありゃりゃ〜〜っ!?フランク・ザッパの「インカ・ローズ」って、あの『黙ってギターを弾いてくれ』(Shut Up 'N Play Yer Guitar)にも入っているのか?持っているぞ、その CD 三枚組。組じゃなくてバラか?もともとのパッケージングがどうだったか、もう忘れてしまったが、とにかく現状、僕の部屋のなかでは三枚バラだ。売り場では箱かなにかに入っていたかもだけど。

 

 

しかし『黙ってギターを弾いてくれ』で曲題が「インカ・ローズ」になっているものは当然一つもない。そりゃそうなんだよね、このアルバムは、録音魔でもあったザッパのライヴ・ステージ・テープから、本人のギター・ソロ部分だけを抜粋して並べて収録したもので、アルバムにする際に新たなトラック名が付けられて、だからもとはどの曲だったのか、聴かないと分らない。ってことは、これに「インカ・ローズ」のギター・ソロが含まれていることを忘れていた僕は、このギター・アルバムをちゃんと聴いていなかったという証拠だなあ。

 

 

それであわてて『黙ってギターを弾いてくれ』三枚を頭から聴きなおしているのだが、う〜ん、これは分りにくい〜。ネットで探したがそれらしき情報を僕は見つけられなかったので、自分の耳だけが頼りだが、コード進行もないからそれに頼ることもできないんだ。「インカ・ローズ」のギター・ソロ部はコード進行なんかないんだよね。Cメイジャーのワン・コード一発で弾いているんだよね。ってことは「インカ・ローズ」のギター・ソロかどうかを判断する根拠は、フレイジングとか雰囲気とか、そんなものだけか?手がかりはマジでそれだけ?ってことは、これは絶望的だよなあ。うわ〜、どうしよう……?

 

 

ホントに素人でザッパについてもさほど熱心ではない僕が判断する限り(いや、マジで信用しないでくれ)、アルバム『黙ってギターを弾いてくれ』に、アルバム・タイトル・トラック「黙ってギターを弾いてくれ」が、少しずつ曲題を変えて計三つ収録されているのだが、それが「インカ・ローズ」のソロなんじゃないだろうか??…、ってこれ、ホント間違っていたらどうしよう…??もうあらかじめ謝っておく。あ、いや、ちょっと待って、「ジー、アイ・ライク・ユア・パンツ」ってのも「インカ・ローズ」のソロかもしれないなあ。

 

 

まあたぶん、ひょっとして、そうだと思うんだよね。アルバム『黙ってギターを弾いてくれ』で一枚に一個ずつ収録されている「黙ってギターを弾いてくれ」(云々)と「ジー、アイ・ライク・ユア・パンツ」が、もとは「インカ・ローズ」でのザッパのギター・ソロなんだと思う。ってことはあれか、この僕の推測が当たっているとすれば、そもそもこんな曲題、アルバム題にしているってことは、これ、「インカ・ローズ」アルバムみたいなもんじゃないか。う〜〜ん、いまのいままでマジで気づいていなかった。どこかにちゃんとした情報載ってないのかなあ?『黙ってギターを弾いてくれ』って、要は『”インカ・ローズ”を弾け」という意味になっちゃうよなあ。

 

 

がしかしなんどか聴いてみたそれら『黙ってギターを弾いてくれ』収録の4トラック。やっぱりこれはギタリストとかギター・マニア向きだなあ。アルバム全体がそうなんだし、「インカ・ローズ」のソロっぽいなとは思うものの、この楽曲の面白さや魅力、魔法みたいなものは、当然消えている。ザッパ自身が「インカ・ローズ」ではギター・ソロにこだわっていたことが強く伝わってくるものの、なんというかまあその〜、これら4トラックばかりなんども聴いたら、もうお腹いっぱいという気分になっちゃった。だからこのギター・アルバムの話はここまでにする。

 

 

ザッパ自身がギター・ソロにこだわって云々といっても、僕の持つ「インカ・ローズ」最初期ヴァージョンにそれはない。死後リリースになった『ザ・ロスト・エピソーズ』収録のもので、録音は1972年となっている。その後の各種有名ヴァージョンとの違いは、大ざっぱに言って六つ。(1)ヴォーカルがないインストルメンタル。(2)ギター・ソロもない。(3)例のキャッチーなリズム・リフはかなり弱い。(4)ヴァイオリン奏者が参加している。(5)かなりジャジーだ。(6)三拍子になる時間がわりとある。

 

 

『ザ・ロスト・エピソーズ』ヴァージョンの「インカ・ローズ」は短くて、三分ちょいしかないのだが、それなりに展開はしている。やっぱり面倒くさそうで難しそうなアンサンブル・パートに続き、パッとリズムや曲調がチェンジして、トロンボーンとフルートのソロになる。その部分が三拍子。フルートはイアン・アンダーウッドで、トロンボーンはブルース・ファウラー。ザッパはどこでギターを弾いているのか、あまり、というかちょっとしか分らない程度の音しか聴こえない。アンサンブル・パートの譜面はやっぱり見事だが、演奏面ではルース・アンダーウッドのマリンバが大活躍。

 

 

僕の持つ「インカ・ローズ」は、ほかに三つだけ。発表順だと『ワン・サイズ・フィツ・オール』『ユー・キャント・ドゥー・ザット・オン・ステージ・エニイモア Vol,. 2』(ザ・ヘルシンキ・コンサート)、『ザ・ベスト・バンド・ユー・ネヴァー・ハード・イン・ユア・ライフ』。前者二つはほぼ同じものだと言って差し支えないはずだ。

 

 

一番上でリンクを貼った Spotify の自作プレイリストで聴き比べてほしいのだが、『ワン・サイズ・フィツ・オール』も『ザ・ヘルシンキ・コンサート』も演奏メンツは完璧に同じ。さらにかなり有名な事実だが、両者のギター・ソロは同じものだ。1974年9月22日のヘルシンキ・ライヴの「インカ・ローズ」からギター・ソロだけ抜き出して、ほかはスタジオ録音した『ワン・サイズ・フィッツ・オール』ヴァージョンに挿入してある。

 

 

聴き比べていただけば分る話だが、『ワン・サイズ・フィッツ・オール』ヴァージョンでも『ザ・ヘルシンキ・コンサート』ヴァージョンでも、ギター・ソロが同じものであるばかりか、曲「インカ・ローズ」の演奏全体がほぼ同じだ。微細な部分での完成度の違いしかなく、あ、いや、それだってほぼ違わないじゃないか。ジックリ聴き比べても、スタジオかライヴかの音の質感、空気感、音場感、そしてミックスしか違っていないかのように思える。チェスター・トンプスンのベース・ドラム・ペダルの踏み方が『ザ・ヘルシンキ・コンサート』でのほうがすごいように聴こえるのも、たんに録音とミックスのせいかもしれないなあ。

 

 

ギター・ソロ部を除くと、『ワン・サイズ・フィッツ・オール』ヴァージョンの「インカ・ローズ」のほうが先に録音されたんじゃないかと僕は推測している。これはどこかにデータ記載があるはずと思うのだが、どうなんでしょう、ザッパをよく知るみなさん?だって『ザ・ヘルシンキ・コンサート』での「インカ・ローズ」のあの完成度の高さ、しかも同じメンツのバンドによるものだということを踏まえると、『ザ・ヘルシンキ・コンサート』の1974年9月より前にスタジオで完成していて、つまり綿密なリハーサルも繰返し本番テイクの録音だって終わっていたから、ヘルシンキであんなライヴ演奏ができたのだとしないと、ちょっと理解に苦しむ。

 

 

だから同一メンツのセクステットであるザッパ・バンド(この当時ふたたびマザーズ・オヴ・インヴェンション名)で、1974年9月のヘルシンキ・ライヴの少し前、おそらくは夏ごろに、『ワン・サイズ・フィッツ・オール』収録の「インカ・ローズ」は録音が終わっていたはず。中間部のギター・ソロだけスタジオでは違うものを演奏したんだろうね。そこだけはヘルシンキ・ライヴでの出来がいいとザッパが判断して、切り取って挿入したんだろう。それを編集してあるので、曲全体の長さが二分だけ違っているということじゃない?

 

 

さてさてしかしここまで、「インカ・ローズ」のどこがどうカッコイイのか、ぜんぜん説明していないなあ。まずとにかくあの冒頭部のダンダダン、ダダダダ、ダンダダンの変拍子リフが、ぜんぜん変拍子に聴こえないナチュラルでストレートなカッコ良さ。あんなカッコいいイントロなんか、どんな音楽でもそうは聴けない。しかもあれ、ルースのマリンバとトム・ファウラーのベース二名だけのユニゾンなんだけど、考えられないよなあ。二名のユニゾン・リフに、ザッパとジョージ・デュークが、歌詞テーマらしいスペイシーなサウンドをからめ、鍵盤奏者が UFO の歌を歌いはじめる。

 

 

カッコイイなあ〜と思いながら聴いていると、しばらく経ってリズムが止まって、やっぱりいつもザッパらしく言葉のやりとりによる寸劇的展開に入る。たぶんザッパとジョージ・デュークとナポレオン・マーフィー・ブロックの三人が会話しているんだと思うが、その背後でもルースとトムとチェスターが細かいリズム合奏を入れている。寸劇はあんがいあっという間に終わって、ふたたびリズムが流れはじめ歌に戻る。その瞬間の快感なんかタマランよなあ。

 

 

その後もやはりルースのマリンバを主役に細かいアンサンブルが入っているが、そのパートが終わると、いよいよザッパのギター・ソロに入っていくのだ。それが素晴らしすぎる内容なのは説明不要だから省略。ギター・ソロの背後でのトムのベース・ラインだって、チェスターのドラミングだってカッコイイぞ(その部分はこの三名だけの演奏)。ひゃ〜〜、なんて気持エエんや〜っ!

 

 

ギター・ソロが終わるとスキャットのヴォーカル・コーラスがあって、その後やはりストップ・タイムを多用しすぎる細かい楽器アンサンブル・パート。演奏は相当難しそうな32分音符や64分部音符ばかり。ジョージ・デュークの、エレピなど鍵盤楽器ソロがあって(そのパートでのリズムはフリー)、続いてルースのマリンバ独奏、そして女声も混じっているからルースも歌っているであろう、チョ〜舌を噛みそうな、というかこんなメロディほぼ歌えませんっていう合唱パートになる。その最後で「On Ruth, On Ruth, That’s Ruth」と来て、「インカ・ローズ」は終わる。そこはやっぱりリズムがなんども止まり寸劇的。

 

 

ありゃ、『ザ・ベスト・バンド・ユー・ネヴァー・ハード・イン・ユア・ライフ』収録の1988年ライヴ・ヴァージョンの「インカ・ローズ」についてまったく触れないまま終わってしまいそうだ。大づかみな構成は、後半部で(鍵盤ソロの代わりに)ソプラノ・サックス・ソロのパートがあるだけで、ほかは1974年ヴァージョンと似たり寄ったりだ。ボスのギター・ソロ内容は、もちろんかなり違っているけれど。曲の最後の「On Ruth, On Ruth, That’s Ruth」部の Ruth は Bruce に変更されているが、これはトロンボーンのブルース・ファウラーのことだね。

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