1969年前後にファンキーだったマイルズ
今週と来週は以前の余滴。前に1965年以後のマイルズ・ミュージックにあるカリブ〜ラテン〜アフリカのことを書いたでしょ。そのときその65年以後91年までの音源をじっくり聴きかえしたのだ。それで書いたわけだけど、書かなかった部分で思いがけない余剰収穫があったので、それを二週にわたり出そうと思う。今日は68〜70年ごろのマイルズに相当カッチョええファンキーな演奏があるぞってことを、いまさらながら再確認したので、そのことだ。
そのあたり、1969年前後のマイルズ・ミュージックで、いちばんファンキーでいちばんカッコいいのは1970年の録音。シャープでタイトだもんね。リアルタイム・リリースだと、アルバム『ジャック・ジョンスン』になったあたりだ。でもその二年前の冬からすでに素晴らしかった。そこいらへん、僕の選ぶものは多くがボックス物の収録音源だから、特にマイルズ・マニアではない一般の音楽リスナーのみなさんは買いにくいだろうと最近までずっと思ってきたのだが、いまやそれらぜんぶ Spptify にあるもんね。だから僕もプレイリストを作っていちばん上でご紹介した。ちょっと聴いてみて。
順番を入れ替えて一番カッコいい1970年の録音にまず触れておくと、上のプレイリストで6曲目の「ジョニー・ブラットン(テイク4)」から下、最後までがそう。そのうち、10曲目の「ライト・オフ(テイク10)」は、リアルタイムでもアルバム『ジャック・ジョンスン』の A 面になったので、お馴染のものだ。こっちは未編集のセッション・テイクで、グルーヴが生な感じがいいんじゃないだろうか。
それも含め、プレイリスト6〜11までは、以前『”アナザー”・ジャック・ジョンスン』の話をしたときにぜんぶ書いて、もうそれ以上付け加えることもないので、その過去記事をご覧いただきたい。
この「アナザー」・シリーズ、『イン・ア・サイレント・ウェイ』篇、『ビッチズ・ブルー』篇、『ジャック・ジョンスン』篇、『オン・ザ・コーナー』篇、『ゲット・アップ・ウィズ・イット』篇と、ぜんぶで五つ書いたのだが、そのときに Spotify のプレイリストを自作してご紹介すればよかったと激しく後悔している。
そんでもってですね、僕もいつこの世から消えるか分らないし(病気でとかじゃなく、交通事故死とか、あるいは人間、だれだっていつなにがあるか分らないんだからさ)、だから「次」とか「今度」とか「明日」とかは来ないものと考えて毎日生きていかなくちゃいけないだろう。いまのうちに出せるもの、できること、与えられるものはすべてやっておかないいといけないんだと、人生ってそういうものなんだと、最近思うようになっている。僕が死んでも Spotify のプレイリストはそのままなんでしょ?なにか残して死にたいよ。子供もいなけりゃ、本も音楽作品も、僕はまだなにも残せていない。この世に生きたという証がまだない。
なんだか大層なことを言っているように見えるかもだけど、要するに後悔を取り戻そうと、「アナザー」篇五作のプレイリストを作成したので、それを今日ここにご紹介しておきたかったってだけなんだ。みなさんに聴いてほしいと思います。
アナザー・イン・ア・サイレント・ウェイ
アナザー・ビッチズ・ブルー
アナザー・ジャック・ジョンスン
アナザー・オン・ザ・コーナー
アナザー・ゲット・アップ・ウィズ・イット
これはこれとして。
今日の話題である1969年前後、正確には68年暮れから70年春ごろまでのマイルズで、70年録音分については、上述のとおりなにもくわえることがないから、それ以前の68〜69年録音分について、それもいままであまりちゃんと書いていなかったものについてだけ、少し書いておく。なるべく繰返しにならないよう心がけたいので、詳しくは過去記事を参照してほしい。
プレイリスト一曲目の「デュアル・ミスター・アンソニー・ティルマン・ウィリアムズ・プロセス」については、しかしこれも以前しっかり述べたつもりなので、以下をご覧あれ。いやあ、マジでカッコエエ〜〜!
この過去記事を書いた時点では気づけてなかったこただけ。それはもっとあとの70年録音まで、今日いちばん上でご紹介したプレイリストでぜんぶを繰返し聴きかえすと、いや、ばあいによっては75年録音までぜんぶをひっくりめても、この「デュアル・ミスター・アンソニー・ティルマン・ウィリアムズ・プロセス」が一番カッコイイのかもしれないんだよね。特に右チャンネルでフェンダー・ローズを弾くハービー・ハンコック(だと思う)とトニー・ウィリアムズがファンキーなことこの上なし!こんな「デュアル・ミスター・アンソニー・ティルマン・ウィリアムズ・プロセス」が未発表のままだったんだから、不思議だよなあ。だって、マイルズの全音楽中、最もカッコイイものかもしれないのに。
プレイリスト二つ目の「イッツ・アバウト・ザット・タイム」は、編集前のオリジナル・セッション・テイクを選んでおいた。理由は二つ。まず一つ、1969年にアルバム『イン・ア・サイレント・ウェイ』の B 面となって発売された編集済みのものはすでに耳タコだろう。もう一つ、このセッション・テイクの、ジワジワ〜っとゆっくり盛り上がっていくフィーリングがなかなかいいなあって、最近思うんだ。
もちろん音楽の完成品としては、セッション・テイクでは尻尾のほうにあるマイルズのソロ終盤部(9:43 〜 10::24)をいちばん最初に持ってきて(いるし、エンディングでもそのままもう一回出る)、しかもそれを曲「イン・ア・サイレント・ウェイ」で挟んでできあがった、編集済みヴァージョンのほうが素晴らしい。もとの演奏じたいは同じものなのに、編集効果だけでこれだけグルーヴが違って聴こえるからマジックだよなあ。
でも最近は、まずジョー・ザヴィヌルのオルガンとリズム・セクションの演奏、そして一番手でジョン・マクラフリンのギター・ソロではじまるオリジナル・セッション・テイクのこの感じ、まだ火がついてない状態から弱火になって、それでゆっくりじっくり盛り上がるでもなくスローな感じで進んでいき、だんだんと熱を帯びてきてマイルズのトランペット・ソロ部で大きく激しくうねり爆発するっていう、このフィーリングがマジでいいなあって、僕は思うんだよね。繰返すけれど、音楽作品の完成度としては1969年既発マスターのほうが上だ。
プレイリスト三曲目の「ザ・ゲトー・ウォーク」も『イン・ア・サイレント・ウェイ』関連の未発表音源。でもこれ、ちょっと長すぎるよなあ。だから入れようかどうしようか迷ったけれど、ファンキーでカッコイイ瞬間はマジで最高なので、いちおうやっぱりね。四曲目の「マイルズ・ランズ・ザ・ヴードゥー・ダウン」は、このまま『ビッチズ・ブルー』に収録されているので省略するが、ゆったりしたテンポでグルーヴィだよなあ。
五曲目の「ザ・リトル・ブルー・フロッグ」は、『ザ・コンプリート・ビッチズ・ブルー・セッションズ』にマスター・テイクも収録されている。といってもそれも完全未発表だったものだけど、聴いた感じ、この別テイクのほうがグルーヴィでファンキーじゃん。ハーヴィー・ブルックスのエレベがいいなあ。この、ロック・ファンならだれでも知っているエレベ奏者がマイルズのセッションで弾いたもののなかではいちばんファンキーなラインだ。
しかも左チャンネルでジョン・マクラフリンが弾くギター・リフがぐちゅぐちゅと、まるでインヴィクタス/ホット・ワックス系のソウル・チューンみたいなカッティングだし、やはり左で聴こえるラリー・ヤングのオルガンも素晴らしいノリ。ボスもこの時期にしては珍しく、ハーマン・ミュートをつけて吹く。リアルタイムでは1968年の『キリマンジャロの娘』からこっち、電気トランペットを導入するまで、ぜんぶオープン・ホーンのものしかリリースされていなかった。いま考えたら、これは間違いなく製作者側のイメージ戦略だったな。
いやあ、ほんとマジでカッチョエエのんが、この1969年前後のマイルズ・ミュージックにはいっぱいありましたで〜、ホンマに。1973〜75年のギター・バンド時代こそ最高だ、いちばん好きだと信じてきた僕も、じわじわとだんだんこのあたり、1968〜70年が本当はいちばんよかったかもしれないと感じるようになってきましたで〜。
それが余滴の一。
« ダン・ペンは最高の白人ソウル・シンガーだ(&データ一覧) | トップページ | 二作目で大きくはじけたスアド・マシ »
「マイルズ・デイヴィス」カテゴリの記事
- マイルズ入門にまずこの四枚 ver.2023(2023.11.12)
- マイルズ60年ライヴの「ソー・ワット」でのトレインにしびれる(2023.09.27)
- 今年のレコード・ストア・デイで発売されたマイルズ・ファンク(2023.07.05)
- むかし渋谷にマザーズというCDショップがあって(マイルズ・ブートを買っていたところ)(2023.04.27)
- マイルズ・デイヴィスの手がけた映画サントラ・アルバム(2023.03.23)
« ダン・ペンは最高の白人ソウル・シンガーだ(&データ一覧) | トップページ | 二作目で大きくはじけたスアド・マシ »
コメント