ムーンライダーズな原田知世 〜 原田知世と鈴木慶一の世界(2)
このリンクにあるように、以前『GARDEN』のことを書いたけれど、その後なんども聴いているうちにだんだんと、原田知世&鈴木慶一のコンビ作品では1995年の『Egg Shell』のほうがいいかもしれないと思えてきたのだった。たぶんこの『Egg Shell』は、原田知世やアイドル・ポップスやふつうの歌謡曲リスナーのみなさんよりも、ムーンライダーズのファンのみなさんのほうが親しみやすく感じるんじゃないかと思う。
『Egg Shell』のどのへんがムーンライダーズなのかっていうのは説明する必要がないと思う。原田知世をプロデュースした鈴木慶一自身、ムーンライダーズ作品よりも力が入っているんじゃないの〜?とか言いたくなるほどなんだよね。でもなんだかシャンソンというかフレンチ・ポップスみたいなのが複数あるのは、たいしたムーンライダーズ・ファンじゃない僕にはよく分らないが、これは鈴木慶一のアイデアだったのか、それとも知世のアイデアだったのか?それらもアレンジはもちろん鈴木がやっているが。
たとえば一曲目「Une belle histoire」は、日本ではサーカスがやった「Mr. サマータイム」としてかなりよく知られている。これももとはシャンソン楽曲だ。また六曲目「Attends ou va-t'en」はセルジュ・ゲインズブールの曲。アルバム・ラストの「T'EN VA PAS」はリミックス・ヴァージョンで、『Egg Shell』の前作『カコ』ですでにやっていた曲。これら3トラック、特になんだか暗いというか陰な「Une belle histoire」だって好きな僕だけど、でも『Egg Shell』にはもっといいものがたくさんあるよね。
たとえば二曲目「月が横切る十三夜」。これ、超カッコイイぞ〜。ムーンライダーズそのまんまだ。しかし作詞も作曲も原田知世自身で、だからアレンジとかプロデュースとかサウンド創りの段階で鈴木慶一が思い切りリキを入れたってことかなあ〜?しかしアレンジャーには知世だって名を連ねているから、この「月が横切る十三夜」には知世自ら、たんに曲を書いただけじゃなかったんだろうなあ。それでここまでムーンライダーズになってしまうのは、知世の側からも意識したってことかなあ?たんに鈴木が頑張ったということだけじゃなくって?
そのへんのちゃんとしたことは分らないのだが、とにかく「月が横切る十三夜」はいい曲で、ノリよくグルーヴィで、素晴らしくムーンライダーズな原田知世だ。いいなあこれ。コンガの音もポンポン気持いいし、リズム演奏全体も快活で、上に乗る知世のヴォーカルも、エフェクターを使って一部声を加工してあるけれど、舌ったらずなところがぜんぜんなく歯切れよくリズムに乗る素晴らしさ。徳武弘文の弾くアクースティック・ギターなんかサイコー!この「月が横切る十三夜」は、僕の作ったマイ・ベスト・知世・セレクションの二曲目に入れてある。
マイ・ベスト・知世に『Egg Shell』からもう一つ入れてあるのが、九曲目の「UMA」。この曲のグルーヴが僕は大好き。ベース音は、弦エレキ・ベースではなくシンセサイザー・ベースで、それがブンブン低い音で反復されるのがいいよね。そういえば、このアルバム『Egg Shell』ではそうやって弦ベースではなくシンセ・ベースを使ってあるものがけっこうある。「UMA」だと、このエレキ・ギターは鳥羽修らしい。そのカッティングもかなりイイ。ネットに音源がないのでご紹介できないのが残念だが、「月が横切る十三夜」とほぼ同系の曲なんだよね。
そう、僕はこういった「月が横切る十三夜」「UMA」といったノリのいいうねるようなグルーヴ・チューンが大好きなんだ。しかも「UMA」のほうだって原田知世の作詞作曲で、アレンジもやはり鈴木慶一と共同でやっている。ってことはこの1990年代半ばの知世自身の持つ音楽性ってこういうものだったのか?あるいは鈴木との化学反応でこうなっていたのか?どなたか教えてください。
しかしこれら二曲が『Egg Shell』ではいちばんいいっていうのは、たぶん僕の個人的趣味だけでのことなんだよね。ふつうは五曲目「野営(1912 からずっと)」、七曲目「のっぽのジャスティス・ちびのギルティ」、八曲目「夜にはつぐみの口の中で」あたりが最もいいものだってことになるはず。そして原田知世がムーンライダーズのリード・ヴォーカリストになっているのも、これら三曲でこそだってことになるはず。
これら三曲とも作詞作曲編曲のぜんぶを鈴木慶一がやっていて、も〜う、どこからどう聴いたってムーンライダーズに原田知世が客演し歌っているのだとしか思えない出来上がりのサウンド。知世の作詞作曲である「月が横切る十三夜」「UMA」とあわせると、これら五曲は鈴木慶一の原田知世ムーンライダーズ化が最もいい感じに成功していると言えるんじゃないかな。そして聴いていて、実際、僕も楽しい。
『カコ』はカヴァー集なのでちょっと外したんだけど、鈴木慶一プロデュースの原田知世では『GARDEN』も『Egg Shell』も、本来の知世というより鈴木の世界にグイッと引きずりこんだような音楽かもしれないが、知世自身もハマってそれを楽しんで自由に泳いでいるような雰囲気がある。知世はプロデューサーやアレンジャーやサウンド・メイカーの意図を汲み取って表現するのに長けている歌手だ、とは先週も書いたが、言い換えれば音創り次第で姿を変える変幻自在の歌手なのかもしれないよなあ。ハメてみて、ハマってみて、気持いいっていう、そんな世界が『Egg Shell』にもあるみたいだ。
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