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2017/12/05

女々しくレイド・バックするクラプトンのブルーズがいい

 

 

この Spotify にあるアルバム、もちろんエリック・クラプトンの『461・オーシャン・ブルヴァード』のデラックス・エディションで、二枚組の CD は2004年の発売。むかしから大好だから僕も速攻で買った。オリジナル・アルバムの音質もよくなっているし、それ以外にも大幅拡充していて、かなりいいと思うなあ。

 

 

二枚目のライヴ・サイドは1974年12月4、5日、ロンドンはハマースミス・オディオンでのライヴで、ってことはスタジオ・アルバム『461・オーシャン・ブルヴァード』を米マイアミで録音したのが同年4、5月で、発売が7月だったので、それをひっさげてのライヴ・ツアーだったんだろう。以前も『E..C. ワズ・ヒア』関連で書いたけれど、このクラプトン74年バンドはマジでいいぞ〜。

 

 

 

『461・オーシャン・ブルヴァード』デラックス版二枚目のロンドン・ライヴは、MC に続くオープニングが、かのチャールズ・チャップリンの「スマイル」で(この曲の歌詞付きヴァージョンの初録音、発売はナット・キング・コールです)、「心が痛んでいるときも笑え、張り裂けそうでも笑え」っていう歌詞を、クラプトンが実に女々しく歌い、女々しくギターを弾く。ブルーズでもなんでもないふつうのポップ・ソングだが、こういった女々しさ、弱々しさ、メロウでポップなフィーリングこそ、このエリック・クラプトンという音楽家本来の持味じゃないかということも、以前書いた。「スマイル」はわりとよくやっているらしい。

 

 

 

僕はこういうのを聴くのがかなり好きなんだ。まるで自分の代弁をしてくれているみたいでさ。僕もわりとよく弱音を吐いてすがったり懇願したりする。「男は弱音を吐くな」的なおかしな男性観/女性観なんて、男らしさ/女らしさなんて、あんまりそんなのにしがみつかないほうがいいんじゃないかっていうのが、僕の考えかただからさ。性別に関係なく、泣いてすがって弱音を吐けばいいじゃないか。だいたいクラプトン最大の有名曲「レイラ」なんて、頼むよ〜〜って泣いて膝にすがりついて、「僕のこの悩める心をなんとかなぐさめてくれよぉ〜」と懇願する内容だもんね。

 

 

そんな女々しさ、弱々しさ、弱音を吐いて女性に懇願しているかのようなフィーリングが、アルバム『461・オーシャン・ブルヴァード』ではブルーズ楽曲にもあって、オリジナル・アルバムにも収録されている。かつて B 面トップだったエルモア・ジェイムズ・ナンバー「アイ・キャント・ホールド・アウト」だ。ぜひ上の Spotify アルバムで聴いてほしい。YouTube にだってあるだろうが、権利関係のちゃんとした正規ネット音源で聴いたほうがいいんじゃないだろうか。

 

 

ビート感の強いブギ・ウギ・シャッフルでやっているエルモアのオリジナル・ヴァージョンとの共通点は、ギターでスライド・プレイを聴かせているっていうことだけじゃないかと思うくらい違っているよね。エルモアのは YouTube にあるのをご紹介しておこう。

 

 

 

このテレフォンなんちゃらの歌かもしれないブルーズ・ソング、クラプトンのはもんのすごくレイジーな仕上がりになっている。レイド・バックの極地みたいな演奏と歌で、なによりヴォーカルが気だるすぎると思うほど。まるでなにかしているときにもらすため息まじりの声みたいじゃないか。ギター・スライドのサウンドもそれに拍車をかけている。この「アイ・キャント・ホールド・アウト」(もう辛抱できないよ)を、クラプトン生涯ナンバー・ワンのブルーズ演唱にあげる人もいるみたいだ。ある意味、僕もそれに同意できる部分がある。

 

 

『461・オーシャン・ブルヴァード』オリジナル・アルバムにあるほかの三曲のブルーズには、ここまでレイド・バックしたフィーリングはない。しかし二枚組デラックス・エディション一枚目で、オリジナル・アルバム分のあとにボーナスで収録されているセッション・アウト・テイク五曲。それがぜんぶブルーズで、しかもどれもすごく気だるそうで、演奏も強烈にレイド・バックしているのが、僕はけっこう好きだ。

 

 

そのアウト・テイク五曲。ジミー・リードの「エイント・ザット・ラヴィン・ユー」は分るけれど、ほかの四曲は僕のばあい初耳だった。たとえば「ミート・ミー(ダウン・アト・ザ・ボトム」がウィリー・ディクスン(戦後のシカゴ黒人ブルーズ界の裏ボス)にクレジットされているが、ディクスンにこんな曲あったっけ?聴いたことないよなあと思って、ディクスンの曲一覧みたいなのが載っているウェブ・サイトで見ても、やっぱり出てこないなあ。

 

 

またボーナス・トラック一曲目のフル・アクースティック・ブルーズ「ロンサム・ロード・ブルーズ」の作者クレジットはまったく知らない Paul Levine & Alan Musgrave という名前になっていて、調べてみても音楽の人じゃないみたいだし、う〜ん、これはクラプトンのオリジナルなんじゃないの?どなたか事情をご存知のかた、教えてください。

 

 

これら三曲以外は作者クレジットもクラプトン本人になっていて、たぶんジミー・リードのやつ以外は、本当はクラプトンの曲だろうし?、ジミー・リードのだってぜんぜん仕上がりが違うもんね。ジミー・リードのやつは、やはり彼らしい米南部ふうのイナタいブギ・ウギで、楽しく陽気なフィーリング。ところがクラプトンの「エイント・ザット・ラヴィン・ユー」はささやくみたいに小さくか細い声で、曲調もスローな完全レイド・バック・ブルーズ。

 

 

しかもこの「エイント・ザット・ラヴィン・ユー」ではギターで三名がクレジットされている。ボスとバンドのジョージ・テリーにくわえ、デイヴ・メイスンがいるんだなあ。でも右と左チャンネルで一本ずつ、計二本しかギターは聴こえない。左のほうは、上で触れた「アイ・キャント・ホールド・アウト」でのそれに似たセクシーなレイジー・スタイルでのスライドだから、それがクラプトンじゃないのかなあ?じゃあ右のサイド・ギターはジョージ・テリー?デイヴ・メイスン?どっち?スタイルとしてはテリーに近い気がするんだけど?

 

 

『461・オーシャン・ブルヴァード』デラックス版一枚目のボーナス五曲は、どれもこれもそんなふうな気だるくレイジーにレイド・バックするものばかりで、ギターもそうだが、クラプトンの声の出しかた、歌いかたも実に弱々しく女々しい。歌詞内容もそうだから、そんなヴォーカル表現をとったということもあるんだろうね。

 

 

なかには最後のふたつ「エリック・アフター・アワーズ・ブルーズ」「B ・マイナー・ジャム」みたいな完全即興のブルーズ・インストルメンタル・ジャムもある。その二つのジャムも楽しく賑やかにやっているのではなく、まさにアフター・アワーズといった、本番終わりで疲れて、なんとなくちょこっと気だるく音出ししてみましたっていうだけのものだ。ふだん肩に力が入りすぎるところのあるクラプトンだから、いい感じにリラックスできているほうが演奏内容もいいと、僕には聴こえる。よくなくたって、僕にはこういうのがかなり好きなんだぞ。

 

 

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