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2017/12/16

慶事!渡辺貞夫のアフリカン・ジャズ傑作ライヴ、再発さる!

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と思い、こりゃ初 CD リイシューじゃないかぁ〜!って喜んで飛びついて速攻で買った2017年11月29日発売の渡辺貞夫さんの二枚組ライヴ盤『ムバリ・アフリカ』。届いて聴いて、うん、やっぱりこれはすごいよねと感動しきりの翌日、あるかた(も貞夫さんファン)にお尋ねして、自分でもネットで調べてみたら、どうやらいままでにも CD 化はされていたみたいだ(^_^;)。しかしそれでも僕が CD で貞夫さんの『ムバリ・アフリカ』を聴いたのは、ついこないだが初なので、やはり記しておかなくちゃね。しかも今回はソニーその他がやっているなんちゃら1000とかいう廉価盤シリーズでの再発なので、買いやすいと思うんだよね。正規ネット配信では聴けないアルバムだし。

 

 

貞夫さんの『ムバリ・アフリカ』は1974年9月20日、東京は郵便貯金ホールでのライヴ録音。メンバーは、コンサートの第一部を収録した一枚目が渡辺貞夫(アルト・サックス、ソプラニーノ、フルート、フェンダー・ローズ)、本田竹曠(ピアノ、フェンダー・ローズ)、鈴木勲(ウッド・ベース)、日野元彦(ドラムス)、富樫雅彦(パーカッション)。第二部を収録の二枚目では、この五人にくわえ日野皓正(トランペット、フリューゲル・ホーン)、宮田英夫(テナー・サックス)、渡辺香津美(ギター)、岡沢章(エレクトリック・ベース)が参加している。

 

 

『ムバリ・アフリカ』一枚目は1960年代ジョン・コルトレインと1970年代初期ウェザー・リポートを足して二で割ったような音楽で、といっても親指ピアノが使ってあったりして(富樫雅彦だろうか?)面白いんだが、そういうものも60年代コルトレインの延長線上にあると、いまの僕は考えている。コルトレイン・ミュージックをそういうものとして認識する方向に僕は傾いている。

 

 

しかし、このアルバム『ムバリ・アフリカ』が本当にすごいことになるのはコンサート第二部を収録した二枚目でだから、人員を拡充した二枚目のことに限定して今日は話をする。全部で計7トラック。そのうち、複数曲?モチーフ?即興?がメドレー形式になっていたり、最後の「TANZANIA E」はアンコールとして、3トラック目でやったのをもう一回やっているものだ。

 

 

『ムバリ・アフリカ』二枚目。(1トラック目「TANU SONG」のことは書き忘れてしまいましたので)2トラック目「MASAI SONG / MASAI STEPPE」は、曲題どおりタンザニアの合唱みたいなもの。約11分間のこのトラックでは、途中までパーカッション類以外の楽器は一切使われていない。富樫雅彦と日野元彦だけでなく、おそらくほかの全員も小物打楽器をやって、同時に複数(全員?)が歌っている。しかしアフリカン・ポリフォニーみたいには聴こえず、ふつうのユニゾン合唱だけど、でもこれ、完全即興じゃないかなあ?打楽器と合唱だけでアフリカっぽいものをなにかやろうぜっていう、それしか決めていなかったと思う。

 

 

 

「MASAI SONG / MASAI STEPPE」中盤で本田竹曠がアクースティック・ピアノを弾きはじめるところから「MASAI STEPPE」部になっているということだろうか?三本の管楽器アンサンブルがあって、その後まず日野皓正のトランペット・ソロもめちゃめちゃアツい。こんなヒノテルはなかなか聴けないよなあ。ふつうのジャズ・マナーというよりも、一部のアフリカ音楽的なパッションを僕は感じる。

 

 

日野皓正のそんなソロも、直接的には1960年代フリー・ジャズ(っぽいような熱情)から来ているんだと思うけれど、60年代のあんなふうになっていたジャズの指向性がアフリカに向いていたということだから、それであんな具合になっていたということに違いないから、1970年代中盤〜後半以後もっとグッと整理されて聴きやすい明快でポップなアフロ・ジャズ・フュージョンとなる前のこんな貞夫ミュージックも、もちろんそんなものだよなあ。

 

 

日野皓正のソロ、二番手でテナー・サックス・ソロを吹く宮田英夫の背後で、日野元彦がかなりのポリリズムを叩き出し、富樫雅彦のパーカッションとあいまって、複雑だがストレートに気持いい(特に元彦のシンバル)グルーヴを産み出している。いやあ、すごいよなあ。1974年の東京で、しかも全員日本人で、こんなことやってたなんてなあ。このあと現在に至るまで、貞夫さんの『ムバリ・アフリカ』二枚目以上のアフリカン・ジャズなんて、ないじゃないか。

 

 

3トラック目の「TANZANIA E / FUNKY TANZANIAN」は、アルバム・ラストに同じ曲をやるアンコールの「TANZANIA E」も収録されているが、2トラック目のこれはソロみたいなものがなく、前半「TANZANIA E」部ではホーン・アンサンブルが、なにかの呼び声のように合唱するのをリピートし、その背後で打楽器群が動く。後半の「FUNKY TANZANIAN」部になって貞夫さんのソプラニーノ・ソロも出る。その部分は強靭なアフリカン・ビートで、しかも2トラック目と違ってかなりタイトで鋭く締まっている。ほぼファンク・ビートだ。ソロ部以外は、前半と同じ大地のコールみたいなホーン・アンサンブル。

 

 

 

4トラック目「SABA SABA」が、個人的には貞夫さん『ムバリ・アフリカ』二枚目のクライマックスだ。ここでは一番手で渡辺香津美がギター・ソロを弾くのもカッコいい。バックでホーン・アンサンブルのリフが入るが、それはちょっとギル・エヴァンズのビッグ・バンドのマナーに近い響き。二番手、日野皓正のトランペット・ソロは、ソニー・ロリンズの「セント・トーマス」を引用。そこでハッとだれでも思い当たるはず。カリビアン・ジャズ(・ファンク)だって、アフロ・セントリックなんだもんね。皓正のソロのあいだで富樫雅彦が叩くコンガがポンポン気持よくて最高だ。このカリビアン〜アフロ・ジャズみたいな「SABA SABA」では、香津美と皓正しかソロをとっていない。

 

 

 

5トラック目「HABARI YAKO」は、1970年代後半以後の貞夫フュージョンを予告したみたいな親しみやすいポップなフィーリングで、陽気なアフロ・ジャズ・フュージョンだ。でも打楽器奏者二名、特に日野元彦のドラミング、それもシンバルの使いかたが入り組んでいて、そういうのはその後数年で貞夫さん自身も消して音楽を明快にしていたような部分がある。この4トラック目でのソロは貞夫さんのアルトと本田竹曠のアクースティック・ピアノだけ。本田のソロも快活陽気なフュージョン路線に近づいているが、まだまだアフリカっぽい。

 

 

 

6トラック目「MBALI AFRICA」がそのままアルバム・タイトルになっているわけだけど、このアルバムでの「MBALI AFRICA」は、半分以上がメンバー紹介のための BGM みたいなもので、実際、貞夫さんが一名一名呼び上げて、これで今日のコンサートは終わりですとか言っている。がしかしここでも曲「MBALI AFRICA」の、あの1981年作『オレンジ・エクスプレス』でもアルバム・ラストで再演されたこの名曲の、東アフリカ的なメロディの動きは素晴らしい。まずインプロヴィゼイションから曲がはじまって、 MC が終了したあとでその主旋律が出てくる。いやあ、ホント〜ッに「MBALI AFRICA」のメロディってカッコイイよなあ。それをたった一回だけ演奏して終わる。

 

 

 

7トラック目「ENCORE:TANZANIA E」では、3トラック目でやる同曲よりもグルーヴィになっていて、エレベの岡沢章の弾くリフもはじけてていいし、本田竹曠のフェンダー・ローズもエフェクターを使って音を歪ませてあってカッコイイね。ジャズふうなソロらしいソロはほとんどないが、バンド全体のグルーヴ・オリエンティッドな演奏こそに持味がある。それこそが気持いいんだよね。

 

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コメント

前に質問された時にも、お答えしましたけれど、初CDリイシューじゃないです。00年にCD化されています。この時が初復刻ではなかったような記憶もあるんですけれど(曖昧)。

はい、はっきりとそう書いてありますよ。bunboniさんにも教えていただいたと書いてあるじゃないですか、お名前は出していませんが。

あ、読み違えてました ('◇')ゞ
ごめんなさい m(__)m

ところで、曲「ムバリ・アフリカ」の、このヴァージョンと、『オレンジ・エクスプレス』ヴァージョンとのフィーリングの違いも面白いですね。

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