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2018/01/14

オールド・ジャズの面影を残すディジーのニューポート・ライヴ 1957

 

 



オリジナルが SP 盤で発売されたものは別として、最初から LP アルバムで発売されたディジー・ガレスピーの作品では、1957年のヴァーヴ盤がいちばん好きな僕。57年7月6日のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでのディジーのビッグ・バンドのライヴ演奏を収録したもの。サイコーなんだよね。

 

 

ディジーのアルバムでこれがいちばん好きだというのにはいくつか理由がある。ブルーズ・ナンバーが多いこと。しかしそれでもディジー最大の代表曲ともいうべき「マンテカ」「チュニジアの夜」があること(後者は CD リイシュー時の追加トラックだけど、同じライヴから)。こないだも書いたが大好きなホレス・シルヴァーの「ドゥードゥリン」もあれば、これまた大好きな、このときのディジー楽団の一員だったベニー・ゴルスンの「アイ・リメンバー・クリフォード」もあること。そしてなによりエンターテイニングだということに尽きる。

 

 

この最後の理由、すなわち最高の娯楽品であるというのは、ふだんからディジーが発揮していた資質の反映だけど、ビ・バップ以後のモダン・ジャズはこの要素をほぼ失ったように僕には見える。いやいや、そんなことはない、最高のアートこそ最高のエンターテイメントなんだと言われるだろうし、それはそのとおりだと僕も信じている。でもですね、僕は考えかたやものごとのとらえかたが浅薄な単細胞人間なもんで、こういった「娯楽品」「エンターテイメント」という言葉を音楽作品に対し使うばあいは、表面的に面白おかしく、愉快で、笑えて、踊れて、はしゃぐことができるという、そういう意味なんだよね。

 

 

ジャズ界に限定すると、そんな、つまり fun であるような要素は戦前のジャズが色濃く表現していたし、戦後でもジャンプ系のものが盛んだったあたりまではしっかりと残っていた。しかしそのジャンプ・ミュージックから派生した二大音楽、ビ・バップとリズム&ブルーズはふた道に分かれてしまった。相通ずる要素もあったけれど、ジャズ界はビ・バップ(のなかにはまだまだジャイヴ・ミュージックな風味もしっかりあったけれど)の持つシリアスさをひた走るようになって、その後いっこうに戻らないまま2018年まで来ている。だから、まあ、やっぱりジャズってそういう音楽なんだろうな、基本。

 

 

ジャンプ系のジャズまではしっかりあったお楽しみ要素はリズム&ブルーズのほうにより強く受け継がれ、それがロックへとつながって、ロックもやはりそういう部分を音で表現しているじゃないか。ところがディジーのばあい、直前でも触れたようにビ・バッパーはまだまだわりと芸能的な、はっきりいえばステージ芸人みたいな要素も残していたからなのか、あるいはそんなことと関係なくハナからそんな愉快な人間なのか、自分のやる音楽で芸能要素を強く打ち出しているばあいがある。

 

 

このあたり、ジャズとはシリアスな鑑賞芸術品なのだとお考えのみなさんには、きっとディジーも評判が悪いに違いない。しかもディジーのばあい、そんな愉快な芸能エンターテイメント性とアフロ・キューバン志向が分かちがたく一体化している。ブルーズを演奏する際のアティテュードもそうだ。ってことは『ディジー・ガレスピー・アト・ニューポート』が僕のいちばんの好みである理由として上で挙げた四要素は、ぜんぶひとくくりなんだよね。それがディジーというジャズ・マンだ。

 

 

『ディジー・ガレスピー・アト・ニューポート』。LP では「クール・ブリーズ」までの全六曲だった(A 面は「ドゥードゥリン」まで)。いま僕の手許にあるのは1992年の米ポリグラム盤のリイシュー CD で、三曲というか3トラックが追加収録されている。

 

 

そのなかでメアリー・ルー・ウィリアムズ(ディジーの紹介の声では完全に「メリー」だが)が客演して、彼女自身の代表作『ゾディアック組曲』から「乙女座」「天秤座」「牡羊座」をやり、またメアリー・ルーのピアノで「キャリオカ」をやっているのは、彼女にとって数年の半引退状態からの復帰ステージだったということ以外に、意味はあまりないと思う。それらでだけアレンジャー名の記載がないのは、きっとメアリー・ルーのペンによるものなんだろう。デューク・エリントン楽団のサウンドみたいで好きなんだが、ディジーの楽団でそれを聴く意味は弱い。

 

 

ラストの「チュニジアの夜」ではふたたびウィントン・ケリーがピアノを弾いて、しかもこの曲でだけトランペット・ソロが楽団員のリー・モーガンだ。これはかなりいい。がしかしそれでもアフロ・キューバン(なのにどうして北アフリカの地名なんだろう?)な風味は、四曲目の「マンテカ」のほうが色濃いし、このニューポート・ライヴに限らず、僕は「マンテカ」のほうが好きなんだよね。1947年のオリジナルではチャノ・ポゾと共演していたものだ。最高だよ。

 

 

『ディジー・ガレスピー・アト・ニューポート』四曲目の「マンテカ」では、リズムと(それにあわせて、どうしてだか “I never go back to Georgia!” と楽団員が合唱していて、おもわずディジーが “What?!” と言っているね、ワッハッハ)ホーン・アンサンブルに続き吹きはじめるディジーのトランペット・トーンも素晴らしく輝いている。この人のばあい、吹奏技巧も最高で音色もブリリアントだけど、ほんのちょっとだけデリカシーが足りないような部分がサウンドにあるような気がして、そりゃあ僕がマイルズ・デイヴィスを聴きすぎなだけかもしれないが、たまにこれはちょっと…、と感じてしまうときもある。

 

 

だから『ディジー・ガレスピー・アト・ニューポート』でも、五曲目の「クリフォードを忘れない」で、天才後輩(と、曲紹介でディジーもはっきりと言っている)のことを吹くディジーは、かなりいいとは思うんだけど、う〜ん、まあなんか、僕にはちょっとですね、まぁあれなんです、翳り、憂いが薄いと言いますか…、エレジーなんですから〜。このニューポート・ライヴのときのディジー楽団にはリー・モーガンがいたんですけどねえ…、って、もうやめておこう。

 

 

「マンテカ」ならそんな心配をする必要もない。ディジーが陽気で愉快に輝かしく吹きまくってくれているのが文句なしに最高だ。楽団のラテン・ サウンドも楽しすぎる。あ、そういえば、ディジーのトランペット・サウンドって、キューバのソンの楽団で吹くトランペッターの音にちょっと似ているよなあ。ソンとかマンボとか、その他キューバン・ミュージックでもトランペットは欠かすことのできない重要楽器なんだよね。

 

 

このニューポート・ライヴでの「マンテカ」。クラベスも聴こえるし、その他キューバ由来の小物打楽器のサウンドが複数聴きとれるが、クレジットは一切ない。チャーリー・パーシップのドラムスしか打楽器奏者は記載がないが、そんなわけあるか〜い。間違いなく聴こえる。しかもその間バンドだってフル・メンバーでアンサンブルを奏でている。不思議だ。じゃあゲスト・パーカッショニストみたいなのがいたのかなあ?あるいは管楽器などを演奏しながら小物打楽器も同時にやったってこと?う〜ん、わからない。どなたか教えてください。

 

 

『ディジー・ガレスピー・アト・ニューポート』にあるブルーズ楽曲は、一曲目「ディジーズ・ブルーズ」、二曲目「スクール・デイズ」、三曲目「ドゥードゥリン」、六曲目「クール・ブリーズ」。しかもどれもぜんぶジャンプ・ブルーズっぽいような粘っこい跳ねかたのノリで、1957年のモダン・ジャズ・メンがやっているとは思えないほどの愉快さで、ダンサブル。実際、僕は聴きながら部屋の中で踊っている。少なくとも肩や膝はゆする。思わず自動的にそうなっちゃうもんね。

 

 

「スクール・デイズ」ではディジーがヴォーカルも担当しているが、歌詞といってもまとまりのないもので、パラパラと適当に言葉の断片を並べるだけだから、たぶんこれは即興ヴォーカルだよね。日本では「メリーさんの羊」で知られている曲の歌詞も断片的に出てくるが、それにしたってその場で思いついて歌っているんじゃないかなあ。「スクール・デイズ」とかっていうチャック・ベリーの歌みたいなのをさ。1957年だからね。ディジーならきっとチャック・ベリーも聴いていたはず。曲もブギ・ウギ・シャッフルな8ビートなんだしね。

 

 

レコードではこれで終わりだった六曲目の「クール・ブリーズ」はタッド・ダメロンの書いたブルーズ。最後のほうまでふつうの4/4拍子のメインストリームなジャズ・ビートで進む。ディジーのトランペット・ソロも斬れ味抜群で素晴らしい。それから、このアルバムにあるすべてのブルーズ・ナンバーで言えることだけど、やっぱりウィントン・ケリーにブルーズを弾かせたら旨味だよなあ。素晴らしい。フル・バンドで迫る怒涛のサウンドも圧巻。さらに、「クール・ブリーズ」では最終盤でディープなタメの効いたノリのスローなリズム&ブルーズに変貌するのがいい。一瞬だけなんだけどね。

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