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2018/02/01

渡辺貞夫ポップ・フュージョン再評価(4)

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貞夫さんの音楽は、僕のばあいライヴ・ミュージックであってレコーディッド・ミュージックじゃなかった。と言うとおかしいのであって、以前から書くように毎土曜深夜0:00からの FM 番組『マイ・ディア・ライフ』で聴いていたのは録音物だけど、それでどんどん流れた貞夫さんバンドの演奏も、その当時のリアルタイムのライヴ・コンサートがほとんどだった。

 

 

それ以上に、四年間の大学生時代に、毎年、松山市民会館大ホールで聴いた貞夫さんバンドのコンサートが楽しかったんだもんね。そんなわけで現場でも FM 番組でも貞夫さんバンドの生演奏にどんどん接していたので、そんなわけでむかしはレコードをあまり買わず、この曲はこういう題のこういった内容のものだとかっていうのも、ほとんど生演奏で憶えた。スタジオ録音のオリジナルをちゃんと聴いたのは、今回がはじめてだったというものが多い。

 

 

名曲「オレンジ・エクスプレス」にしてもそう。1981年のアルバム『オレンジ・エクスプレス』に収録されていると当時から知ってはいたが、生演奏(を録音したラジオ放送含む)でどんどん聴けたし、それがチャーミングだったから、レコードを買う必要も感じていなかったというのが正直なところ。このアルバムだけじゃなく、その後の『フィル・アップ・ザ・ナイト』にしても『ランデヴー』にしても同じ(二枚とも Spotify にある)。

 

 

しかしながら『オレンジ・エクスプレス』だけは、だいぶ前にリイシュー CD を僕も買ってあって、それがどこに行ったのか部屋のなかで行方不明なんだけど、その買ったとき聴くには聴いたはずだ。それはたしか薄いプラスティック製ケースで、ふつうのちゃんとした幅のあるケースじゃなくて、ちょうど100円ショップなんかでも売っている安価なペラペラのうっす〜いヤツに入っていた。

 

 

そんでもってその薄いケース入りの『オレンジ・エクスプレス』は、音質がこりゃまたショボかったんだよね。しかしどうしてこれ一枚だけ僕は買ったんだろう?わからないが、とにかく今回、『マイ・ディア・ライフ』(77)『カリフォルニア・シャワー』(78)『モーニング・アイランド』(79)とあわせ、ぜんぶで四枚、買ったんだよね。四枚ぜんぶをジックリ聴いた。この四つで、いちばん人気があったころの貞夫さんのスタジオ録音作品は揃ったことになるはず。『オレンジ・エクスプレス』のリリースで、たしか貞夫さんはいったん休憩となったはずだ(と記憶しているが)。

 

 

以前から CD を買って持っていたとはいえ、『オレンジ・エクスプレス』もちゃんと聴いたといえるのは今回が初なので、いろいろとはじめて気づくことがあった。まずいちばん最初に結論だけ書いておくと、『マイ・ディア・ライフ』以後の貞夫さんのポップ・フュージョン路線では、これが最高傑作だ。一曲単位で考えても「オレンジ・エクスプレス」がいちばんチャーミングで素晴らしい。

 

 

さらにこれも結論として最初に置いておくが、アルバム『オレンジ・エクスプレス』では、貞夫さん自身の1970年代前半のアフリカン・ジャズみたいなハード路線と、その後の(言わせておけば “軟弱”)ポップ・フュージョン路線と、その両方が混在していて、しかも融合一体化して高いレベルにある。さらにさらにちょっと聴いた感じ、かなりとっつきやすくわかりやすい明快な音楽で、こんなもん、ちょっとやそっとでできることじゃなかったんだと、いまでは僕も気づくことができるようになった。

 

 

アルバム『オレンジ・エクスプレス』の魅力とは、これすなわち四曲の魅力じゃないかと思う。一曲目「オレンジ・エクスプレス」、三曲目「コール・ミー」、五曲目「バガモヨ/ザンジバル」、七曲目「ムバリ・アフリカ」。この四つで決まりだ。曲「バガモヨ/ザンジバル」「ムバリ・アフリカ」の二つはセルフ・カヴァー(?)で、前者は1975年の『スイス・エア』で、後者は1974年の『ムバリ・アフリカ』でやっていた。

 

 

『ムバリ・アフリカ』のことは以前僕なりにしっかり書いたつもりなので、ご一読いただきたい。1975年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ録音である『スイス・エア』のことはまだぜんぜん触れていないが、これもリイシュー CD が問題なく買えたので、いまごろになって夢中で自室で聴いている。

 

 

 

1981年のアルバム『オレンジ・エクスプレス』では、これら、つまり貞夫さん自作の(?)硬派なアフリカン・ジャズ・ナンバーをスタジオ再演しているのだが、『スイス・エア』のそれも『ムバリ・アフリカ』のも、わりとシリアスな熱い演奏だったのを、もう一回やった貞夫さんは解釈しなおして、ポップなフィーリングに仕立てあげているんだよね。

 

 

1974年の曲「ムバリ・アフリカ」は上での記事内で音源をご紹介してある。『スイス・エア』はフル・アルバムで YouTube に上がっていた。アルバム・ラストの「パガモヨ」(Pagamoyo 表記なんだけど、「バガモヨ」Bagamoyo のこと)は 41:58 から。貞夫さんはフルートに専念して、まるで瞑想とか祈りを捧げているような演奏だよね。ジョン・コルトレインの『至上の愛』にあるあの有名なリフが一瞬出てくる。

 

 

 

1981年『オレンジ・エクスプレス』の「バガモヨ/ザンジバル」はこれ。やはりフルートではじめる貞夫さんだけど、デイヴ・グルーシンの弾くエレピやシンセサイザーなど各種鍵盤楽器や、ストリングス伴奏も入って、グッと聴きやすい。途中からテンポ・インすると、貞夫さんはソプラニーノに持ち替えてソロを演奏している。その部分でアフリカン・パーカッションも聴こえるよね。だけどリズム・フィールは明快だ。アルト・サックスはまったく聴こない。

 

 

 

「バガモヨ」はメロディが綺麗だなあと思うんだけど、それは『スイス・エア』でも『オレンジ・クレジット』でも伝承曲を貞夫さんがアダプトしたとクレジットされている。1970年代前半に東アフリカをなんども訪れていたし、現地で聴き憶えた民謡みたいなものかなぁと僕は考えていたのを、実はそうじゃないんだと荻原和也さんのブログ記事で教えていただいた。萩原さんの発見でではなく、タンザニアのロック・バンド、サンバーストをリイシューしたストラット盤の解説文の主(DJ)によるものだそう。

 

 

 

そこはやはりちゃんとクレジットしなかった貞夫さんに非があると言わざるをえないところ。ここだけが残念だ。僕はサンバーストのシングル曲「Enzi Za Utumwani」(が貞夫さんの「バガモヨ」だそう)は聴いていないが、しかしそれでも『スイス・エア』であんな感じだったのを、六年後の『オレンジ・エクスプレス』でああやってポップ・フュージョン化した解釈力は素晴らしかったと、僕なら認めたい。サンバーストのがそんな感じのだったらどうしよう…。

 

 

もう一個のセルフ・カヴァー「ムバリ・アフリカ」。こっちは1974年のライヴ・ヴァージョンからしてすでにまあまあポップで聴きやすい。だからけっこうハードでゴリゴリ路線のライヴ・アルバム『ムバリ・アフリカ』のなかではちょっと浮いているかなも?と思うほど。しかし1981年『オレンジ・エクスプレス』ヴァージョンではさらに一段と明快化し、鼻歌でも口ずさめそうな親しみやすさ。メロディ・ラインの動きはあくまで東アフリカふうだけど、リズムにはレゲエ・フィールもかすかに聴きとれる。デイヴ・グルーシンのアレンジも際立って冴えている。

 

 

 

レゲエといえば、アルバム・トップの「オレンジ・エクスプレス」は鮮明なレゲエではないにしても、かなりカリブ音楽ふうじゃないか。マルチニークとかドミニカとかトリニダード・トバゴの音楽にも近いフィーリングがあるよね。デイヴ・グルーシンのアレンジしたホーン・アンサンブルがスタッカート気味にリフを入れて、それもすごく楽しいカリビアン・ジャズ・ビッグ・バンドだ。

 

 

 

ジョージ・ベンスンのギター・ソロも内容がいい。後半はオクターヴ奏法(がベンスンも得意)で、しかもそれでわかりやすいキャッチーなラインを弾いている。バンド全体が一体となって演奏するこのリズム!楽しいったらないね。しかも冒頭からの反復リフといいテーマ・メロディといい、とびきりポップでだれにでもわかりやすいもので、愉快な気分にさせてくれる。こういった明快さが大衆音楽の真の素晴らしさだ。

 

 

また、この1981年スタジオ・オリジナルの「オレンジ・エクスプレス」ではスティール・パンのサウンドが聴こえるが、それはどうやら本物ではなく、シンセサイザーで出しているものみたいだ。それもまた南洋ふう、カリブ音楽ふうな味付けになっていいよね。しかしここに、本物のスティール・パン奏者が痛快に演奏する「オレンジ・エクスプレス」があるんだよね。

 

 

 

この「オレンジ・エクスプレス」は、僕が以前言及したものだ。スティール・パン奏者アンディ・ナレルのレギュラー・バンド(に野力奏一だけ加えて)を起用しての、1986年12月11日、新宿厚生年金会館でのライヴ収録。くだんのFM 番組『マイ・ディア・ライフ』で流れたもの。すんばらしいなんてもんじゃないね!

 

 

 

しかもしかもですよ、書いた四枚の CD アルバム『マイ・ディア・ライフ』『カリフォルニア・シャワー』『モーニング・アイランド』『オレンジ・エクスプレス』を聴きながら、Spotify を漁っていると、こんなのも出てきた。

 

 

 

どうやら『SELECTED』というベスト盤にあるものみたい。この「カリフォルニア・シャワー」、なんだこれ〜!?このスティール・パン、どう聴いてもアンディ・ナレルじゃないか!同じライヴ・ツアー、しかも同じ1986年12月11日の収録じゃないのかなあ?あのラジオ放送でも、たしか当夜のアンコールとして演奏されたのが流れたという記憶がある。

 

 

あわてて CD『SELECTED』を買って、届くなりいきなり破くようにパッケージを開けて、一目散にブックレットのデータ・クレジットを見た僕。あぁ、や〜っぱり!同じ日だ。1986年12月11日の新宿厚生年金会館、アンディ・ナレル・バンドを率いてのライヴからの収録で、録音エンジニアが FM 東京の人になっているじゃん。

 

 

ってことはつまりあのFM 番組『渡辺貞夫マイ・ディア・ライフ』で放送されたものは、ちゃんとテープが残っているんでしょ〜。ぜんぶを CD などで発売するのはむずかしいのかもしれないが、だがしかし『SELECTED』にアンディ・ナレルとやる「カリフォルニア・シャワー」が収録され発売されているわけだからさぁ〜。せめてその1986年12月11日分だけでもフル・コンサートを売ってくれないかなあ?お願いします!強く強くお願いします!

 

 

あぁ〜、アカン。文章が長くなった。アルバム『オレンジ・エクスプレス』にある珠玉のラヴ・バラード「コール・ミー」は歌なしのサンバ・カンソーンだということをしっかり書いておく余裕がなくなった。音源だけをご紹介しておく。オリジナル・ヴァージョンは YouTube にないみたいだが、これらのライヴ・ヴァージョンも絶品だ。

 

 

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