心休まるとき 〜 原田知世と伊藤ゴローの世界(8)
原田知世&伊藤ゴローで組んだ作品が一曲だけなにかの企画盤に入っていたりするものは、2017年リリースのベスト盤『私の音楽 2007-2016』でまとめて聴ける。だけど、せっかくだから、っていうか知世のことが本当に好きになってしまったので、それら企画盤みたいなものも調べてぜんぶ買ってしまった。ほかにもあるのかどうなのか、ネットで調べてもわからないので、「きっと言える」「フール・オン・ザ・ヒル」「フロスティ・ザ・スノーマン」「ヴィヴォ・ソニャンド」以外にもあるんだというのなら、どなたかお詳しいかた、ぜひ教えてください。ぜんぶ買います。
それらを除くと原田知世&伊藤ゴロー作品は、すべて知世名義のアルバムに収録されている。僕自身のためにリリース順に整理しておくと
music & me (2007)
eyja (2009)
noon moon (2014)
恋愛小説 (2015)
恋愛小説2 - 若葉のころ (2016)
音楽と私 (2017)
となる。『恋愛小説』以下の三枚は、昨年僕なりに書いたつもりだから、今年はそれ以前の三作のことを一個づつ書いておこう。今日は『noon moon』のことを話題にしたい。どうしてこれからか?というと、僕が原田知世のことが好きになったきっかけは、カヴァー集の『恋愛小説』二枚なんだけど、それでそれ以前の作品も買って聴いてみて、第一印象がいちばんよかったのが『noon moon』なんだよね。それで昨2017年の新作『音楽と私』リリース(のちょっとあとにベスト盤『私の音楽 2007-2016』が出たんだったはず)と、それら過去作と、買ったのはほぼ同じころだったようなそうでもないような…。もう忘れちゃいました。
とにかく『noon moon』を一聴してのファースト・インプレッションがかなり素晴らしかったのだ。『恋愛小説』二枚以前の三枚のなかではこれがいちばんいいなあ〜って、そう思ったんだよね。その後、2007年の『music & me』はもっといいかも?アルバム・ラストの「時をかける少女」がキラーだよなあという気がしている。でもアルバム全体では、いまでもやっぱり『noon moon』のほうが好きかもなあ。
キラーは『noon moon』にもある。二曲目の「うたかたの恋」だ。この曲のことは、2017年の新ヴァージョンといっしょに記事にしておいたので、上のリンクの(3)をご覧あれ。そこに書いてある以上のことは、僕にはまだ書けない。それもいいんだが、アルバム・オープナーの「青空の月」が本当に素晴らしい。原田知世のヴォーカルもいいが、イントロからのサウンドがマジ最高に心地良い。こんなにも心地良い世界にひたりっぱなしだと、音楽リスナーとしてダメになってしまうんじゃないかと危険な気もするが、まだまだ抜けられない。
そんな「青空の月」のその出だしは、アクースティック・ギターとフェンダー・ローズで創ってあるんじゃないかと思うんだけど、その両者が見事に溶け合っている、なんてもんじゃないくらいサウンドの判別不可能な一体化を聴かせる。この二つにブラシでスネアを叩く音とクイーカ(ブラジリアン・パーカッション)でぜんぶかな。ソフトでまろやかでコクがあって、原田知世の歌が出てこなくてもいい、永遠にこのサウンドが続いてほしいと願うほど気持いいもんね。
こんな心地良い「青空の月」がアルバムの幕が開くから、もうそれだけで『noon moon』全体の素晴らしさが保証されたようなもんだと期待値が高くなって、実際、続く二曲目以後も内容がいい。二曲目「うたかたの恋」のことは省略して、こういったふんわりやわらかいサウンドとヴォーカルは、たとえば四曲目「A Moment Of Clarity」、六曲目「My Dear」、七曲目「LOVE」、八曲目「レモン」、九曲目「名前が知りたい」、ラスト十曲目「Brand New Day」などでも、少しづつ様子を変えながら同じように続いている。
それらは、一言で表現するなら<ザ・心の平安>。そう、原田知世&伊藤ゴローの世界を聴くと心の底から安心する。心が落ち着いて安らかな気分になれるんだよね。それで、ふだん僕という人間のなかにときどき出現する他者への攻撃性、好戦的資質、不安、焦燥などなどがほぼキレイに消えて、おだやかで静かな気分でいられるんだよね。これこそ、原田知世&伊藤ゴローの世界が、音楽じゃない部分の僕の生活にもたらす最大の美点なんだよね。夜、ベッドに入る前の時間とかにくつろぎたい、心を落ち着かせて平安な気分でなめらかに眠りに落ちたいというときは、小さめの音量で聴く原田知世&伊藤ゴローがベストなんだ。
ややリズムが快活な感じの三曲目「Double Rainbow」、五曲目「走る人」だと少し強靭なノリもあって、ドラマーも派手めに叩き、たとえばエレクトリック・ピアノがダダダダと強くブロック・コードのリフを入れていたりする。それはフェンダー・ローズに聴こえるんだけど、ところで伊藤ゴローって、いっぽうでデジタル・プログラミングも控えめながら駆使しつつ、生演奏やこういったヴィンテージ楽器のサウンドにこだわっているよね。たぶん本物のフェンダー・ローズを弾かせていると思うんだけど。
そういったアクースティック+エレクトリックで生演奏楽器のヴィンテージもの楽器のサウンドにこだわりながら、同時にコンピューター・プログラムも効果的に使うっていう、もちろんいまやあたりまえのことになっているけれども。こんなオーガニック・サウンドで室内楽というか箱庭音楽というか、そんなふうな音の上に、やっぱりこっちも大声量の持ち主じゃないからマイクに口を密接させるようにしないと活きない原田知世の声、ストレートでノン・ヴィブラートな知世のヴォーカルがフワッと漂うように乗っている『noon moon』。しかしながらそれでも、知世の声のトーンや歌いかたには、僕のばあい、かなりしっかりしたメンタリティも「音のなかに」感じるのだった。そうだからこそ、こんなふうに心穏やかに、なんでもないみたいに軽く歌えるんだと思うんだけどね。
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チムチムチェリー、ユーミンのチャイニーズ・スープ、DEENとの夢で逢えたら、バイリニスト中西さんとの水彩画の何たらとか。パールカラーにゆれて、ルパン三世の主題歌とかありますよ。細野晴臣アルバムでも鈴木慶一さんとのコラボも。
投稿: | 2018/01/02 11:05
ありがとうございます。ちょっと調べてみます。
投稿: 戸嶋 久 | 2018/01/02 15:40