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2018/01/03

僕たちのザッパのロック・アクロバティック 〜 ロキシー・ライヴ

 

 

フランク・ザッパの音楽って、まさに「僕たちのもの」じゃないか。ブルーズ、ロック、リズム&ブルーズ、ドゥー・ワップ、ジャズ、現代音楽など、そのほかいろんなものがいっしょくたになってゴッタ煮で融合一体化しているんだから、これ以上の音楽家ってなかなかいないんだぜ。なかなかっていうか、ザッパ以外にこんな音楽家っているの?ぜんぜんいないんじゃないの?だから、ザッパこそ<ザ・ベスト>なんだよね、僕たちにとってはね。

 

 

そんなザッパにもいくつかあるライヴ・アルバムのうち、ロックというかポップ・フィールドにあって、ザッパ自身もギターを弾きまくるもののなかでの最高傑作が『ロキシー&エルスウェア』じゃないかと僕は思う。前からなんども繰り返しているように、僕は CD でしかザッパを聴いたことがないので(最近は Spotify でも聴くが)、LP 二枚組だったという事実は実感がない。もちろんそこを踏まえないと、もとの各面冒頭に置かれるように入っているザッパのおしゃべりの意味がちょっとぼやけちゃうんだが、しょうがないことだよなあ。

 

 

ロキシーはロス・アンジェルスにあって、そこでやった1973年12月のライヴ・パフォーマンスを収録したのが、もちろん『ロキシー&エルスウェア』の中心。それにくわえほかの場所(エルスウェア)でやったものが少しだけあって、ばあいによっては混ぜて編集してあったりもするので、このアルバム題になっている。「エルスウェア」とはシカゴとペンシルヴェニア(どっちも1974年5月の収録)。

 

 

どこをどう混ぜて編集してあるのか僕にわかるわけないので、完成品になって1974年に LP 二枚組で発売され、僕は CD で持っている『ロキシー&エルスウェア』を、ただそのまま受け取って聴いて楽しんでいるだけ。1973、74年のライヴということは、例のあの時期のマザーズなわけで、これがロック・バンドとしてザッパが率いたレギュラー・バンドでは最高のものだったかもしれないよなあ。ジョージ・デューク、トム・ファウラー、ルース・アンダーウッド、ナポレオン・マーフィー・ブロック、チェスター・トンプスンらお馴染みの面々が揃っている。

 

 

実際、『ロキシー&エルスウェア』で聴ける演奏は超絶的にすごいの一言。ライヴ収録後、スタジオで音を追加、編集してある部分もあるらしいが、それを差し引いてもこのバンドの演奏能力はおそろしく高い。(CD の話しかできませんが)特に五曲目「エキドナズ・アーフ・オヴ・ユー」以後、ラスト「ビ・バップ・タンゴ(オヴ・ジ・オールド・ジャズメンズ・チャーチ)」までは、ちょっとシンジランナ〜イっていうような演奏なんだよね。

 

 

五曲目「エキドナズ・アーフ」はヴォーカルなしのインストルメンタル・ナンバーで、しかしジャズ・ミュージックふうなアド・リブ・ソロみたいものがなく(ジャズ・ファンのみなさん、ご不満でしょうか?)、約四分間、ザッパの書いた難譜面をバンド・メンが一糸乱れず演奏する。そのまま切れ目なく六曲目「ドント・ユー・エヴァー・ウォッシュ・ザット・シング」に突入。こっちもインストルメンタルで、こっちにはソロらしいソロがある。これら二つは八人編成でのザッパ/マザーズによるロキシーでの収録。

 

 

ソロがあまりないといっても、これら「エキドナズ・アーフ」「ドント・ユー・エヴァー・ウォッシュ・ザット・シング」(後者のほうにはソロがあるけれど)でのあんな演奏をこなすのは並大抵のことじゃないんだよね。譜面を書いて演奏するよう要求したザッパも鬼だが、それをライヴでこなしてしまうマザーズ連中も鬼だ。もちろん本番前にかなりなリハーサルを積んだものだってのは間違いないよね。

 

 

「ドント・ユー・エヴァー・ウォッシュ・ザット・シング」のほうには、後半、これは間違いなくインプロヴィゼイションであるザッパのギター・ソロが出る。それもかなりの聴きものなんだよね。しかもそれが出る直前にバンドの演奏するリズムがパッとチェンジして、ファンキーなブラック・ミュージックふうのものになるのもイイ。ボスのギター・ソロはたっぷりブルージーだ。

 

 

「ドント・ユー・エヴァー・ウォッシュ・ザット・シング」が終わって、次の B 級怪獣映画がテーマらしい?「チープニス」に行く前に音が途切れ少しだけ無音パートがあるので、ここは LP で面が変わるところだったんだろう。調べてみたら LP では「チーピンズ」から二枚目だったらしい。一枚目のクライマックスは、間違いなく六曲目の「ドント・ユー・エヴァー・ウォッシュ・ザット・シング」だなあ。僕ならそう言う。

 

 

でもそこに行く前の(むかしのアナログ・レコードでの) 一枚目にはけっこう面白いものが、それもザッパのギター・ソロがカッコイイものが複数曲あって、それも聴きどころだ。リズム&ブルーズ楽曲みたいな、っていうかそういうものである一曲目のブルーズ「ペンギン・イン・ボンデージ」で聴けるギター・ソロもイイ。三曲目「ダミー・アップ」だと、ザッパはライヴでは珍しくクリーン・トーンで弾き、ザッパの出身地?の歌らしい四曲目「ヴィレッジ・オヴ・ザ・サン」では…、あれれっ?ギター・ソロがない(^_^;)。

 

 

それはそうと、だいたいこのワン・サイズ・マザーズとか呼ばれるらしいこの時期のザッパのレギュラー・バンドは、しなやかに黒っぽい演奏をするよね。かといって雑なところなんてぜんぜんなくて繊細で、変拍子使いまくりのリズムの上で光速フレーズでぴったり合奏するという難度の高い演奏を破綻なくこなしながら、出来上がりは実にスポンティニアスでナチュラルな即興演奏に聴こえるっていう夢のような、が言いすぎなら、次元の高すぎるロック・バンドなんだよね。そんでもって黒いフィーリングがある。

 

 

(むかしの LPでいう)二枚目に行くと、もっとすごいギター・ソロが聴ける。最大のものが(CD 全体の)八曲目「サン・オヴ・オレンジ・カウンティ」におけるそれだ。歌詞の中身は政治家風刺だが、演奏はやっぱりまろやかな黒さがあるのが大きな魅力。そんな曲で弾くザッパのギター・ソロが素晴らしい。このアルバム『ロキシー&エルスウェア』ではボスがギター・ソロをたくさん弾きまくっているので、それを聴くのが最大の目玉かもしれないアルバムなんだけど、そんななかでもいちばんの聴きものが八曲目「サン・オヴ・オレンジ・カウンティ」なんじゃないかな。あんまりこういう言いかたはしたくないが、気合いというか、いちばん魂こもってますね、この「サン・オヴ・オレンジ・カウンティ」でのザッパのギター・ソロは。

 

 

そのまま切れ目なく次の九曲目「モア・トラブル・エヴリ・デイ」に突入するが、この曲でもふんだんに聴けるザッパのギター・ソロが素晴らしすぎる。どうしてこんな弾きかたができるんだぁ〜?こっちのギター・ソロのほうがもっと魂こもっているかもなあ。この九曲目の盛り上がりかたは、なんだか聴いていてハラハラするような危険な感じもあって、そこもイイ。残念なのはこれが LP 二枚目 A 面のラストだったので、最終盤でいよいよこれから壮絶に…、と思うところでスッとフェイド・アウトしちゃうんだ。このあたり、リリースが公式アナウンスされている来たる『ロキシー』ボックスだと最後までぜんぶ聴かせていただけるのでしょうか?

 

 

問題はアルバム・ラスト「ビ・バップ・タンゴ」だ。ビ・バップと曲題にあるように、いや、そうでなくなってザッパの書く旋律がメカニカルに細かく上下するのが、ジャズの一つのスタイルであるビ・バップ由来だというのは、だいたいみなさんご存知のはず。ビ・バップなんちゃらとかいう言葉が、ザッパの書く曲名とか曲中によく出てくるよね。「ビ・バップ・タンゴ」も演奏するのが難しく、実際、この『ロキシー&エルスウェア』でも演奏前のしゃべりで御大が、 “this is a hard one to play” と言っているもんなあ。ザッパはサド気質なのだろうか。また「ジャズは死んでいない、ちょっとおかしく聴こえるようになっているだけなんだ」とか言っているのも面白い。

 

 

しかも「ビ・バップ・タンゴ」は、曲じたいはぜんぜんタンゴではなく、かなりのジャズ・ナンバーなんだよね。ところどころストレートな4/4拍子のメインストリームのジャズ・ビートになったりもしている。細かい光速メカニカル・ラインを歌いながら鍵盤楽器とのユニゾンでやるジョージ・デュークもすごい。しかしこの曲での超絶演奏は、ぜんぶダンスのための伴奏 BGM なんだよね。ちゃんとしたことは映像がないとわからないが、音だけ聴いても、ボスが観客をステージに上げてダンス・コンテストをやっている様子が聴きとれるだろう。

 

 

あれっ、「ビ・バップ・タンゴ」、ちょろっとジョージ・デュークが鍵盤楽器とのユニゾンで、なにかのジャズ・スタンダードを歌ったぞ。なんだっけ〜、このよく知っているやつは?と思ったら、セロニアス・モンクの「ストレイト、ノー・チェイサー」じゃ〜ん。

 

 

ザッパのロキシー・ライヴ、楽しいなったら楽しいな。二月にボックスが出れば、もっと楽しいんだろうなあ。

 

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