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2018/01/13

ティト・パリスの新作は渋ボレーロ・アルバムだってこと?

 

 





いまの僕は路面店をあてなくぶらついて偶然の出会いを求めることなんて不可能な環境にいるので、新鮮な偶然の邂逅は、いかにネットでブラブラするかにかかっている。だから暇さえあれば行くあても目的もなくネット徘徊しているのだ。音楽だと、いろんな通販サイトや iTunes Store や YouTube などや、そして昨2017年半ばからは Spotify その他だ。そうしないと、ブロガーなどどなたか情報を持つ詳しいかたの文章で知るだけで、そうじゃない発見なんてありえないんだ、いまの僕にはね。

 

 

そんなわけで、昨2017年暮れごろ、あてなく Spotify を徘徊していて偶然発見したティト・パリス(カーボ・ヴェルデ/ポルトガル)の新作。リリースされていることを僕はまったく知らなかった。こういったリリース情報って、みなさん、どこで入手なさっているのでしょう?僕のばあい、たとえば Twitter で音楽家やレコード会社がアナウンスしてくれるばあいはそれで知る。Facebook も情報源になるよね。オフィシャル・サイトとかもだ。

 

 

しかし Twitter にティト・パリスのオフィシャル・アカウントはないよなあ…、と思ってちょっと Facebook で検索してみたらあるじゃないか。Facebook を情報源として活用するなら問題ないわけだから、ティトを含め何人かオフィシャル・ページをフォローしておいた。もっと早くそうしていれば、あの日の深夜 Spotify で偶然発見した新作『ミン・イ・ボ』だって、もっと早くリリースを知ることができたかもしれない。

 

 

Spotify でなんどか聴いたティト・パリスの2017年新作『ミン・イ・ボ』。はっきり言ってジャケットを一瞥しただけで、これはきっと中身もいいんじゃないかと直感したけれど、実際、素晴らしい内容だった。と思って聴いていた数日後、エル・スールに CD が入荷したので、そのまま買った。ネット配信で問題なく聴けるものをフィジカルでも買うっていう僕は、いったいなにをやっているのでしょう?そもそも僕のばあいみなさんとは逆で、CD をどんどん買って聴いて、よかったものだけ Spotify で探して、見つかればそのアルバム・リンクをシェアして、みなさんにご紹介するとか、そんな Spotify の使いかたなんだもんなあ、オカシイぜ、これ(^_^;)。

 

 

エル・スールから届いた CD でもやっぱりなんども聴いたティト・パリスの『ミン・イ・ボ』。Spotify にあるものと中身は完璧に同一だから、CD ならではの新たな感慨みたいなものはない。やっぱりジャケットを手にとって眺めて愛でられるから、内容のいい音楽アルバムについては愛着が深くなるということはあるなあ。あと、やっぱり曲の作者、演奏者名一覧とか、その他プロダクションに関係する諸情報を得られる、それではじめてわかってくる部分はたしかにあるから、やっぱり僕はフィジカルを今後も書い続けると思う。だからエル・スール原田さん、ご安心ください。

 

 

ティト・パリスの『ミン・イ・ボ』。これってひょっとしたらキューバン・ボレーロのアルバムだってことなんだろうか?もちろんぜんぜんボレーロでもキューバンでもない曲だってわりとある。そういうものは、ブラジル音楽ふうだったりカーボ・ヴェルデのフナナーだったりで、ブラジル&カーボ・ヴェルデ音楽からやっぱり来ているようなものかもなあ。でもアルバム全体をとおし、やや多めなんじゃない?ボレーロとかキューバ音楽が。

 

 

以前からメロウな要素が持ち味であるティト・パリスだから、ラテン音楽のなかでも格別甘いものであるボレーロを複数やっていても別に驚くことじゃない。それが新作『ミン・イ・ボ』のなかではかなりいい感じに聴こえてくる。しかもティトの声は、みなさんご存知のとおりの渋さというかしわがれかたというか、ひび割れている塩辛いものだ。だからクルーナー・タイプの歌手がやったのと違って、ティトのボレーロは甘すぎず、センティメントに流れすぎないのがちょうどいい頃合いで、これなら甘い音楽は苦手だとおっしゃる向きにも受け入れてもらえるんじゃないかな。

 

 

ボレーロ・アルバムとまで呼ぶのが言いすぎならば、適度な甘さと苦味がブレンドされたラヴ・ソング集には違いないティト・パリスの『ミン・イ・ボ』。キューバ音楽テイストというかサルサ風味というようなものが、一部のブラジル〜カーボ・ヴェルデ音楽スタイルものを除き、わりと強い。特にリズム・スタイルと金管楽器群、なかでもトランペットの使いかたに、それが鮮明に聴きとれると思う。

 

 

CD でお持ちでないかたは、いちばん上でご紹介した Spotify のリンクでぜひちょっと聴いてみてほしいのだが、たとえば1曲目「チダデ・ヴェーリャ」からして、特にボレーロではないかもしれないが、キューバン・ソングには違いない。しかもトランペッターの吹くオブリガートのフレーズにはジャズっぽいものだって聴きとれるよね。リズムのスタイルはどう聴いてもキューバ音楽。ヴォーカル・コーラスの入りかたや、曲後半部でブラス・セクションがスタッカート気味のリフを反復するあたりなどもキューバン・スタイルだ。しかもやっぱり甘い。スウィートなボレーロ風味がちょっとはあるよなあ。ボレーロふうサルサ?いや、サルサ・ロマンティカ?

 

 

ボレーロだとかキューバン・ミュージックだとか言っているけれども、新作アルバム『ミン・イ・ボ』でいちばん多いティト・パリスの自作曲も、そうじゃない他作の曲も、ぜんぶ曲題も中身の歌詞もポルトガル語だけどね。だから歌詞じゃなく、曲調とかサウンドとかリズム・フィールとかを僕は、いつもいつものことながら、聴いているわけなんだよね。

 

 

アルバム2曲目「セル・マズ・クリチェウ」では流麗なストリング・アンサンブルが入ってきて、実に甘くて僕は大好き。しかも木管が聴こえるなあ、これはオーボエじゃないの?と思ってブックレット記載を見たら、どうやらそれはソプラノ・サックスみたいだ。こんなところはフィジカルじゃないとはっきりしない。だがしかしその木管サウンドは、ちょっとソプラノ・サックスっぽくない音色なんだよね。リズムのかたちは、やっぱりキューバン、というかこれはボレーロでしょ?でも甘いというより暗く陰で、つらそうなフィーリングだ。少なくとも濃い翳りがある。歌詞の意味がわからないが、失恋歌??

 

 

その後も3曲目「ニャ・チャルメ」(フルート・アンサンブルがある、クレジットは未確認だが、これは間違いない)も同様の翳ったキューバン・ボレーロみたいな感じだが、4曲目「ガッタ・モレーナ」はかなり面白い。キューバン・サルサとカーボ・ヴェルデ音楽が混交したようなフィーリングで、ブラス・セクションのリフやヴォーカル・コーラスはどう聴いてもサルサなのに、リズム・セクションの演奏はフナナーみたいにやっている。一部のブラジル音楽にも似ている。

 

 

ティト・パリス同様に渋い男性ゲスト・ヴォーカリストが参加する5曲目「レスポンスタ・ジ・セグレド・ド・マール」も、基本、カーボ・ヴェルデのモルナみたいでありながら、ブラジルのサンバ・カンソーンみたいなフィーリングもあって、その上、やっぱりキューバン・ボレーロにもちょっと似ている甘いコクだって感じとれる。しかしそれにしても、渋い。渋すぎるぞ、これは。

 

 

6曲目「ボ」にも男性ゲスト・ヴォーカリストが参加して、こっちはラップを披露している。この曲はサルサみたいな感じだなあ。あ、いや、リズムの跳ねかたがちょっと違う。やっぱりカーボ・ヴェルデ音楽のグルーヴ・タイプだ。快活にジャンプするようなもの。和音構成はちょっと陰というかマイナー調だけど、リズムのノリは明るい。

 

 

曲題に反してファドには聴こえない7曲目「ファド・トリステ」、カーボ・ヴェルデ音楽に違いない8、9曲目をはさんで、10曲目「ミンデル・ドノーヴァス」がやっぱりボレーロふう。ストリングスや木管の使いかたなんて、まさしくボレーロ〜フィーリンのやりかただ。でも決して愛を告白したり語りあったりはしていない曲のように思う。っていうか、そういう調子に感じるというだけで、歌詞がわかりませんから〜、間違っているかも。

 

 

アルバム中最も鮮明なボレーロなのが、快活な11曲目が終わったあとの終盤12曲目「ドーチェ・パイション」。これはどう聴いても完璧なキューバン・ボレーロだ。メジャー・キーとマイナー・キーの使い分けというか移行のやりかたといい(特にサビへ行く部分)、ボンゴを中心とするリズムの創りかたといい、主役男性歌手の声がひび割れているから甘く聴こえず、渋みがまさっているけれど、これは素晴らしいボレーロに違いないと、どなたでも納得していただけるはず。この12曲目は、僕、すごく好きだなあ。まあたんなるメロウ・ボレーロ好き人間だというだけかもですが。

 

 

アルバム・ラスト13曲目「サンティアーゴ・アモール」にも男性ゲスト・ヴォーカリストがいて、ティト・パリスとのデュオで歌う。しかもこの13曲目はピアノ一台だけが伴奏だ。あまりにも渋いというか、なんだろう?この人生の年輪を重ねすぎたみたいなサウンドと歌声は?ティト・パリスって僕より年下なんだけど、精神的ガキである僕なんかよりは、少なくとも音楽的には、はるかに熟している。たんに声がこんな感じだというだけの話じゃないよなあ。

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