« カーティス・メイフィールド化したオーガニック・プリンス | トップページ | 君のことをギターほどには愛せない 〜 プリンス『プラネット・アース』 »

2018/02/28

プリンスの温故知新ファンク

51cahwdyggl_sx466_

プリンスの2004年作『ミュージコロジー』。この人の21世紀の作品としてはベストなんじゃないかと以前記事にした『3121』(2006)と並ぶ傑作だと僕は思う。あっ、昨日書いた『ザ・レインボウ・チルドレン』も素晴らしいアルバムだよねえ。な〜んだ、1980年代こそがピークだみたいに言われるプリンスだけど、新世紀にもいいものがけっこうあるじゃん。

しかしそれら、どれも Spotify などネット公式音源がない。この三つだけじゃなくて、どうも1990年代半ば以後のものが見つかりにくいのは、あるいはワーナーみたいなメジャー・レーベルからのリリースじゃないと配信されにくいってこと?そうじゃないよなあ、インディ作品だって Spotify にはたくさんあるし、プリンスの『ミュージコロジー』は米コロンビア/ソニーというメジャーもメジャー、最大手から配給されたものだ。

21世紀に入ったころになると、プリンスはどこの会社と契約しようが自分のやりたいことをそのまま作品として発表できるようになっていたはずだから、『ミュージコロジー』みたいな、言いかたがあれかもしれないがコンサヴァティヴ・ファンクみたいな音楽をやったのも、別にコロンビアから出すことにしたからっていうのは関係ないはずだ。

そう、『ミュージコロジー』は保守的というかオールド・スクールなファンク路線を歩んでいる。1990年代までは時代を追いかけるようにしてハウス、ヒップ・ホップなどの新潮流を取りこむことで、かえって逆にちょっと古っぽいぞ、プリンス、みたいな印象を与えてしまっていたけれど、21世紀になって開き直ってというか、自分は保守本流でいいんだ、これが僕の信じる音楽だからと宣言したみたいな『ミュージコロジー』は、僕みたいな趣味嗜好の人間には嬉しい。

1曲目のアルバム・タイトル・ナンバーなんか、ストレートなジェイムズ・ブラウン・トリビュートだもんね。もっと前から JB 流儀のファンク・チューンは散見したけれど、ここまではっきりとしたオマージュはなかったはず。ヴォーカル・スタイルまで JB を意識しているようなものじゃないか。楽器演奏なんかは完全にJBズのマナーだ。

シングル・トーンでのエレキ・ギター・リフの反復もそうだけど、ハモンド・オルガン(そのものじゃなくて、それを模したシンセサイザーかも)みたいな音がビヒャ〜っと鳴って、ドラミングもそうなら、ホーン・セクションの入りかたにしても、すべて JB ファンクを露骨に意識している。

がしかし驚くのは、附属ブックレットを見ると、この曲「ミュージコロジー」、すべてのヴォーカルとすべての楽器がプリンス一人によるものだとクレジットされていることだ。ええっ〜?、たしかにホーン・セクションのサウンドが聴こえたはずなんだけど、プリンスって管楽器もできたんだっけ?と思ってもう一回しっかり聴きかえすと、どうやらシンセサイザー・ホーンなのかもしれないなあ。

ってことは、この曲は一人多重録音で実現されているということになる。どこからどう聴いたって大所帯のファンク・パーティによる生グルーヴにしか聴こえないんだもんなあ。かつて1960年代後半〜70年代の大編成ファンク・バンドが生演奏で出していたあの濃密な黒いノリを、たった一人での密室作業で完成させてしまうあたりは、やはりプリンスという天才音楽家だけが成し遂げられるわざだ。

この一曲目「ミュージコロジー」にアルバムのすべてが詰まっている。日本語にすれば「音楽学」となるこの曲題にしても、過去に学び、それを現在に活かし、そのまま次世代に伝えていきたいという、21世紀におけるこのスーパー・スターの立ち位置、アティチュード、教壇での振る舞いを示したものだというか、僕がちゃんと教えるからあとはみんな頼むぞみたいな宣言だよなあ。

そんなオールド・スクール・ファンクのダイレクトな継承伝達者という、このアルバムでの基本姿勢は、2曲目以後もどんどん続く。2「イルージョン、コーマ、ピンプ&サーカムスタンス」、4「ライフ・オ・ザ・パーティ」、ちょっと爽やか系だけど7「ワット・ドゥー・ U ・ワント・ミー・2・ドゥー?」、また9「イフ・アイ・ワズ・ザ・マン・イン・ユア・ライフ」、歌詞は深刻な社会派ソングだけど11「ディア・ミスター・マン」など、すべてほぼ同系統のコンサヴァ・ファンク・チューンだ。

そういった路線で行って、というか回帰して、それでアルバム『ミュージコロジー』はかなりのヒットになったみたいだから、ファンクの保守本流が21世紀初頭において妙に時代とシンクロしたってことなのかもしれない。またアルバム全体がジャジーでもあって、でもお得意になっていたラテン・テイストが聴きとれないのが個人的にさびしいけれど、2010年代ならもっとウケた可能性だってある。

3曲目「ミリオン・デイズ」みたいな深い失意の歌、5「コール・マイ・ネーム」、10「オン・ザ・カウチ」みたいな絶品ファルセットで歌い上げる甘さ爆発のスウィート・ソウル・バラードなんかもあって、これらはファンがプリンスに求める最大のものだろう。期待にこたえてくれているサーヴィス精神は、それまでのプリンスには薄かったものだ。それでもたとえば「オン・ザ・カウチ」ではずっとハモンド・オルガンが鳴りっぱなしだけどね。かな〜りオールド・スクールなソウル・バラード。僕は大好き。

異色なのは6曲目「シナモン・ガール」かな。軽いポップな曲調のロックンロール・チューンだけど、9.11(2001年)と、その後のアメリカの状況を歌い込んだ内容の社会派ソング。ちょっと聴いた感じ、そんな深刻さが聴きとれないような親しみやすさだけどね。9.11以後、アメリカ音楽がガラリと変貌してしまったのも事実だ。

僕にとってのアルバム『ミュージコロジー』は、ラスト12曲目に置かれた「リフレクションズ」があるので、これで完璧な締めくくりとなる。歌詞も曲もアレンジも、すべてがとてもやわらかい内容のミディアム・テンポ・バラードで、ここでもプリンスはお得意のファルセットでそっとやさしく歌う。以前書いた『クリスタル・ボール』ラストの「グッバイ」と完璧に同系の曲。だからこれが流れてくると、あぁ蛍の光なんだなとわかるものの離れられず、やっぱり繰り返し聴いてしまう。

« カーティス・メイフィールド化したオーガニック・プリンス | トップページ | 君のことをギターほどには愛せない 〜 プリンス『プラネット・アース』 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: プリンスの温故知新ファンク:

« カーティス・メイフィールド化したオーガニック・プリンス | トップページ | 君のことをギターほどには愛せない 〜 プリンス『プラネット・アース』 »

フォト
2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ