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2018/02/26

我ロックす、ゆえに我あり 〜 プリンス『ケイオス・アンド・ディスオーダー』

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売れなかったというか、発売事情からして売れちゃったらそっちのほうがまずいプリンスのワーナー最終作『ケイオス・アンド・ディスオーダー』(1996)。これぞまさしくプリンス側のイタチの最後っ屁、契約消化のためにチャチャっとテキトーに仕上げたようなアルバムで、それもあってか、音楽専門家のみなさんは(たぶん)だれひとりとしてこのアルバムを評価していない。僕たち素人リスナーのあいだでだって、否定的な意見が支配的。

ですけれども、そのようなみなさんは『ケイオス・アンド・ディスオーダー』の中身の音楽をちゃんとお聴きなのだろうか?と僕はちょっといぶかってしまう。これは傑作なんだよね。うんまあもちろん、プリンスほどの音楽家には、もっとしっかり創り込んだ超ハイ・クオリティな作品がいくつもありますから、それらに比すならば傑作との言葉は撤回しなくちゃ。だけど、イイ。かなりイイぞ。佳作、良作、あ、いや…、やっぱり傑作なんじゃないの?『ケイオス・アンド・ディスオーダー』?

少なくとも僕はいくつもの点でかなり好き。これは(ちょっとだけファンクに寄った)ハード・ロック・アルバムなんだもんね。ちょうどジミ・ヘンドリクスの音楽にとてもよく似ている。ブルーズ・ベースのアメリカン・ハード・ロックで、ファンク・テイスト(とゴスペル風味も足して)を取り込みつつ、ストレートにロックするプリンス。それが『ケイオス・アンド・ディスオーダー』。

しかもラフでスカスカなんだよね、このプリンスのアルバムは。粗雑で乱暴。一説によればたった二日間で録音されたものだそうで、もしそれが本当だとすれば、テキトー感じゃなくて、二日でこのクオリティか!と目を丸くして驚くしかないんじゃないの?ラフなタッチは英ローリング・ストーンズの音楽にも似ている。

音楽ってさ、丁寧に創りこめばこむほどいい作品ができるとは限らないんじゃないの?たった二日間のスタジオ・ジャムみたいなものでやけっぱちにデッチあげたような音楽にライヴ感が宿り、CD で聴いても音楽家の呼吸が感じられ、思わずのけぞってしまうほどの迫力を生むっていうことだってあるよ。

いまさら繰り返すまでもなくプリンスはスタジオで念入りに創りこむタイプの音楽家だけど、彼の演奏歌唱能力と、この当時(って何年ごろの録音か判然としないが)のバンドの実力のほどを思い知る『ケイオス・アンド・ディスオーダー』。たぶんこのアルバム収録曲は一発録りに近いものだったはず。粗雑さが大きな魅力になることだってあるんだ。ロック・ミュージックって、そんなもんじゃないか。

だからこのアルバムにある7曲目「アイ・ロック・ゼアフォー・アイ・アム」。この曲題がアルバム『ケイオス・アンド・ディスオーダー』の中身を最も的確に表現する言葉になっている。ところでこの7曲目、ロージー・ゲインズらしき女声が聴こえるよねえ。ってことは1992年以前の録音なの?あるいはこのセッション用に呼び戻した?この7曲目は、しかしふつうのロックじゃない面もある。ラガマフィンがとりいれられているからだ。だれがしゃべっているんだろう?サウンドやビート感もロック然とはしていない。

ジミヘン的ストレート・ロックといえるのは、1曲目「ケイオス・アンド・ディスオーダー」、2「アイ・ライク・イット・ゼア」、ロッカバラードな3「ディナー・ウィズ・ドロレス」(名曲!)、4「ザ・セイム・ディセンバー」(は一筋縄ではいかないが)、5「ライト・ザ・ロング」、ブルーズ・ロックな7「ザナリー」、王道アメリカン・ロッカバラードな8「イントゥ・ザ・ライト」。

ちょっと毛色の違うものとしておもしろいのは9曲目「ディグ U ベター・デッド」。メカニカルな小品ファンク・チューンで、ワン・コード、ワン・リフの反復でできあがっている。クールなリズムをバックに無限ループで続くグルーヴのさざ波が気持ちいい。ここでもロージー・ゲインズらしき女声が聴こえるなあ。この9曲目あたりがコアなプリンス・ファンの求めるところなんだろうね。

でもこういうのはアルバム『ケイオス・アンド・ディスオーダー』では例外で、上記のようなストレートなジミヘン的ギター・ロックが多い。勢いだけで一気に聴かせるライヴなノリといい、疾走感といい、ラフ・スケッチだけでテキトーに仕上げたからこそ生まれるザラついた質感の味わいといい、プリンスの弾くエレキ・ギターのカッコよさといい、僕みたいにレッド・ツェッペリンで洋楽に目覚めたようなリスナーには極上の逸品なんだよ。

1〜3曲目あたりまではアルバムとしての流れも、実はかなりよく練りこまれていて、最高なんだよね。1「ケイオス・アンド・ディスオーダー」、2「アイ・ライク・イット・ゼア」とストレートなハード・ロックが来て、プリンスは短いながらもジミヘンばりにエレキ・ギターを弾く。特に「アイ・ライク・イット・ゼア」が僕は大好き。ハード・ロックのファンなら、これ嫌いなひとはいないはず。

1曲目「ケイオス・アンド・ディスオーダー」も2「アイ・ライク・イット・ゼア」も、バンドの演奏がパッと止まるリズム・ブレイクのところにプリンスのセクシーなヴォーカルが飛び込むなど、創りもちゃんとしている。それになんたってこの1、2のこのノリだよね。ラフに疾走するようなこのグルーヴが気持ちいい。

1曲目「ケイオス・アンド・ディスオーダー」のエンディング部では、これまたロージー・ゲインズらしき声のシャウトが聴こえる。シャウトといえば2「アイ・ライク・イット・ゼア」の終盤でプリンスが金切り声でスクリームするのだが、ヘヴィ・メタル・バンドのヴォーカリストみたいだよなあ。

その2曲目「アイ・ライク・イット・ゼア」は、いかにもなベタなハード・ロック・チューンなのだが、この曲でもリズム・ブレイクの入る瞬間瞬間にプリンスが「♪あい・らいく・いっと・ぜあ♫」と歌うというかしゃべるのが最高の快感だ。エンディング部での銅鑼はどういうことなんだろう?

流れがいいというのは、それらに続く3曲目「ディナー・ウィズ・ドロレス」が緩急の緩になっていて、おだやかで、ちょっとフォーキーな面もあるロッカバラードでいいね。曲のメロディのいびつさにはジョニ・ミッチェルからの影響がうかがえるのもおもしろい。間奏のギター・ソロはややハード。

適当にまとめちゃったんだろうなとの声もある4曲目「ザ・セイム・ディセンバー」は、実は相当におもしろい。爽やか系アメリカン・ロックンロールとしてポップにはじまったなと思って聴いていると、二分すぎから8ビート・シャッフルのブルーズになって、おっ!と思うと、最後の30秒ほどはゴスペル・ジャンプになる。

一曲まるごとストレートな定型ブルーズの6曲目「ザナリー」はあるし、キラー・チューンである7「アイ・ロック・ゼアフォー・アイ・アム」なんかも含め、もっとちゃんと仕分けしてワーナーがちゃんと売ってみればけっこうヒットしただろうという曲がたくさんあるよ。アルバムとしての流れも練られているしね。まあ売らなかったわけだけど。

プリンス本人としてはワーナーに儲けさせたくないとの一心でこうなっているんだろうアルバム『ケイオス・アンド・ディスオーダー』。ブックレットには「生きて夜明けで会おう」などと書かれていたりするのだが、なかなかどうして、これはブライトな傑作だと僕は信じている。ピュアなハード・ロック・リスナー向けだけどね。

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